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第一章 ハロー! ニューワールド!-3-

昼食を済ませた龍馬は内政室のアレックスのところまで来ていた。


「そこに掛けたまえ」


用意されていた椅子に着きテーブルに置かれた紙と羽ペンに視線を落とした。


「今から君に適正試験を受けてもらう。まずは数学の適正試験からだ。時間は一刻、準備が出来たら声を掛けてくれ。砂時計で時間を計る」


「解りました」


龍馬は裏返しの用紙から視線を逸らして羽ペンを手に取る。


初めて手にする羽ペンを珍しそうに視ているとアレックスがそれに気が付き声を掛けた。


「使い方が解らないのか?」


「いえ、そうじゃなくて珍しいというか初めて触ったんでちょっと感動してると言いますか……。じゃなくて、準備が出来たのでお願いします」


「そうか。まぁいい。では開始」


アレックスが砂時計を返したのを見て龍馬は用紙を表にした。


横に控えたメティーシアが用紙に視線を落とし、龍馬は用紙に書かれた数字を視てほっと肩をなでおろした。


「よかった、数字だけだ」


数学の試験と言われて、もしかしたらと期待した通り用紙には数字だけで文字は書かれていなかった。


「それに足し算掛け算とかも表記は同じだ」


見慣れた+や×に少し懐かしさを感じながら問題に目を落として、首を傾げた。


その様子を横目で視ていたアレックスは数学は駄目そうだと肩を落として自らの仕事に戻る。


しかし、アレックスの予想とは違い龍馬は拍子抜けしていた。


用紙に書かれた問題がどれもよくて中学一年生程度の安易な問いばかりであったからだ。


これが試験なのかと龍馬は馬鹿にされているのかと疑いを掛けながらスラスラと答えを書いてい行きものの十分ですべて書き終えて検算までしていく。


その途中、何故こんな簡単な数学と言うか算数が試験なのかと考えていると昔テレビで言っていたことを思い出した。


識字率に関する話で、江戸時代の日本の識字率は異常だというような内容で同時期のヨーロッパの識字率は50%に届かないなんて言っていた様な記憶と江戸時代の日本人の数学に関する知識レベルの高さについても語っていたことも。


そうか、そうだ。現代においては数学知識が当然であってもこの世界における数学の知識は中学生程度の知識で十分役人に登用にたるものなんだ。商家にでも生まれなければ硬貨の価値に対しての簡単な足し算引き算で十分なんだから。必要なら現物を数えてしまえば良い訳だし、それが百を超えることも多くない。


納得して龍馬は最後の問いの検算を済ませて立ち上がる。


「半刻ほどか。諦めるにしては早いが出来ないことを無理やる必要も無いか」


そう言ってアレックスは龍馬から用紙を受け取り眉をひそめた。


龍馬の計算を真横で見ていたメティーシアは顔に出しはしないもののかなり驚いていた。


それも当然、現在登用している役人の中でも計算が速い部類に入りあの表情と検算の様子から答えがあっているということがわかったからだ。


「なん……と。いや待て待て、彼が来るまでに私が自ら用意した問いだ。不正行為を行いようも無い。ならこれは……」


龍馬の書いた答えは無論間違える事無く完璧なものでアレックスは龍馬がギブアップで用紙を返してきたと思い込んでいたからなおさら驚きを隠せなかった。


それと同時にとんでもない拾い物が出来たと内心で龍馬に対する評価が上がっていた。


彼、アレックス・フォルトの趣味と言うか悪癖の一つで有能な人材に対して手塩に掛けて育てあげるという人材マニアとしての側面を持っていた。


つまり、龍馬の数学に対する知識がこの国の現状の数学知識からするとかなり学の高いものであると言うことがアレックスの心に火を点けた。


「素晴らしい。いや、まさかこれほどとは、というよりは侮っていたというべきか」


くっ、くっくっとまた独特な笑い声を出すアレックス。


数学だけでこれほどの学、コレだけでも十分だが他の学問対する知識量はどうなっているのか、思わぬ拾い物にアレックスは少しばかり舞い上がっていた。


「よし、君!じゃなくて龍馬君、他にも適正試験があるのだが時間は問題ないかね?」


高鳴る思いを抑えて龍馬に問いかける。


「は、はい。特に用事はありませんが」


「よぉし! ちょっと待っていたまえ、少し用意をする」


上機嫌でアレックスが部屋の外へ資料を取りにいこうとしたと同時に部屋の戸が開いた。


「龍馬、こんな所で何をしておるのだ」


その声音にゆっくりと龍馬は振り向いた。


「姫君ではありませんかっと、今は違いましたね。オルフィリア殿」


アレックスがそう言い、龍馬のその視線の先には黄金の髪に小柄な体躯に慎ましやか胸を張り軽く睨む様な視線のスッと抜けるような目じりをした青い瞳、ムスッとした口元の左下に小さな黒子を持つ王帝の娘、オルフィリア・ネインバーが居た。


「内政官、こやつを連れてゆくぞ」


「えっ? あの」


答える前に襟首を掴まれた龍馬がどこかへと連れて行かれる様子を唖然とした様子で見送ったアレックス。


「……まぁ、仕方ないか」


適正試験は日を改めても問題ないかと納得し、それよりも龍馬が想像を超える数学適正を見せたことを良しとして、どうやって手元に置くかと賢人会議での立ち回りについて考えながら仕事を片付け始めた。

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