第一章 ハロー! ニューワールド!-5-
付き添いで城下町まで来た龍馬と楽しげに辺りを見回すオルフィリア。
加えて、龍馬の使用人のメティーシアと姿を見せていないがオルフィリアの護衛で数人付いてきているらしい。
「さて、お前は何か見たいものはあるか?」
「そういわれてもこっちのことはよく知らないからなぁ」
好きにして言いといわれても何がなんだかさっぱりの龍馬は正直案内して欲しいくらいでどうしたものかと首を捻っていた。
「では、私の独断で構わんな」
そう言って龍馬の手を掴み行軍していく。あまりにも気ままな態度に本当に数千年も生きてきたのかと精神年齢を疑いたくなる。だが口にすれば当然ながら怒られるであろうからお口のチャックを閉めてされるがまま流されていく。
「おぉ……!」
たどり着いた場所で龍馬は思わず感嘆の声を漏らした。
開けた大通りの商店街は活気づいており様々な人が買い物を楽しんでいるように見えた。
「流石に驚かされるな」
その新鮮さと人々の行き交いが時間の流れと文化の違う世界へ来たということを実感させる。
「いや、何度目なんだこの実感は……」
何度と無く異世界へ来たと感じていただろうと自分の単純さに呆れてため息をつく。
「どうした、つまらないのか?」
「いや、自分の浅はかさに少しな」
オルフィリアはどうでも良さそうにふーんとだけ言って追求はしてこなかった。
「そんなことは後で一人で部屋でして居ればよいだろう。付いて来い色々視て回るぞ」
再び手を取られて引っ張っていかれる龍馬。
「ちょっ!」
危ないなと思いながらも体勢を整えてオルフィリアにされるがまま手を握り商店街の店を視て回る。
飲食店に服店、宝石店に雑貨店など庶民の味方から貴族の御用達まである程度の区分けはされていても何でもござれといった見せ揃い。だがそんな中で龍馬が特に関心を示したのは魔術具店とメティーシアが説明してくれた聞きなれない店。
「ちょっとだけここ寄っていっても良いかな?」
珍しく興味を示したなと言いたげな様子でオルフィリアは頷き、店内へと入っていく。
カランカランと入り口の鈴が店内に人が入ったことを示し、入り口付近の会計所で暇そうにしていた店員がこちらを横目で見て視線を逸らして数秒後、もう一度こちらを見て驚いたのか飛び上がってこちらへ近づいてくる。
「いらっしゃいませ! 本日はこのような小さな店へおいでになられたのでしょうか」
あまりの焦りっぷりに龍馬はどうしたのかと思いメティーシアに肩を叩かれ隣のオルフィリアのことを耳打ちされてなるほどと頷いた。
「こちらの異邦人様へ城下町を案内していますの。それでこちらに興味を示されたので少しばかり店内を見せて頂こうかと」
完全に猫をかぶりきったオルフィリアに龍馬は呆れた様子で頭を掻く。
「左様でありますか。このような薄汚い店で良ければどうぞご自由に見ていただければと」
恐る恐るといった様子で店員は下がっていき龍馬は面倒な事になったと少し後悔しながら店内を見て回る。
「メティーシア、この辺の木版って何するものなの?」
一つ手にとって見ると薄い木の板に文字と記号と如何にもな魔方陣が彫られていた。
「それは火を起こす魔術符ですね」
「魔術符って、あれか魔核を使った簡易魔術だっけ」
はいと肯定して、メティーシアは辺りの魔術符について説明してくれた。
魔術具とは魔核を用いて誰でも魔術を使えるようにしたもので、生活には欠かせない日用品と化していた。たとえば魔核を入れると光る筒や魔核を乗せると魔核から火が出る魔術符など。
魔核自体は動物からも取れ価格もさほど高くなく最悪狩りなどでも確保できる。
そのためこの世界では魔核をよういた魔術具が庶民から王族まで誰もが使う道具として重宝されていた。
「言い換えれば食用動物からも取れる電池な訳だし、魔術が簡易化出来るなら使われるのは当たり前か」
一人納得して龍馬は魔術符を元の場所に戻す。
「そろそろ出ようか。店員にも悪いし」
いきなりアポもなしにお姫さまが来たらと思うと非常に申し訳ないことをした気になる。
「ん? もう良いのか?」
当の本人は気にする様子も無くというのがあまりにも申し訳なさを加速させていた。
「あぁ、魔術具にも色々あるってのがわかっただけでも良いさ」
そもそも欲しい魔術具なんて無いのだから長居してもしかたない。
「では行くか」
そう言ってオルフィリアは店員に先程と同じように猫をかぶった対応をして店を出た。
その後、ぐるっと全体を見て周り気が付けば日暮れになっており夜は流石に城内へ戻って欲しいというメティーシアの要望で日が沈む前に戻ることとなった。