振り払った手
「驚かれましたか?マリー嬢」
マリー「えぇ、ライラ嬢」
そうか……。
街外れでの違和感はこれだったんだ。
あの時、彼女は確かに”私は悪役じゃない”と言っていた。
この世界の人は、悪役なんて言葉を使わない。
ライラ「私は、この世界に転生してきましたけど、あなたを呼んだ人物ではありませんわ。」
マリー「誰か知っているのですか?」
ライラ「えぇ、でもあなたにはまだ教えません。」
マリー「何故、正体を明かす気になったのですか?」
ライラ「さぁ、何ででしょうか。それにしても、あなたは何故自分がヒロインになろうとは思わなかったのです?」
マリー「何故って……。最初はただ、レニー・アストレアでの攻略ができなかった心残りからです。でも、今はその選択が正しかったと思っています。」
ライラ「どういうこと?」
マリー「レニーは、誰よりも国母に相応しい女性になります。ヒロインは、…最初から私ではなく彼女だったのですよ。」
ライラ「フフッ、ハハハハハ……。」
マリー「何がおかしいの?」
ライラ「もし、自分がヒロインとして振舞っていたなら変わっていたとは思わないの?」
マリー「どういう意味?」
ライラ「私は、もちろん自分がヒロインになることを選んだわ。だから、光の魔力が目覚めて、この学園に入学した。でも、あなたはどう?本来なら裏ヒロインのレニー嬢が闇の魔力だったかもしれないとは思わないの?」
私の選択で、レニーの魔力が変わった?
マリー「そんなハズないわ……。」
ライラ「あなたは姉なのに、まだ妖精とも契約をしていない。それに、いつもみんなに囲まれているのはレニー嬢の方でしょう?…あそこが自分の居場所だと…少しでも、考えたことがないの?」
マリー「…そんなこと…考えたことはないわ。」
本当に、そんなことは考えてなかった……。
なのになんで……。
ライラ「じゃあ、あなたが転生に気づいたのはいつ?レニー嬢をヒロインにしようと考えたことで、何かが起こったと感じたこともないの?」
私が転生に気づいたのは8歳だった。
レニーをヒロインにすると決めた後……。
彼女は茶会で神獣に出会った。
ダメよ。向こうのペースに巻き込まれちゃいけないわ。
マリー「…ゲームとこの世界は違うわ。」
ライラ「そうね。私は、とにかくあなたというかレニー嬢が邪魔なのよ。だから手を組まない?」
マリー「私が、レニーを裏切りあなたに手を貸すと思うの?」
ライラが私に歩み寄って腕を掴んだ。
ライラ「フフッ、まぁいいわ。3日後、あなたは私たちの指示に従ってくれればいいの。」
マリー「ふざけないで。」
ライラ「みんなが探しているみたいよ。わかっているだろうけど、私の正体をバラせばあなたの正体もバラすわ。悪役令嬢のマリー・アストレア。」
ライラがにっこりと微笑んだ。
私たちの指示ってどういうことだろう……。
この世界に呼んだ人物も現れるということだろうか。
頭痛がしてきた。
マリー「みんなの所へ戻ろう……。」
本当にみんなが探していたようだ。
ミシェル「どこに行ってたの?」
マリー「あぁ、少し用事があって。」
ミシェル「ふーん。レニーたちも待ってるからもう帰ろう。」
マリー「えぇ、わかったわ。」
ドナルド様やフィンたちとレニーが待っていた。
大丈夫よ。私はレニーが大好きだし、妹を嫌う悪役令嬢なんかじゃない。
レニー「お姉様、どこに行っていたの?これ見て……。」
パシッ
マリー「えっ……。」
レニーが差し出した写真を気がつくと振り払っていた。
レニー「お姉様?」
レニーが不思議そうな顔をしている。
何も言葉が出てこない。
思わずその場から逃げてしまった。
ドナルド「レニー嬢、僕が追いかけるから先にミシェルたちと帰ってくれないか?」
レニーは写真を拾い上げる。
レニー「私、何かしてしまったのかしら……。」
フィン「ドナルド様に任せましょう。久しぶりに家でお菓子でも作られたらどうですか?」
ミシェル「フィンが食べたいだけじゃないの?」
ダニエル「とりあえず、家で待とう。」
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「術式を勝手に使ったのか?」
ライラ「えぇ、彼女と会いたかったんです。」
「どうだった?」
ライラ「さぁ、わかりませんけど。少し揺さぶっただけで、ひどく動揺していました。」
「まぁ、妹の方が優秀だからな。」
ライラ「…あなたは、本当に私をチェイス王子の婚約者にしてくれるのですよね?」
「今更疑っているのか?」
ライラ「いえ…そういうわけではないですが。少し、気になって。」
「何が気になったんだ?」
ライラ「レニー・アストレアのことです。」
「彼女がどうした?」
ライラ「ただの精霊使いですよね?」
「ただの精霊使いか……。フッ、他に何があると言うのだ?」
ライラ「いえ、それなら良いんです。」
私がマリーに何かが起こったと感じたことはないのか聞いた時
チェイス王子との出会いやイベント的なことを聞いたつもりだったけど……
あんなに動揺するだろうか。
もっと他にも、何か起こったんじゃないかな……。
「なんだ、何を考えている?」
ライラ「いえ、何もありませんわ。」