姉は令嬢に睨まれる。
叔父さまの所から戻ってきた、ミシェルとダニエルは私たちに何も聞かなかった。
少し変だとは思ったけれど、こっちから聞くのは危険な気がしたし……。
何よりも、この2人を騙せる気がしない。
そう思っていたのに、何故かチェイス王子たちとミシェルとダニエルとビビアンと一緒にお昼ご飯を食べている。
どうしてこうなったのだろうか……。
家を出る時に、ロゼにデザートの入ったバケットを渡された。
毎日ではないけれど、私たち姉弟はデザートがある日は一緒に食べることにしている。
昨日遅くまで本を読んでいたせいで、横で話しているビビアンの話や先生の話も全然耳に入らない。
やっとお昼ご飯の時間になった……。
バケットを持ってミシェルとダニエルといつも食べる食堂へビビアンと向かった。
すると、ミシェルとダニエルと一緒に座っているチェイス王子たちの姿が……。
えっなんで一緒にいるの。
ドナルドがニコニコして私を見ている。
彼の仕業だろうか……。
「チェイス王子たちと一緒に食べるの?」
ビビアンが不思議そうに私の方を見た。
確かに、この状況で令嬢が1人紛れ込んだら不自然でしかないだろう。
そうか、私はビビアンと一緒に別の場所で食べたら良いんだ。
「よかったら、ビビアン嬢も僕たちと食べましょう。」
ドナルドに先を越されてしまった……。
逃げ道を塞がれた気分だ。
「では、ご一緒させていただきます。」
私は、渋々席についた。
ミシェルとダニエルが食べ終わった。
デザートは多分私たちの分しかないだろうと思ってバケットを開けると、まさかの人数分が入っていた。
えっ……。ロゼは、こうなることを予想していたのだろうか。
彼女は、乙女ゲームでは登場していなかったが相当綺麗な見た目をしている。
それに、言葉遣いなども綺麗で何故独身なのかわからない。
いつも先回りして行動してくれるけど……まさかね。
「あの…よかったらうちのメイドが作ったモノなんですけど。」
デザートに意外にもくいついたのはチェイス王子だった。
意外に甘党だったのかしら……?
ビビアンは、平気で食べているチェイス王子たちを見て驚いている。
公爵家や侯爵家の他にも、高級志向の貴族たちはシェフではなく、メイドの作ったモノを食べたりしないのだ。
「もし、いらなかったら無理しないでね?」
「いえ、チェイス王子たちも食べられているので……。」
いや、そんなに無理をして食べる必要はないんだけど……。
一口食べたビビアンは、美味しいと驚いていた。
当たり前だ。ロゼだけでなく、家で働いているメイドは基本的に何でもできるのだから。
それにしても……、食堂を見回すと主に令嬢からの視線が集まっているようだ。
まぁ、当たり前か……。
令嬢をお茶会の席以外で寄せ付けようとしない、チェイス王子が令嬢と一緒に食事を取っているのだ。それに、ただでさえ目立つ顔立ちが1つのテーブルで食事をしていれば、見ない方がおかしいかもしれない。
何を考えて、ドナルドはこんなことをしたのだろうか……。
そう思いながら教室に戻ろうとしていると、ドナルドに引き留められた。
ビビアンは、すこし不思議そうにしながらも先に戻って行った
「勝手なことをして悪かったね。昨日話して、できるだけアストレア家と親しくしていた方が良いんじゃないかってなったんですよ。」
確かに、その方が私にとってもレニーを売り込むチャンスが増えるだろうけど……。
「なんで、ビビアンまで?」
「ふふっ、カモフラージュですよ。マリー嬢1人を誘えば、変に目立つ可能性もあるし……。彼女なら多分大丈夫でしょう。」
確かに、あの状況で1人テーブルに座るのは厳しかったと思うけど。
「大丈夫とは?」
「彼女は…良くも悪くも典型的な令嬢ですから。」
あぁ、そういうことか。
他の国の貴族や王族ならとっくに婚約者が決まっている。
だけど、今の国王がチェイス王子に自分で婚約者を選ぶように言っているからこそ、他の貴族も婚約者を決めていないのだ。
基本的な令嬢は、神獣には興味はないんだろうな。
「”何かあれば、力になる”とチェイス王子が言っていました。覚えておいてくださいね。」
ドナルドは、にっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。」
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ドナルドと一緒に食事を取ることはあったけど、王子たちと必要以上に親しくしたことはない。
ロベルトは兄のチェイスを尊敬しているが、王族として他の同年代に負けるわけにはいかないと思っているので、僕たちは面倒だからあまり近づかないようにしてる。
それに、彼の周りには他の貴族の子爵たちがすり寄っているからなぁ。
にこやかにかわしてはいるけど、楽しそうには見えない。
令嬢嫌いとまで言われる、チェイス王子が何で姉さんとビビアンと同席したのか……。
「ミシェル、何を考えてる?」
「んー。別に」
恐らく、ビビアンはおまけのようなモノだろう。
茶会の日が関係していることは確実。
でも、3人がいたあの周りに何かがあったとは思えない……。
「いたっ、何だよ」
ダニエルに背中を蹴られた。
「何を考えているか、話さないともう1度蹴る。」
「…わかったよ。」
茶会の日におそらく何かがあったこと、そのせいでチェイス王子たちが姉さんもしくはアストレア家と仲良くしようとしていることを話した。
「なんだ。そんなことか。」
人の背中を蹴って聞きだしたクセに、なんだとはなんだ。
「俺たちが、姉さんもレニーも守れば問題はないんだろう?」
まぁ、そうか。
「うるさいよ。ダニー」
「ダニーって呼ぶな。」