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第四章 眠り姫の見る夢は…… -1-

「約二週間留守にしただけなのにこれほどまでに懐かしいのかこの部屋が」


荷解きをするメティーシアはもう気にしないことにして感傷に浸る。


「お疲れ様でした。本日は一日ごゆるりとお休みください」


そう言ってメティーシアは洗濯物を纏めて籠に詰めていた。


「メティーシアも疲れてるだろうし俺のことは明日でも良いから休みなよ」


「お気遣い感謝いたします。ですが、本日中に片付けさせていただかないと落ち着かなくて。申し訳ありませんが」


「いや、それなら任せるよ。ありがとう」


一礼して部屋を出て行ったメティーシアを見届けてからふぅと一息ついてベッドに倒れこみ体の力を抜く。


色々と大変だったけれど、自らの置かれた現状を把握できた事とどうしても避けられない現実への回答を出せたことは良かったのではないかと納得する。


王帝がどう思案しているにしても自分を高待遇で迎え入れたかったのはガイウスの言っていた様にドラゴンの魔核の遺伝に関する点もあったのだろうと腑に落ちることも見つかった。


要するに種馬と言う訳だ。


…………。


自分で思っていて現実感が無いと龍馬は乾いた笑いで誤魔化そうとする。


そしてハッとして嫌悪感のあるため息をつく。


「違うだろ。それはもう認めた、その上で頑張るんだよ」


でも、今こうしてグロッキーなのは話が別だと自分を騙す様に頭の中で言い訳して沈むように目を瞑り眠ろうとしていた。


そこに控えめな戸を叩く音に意識を掴み直す。


身形を確かめてどうぞと返すとひょっこりとフランシスカが顔を見せた。


「お休みでいらっしゃいましたか?」


ベッドに座る龍馬を見てフランシスカは申し訳なさそうな顔をするが龍馬は笑って返す。


「そんなこと無いよ。ほらこっちおいでよ」


そう言って龍馬は立ち上がり椅子を引く。


「では、失礼いたしますわ」


フランシスカは導かれるまま椅子に腰を下ろし、龍馬も前の椅子に座る。


「急に押しかけてしまいすみません。ですが、その。龍馬様の部屋を見てみたくて」


照れくさそうにそう言っているがキョロキョロと部屋の中を興味深そうに見ていた。


「あまり珍しいものなんて無いけど、ゆっくりしていってくれて構わないよ」


メティーシアが居ればお茶の一つでも頼んだのだがと思っているとフランシスカが話しかけてきた。


「ずいぶんと質素なお部屋ですわね。あっ、悪い意味ではありませんのよ?」


そういわれて部屋を見回すが、机に椅子とクローゼット、本棚とベッドに荷解きの途中の荷物、それとダンボールが三つ。


「確かに物は少ないけど困ってないからなぁ」


「龍馬様がそれで良いのであれば何も問題はありませんわ。ただ、私も同じ部屋に住むことになるのでしたらもう少し飾り立てさせて頂きたいですわ」


「…………えっ?」


突然の同居発言に目が点になって素っ頓狂な声を出す。


「あら、私は龍馬様のモノですからお傍に置いて頂けるのだとばかり思っていたのですが」


さも当然にそんなことを言うフランシスカにいやいやと手を振る。


「流石に気が早すぎるって! 俺も急な話で飲み込めてないところもあるし、それに先日も言ったけどもっと互いのことを知ってからじゃないと」


そう言う龍馬の言葉を遮るようにフランシスカは口を開いた。


「では、どれくらい知っていたらよいのですか?」


曖昧な言葉で逃げようとしていたようにフランシスカには聞こえたのかひどく鋭い質問が帰ってきて龍馬は思わず言葉に詰る。


「…………私の事がお嫌いでしたらそう仰ってください。でしたら私も自らの役目に迷わずに居られますから」


フランシスカの寂しそうな言葉に龍馬は胸を締め付けられるような気がしてそっと手を取った。


「嘘は吐きたくないから正直に答える」


繋いだ手が震えているのが解る。今ここで、フランシスカを喜ばせるだけの言葉を吐くのは簡単だ。だけどそれじゃあ駄目だ。だから。


「俺はまだ君の事をよく知らない。外見的な事なら凄く可愛いしこうして触れ合うだけでも緊張するくらい魅力的だ。だけど、それだけじゃなくてもっと君の事を知ってその上で、言葉だけじゃなくて心で思いあって初めて繋がりあう事や一緒に暮らしていくような事をしていきたいって思ってる。だから、今はまだ待ってて欲しい。駄目かな」


真摯に正直に向き合って言葉を紡いだ。


嘘は何も無い、今の自分自身の本心から出た言葉だった。


「そんな顔をされてしまっては私は何も言えないでは無いですか」


仕方の無い人と言ってうっすら微笑んでフランシスカは答えた。


「解りました。今は待ちますわ。ですけれど一つだけ我侭を聞いていただけますか?」


「今の俺に出来ることならなんでも」


フランシスカは立ち上がり龍馬の目の前まで来る。


「では、目を閉じて頂けますか?」


これは所謂アレか!と思ったが逃げるわけにも行かず龍馬は気を引き締めて目を閉じた。


龍馬が感づいているという事を解った上でフランシスカは嬉しそうに一歩踏み出した。


そして、くるっと龍馬の後ろに回って抱きついた。


「目を開けても良いですわよ」


背中から抱きつかれた龍馬は拍子抜けと言うか思っていた展開と違う内容に困惑していた。


「フランシスカ?」


声を掛けるとフランシスカは龍馬の耳元で囁く。


「口付けは龍馬様からじゃないと嫌ですわ」


ふふっと笑ってフランシスカは頭に頬ずりする。


それ以上のことは無く数分ほどして満足したのかフランシスカは離れてそのまま扉のほうへ向かった。


龍馬は呼び止めようと声を掛けるとフランシスカは含みのある笑みで答えた。


「龍馬様が私を知っていただけるのを楽しみにして居りますわ」


そう言い残してフランシスカは龍馬の元を去っていった。


それはつまり、そう言うことなのだろうと龍馬が思案して肩を落とす。


「解った。俺ってぐいぐい来られると対応できないや」


肉食系女子とでも言えば良いのか、そう言うタイプの相手は苦手だと理解した。


けどそれは言い訳には出来ないことも理解している。


「というか、フランシスカは本当に俺のこと好きなのかな?」


好意的であることは確かだけれどそれが恋なのか愛なのか、それとも別の何かなのか。


それが判断がつかないというのと、もっと彼女のことを知らないと駄目だと感じる。


…………。


ほのかに香る彼女の残り香に龍馬は頭を抱える。


いやいや、あんな美少女が本当に俺のこと好きになるのか?


元の世界の基準で図るならありえないの一言。そもそもあんなレベルの相手と話すらする機会さえ無いだろ。


もっとこう、奥手だったり嫌悪感を出してくれている方がやりやすいというか燃えるというか、あんなぐいぐい来られたら無理だろ。


ぐぇーとでも言いそうになりながらテーブルに突っ伏していると部屋を出て行ったメティーシアが戻ると不思議そうな顔で龍馬の様子を見ていた。

書き貯め終わり。

更新頻度低下。


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