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第三章 いざ! 華国へ!-5-

帝都についてからすでに数日が立ち、碧国へ戻る日が近づいていた。


その間に龍馬の元に訪ねて来た王族の娘達はティアレとフランシスカを含むめて八人。


その誰もが雰囲気や外見は違えども美人か美少女。


はっきり言って今にも気が変になりそうなくらいの展開に龍馬は少し痩せた。


数日前の勢いは何処へといった様に自ら情け無くなる。


「具合が優れないのですか?」


心配そうなメティーシアに龍馬は手を振って答えた。


「大丈夫だよ。とりあえず今日を凌げば一段落するわけだし」


もう彼女達のアタックが無くなると思えば今日一日くらいどうとにでもなると気合を入れる。


「よし! オッケー、今日の予定は?」


元気よく立ち上がり見せた笑顔にメティーシアもほっとして予定表に目を落とした。


「本日はオーリック様と同行して華国の軍事演習の視察、昼食は各地の貴族を招いた立食会、午後はガイウス様より内容は窺っておりませんが見せておきたいものがあるということで謁見の間へ行き、その後は夕食の晩餐会までは自由にしていただいて構わないということで。以上になります」


ひどく長い一日にさっきまでの元気を吸い取られて椅子に腰を下ろす。


「やはり、どこか具合が悪いのでは?」


「いや、大丈夫。無理はして無いけど。忙しいんだな外交官の仕事って」


「勿論、その通り簡単ではないね」


ノックもなしに現われ、部屋の入り口から手を振るオーリックに龍馬は呆れたような顔で答えた。


「せめて声くらいかけてから開けてくれませんか?」


「したさ、けど返事が無くてね。具合が悪いのかい?」


オーリックから見ても顔色が悪く見えるのかそう問われて龍馬は首を振って立ち上がる。


「行けますっ! 未熟者ですけど今は外交省所属ですから、仕事はしっかりして帰ります」


その言葉にニカッと笑みを見せる。


「その意気込みや良し。ただし無理なら無理とはっきりと言うこと、倒れたりすることのほうがよほど迷惑になるからね。それだけは忘れないように」


はい!と龍馬は強く返事をしてオーリックの後に続いて部屋を出た。


それから女官に連れられ軍事演習を視察する為に演習場の見学席へと通された。


そこには腕を組み隊列を整えて自軍を見下ろすティアレが居た。


「ん? おぉ、外交官殿と君か。話しては聞いている」


「本日はよろしくお願い致します、ティアレ様」


「あぁ、座ってくれたまえ」


そう言って用意されていた椅子に腰を下ろす。


「もうすぐ我が軍の軍事演習が始まる。外交官殿も多少の覚えは在られると思うが彼はどうかな?」


「申し上げにくいのですが軍事行動についてはさっぱりのようでして」


無論その通りなのだがすっぱり言われると居心地が悪かった。


「構わないよ。退屈かも知れないと言いたかっただけさ」


別段どうした様子も無くティアレはそう言い、オーリックもほっとした様子で眼下の兵士達に視線を落とした。


軍事演習が始まると大地を揺るがすような号令が発せられた。


あまりの凄みに龍馬が仰け反ると隣に居たティアレがふふっと笑う。


それから、二つの色に分けられた華国の兵士達が互いに勢いよく激突したと思えば流れるような動きで陣形を多彩に切り替え今その瞬間の最適解を出し合いながら兵力を削りあっていく。


それは神の視点から見ているとまるで一つの生き物の様な統率の取れた動きだった。


もはや圧巻としか言えない様に龍馬は息を飲んで見つめることしか出来なかった。


「やはり、華国の兵士達の錬度は凄まじいものがありますね」


「当然、これが我らを国家として成り立たせている要因の一つでもあるのだからな」


当たり前だと言いのけてティアレは微笑む。


「強いて言うならば魔術師が軍の規模に対して人手不足であることくらいが不満点ではある」


今度は難しい顔でティアレはそう言って右手で横髪を弄り始めた。


「オーリックさん。魔術師ってそんなに少ないんですか?」


「あぁ、中々数は揃わないね。どうしても魔核の質と本人の資質と不確定要素の強い要因が二つも重なった上で成れるものだからね。だから魔術師は片方をすでに得ている貴族や王族の出身が多い。そうなると今度は戦場に出たがらない貴族も多くてね」


ままならないのさとオーリックは言いながら眼下の演習を見続けていた。


「その点で言うなら君の質は完璧だけれどね」


聞こえていたのかからかうようにティアレはそう言うと龍馬のほうを向く。


「つまりだ、君自身が駄目でもその子供が資質を持って生まれれば唯一無二の魔術師の完成さ」


それは自分の子供が戦場へ送られる可能性を示唆している発言でもあった。


「その為に子供を作れと言われるのは嫌だなぁ」


思わず思ったことを口にしてしまい慌てて口に手を当てる。


「ははっ、君ならそう言うだろうね。でも、もし君が私達王族の誰かを孕ませたとして、その子は確かに君の子供だけれど王族でもある。言いたいことはわかるだろう?」


それに関してはここ数日で嫌と言うほど解らされた。


初めて会う娘からも露骨な嫌悪を向けられることもあったし、異様な媚を売られることもあった。それがどういう目的かまでは解らないけれど、少なくとも理由は解っていた。


「でも、それでも俺の子だよ。それに俺はあくまで碧国の民で婿入りするわけじゃないんだから少しは融通を聞いて欲しいとは思うけどね」


そう言うとティアレは目を丸くして、大きな声で笑った。


「そうかそうか。確かにその通りだ。君は確かに婿に入ったわけでも王族でも貴族でもない。そして華国の民でもなく、あくまで碧国の民で宮仕えの異邦人だ。ならば確かに権力を振りかざして思うがままにするのはあまりにも勝手が過ぎるな」


何か満足した様な笑みでティアレは視線を眼下に向けて口にした。


「君の行く末が楽しみになってきたよ」


その意味を理解できないまま、軍事演習は終わりを迎えようとしていた。


多少の怪我人が出たものの演習としては滞りなく完了し、龍馬とオーリックはティアレと別れ立食会を問題なく済ませて、龍馬は一人でガイウスの元へと謁見の間に来ていた。


「よく来た。用事を済ませよう」


はいと答えて龍馬はガイウスの後ろを付いていき、その後ろにガイウスの護衛たちが続く。


謁見の間を出て居城の奥へと進んでいくとやけに開けた場所に入り、その先には硬く閉ざされたというしか無いほどに厳重に施錠された巨大な門の前に連れてこられた。


「ここは」


ガイウスは答えた。


「これが、『流門』だ」


その言葉に龍馬は言い知れぬ感覚に身震いした。


「どうやら本能的に理解しているようだな。これがどれほど恐ろしいものかを」


話に聞いてはいた。だがこれほどまでに近く安易な施錠しかされていないものなのかと。


「安心しろ、今この門は誰がどうしようが絶対に開きはせぬ」


そう言ってガイウスが指差した先には扉の中心に突き刺さったままの剣が見えた。


「七神皇剣『閉止皇剣』。あれが抜けぬ限りはどの様な魔術や武力を持ってしても開かぬ」


初めて聞く単語に龍馬は意味が解らない、そんな顔をする。


「あの剣は閉止皇剣と言う。流門が開いたままの時代にその身をとして門を閉じた英雄の剣で、その英雄のみが手にすることが出来る剣だ」


「でも、どうして刺したままなんですか?」


「引き抜く前に絶命してしまったのだよ。本当に命がけで扉を閉めたのだ。その命のお掛けで余らはこの地で生きていくことが出来ているのだ」


ガイウスは言葉では言い表すことが出来ない、そんな表情でその剣を見つめていた。


「どうして、私をここへ?」


「知っておくべきことだと余が感じた故にだ。手間を掛けたな。後は好きにするが良い」


そう言ってガイウスは案内の兵士を残して背を向けてこの場を後にした。


残された龍馬は流門の前に立ったまま剣を見つめていた。


少しして龍馬も踵を返してきた道を戻り始めた。


その後、一休みしてから晩餐会が開かれ翌日になった。


長いような短いような、そんな華国での日程も終わりを告げ、龍馬達が碧国へ帰る日が来た。


その朝一番、龍馬だけが謁見の間へと呼び出され、一人玉座の前に立っていた。


無論、その目の前にはガイウスが居るのだが、それとは別にもう一人、よく知るというより嫌でも忘れられない少女が居た。


「数日前の話を忘れてはいないであろう?」


さも当然にガイウスはそう言うと龍馬は静かに頷いた。


「では、この者を連れてゆけ。文字通り孕ませるなら好きにしてよい」


そこには満面の笑みを浮かべるフランシスカの姿があった。


「お久しぶりでございます、龍馬様。本日より私は貴方様のモノであります。どうぞお好きになさいませ」


恭しく頭を垂れるフランシスカに龍馬はどうしたものかと頬を掻く。


「以上だ。精々励め。下がってよいぞ」


どうすることも出来ないそれに龍馬は言葉を返す事無くフランシスカに手を差し出した。


一瞬目を丸くしてすぐに嬉しそうにその手を取り腕を絡めるフランシスカ。


それを見てガイウスが龍馬を呼び止めた。


龍馬が振り返るとガイウスが初めて嬉しそうな笑みを浮かべて口にした。


「迷惑を掛けるが良くしてやってくれ」


予想外の言葉に龍馬は静かに、はいとだけ答えることしか出来なかった。


「そして、フランシスカよ」


ガイウスはフランシスカに視線を向けて口を開く。


「それが貴様の幸福になるかは判らぬが、自ら選んだ道だ。後悔なきように勤めよ」


まるでそう言うのを知っていたかのようにフランシスカはふふっと笑ってご意向のままにと答えた。


そして、二人揃って謁見の間を後にし、残されたガイウスは龍馬に向けてもう一言、聞こえないと解った上でどうしても言わずには居られなかった。


「妹を頼んだぞ」


龍馬と言う人間がどういう人となりかをわかった上でそう口にした。


たとえ誰であれ相手が王族の血族に名を連ねるに足らぬ相手であればドラゴンの魔核が欲しくとも血族を預けたりなどはしない。


その点では龍馬はガイウスのお眼鏡にはかなっていたのだ。


最も龍馬自身がそれを知る余地はないけれども。


一方、フランシスカを隣に歩く龍馬は今更ながらとんでもない事になったと一人ごちていた。


ちらりとフランシスカのほうへと視線を向ける。


鴇色の柔らかな髪に長いまつげ、ふっくらとした桃色の唇。肩に頭が届くほど程度の低い背丈に対して女性らしさを感じさせるスタイル。


そんな容姿によく似合う桃色を基調の漢服が愛らしさを際立たせていた。


誰が何を言おうが美少女だ。


それもとびっきりでぶっちぎりで、美人な人は幾度も目にしてきたがこれほどの美少女は初めてだった。


様子のおかしな龍馬に気が付いたのかフランシスカが龍馬の方を向くと目が合ってしまった。


輝くような桜色をした瞳があまりにも美しくて思わず目を逸らすとフランシスカはうふふっと笑って組む腕に体を寄せる。


「ちょっ!」


いきなりのことに龍馬はおどろいて逃げようとするがフランシスカはそれを許さなかった。


「もっと積極的になって頂かないと私も困りますもの」


悪戯っ子のようにそう言って楽しそうにするフランシスカ。


先日の自身の惚れさせてやるという意気込みを捨ててしまいそうになる龍馬はそれじゃいけないと気を取り直して自ら指を絡めて優しく握り締めると今度はフランシスカが意外そうな顔をして龍馬の方を向く。


龍馬はフランシスカの方を向かず照れくさそうに微笑むと空いた手で頬を掻く。


「龍馬様っ!」


嬉しそうな声を上げてフランシスカはより一層腕でに抱きつく。


彼女が今どういう思いで隣に居るのは解らない、けれど覚悟は決めた。


偶々俺だったじゃ無くて、俺が俺だから好きだと言って貰えるようにやれることはやっていこうと、龍馬はフランシスカのことを思いながらもう一度しっかりと胸に刻んだ。

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