儀式ー1
聖女を選ぶ儀式の当日。
朝から教会の職員が家にレニーの為の服を用意して持ってきた。
儀式を受けるにあたり、体を洗い調べると言い出した。
私たちが怒る前に、ロゼが激怒……。
「あなた方、ここはアストレア家です。――それ以上、無礼な発言をするのなら……。」
ロゼは、スカートの中からダガーナイフを取り出した。
そんなモノを隠し持っていたなんて。
「ふふっ、物騒だな……。――でも許可はできませんし、大人しく外で待っていて頂けますか?」
ロゼをアーティが落ち着かせた。
微笑みながら禍々しいオーラを出すアーティを見て、教会の職員は大人しく外で待つことに……。
「レニー、やっぱり儀式を放棄しよう。」
ミシェルとダニエルは、レニーに何度も言い聞かせる。
私も、レニーに儀式を行わせたくはない。
なんせ、相手はあのライラなのだから……。
「いいえ、1度行くと言ったのですから。お兄さまたちが、国を警護してくれるんでしょ?」
笑顔でレニーに言われれば、2人とも何も言えなくなってしまうのだ。
「ミシェル、ダニエル。そろそろ城に行くよ。レニー、こっちへ来なさい。」
父がレニーを呼んだ。
ミシェルとダニエルは、レニーを抱きしめてから外の馬車へ向かった。
「大丈夫かい?」
「はい。緊張などはしていません。」
レニーは、笑顔で答えた。
「そうか……。レニー、いざとなればイヤーカフを外しなさい。」
「お父さまっ!」
思わず声を出してしまった。
「マリーいいんだよ。――教会に利用されるぐらいなら……ね。」
「ふふっ、これが何かは知っています。――前に痛みがあった時に、ワンダが教えてくれたので。」
えっ……。
父も知らなかったようだ。
「だって、可哀想だと思ってね。」
ワンダは、一切悪びれもしなかった。
確かに、痛みも自分の魔力を抑え、私たちは隠し続けてきたのだから可哀想というよりも……。
「怒ってはいません。――ずっと、お父さまやお姉さまたちに守られてきたのですから。」
「ふふっ、お前は本当にっ」
父は、レニーを抱き上げた。
「ずっと、お前たちが小さい子供のままなら良かったのにな。」
父は、少し悲しそうに笑った。
「私たちは、いつかお父さまとお母さまを守れるようになりますよ。」
「はぁ……。全くいつの間にこんなに大きくなったんだ。」
レニーを下した父は、私とフィンの前に立った。
私たちを抱きしめ
「お前たち2人とも、レニーと無事に帰ってくるんだよ。」
フィンは、少し驚いているようだった。
「はい。」
なんだか気恥ずかしいわ。
後からやって来た母とローランと一緒に父たちを見送った。
レニーの準備が行われる。
真っ白な衣装は綺麗だけど、教会の人間が用意したと思うとなんだが複雑な気分だ。
気を張っていたフィンは、レニーの姿を見て言葉を失っていた。
言葉を失うというよりも……見惚れているって言う方が正しいのかな?
レニーは、チッチを抱き上げた。
モフモフしているあの子に触れば、少し落ち着くのだろう。
「レニーさま、そろそろ……。」
「うん。じゃあね、チッチ。」
珍しく顔がこわばっている。
「お姉さま?」
私は、レニーの手を握った。
「大丈夫よ。すぐそばにいるからね。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
無事に戻るようにロゼに言われたレニーは、帰ったらお菓子が食べたいとわがままを言っていた。
ローランは、従者たちのほとんどが国の警護に行ったのでお母さまの側についていることになった。
馬車に乗り込んで街の中を進んで行くと、レニーを応援する人たちがたくさん立って見送ってくれた。
正直レニーが今なにを考えているのかわからない。
普段なら、手を振ったりしそうなのに彼女はただ前を見ている……。
「えっ、ここって……。」
「学校のすぐそばですよ。」
大きな門の前には、司祭や教会の職員とライラ嬢。
他にも、チェイス王子とビビアンとリーン嬢や、サーリア嬢が待っていた。
門が開かれると、そこには赤い花がたくさん咲いている。
この花は、確かレニーが前に書いていた花だわ。
「ふふっ(実は前に、サシャとここに入ったんです。)」
レニーは、小声で私に言った。
全然知らなかったわ、それに――ここって入っちゃダメなんじゃ……。
とにかく、お母さまには黙っておこう。
あれが、石碑なのね。
「ここより先は、レニーさまとライラさまのみお進みください。」
司祭が私たちに言った。
「ねぇ、マリー。いざとなったら、僕に協力してくれる?」
「えぇ、もちろんよ。――ワンダ。」
ワンダは、ライラ嬢と司祭を見つめていた。
「チェイスさま。私が聖女に選ばれるのをしっかりと見ていてくださいね。」
振り向いてライラが言った。
チェイス王子は、何も答えなかった……。
「マリー、大丈夫かしら……。――儀式って何をするのかな……?」
確かに、ビビアンの言う通り結局儀式の内容は開示されなかった。
石碑を使うってことしか、わからないけれど……。
「さぁ、石碑の前に立ちなさい。」
信者たちが、私たちを囲むように立った。
妙に近いような気が……。
司祭が、石碑に手を伸ばした。
「これより――聖女復活の儀式を行う。」
えっ……?