第一章 ハロー! ニューワールド!-4-
突如現われたオルフィリアに襟首を掴まれ引きずられて行く龍馬。
「ちょっと待ってくれ! 危ないから!」
今にも倒れそうになりながらも必死に倒れないように歩いていたが流石に限界が来たのか悲鳴を上げて停止を求める。
ちらりと龍馬の方を一瞥してからため息をついて手を離した。
「今日は暇じゃなかったんだけど」
苦言を口にして龍馬はオルフィリアの方に視線を移すと阿呆かこいつは、といった様な顔をしていた。
「何故に住居、三食、昼寝付きの賓客待遇をわざわざ辞退するのだお前は」
何よりも内政官の所で適正試験を受けていたのが気に食わなかったのか嫌味を言われて言葉を返せなかった龍馬は頭を掻いて誤魔化す。
「まぁよい。が、お前はもっと自らの価値に対して理解すべきだ」
そういう彼女、オルフィリア・ネインバーはこの国の王帝の娘で第二皇位継承の地位にある国家でも非常に重要な人物であるのだが、少々込み入った事情があり彼女は今彼女自身の意思で行動していない。
「それは君も同じだろう?」
龍馬の言うと通り、彼女の価値は第二皇位継承者であるのと同時に龍馬をこの世界に呼び寄せた原因の一端でもあった。
「この体なら傷一つ付けず返してやるとも、そもそも傷が付こうが私の魔法一つで元通りに出来るがな」
オルフィリア・ネインバーの肉体は古代種と呼ばれる数千年を生きるドラゴンの精神を宿す器として選ばれ、今の精神はそのドラゴンが支配していた。
「そもそもお前がそのような心配する必要なかろう。まぁよい、今日は城下町へ参る」
つい先程お互いの価値に対する認識が一致したというのに危険の潜む可能性のある城下町へ行くなどと口にするのだから龍馬は呆れて言葉がでなかった。
「不満か?」
……このまま一人で行かせて何かあったら寝覚めが悪いと思い龍馬は渋々オルフィリアの隣に立つ。
「いや、俺も行って見たかったから丁度いいし付いてくよ」
自らの甘さに嘆きつつも実際一度視てみたかった城下町のことを思い、今は適正試験のことは忘れてオルフィリアに付き合おうと観念した。
「よい心がけだ。私がお前に飽きるまでの辛抱だと思え、飽きれば相手などせんで済むからな」
嘲笑めいた口ぶりに乾いた笑いで答える龍馬。
異性間での付き合いと言う意味ではなく彼女の、ドラゴンの知的好奇心が満たされるまでの間と言う意味での飽きるまでという言葉。
ドラゴンの生態系と言うのは非常に特殊で、次の肉体の繭と呼ばれる卵を土地に定着させその繭が孵るまでの間を他の生命体の肉体に精神を宿し過ごすという不死鳥の亜種みたいなもので、今回はこの王都を繭のゆりかごとして選び、器をこの国のお姫様として求めた。
その見返り王帝はドラゴンの遺体を手にしたのだ。ドラゴンはこの世界に十体と生き残っていない種族でその肉体は余す事無く使える非常に価値のあるものらしく特に薬や肥料、魔法具などに多く使われ、その魔核も国宝になるほどの一品なのだが今は龍馬にすべての魔力が宿ってしまいただの綺麗な石としての価値しかない。
最もそれでも特大の宝石であることに変わりは無いのだが。
頭の中で色々とドラゴンに対して思い出していた龍馬は話がそれたなと最初のオルフィリアの飽きるまでの言葉の真意を思い出していた。
ドラゴンの繭が孵るまでの三年間、その間しかドラゴンは今の様な生き方を楽しめない。
その後はどうするからは知らないが少なくとも今を楽しむことでオルフィリアは長くも短い三年という時間を有意義に過ごそうとしている。
「どうしたのだ。難しい顔をして」
不意に覗き込んでくるとオルフィリアの顔が目の前にあった。
息を詰まらせてそそくさと距離をとりなんでもないと口にして歩き出す。
「変わった奴だ。まぁそこが面白いのだが」
どうあっても当分は彼女の玩具扱いなのだろうと龍馬は諦め半分で我侭なお姫様の付き添いをするのであった。