お使い魔女Aチーム
壊れたホウキを修理するために訪れた魔工研究室、そこで出会ったマリネッタという教師からお使いを頼まれた。
わりと感じの良い人だったし、他にも目的があるのでここは素直に受けておくことにする。
「あ……来たっすね」
魔工研究室でぶつかった、もとい、出会ったもっさり女が立っている。
ぶつかった時はお使いに向かう途中だったようで、私達はこいつらに同行するよう言いつけられたのだ。
こいつら、というからには当然他にもいる。
ミデットの横には、もう2人ほど待ち合わせ場所に来ている生徒がいた。
「えと、改めて自己紹介するっす、あたいはミデット・ベッカー。それからあたいのルームメイトのジルとソニアっす」
「はじめまして、私はジルよ」
「ソニアちゃんで~す、マジよろ~」
……何というか、濃いな。
メガネのジルはいかにもガリ勉で真面目なのが取り柄ですって感じがするし、ソニアとかいう頭悪そうなギャル女は言わずもがな。
ここにもっさりした気弱女のミデットが加わると何とも言えないチームになる。
「はじめまして、エリザと申します。よろしくお願いしますわ!」
気のせいかエリザのテンションが高い。
まあ、濃いといえばこっちもあらくれ者と吸血鬼だ、人の事は言えないだろうな。
「ほらほら、自己紹介、ですわ!」
「わかってるよ……あー、メル、だ、よろしく」
エリザに促されて自己紹介をすると、ジルが驚きの表情を見せた。
ソニアも驚いているようだがマイペースな性格らしく表情にはあまり出ていない。
「それじゃあ、あなたが始業式の日に規範生徒会と乱闘したっていう新入生なの?」
「ほえ~、やるじゃん、根性あるぅ!」
あの時の事か……アレは向こうから手を出してきた……ような気がする、確かそう。
やっぱり噂になっていたのか、やれやれ。
というか変な会場入りをした事はどうでもいいんだな。
「規範生徒会の3人は一部の生徒から絶大な人気があるから、あなたを目の敵にしてる子もいるかもしれないわね。ま、あなたはいじめられるようなタイプには見えないけど」
「うう……やっぱり怖い人っす……」
怖がられたり嫌われたりする事には慣れてる、いまさらどうという事はない。
それにこの学校から出ていけばそんな心配は無用、私はチャンスがあればこのお使い中にでも脱走する気でいるんだ。
「で、お前らはどうなんだ? そんな奴と一緒にいたらマズいんじゃないのか?」
ちょっと怖がらせてみようかと思ったが、ジル達の反応は思ったより薄い。
「さあね、噂話には興味ないわ。私はなんでも自分で確かめたいの」
「ソニアちゃんは楽しければいいのです、あなたは面白そうだしね~」
なんだかムズムズするな……ずっと怖がっているミデットが一番わかりやすいとは。
まあ、好きにしたらいい。
「あなた達、早くこちらに来なさい」
出入り口の前から学院長が呼びかけてくる、相変わらずの氷みたいな表情で。
私たちが目の前までやってくると、学院長が順番にカードのようなものを手渡してきた。
そして私の番になると、カードとは別に何かを取り出す。
「ミス・ディード、あなたにはこれを」
そう言うと学院長は私の手を取り、指に装飾のある指輪をはめ込んだ。
「これは……指輪?」
「それは誓約の指輪……明日までにあなたが戻らなければ呪いが発動し、あなたは蛙か何か別のものに変えられます、肝に銘じておきなさい」
なっ……冗談じゃない、ふざけた事しやがって!
「もちろん、無理に外したり壊したりしても同じことです。それでは、気を付けて行ってくるのですよ」
まさに無理やり外そうとしていた所で手を止めた。
くそ、仮にも生徒になんてものを付けるんだ、脱出計画がいきなり潰れたじゃあないか。
まあ、それでも外の下見くらいはできるだろう……
半ば自分に言い聞かせて校舎を後にする、やる気はかなり減ったけど。
校舎を出て正門前へ。
そういえば出かける以前に大事なことを忘れていた。
「なあ、この霧どうやって抜けるんだ? 中にいる化物はどうする?」
みんな私の質問に対し不思議そうな顔をしている。
霧の抜け方に関してはここにいる奴らには常識かもしれないから、そういう反応になるのも仕方がないか。
「どうって……あなたもここの生徒なんだから、通ってきているはずでしょう?」
そりゃあそうだ、でもあの時は意識が無かったから状況は知らない。
「さっき受け取った通行証があるでしょ、これを持っていれば通り抜けられるわ。それと、怪物がいるなんて話は聞いたことないわね。何かの間違いじゃない?」
間違い?
だとすると、あれは何だったんだ。
手ごたえは確かにあったし、現にエリザはかなりの傷を負わされた。
……考えても仕方がない、今は通行証があれば通り抜けられるという情報だけで十分か。
通行証とかいうカードを持っていると、霧は少し歩くだけですぐに晴れた。
条件が揃っているかどうかでこんなにも違うものなんだな、やはり魔法というのは厄介なものだ。
霧を抜けた先は遺跡のような場所になっていた、ここが外からの連絡口になっているのか。
「うう、ここからが遠いんすよね……ホウキ使いたいっす」
「ここの遺跡、観光地じゃないからバス来ないんだよね~、とにかく歩くしかないっしょ~」
確かに、辺りには何もない。
学院外では飛行禁止だとかで、空飛ぶホウキという便利アイテムがありながらこの距離を歩かされるのは、そりゃあテンション下がるだろう。
「そう……バスは来ないんですのね、乗ってみたかったですわ……」
中には違う理由でテンション下がってる奴もいるけどな。
ま、さっさと行って終わらせよう。
「ところで、内容を聞いてないんだけど、どこへ向かうんだ?」
「町の外れにあるパペトンって人の工房にゴーレムの部品を取りに行くのよ。……ちょっと危険な人だから気をつけなさいよ」
危険ね、どんな奴なんだか。
いきなり刺してきたりはしないだろうが、念のため警戒しておくか。
その話を聞いたエリザは怖がったり喜んだりと忙しく表情を変えている。
「ああ、お友達と出かけるはとても楽しいのですが……ちょっと恐ろしいですわ」
なるほど、それでちょっとテンション高かったのか。
お前は吸血鬼なんだからそんなに怖がるようなことはそう無いと思うんだがな。
何もない道をしばらく歩き続け、ようやく遠くに町らしきものが見える場所までやってきた。
しかし今回は町には用は無い、下見もままならないとは残念だ。
そのまま町から反対方向へさらに歩くと、今度は山道。
魔女と吸血鬼の4人はかなり疲れた様子でなんとか進んでいる、運動不足じゃないか?
そしてようやく目的地の工房らしき建物へとたどり着いたのだった。
「や、やっとついたっす……」
「マジしんどい~、遠すぎ~」
みんなヘロヘロだが、呼吸を整えて工房の前に立つ。
金属と油の臭いがいかにも工房らしい。
こういう場所が魔法学校と関係があるというのが奇妙な感じだ。
「すいません、サン・アルヴン魔術学院の者ですけど」
ジルが呼びかけるが反応は無い。
「あれ、ドア開いてるっすよ」
鍵がかかっていないのか? 不用心だな。
だがそれなら話は早い、入らせてもらって要件を済ませてしまおう。
「あ、メル! 勝手に入るのは失礼ですわ」
「作業に夢中で気付かないのかもしれないだろ、大丈夫だよ」
工房の中はずいぶんと薄暗い……これで作業ができるものなのか。
「!」
妙な感触があった、何かいるのか?
「きゃっ!」
後ろを付いて来ていたエリザが短く悲鳴を上げた。
やはり何かがいる。
「どうした、エリザ」
「あの……何かが、その……わたくしのお尻に触れて……」
よし、こういう時の私の対処法を見せてやろう。
少し腰を落として力を溜め、回転も加えてすぐ横の壁を勢いよく蹴る!
ガァン!
激しい衝撃音と振動が走り、蹴られた壁は無残に大きく陥没している。
すると工房の照明が明るくなり、そこにいた何かが姿を現した。
「な、なんちゅう奴じゃ、無茶苦茶しおる」
そこにいたのは腰を抜かした小汚いジジイがひとり。
おおかた暗がりに乗じてセクハラでもしようとした……いや、したのか。
このご時世にいい度胸だ。
「いったい何が……パペトンさん!?」
中に入るのを躊躇していた3人も駆けつけてきた。
そうか、こいつがパペトンか。
「なあ、ジイさん、トイレはどこだい?」
「あ……? すぐそこの扉じゃが、何じゃ、小便でも我慢しておったのか?」
この状況でその物言い、やっぱりどうしようもないなコイツは。
「みんな、必要な物見つけて出しといてくれ、あたしはこのジジイ潰してトイレに流してくるから」
「ま、待つんじゃ! 反省しとるから!」
トイレに向かって引きずられながらみっともなく騒ぐ老人に、他の女子の視線も冷ややかだ。
「パペトンさん、またやったんですか。あれだけマリネッタ先生に怒られたのに……」
「だめっす、救えないっす」
「あ~あ、マジ終わってんね~」
そういうわけだ、観念しろ。