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第三章 いざ! 華国へ!-4-

謁見の後に二人は御者と付き人たちと合流して荷ほどにの為にそれぞれの部屋へと赴いていた。しかし、龍馬の分の荷解きはメティーシアがすべてしてしまったで自分でやることが無くベッドに仰向けになって寝転がっていた。


「…………」


口にする事無く龍馬は言葉を交わしたガイウスのことを考えていた。


圧倒的存在感に人としての格の差。


そして、終わり掛けの番の話。


異世界で真面目に生きてたら王族の女の子をお嫁さんに頂きました!


いや、漫画でももう少し捻りがあるだろうと龍馬はため息を吐き出す。


楽観視して気の向くくま風の向くまま酒池肉林の限りを尽くせるような精神構造をしていないことを自覚している龍馬にとっては喜ばしい提案ではなかった。


そんな答えの出ない問いに悩んでいるところに部屋の戸をノックする音が聞こえてどうぞと答えて姿勢を正すと視たことある赤毛の女性が顔を見せた。


「先日ぶりだね。君が来ていると聞いて少し話がしたくて来たのだが、大丈夫かい?」


出来れば会いたくない人物の上位に位置していたエル・ティアレ・ブラウキングスが龍馬の前に現われる。


華国の帝都なのだから居るのは当然なのだが、向こうから来るとは思っていなかった龍馬は不意の登場に言葉を失う。


「あれ? 都合が悪かったかな?」


たははと笑うティアレに龍馬は慌てて返事をする。


「いえ! 大丈夫です。どうぞ」


そう言って椅子を引き招き入れるとティアレは微笑んでた龍馬の引いた椅子に腰を掛ける。


「元気そうで良かったよ。先日は色々と悪かったね」


「いえ。私の方こそ色々と無礼を致しまして」


恭しい態度にティアレは目を丸くしてなるほどーと悪戯っ子の様な表情で立ち上がり龍馬の顎を指先で取る。


「えっ! エル様?」


互いの瞳に相手が映るほどの距離でティアレは口を開く。


「それはやめてもらえないかな。私は君とは友人で居たいからね。もし君が上下の関係をどうしても気にするから変えられないと言うなら無理にでもこのまま関係を変えようと思うけどどうかな?」


吸い込まれるような鳶色の瞳から視線が外せない。


心なしか吐息が甘い匂いがする。


あっ、やばい。


そう感じた龍馬は慌てて答えた。


「大丈夫! 変えられます! じゃ無くて変えられるから離れてくれ!」


龍馬の言葉に満足したのかティアレは頷いて椅子に座りなおした。


「よかった。あのまま君の唇を奪っても良かったんだけど、兄上の意向もあることだしね」


えっと龍馬は口から漏らして続ける。


「じゃあ、エルは自薦するつもりなのか」


「ん? そうして欲しいかい?」


また悪戯っ子の様な笑みを浮かべて問いかける。


「いや、まぁ嫌がってる相手よりは少しでも好意的な人のほうがいいなとは」


「なるほどね。うーんと、基本的には私は中立と言うべきかな。他に自薦が無ければといったところだね。こう見えても我が軍の少将だから中々簡単にはいそうですかで抜けられないのが現状。だから他に自薦して君の傍に居たいという娘が居たらそっちのほうが良いと思ってるしね」


それにさとエルは続ける。


「私みたいな血生臭い女が傍に居るのは嫌だろう? 他の妹達は綺麗で可愛くて私から見てもそう思うの

だから君や男が見たらもっと色々思うところがあるだろうさ。ふふっ、まぁそういう所もあってね。ここで君にこんな女を押し付けるのは可哀相だろう? だから、友人として仲良くして欲しいな」


差し出された右手に龍馬は手を差し出して答えた。


「勿論。こちらこそ、ただの異世界人ってだけで取りえの無い男だけど仲良くしてくれると嬉しいよ」


ただの平民に擁護されたとしても響くことの無い言葉だと思っていたからあえて、龍馬はエルの持つコンプレックスに触れず握手を交わした。


「うん。よかった。にしても君が噂のドラゴンの魔核を取り込んだ漂流者だったとはね。さすがに驚いたな」


あっけらかんとエルはそう言って笑う。


それから他愛も無い話をしていると誰かがまた戸を叩く音がして、エルのほうを向くと微笑みどうぞと身振りで意思を表してくれて龍馬もそれを視てどうぞと口にする。


「失礼致しますわ」


初めてみる鴇色の髪を揺らして現われた少女に龍馬は目を奪われた。


部屋の中まで入り戸を閉めて恭しく頭を垂れて挨拶をする少女。


「初めてまして、私はエル・フランシスカ・ブラウキングスと申します。こちらに斑鳩龍馬様が滞在されておられるとお聞きしてまいりました」


花が咲くという表現以外に形容しがたい笑みを浮かべるフランシスカと名乗った少女。


淡い色の肌にうっすらと桃色が掛かった頬にガイウスとティアレとは違う長く決め細やかで柔らかそうな髪に桜色の瞳。


文字通りの美少女。


初めて視るタイプの異性に龍馬はこれまた言葉に詰る。


それを横目で見ていたティアレはまぁそうなるなと一つ咳払いをすると龍馬はハッとして口を開いた。


「初めまして、斑鳩龍馬です」


そう言って龍馬が右手を差し出すと両手で手に取り指先に口付けをする。


「えっ!」


突如の行為に固まる龍馬に対してフランシスカは笑みを浮かべてクスリと笑う。


「異界から来られた方と聞いてどの様な殿方かと思いましたが、とても可愛らしい方ですね」


「なっ、なっ」


もう何がなんだか解らない龍馬はあたふたと戸惑いを隠せずに居た。


「うふふっ、ティアレ姉さまはこの方のことを好いて居られるのでしょうか?」


その口ぶりはティアレが居るのを知っている上でやってきたことを示唆していた。


「一般以上の良識者であり知性的、かつ謙虚。私は彼を友人として好意的に思っているよ」


ある意味突き放された言い方に龍馬はそれもそれでどうなのかとなんとも言えない顔になっていた。


「あら、では私が龍馬様を頂いてもよろしいということでしょうか?」


好きにしろとティアレはどうでも良さそうに答える。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 何がなんだか解らないんだけど!」


ようやく龍馬が口を開くとフランシスカは楽しそうに笑いながら答える。


「簡単ですわ。私が龍馬様への贈り物として自薦しても良いかと言うお話ですわ」


なんでもないことのようにそう口にしたフランシスカに龍馬は立場など忘れて口を挟む。


「簡単って言うけど、たった今会っただけの人間に身を捧げるって言ってるようなものだ。それは良いのか?」


龍馬の危惧していることにフランシスカはやはりなんでもないことのように返した。


「えぇ、龍馬様がよければ私を自由にしてよいのですよ?」


頭を鈍器でぶん殴られたような衝撃に龍馬は思わず椅子に座り込む。


本当に理解して言っているのだろうかと龍馬は頭を抱えたくなった。


そもそも初めて会った男に抱いてくれといってるようなものだぞ?


裏がある以外に考えられないが、その裏を先に提示されている訳で。


ガイウスの言っていた本人の意思は関係ないということが現実的に突きつけられていることに言い知れぬ恐怖に似た感情を覚えていた。


「ねぇ、ティアレ姉さま」


フランシスカが声を掛けるとなんだと目で答える。


「良い人ですね。龍馬様は」


思いがけない言葉に龍馬が目を丸くするとティアレはそうだな、稀有な男だと笑って返す。


自分の理解の範疇外で評価が上がっていることに龍馬はどうゆうことなのと疑問符を浮かべる。


そんな顔を見てフランシスカは龍馬に歩み寄って頬に手を添える。


「こんなに触れ合っても怒りもなさいませんし手を出そうともなさいません。他の男が貴方と同じ立場ならすぐにでも態度と行動に出て手篭めにでもすると思うのですけれど」


そんな野蛮な教育はされてないとしか答えが出ない龍馬であったがその当たり前だと思う思想そのものが決定的な違い、生活レベルとでも言うのか価値観の違いというものだろうか。


大きな隔たりを感じずには居られなかった。


「ほら、あと少しで唇が触れ合いますわ」


そう言われて龍馬は気がついた。


桜色の瞳はどんな瞳よりも淡く美しく、鴇色の髪が頬を撫でると鼓動が早くなるような甘い香りが鼻腔を擽る。


思わず逃げようとしたが座っていて後ろに逃げられない。


そして同時にこの娘がティアレの妹であることを思い知らされた。


姉妹揃って同じやり方でプレッシャーを掛けてくる辺り態度や喋り方が違えど本質は同質の物だと理解する。


しかし、このままフランシスカの好きにさせるのもまずいと龍馬は人差し指でフランシスカの唇に触れる。


それに驚いたフランシスカは目を見開く。


「本気で俺を好いてくれるなら、お互いに初めて唇が触れ合うならもっとロマンチックに行きたいな」


ロマンチックと言う言葉に姉妹揃ってなにそれはといった表情をするから龍馬はしまったと思って言葉を変える。


「えーっと、つまり、もっと情緒的な場面でと言えば言いのかな。とにかく、そういうことはもっと親密になってからにしたいんだ」


龍馬がそういうと姉妹それって吹き出して笑った。


「あははっ、君は初心だな。それは悪いことではないよ」


ティアレがフォローするようにそういうとフランシスカは龍馬から離れて口を開く。


「えぇ、とても素敵ですわ。少しばかり本気になってしまいそうなくらい愛らしい方」


その口ぶりにどの辺りまで冗談だったのか聞きたくなった龍馬だがやぶ蛇は嫌で口にはしなかった。


「あら、からかっていたつもりではありませんのよ? 本当に素敵な方なら私は身を捧げても良いと思って居ますわ」


落胆と言うよりも疲れた様子の龍馬に追い討ちを掛けるようにフランシスカは言い放つ。


「あぁ、そう。で、どうだったの、俺は」


投げやりに龍馬がそういうとフランシスカは嬉しそうに答えた。


「とっても素敵ですわ! 正直襲われても仕方ない誘い方をしていましたのに、龍馬様は手を付ける所か、口付けも受け取ってくださいませんでしたし。とっても誠実な方だと思いますわ。ですから、私は龍馬様がとても気に入りましたわ」


包み隠さぬ直球な物言いに龍馬は唖然としてその様子にティアレは口元を隠して笑っていた。


「あまり長居するのも失礼ですし私はそろそろ席を外させていただきますわ」


そう言ってフランシスカは部屋の戸に向かって歩いていき去り際に一言。


「では、龍馬様と共に碧国へ行けるのを楽しみにしていますわ」


小さく手を振ってフランシスカはこの場を去っていた。


それから少しの静寂の後に龍馬は息をついて椅子から滑り落ちていく。


「あ、嵐の様な娘だった」


率直な感想を口にしたらまたティアレは口元を隠して笑う。


「あぁ、いやいやすまないね。フランはあれでも悪気は無いんだ許してやってくれ」


「怒っては無いけど、凄い勢いの強いというか。言い方は悪いけど疲れたよ」


あははっと笑ってティアレはそうかそうかと口にして続けた。


「フランも色々と事情があってね。まぁ、私もだけれども」


意味深なことをいうモノだからつい龍馬は聞き返してしまった。


「事情って?」


「ん? あぁ、そうか君はその辺は疎いのか。簡単な話さ。フランは今回のことで初めて自分で明日を選ぶことが出来ただけだよ」


なんでもないようにティアレがそう言ったが余計に意味が解らなくなった龍馬が不思議そうな顔をして居るとティアレは本当に疎いのだなといった様子で続けて話す。


「私達王族の女はその血を絶やすわけにはいかない政治的にも治世的にも。だから、子を産める年になる前に嫁ぐのさ。そこに私達本人の意思は何一つ挟まれず王の決めた相手と番になる。ただそれの相手を選べる機会が巡ってきたというだけさ」


私は諸事情で行き遅れになってはいるけどねと笑って付け足した。


それに龍馬は口をつぐんだ。先のガイウスの言葉と王族の役目、意味は理解できる。だけれども、納得は出来ずに居た。最もそれをどう感じたとしても龍馬にはどうにも出来ない事だが。


その様子にティアレはやはり嬉しそうな困ったようななんとも言えない顔で龍馬に声を掛けた。


「君がそんな顔をする必要のある話ではない。君は気にせず隣に立ちたいと言う娘を受け入れてくれればそれで良い。君のその優しさはきっとその娘に届くはずだからね」


その言葉はちっぽけな青年の胸に刺さった。


張り詰めた弓から放たれた矢のように、強く早く鋭く、逃げることの叶わないそれが。


「ありがとう。少しだけ楽になれたよ」


様々なプレッシャーに気後れしていた龍馬だったがようやく靄が晴れたようにすっきりした気持ちで笑えた。


「それはよかった。では、私もそろそろ失礼しようか」


ティアレは立ち上がり扉のほうへ向かっていく。


「龍馬、礼を言うのはこちらだよ。ありがとう。またな」


そう言い残してティアレは部屋を後にした。


残された龍馬は一人椅子に座ったまま天井を見上げた。


「…………」


これからは他にも俺の元に異性を送り込んでくる貴族や王族が居るだろう。本人の意思や思いなど関係なく、実利と目的のために。


この世界はそういう所なのだと龍馬は一人、心の中で呟く。


恋も愛も無い、ただの歯車として誰かをその腕に抱くということ、誰かに抱かれるということ、これが当たり前なのだと言うことがどうしても受け入れられなかった。


だから、龍馬は決めた。


俺が種馬として必要ならその上でやって見せるさ。


「覚悟しろよ、どいつもこいつも絶対に惚れさせてやる!」


最高の男として、最高の伴侶として、最高の異性として、どんな形であれ誰かに決められて俺の隣に立ちたいなんていう奴は全員まとめて惚れさせてやる!


すでに正常な判断が吹き飛んだ状態で思いついた最善の自分を納得させる方法はあまりにも滑稽で間抜けな答えだったが、それがある意味で何よりも真理に近い答えなのかも知れない。

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