儀式ー2
今、復活って言ったわよね……?
困惑していると、教会の職員に腕を思いっきり引っ張られた。
「お姉さまっ!」
レニーが駆け寄り私を受け止めた。
どういうこと……?何が起こっているの?
司祭が石碑に触れると、光が地面全体に広がって行く……。
「おいっ。何をしているんだ!」
チェイス王子が声を荒げた。
駆け寄ろうとしたが、フィンもチェイスも弾き飛ばされた。
「これは、……結界か。」
「ふふっ、えぇそうです。あなた方は特に必要ではありませんし……。他のみなさんも邪魔なので結界に閉じ込めさせて頂いております。」
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出来ればもう一生会いたくはないと思っていた人物。
「会いに来てやったぞ。――ディアス。」
「ふふっ、偉そうな態度は、相変わらずのようだな。」
ディアスが国にいる以上、家からアイリーンを出すわけにはいかなかった。
レニーの側にいたかっただろうが……。
「それで、面白い話しとはなんだ?」
「さっそく本題に入るのか?――面白くない男だ。」
飄々とした態度は、相変わらずか……。
「まぁ、いいだろう。――お前たち、ポーションは何個見つけた?」
「……何故それを知っている?」
妖精のポーションのことをどこで聞いたんだ。
そうか……。
そうだな、こいつが大人しくしているはずなどなかったのだ。
「やはり、アンガスを操ったのはお前だったのか……?」
「もっと早くに気づくと期待していたが……。鈍ったのか?かつて俺を追い出した時は、もっと冴えてただろう。」
確かにそうかもしれない。
否定したかったのだ……。この国にこの男がまだ関与している可能性を。
「お前が、ポーションを飲んだのだな。」
「あぁ、思ったよりも魔法が上手く作用してな。アンガスが俺を見た時の動揺っぷりは……。全く見ものだったよ。」
アンガスの動揺を利用して、魔法をかけたのか。
「…どこで手に入れた?」
「俺が作ったとは、思わないのか……?」
「お前ではない。――それだけは、確信している。」
アンガスは、肩を揺らして笑い出した。
「――流石だな、お前と仲良くしておけば良かったよ。では、誰だと思う……?」
「……早く、答えろ。」
ポーションを作り出せる人物など、ルッソ以外に思い当たらない。
だが、ルッソがポーションを持っているのなら、すでに不老不死の実験をしているハズだ。
仮にディアスが持ち出したとしても、わざわざカモフラージュに貴族に配るような男ではない。
「お前だって知っているだろう。誰が、妖精を捕まえることができるのか……。」
「何が言いたい?」
精霊使いしか、そんな芸当ができないことはわかっている。
アイリーンやエンバーではない以上、マリーやレニーたちだが……。
「ふふっ、アレクセイ、魔法は本当に遺伝ではないと思うか?」
「……まさか、そんなことは……。」
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「チェイス王子。――何度やっても結界は破れません……無駄ですよ。」
チェイス王子は、何度も必死に結界を壊そうとした。
しかし、結界は魔力でも壊すことができなかった。
ワンダも結界の中から出ることができないようだ……。
「……チェイス王子、落ち着いてください。」
フィンがそう言うと、鈍い音と少しのうめき声が聞こえ教会の職員たちが倒れた。
「……よくやった。」
「とりあえず邪魔だったので。」
結界の中にいた教会の職員たちを気絶させたのだ。
フィンが怒っているのがわかる。
ビビアンも術式を試してくれたが、ダメだったみたいだ。
「あなた方の魔法では、石碑の結界を解くことはできませんよ。」
司祭がチェイス王子たちに言った。
でも、なんでここまでする必要があるのだろう。
こんなことをすれば、聖女がライラに決まったって王家と仲良くするなんて不可能だ……。
「ライラさま。あなたは、今から起こる全てのことを知っているのですか?」
レニーが私を支えて立ち上がり、ライラに言った。
「えぇ、司祭様が儀式を終えれば私が聖女になるのです。」
「さっきの言葉をきちんと聞いていましたか?」
確かにレニーの言うとおりだ。司祭は、聖女の復活と言っていた……。
聖女の存在を復活させるという意味にも取れるが、レニーも私と同じように”聖女を復活させる”という意味だと思っているのだろうか。
どちらが合っているのかは、わからないけど……。
本当に、司祭はライラを聖女にするつもりがあるのかしら。
「ライラさま、なぜ聖女になりたいんですか?」
「……恵まれているあなたにはわからないでしょうね。平民の私は、実力を示すしかないのよ。」
ライラ嬢が私の方を見た。
「魔力がAランクの時点で、すでに実力は示しているのではないですか?――まぁ、本当にAならの話しですが……。」
「どういう意味よっ。――私は、きちんとテストを受けてAランクだったのよ!」
レニーは、司祭の方を真っすぐに見た。
「なぜ、そんなことを思ったのですか?」
ライラが怒りながら文句を言っているが、レニーも司祭も彼女に耳は貸さないようだ。
もちろん、私も彼女がどれほど声を荒げようがどうでもいい。
「Aランクといえば、お母さまや叔母さまと同じです。しかし、ライラさまは……きっと私よりも魔力が弱いと思います。」
レニーがクスッと笑ったのを見て、ライラ嬢の顔が真っ赤になった。
Aランクの判定がもらえれば、その後テストを受けることは滅多にない。
「もし、ライラ嬢がAランクではないならテストに不正があったとでも?」
「いいえ、テストではないでしょう。」
レニーが何を言っているのかわからない。
「レニー、どういうこと?」
「お姉さま、ポーションをご存知ですよね?」
ポーション!?
「そんなっまさか!?」
思わず、声を出してしまった。
「えぇ、まさかですわ。叔母さまから話しを聞いて思ったんです。もし、彼女がポーションの力でAランクを獲得したのなら……。力が弱まり、焦っているんじゃないかと思って。」
「……っ。司祭さま早く、否定してください!」
ライラ嬢は、司祭の腕を掴んだ。
「仮にライラ嬢がポーションを飲んでテストを受けたとしても、私に何の関係があるのです?」
「そこまではわかりません。――しかし、あなたが関係していることは間違いありませんわ。」
薄っすら笑みを浮かべながら話す司祭。
こんなに不気味な人物だっただろうか……。
「なぜ、言い切れるんですか?」
「私、思い出したんです。入学した日に、私たちに聖書を配られましたよね?」
聖書……?
確か、レニーが入学した日に持って帰ってきたモノのことよね。
あれがどうしたのかしら。
「そうでしたね。――お読みになられましたか?」
「読みましたけど、中身の話しではありません、――あの日あなたからポーションと同じ匂いがしていました。」
そうだわ。レニーは、友人からポーションを受け取っていた。
匂いを嗅いでいたなんて……。
それよりも、なんて記憶力なの。
「……ふふっ、ははははは。――あぁ、やっぱり親子ですね。いや、君の方がかしこいだろうか。」
「じゃあ、やっぱり……。」
ライラ嬢は、ポーションを飲んでいたから魔力テストでAランクを獲得したんだわ。
「ポーションがなくたって、私には魔力がきちんとあるわよっ!」
混乱して声を荒げるライラ嬢を見たら、少し可哀そうな気がしてきた。
「しかし、私がポーションを持っていたにしろ、作るのは不可能でしょう。精霊使いしか、触ることができないのだから。」
「そうですね。……あなただけでは、不可能だったでしょう。」