第一章 ハロー! ニューワールド!-6-
あちらこちらと連れまわされた翌日、龍馬はいつも通り朝早くから起床して、メティーシアに文字の勉強を付き合ってもらっていた。
「文法は日本語に近いけど単語は英語っぽくてややこしいな」
発音に関しては問題ないから後は只管に単語を覚えていくのが手っ取り早いかとやる気を出して単語の書かれた本を一冊貰いそれに日本語の意味を書いて復唱と書き写しで文字を覚える。
「それにしても、龍馬様の学習能力は目覚しいものがありますね。これならすぐにでも役人への登用も夢ではありませんよ」
メティーシアの賞賛の言葉に龍馬は気をよくして更にやる気を出して勉強していく。
「にしても、勉強すること自体に価値のある能力と言うのも中々考えさせられるなぁ」
この世界においては勉学に勤しむよりも生きることが重要なのだから子供の内に家の仕事や家事を優先して覚えなくてはならない。
それを知ると本当に恵まれた時代に生まれていたのだと実感させられる。
一人自らの境遇に感謝していると部屋の戸が叩かれメティーシアが代わりに対応する。
「龍馬様。尚書官の秘書より今後についての通達が届きましたが私がお読みいたしましょうか?」
「いや、自分で読むよ。けど、解らないところは教えてね」
やれることはやろうと言う意思を伝えるとメティーシアはクスリと笑って返事をする。
そして手紙を龍馬に手渡し隣に立ち読める位置に立つ。
拙い知識で手紙を読んで行くと徐々に雲行きが怪しくなっていた。
「これは……」
とメティーシア。
「弱った……のか?」
と龍馬。
手紙の中身を要約すると尚書省を除く各省で二週間ずつ研修期間として業務に当たり最も適正ありとした省もしくは人材としてその省が求めた場合その省の適切な部署に配属するといった内容。
「省ってどれだけあるのかな」
「はい、賢人会議に出席する官の数だけ省はあります。そして全部で七つあり、それとは別に協会を含めますので正確には八つになります。各省ですが、内政、外交、徴税、立法、軍事、尚書、儀典。加えて協会と以上になり、今回の内容から尚書省を除きますので六つの省と協会で研修期間があるということになりますね」
全工程で三ヶ月半の研修期間、てっきり内政官の元で数字に関する仕事に付くことになると思っていたものだから意外な結果に少しばかり戸惑いを隠せずにいた。
「恐らく内政官殿と外交官殿が口論になって落としどころを尚書官殿が提案したといったところでしょうか」
メティーシアの読みは当たらずとも遠からずといったところで実際は外交官が内政官の悪癖を突きそのお眼鏡に適った人材を独り占めさせるのは如何かと進言し適度な落としどころを内政官が提案したという流れだったが、二人がそれを知る余地は無く、回ってきた通達に従うことになる。
「まぁ、でもこうなったなら仕方ないか。何時から何処から回ればいいのかな」
そういいながら手紙を読み進めていく。
「っと、先ずは内政省、アレックスさんのところからで研修期間は明日から二週間か。いきなりだけど望んだことだし頑張らなきゃな」
その次は一日空けてから外交省への出向と書いてあった。
「龍馬様、お忙しい日々になると思われますが無理をなさいませんように」
「ありがとう。けど、メティーシアはどうしてそんなに気にかけてくれるの?」
「私は使用人ですから、お使えさせて頂くお方のことを思うのは当然ではありませんか」
つまりお仕事だからと言われているようなもので、龍馬はなんだかなぁと思いつつも色々と世話を焼いてもらっているのだから否定的になることは無いだろうと納得して椅子に座りなおす。
「さて、今後のことも決まったし張り切って勉強しましょうか」
そう言って机の上の紙と単語帳に視線を移して勉強に戻った。