カカオ
聖女を決める内容が遂に発表された。
聖女候補のレニーは、一切気にせずに街外れに行く準備をしている。
マリー「本当に石碑なんかで決めることが出来るのかしら。」
ミシェル「さぁどうだろうね。決まらなくてもいいんじゃない?」
ダニエル「決まらなくてもレニーに何の責任もないしな。」
ローラン「そもそも、石碑ってどこにあるの?」
ミシェル「教会が管理してるらしいけど、そういえばどこだろうね。」
ダニエル「お父様なら知ってるんじゃないか?」
確かにお父様なら知っているかもしれない。
アイリーン「今日も街外れに行くの?レニーはもう向かったようだけど……。」
気づくとレニーは、居なくなっていた。
ローラン「僕は行かないよ。」
ミシェル「えっ、さっきまでいたのに。」
マリー「お母様、行って来ます!」
私たちは、レニーを追いかけて行った。
アイリーン「フフッ、気を付けてね。」
マリー「あれ?レニーが居ない。」
ミシェル「どこに行ったんだろうね。」
ダニエル「でも、馬車がまだあるから家に居るんだろう。」
待っていると、レニーとフィンが袋を持ってやって来た。
マリー「何を持ってるの?」
レニー「これは、カカオです。」
ミシェル「カカオ?今度は何をするの?」
レニー「ニーナと話をしていて気づいたんですけど、チョコレートってまだ街の人には馴染みがないそうなんです。だから、街外れのお菓子の種類を増やそうと思って。」
ダニエル「でも、値段が高いと買えないんじゃないのか?」
レニー「だから、価格を安くするんですよ。」
ミシェル「どういうこと?」
レニー「この国で栽培しているカカオは、数が少なく高級品です。だから、別の場所のモノを手に入れたんですよ。」
マリー「別の場所?気温が高い地域は限られているでしょう?」
レニー「この国ではありません。サシャが国がジャングルを見つけたと手紙を送ってきたので、試しにカカオが生えてないか探してもらったんです」
ミシェル「サーデザーにカカオがあったってこと?」
レニー「そうです。もちろんこの国のチョコレートの市場を荒らしたりはしません。味も少し違っていますし。お父様が許可を出してくれたので、あくまでお試しですが、上手くいけばきちんと交渉して直接街外れに卸してもらいます。」
ダニエル「資金は?」
レニー「もちろん、ゆくゆくは街外れの人たちに払ってもらいます。売れ行き次第にはなりますが、あの人たちならきっと大丈夫です。」
ミシェル「サシャ王子なら、タダで構わないって言いそうだけどね。」
レニー「言われましたけど、サーデザーも本格的に環境の整備をしているので甘えるわけにはいきません。」
フィン「いつもより騒がしいですね。」
馬車が止まると、人々が集まっていた。
「レニー様、頑張ってくださいね。」
「必ず、レニー様が聖女に選ばれます。」
みんなは、レニーを応援する為に出迎えていたようだ。
小さい女の子が、レニーにお菓子と絵を渡した。
レニー「上手ね。ありがとう。」
「今日は、何をするの?」
レニー「今日は、新しいお菓子を作りたいのだけど、一緒にしてくれる?」
「うん!」
ミシェル「いっそ、投げ出しちゃえばいいのにね。」
ダニエル「おい、黒い部分が全面に出てるぞ。」
ビビアンやリーンやサーリアが既に待っていた。
すっかり馴染んでいるようだ。
ミシェル「チェイス様たちは、今日は来ないのかな?」
ダニエル「いや、あれそうじゃないか?」
マリー「…フフッ、全然気づかなかったわ。」
チェイス王子たちは、すでに畑仕事を手伝っていた。
レニーの渡した変な作業着?を着て。
ロベルト「ミシェルとダニエルも早く手伝ってくれ!」
ミシェル「僕もお菓子の方がいいんだけど……。」
ダニエル「行くぞ。」
ミシェルは渋々ダニエルに連れて行かれた。
リーン「マリー、こっちを手伝ってくれる?」
マリー「わかったわ。」
レニーは、ビビアンたちとチョコレートを作ろうとしていた。
そういえば、カカオ豆から作るって相当大変なんじゃないだろうか。
「あの~」
レニー「えっ、あぁニーナどうしたの?」
ニーナ「いらっしゃるかと思ってお邪魔したんです。良かったら…何かお手伝いできますか?」
レニー「いいの?手伝ってくれると助かるわ。思ったよりカカオの皮を剥く作業に時間がかかって……。」
ニーナ「私、母と料理をすることもあるので、是非手伝わせてください。」
レニー「ありがとう。」
ビビアン「こちらは?」
レニー「ニーナです。お花の世話を手伝ってくれているとっても優しい子なんですよ。」
ニーナ「ビビアン様、初めましてニーナです。」
ビビアン「こちらこそよろしくね。」
本は苦手だけど、興味を持って文字や本のことを聞いてくれるのは嬉しい。
人見知りなリーン嬢も、ここでは色々な人と関わり楽しんでいるようだ。
チョコレートを作っているはずのビビアンが走ってきた。
ビビアン「マリー、ちょっと来て!」
マリー「どうしたの?」
ビビアン「それが、ライラ嬢が来て……。」
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レニー「話しとはなんですか?」
ライラ「聖女に興味はないんでしょう。なのに何故辞退しないの?」
レニー「興味はありませんが、辞退する理由がないので。」
ライラ「そんなの、あまりにも無責任じゃないの?」
レニー「聖女の責任とは何ですか?」
ライラ「もちろん、人々の為に尽くすことよ!」
レニー「それは、聖女でなければできないことですか?」
ライラ「私は、あなたとは違うわ。貴族でもないし、あなたより人々に寄り添うことができる。それでも、辞退しないというの?」
レニー「さっきから気になっているのですが、何故辞退を勧めるのです?」
ライラ「それは……。」
レニー「私は、あなたよりも魔力のランクは低いですし、どうやって決めるかも発表済みです。石碑が選ぶのなら、私の身分など関係がないでしょう。」
レニーとライラが話していた。
出ていかない方が良いだろうか……。
ライラ「…無責任が人間が聖女になれば、人々に混乱を招くだけです。私は、あなたと違い。国民を愛しているのです。」
安っぽく聞こえるのは、私だけだろうか。
ビビアン「(ライラ嬢は何を言っているんです?それに国民って……。どちらかと言えば自分も国民でしょう。)」
全く同意見だ。
どの目線から話しているんだろう。
レニー「フフッ、私もあなたも国民です。」
ライラ「自分が優位だと思っているのでしょう。王子や貴族を集めて街外れを豊かにしたと、自慢げに振舞って……。」
腹が立ってきた。
レニーが自慢げに振舞っていた事なんかない。
彼女は必死で勉強して、色々な知識を振り絞って考えているのだ。
レニー「まだ、やることがありますのでいいですか?」
ライラ「なっ……。あなたのせいで私は、チェイス王子に嫌われてしまったのよ!」
レニー「本当に言いたかったのは、それですか?」
ライラ「私は悪役なんかじゃないのに、あなたのせいで……。」
私たちの横をチェイス王子が通り過ぎた。
チェイス「レニー嬢、チョコレートが苦くて食べられないとみんなが困っている。」
レニー「あっ、そうでした。すぐに戻ります。」
ライラ「チェイス王子……。」
チェイス「サボっていると怒られるのでな、学校で話そうライラ嬢。ただ、令嬢たちを引き連れてくるなら話はしないが……。」
ライラ「…わかりました。」
レニー「あれ、お姉様とビビアン様なにをしてるんです?」
マリー「あぁ、呼びに来たのよ。」
ずっと見ていたなんて言えない。
チェイス「フフッ。案外似ているのかもしれないな。」
レニーは不思議そうな顔をした。
ビビアン「さぁ、チョコレートを甘くしに行きましょう。」
レニー「いえ、甘くはしません。」
ビビアン「どういうこと?」
レニー「昔作ったお菓子が甘すぎたのを覚えてますか?」
ビビアン「あぁ、そんなこともあったわね。」
レニー「あのお菓子に、チョコレートを塗ろうと思います。」
何か違和感を感じる……。
なんだっただろうか。