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日常②


~ローランの日常~



僕の姉は少し変わっている。


長女のマリー姉さんは、ブツブツと何かを呟く癖がある。


マリー「ローランどうしたの?」


ローラン「何でもないよ。」


マリー「そう?」


たぶん、無意識なんだろうけど……。



次女のレニー姉さんは、いつも元気。


庭にある池に向かって何かを投げ入れた。


ローラン「何をしてるの?」


レニー「釣りよ。」


本で読んだことはあるけど、糸じゃなくて竿ってモノを使うんじゃなかっただろうか。


ローラン「エサは何を付けたの?」


フィン「付けられなかったんですよ。」


ローラン「どういうこと?」


フィン「虫を殺せず、魚が可哀そうだと針も付けられなかったんです。」


それじゃあ、一体何をしてるんだろう。


姉さんは、癒したりする魔力を禁止されてから全ての生き物の傷に敏感になった。

治せるのに治せないのがきっと辛いのだろう。


レニー「1度、雰囲気を味わたかったの。」


チッチが、横で姉さんの糸を狙っている。


レニー「ねぇ、ローラン。ワンダが見えてるでしょう?」


ローラン「いきなりだね。」


レニー「わざと目をそらすからバレるのよ。」


意外に勘が良いのが姉さんの厄介な点だ。


ローラン「見えてるよ。」


レニー「無視は寂しいだろうから、気が向いた時にでも声をかけてあげてね。」


ローラン「そうだね。」


レニー「魚が全然釣れないわ。ロゼって今買い物に行ってる?」


フィン「そうだと思いますけど……。」


レニー「フフッ、今がチャンスね。」


ローラン「チャンス?」


レニー「ローラン、自分で魚を捕まえましょう。」


立ち上がった姉さんが僕の手を引っ張った。


バシャーン(水に入る音)


レニー「先に捕まえた方が勝ちよ。」


いつも勝手にルールを決めてしまう。


フィン「僕は知りませんからね。」


レニー「フィン、上がるから手を貸して。」


フィンが手を伸ばした。


バシャーン(水に落ちた音)


フィン「…やりましたね。」


ローラン「勝ったら何があるの?」


レニー「んー。考えてなかったわ。何かして欲しいことある?」


ローラン「勝ったら考えるよ。」


フィン「もう濡れたので参加します。ただ、手加減はしません。」


マリー「あなたたち、何をしてるの!?」


レニー姉さんが、僕の方を見て悪い顔をした。


ローラン「姉さん、手を貸してくれない?」


マリー「いいわよ。早く上がりなさい。」


バシャーン(水に落ちた音)


レニー「フフッ、ハハハ。ローランも同罪ね。」


マリー「あなたたち……。」


結局帰ってきたロゼに怒られ、勝敗はつかなかった。


僕は、みんなに黙っていることがある。

生まれた時から、ずっと記憶があること。


だから、レニー姉さんが神獣に会ったことも熱を出して宙に浮いていたことも知っている。

マリー姉さんが、みんなに黙っていることも……。


兄さんたちのように、僕も2人の姉さんを守れたらいいな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


~フィンの日常~



旦那様も奥様も気づいてないけど、レニー様には最近異変が起こっている。


感情が高ぶると、彼女の目は真っ赤になってしまう。

それに眠っている時には、額に紋章のようなモノが浮かび上がるのだ。


ワンダは、レニー様のイヤーカフが壊れないように毎晩封印を結び直している。


聖女候補に選ばれ、周りが困惑していることもあり、レニー様はいつもよりも明るく振舞っている。


レニー「ねぇ、フィン。私は、勝つべきかしら?それとも負けるべきなのかしら……。」


フィン「どんな内容であれ、レニー様が負けはしないでしょう。」


レニー「ライラ嬢は、国母に相応しいと思う?私が勝たなければ、きっと彼女に決まってしまうわ……。」


フィン「手柄を横取りするような人間は、グラントリアの国母に相応しいと思いません。」


いつも彼女は問題に巻き込まれしまう。

持っている能力のせいなのか、人を惹きつける不思議な魅力のせいなのか……。

公爵家の次女なんて、正直何もしなくても生きていけるだろう。


さっさとチェイス王子が彼女をさらってしまえば良いと思う。

そうすれば、浅はかな自分の考えから解放されるのに……。


レニー「ねぇ、どんな選択をしてもフィンは味方でいてくれる?」


フィン「もちろんです。」


レニー「フフッ、もし遠くへ行きたいと言えば連れて行ってくれる?」


フィン「あなたが望むのなら、どこでも行きましょう。」


彼女はきっと一生気づくことはない。

その真っ直ぐな目も言葉も全てがどうしようもなく、俺を貫き残酷に縛り付けることを。


レニー「その時は、チッチも一緒ね。フィンがいてくれて私は幸せね。」


フィン「そろそろ、眠ってください。」


レニー「おやすみなさい。フィン」


フィン「おやすみなさいませ。」


パタン(ドアを閉める音)


ロゼ「レニー様は眠った?」


フィン「今、お眠りになられました。」


ロゼ「フィン?」


気づけば、涙が流れていた。


フィン「ハハッ、僕もいっそ女なら良かったかもしれませんね。」


ロゼ「…それはどうかしら。私は、あなたが羨ましくなる時があるわ。」


フィン「どちらも地獄ですね。」


ロゼ「仕方ないのよ。離れられないんだから。」


あの日、天使のような聖女のような少女に救われた。

共に過ごすことが出来るなら、彼女が望むのなら地獄にだって堕ちるだろう。

早く誰かが彼女を捕まえてくれれば良い。

この手が、彼女の腕を掴んでしまう前に……。


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