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地獄の暇つぶし

 山のように積み上げられた大量の洗濯物。

 これから私はこれの相手をしなければならない。


 エリザに会えるかどうかはわからないが、とりあえず屋敷に居座る事は許可された。

 その代わりに下働きをする事になったのだ。

 これはその第一歩。


 これだけ屋敷が大きいから人も多いんだろうが、凄い量だな。

 学院でも大量に洗濯をする事はあったがこれほどじゃあなかった。


「な、なんか変な感じっすね。メイド服、着てみたくもあったっすけど……」

「うるさい、さっさとやるぞ」


 洗濯するのはいいがメイド服まで着せられるとは思わなかった。

 落とし穴に落ちた先で待ち構えていたメイドたちに無理矢理着替えさせられたのだ。

 こんなに長いスカートでよく作業できるな。

 端を踏みそうでバランスが悪い、サイズ合ってるのかこれ。


「うっ……!」


 言ったそばから踏んでしまった。

 バランスを崩して洗濯物の山に頭から突っ込んだ。


「わわ、危ないっす!」


 当然ながら山は崩れ、近くにいたミデットも巻き込み大雪崩。

 まだスタートラインにも立っていないというのに散々だ。


「何をやっているのですか。……もうここはいいので調理場へ――」


 私達を監督していたネリーが何かを言いかけて止まる。


「いえ、皿が足りなくなるのは困ります。そうですね、ロビーの掃除でも手伝ってもらうとしましょうか」


 どうやら私が皿を割るのを想定したらしい。

 そんな気もするから文句は無いけど。

 ちょうどボロボロに汚れてしまったところだ、渡されたモップとハタキを持って素直にロビーへ向かおうか。


 そのロビーでは、すでにジルとソニアが掃除をしていた。


「なんだ、お前たちはこっちにいたのか」

「いや~、調理場に行ったんだけどお皿割っちゃってさ。ロビーの掃除でもしてろって言われたんだよね~」


 陽気に話すような事じゃないと思うけど。

 なるほど、すでに皿を割っていたのか。

 本当にこれ以上割ると足りなくなるって意味だったんだな。


「ジルがちゃんと受け止めてくれれば問題なかったのにね~」

「な……! そもそもお皿を投げて渡すなんてほうが間違ってるでしょ!」


 思ってたのと違った。

 不注意で割ったわけじゃないのか。

 ちょっと見たかったなそれ。


「みんな、ちゃんと掃除するっすよ。エリザがどこにいるかも突き止めなきゃいけないっすから」

「ああ……そうだな」


 どうにかしてエリザの部屋を見つけないといけない。

 メイド仕事で屋敷中をまわれるなら望みはあるはずだ、今は目の前の事に専念しよう。


 そう思っていたが、どうやら流れが変わってきたらしい。


「フフ、精が出る事だな。いつまでそんな事を続けるつもりかね?」


 エリザの親父が大げさなアクションで階段を下りてくる。

 お前がやれって言ったんだろ。

 いつまでと言われればエリザに会うまでさ。

 私達は全員マデウスを無視して作業を続けた。


「吾輩を無視するとは……。いいのか? チャンスを持ってきてやったのだぞ」


 マデウスの言葉に手を止めた。

 チャンスだって?

 いったいどういう意味なのだろう。


「チャンス?」

「そうだ、いつまでもアテのない下働きをしても仕方あるまい。丁度退屈していてね、吾輩にゲームをして勝ったらすぐにでも娘に会わせてやろう。ただし、負けたらその時は……わかっているな?」


 まだ作業を始めてから30分も経っていないけどな。

 だが面白い、受けて立とうじゃないか。

 ジルたちの方を見ると、皆も考えている事は同じなようだ。


「よかろう、それでは! 吸血鬼王マデウスとゲームでバトっちゃおう大会、開始!」


 マデウスの掛け声と共にたくさんの使用人たちが現れロビーを飾り付けていく。

 その手際はすさまじく、あっという間にテレビ番組のようなセットが出来上がった。

 まるであらかじめ用意されていたような感じだ。


「このふたつのルーレットにより、吾輩と対戦するゲームと対戦相手を決める。誰かひとりでも吾輩に勝てたらそちらの勝利だ、わかりやすくてよかろう?」


 テレビ番組のような、というよりまさしくバラエティーのノリになってきた。

 というかこのおっさんテンションおかしいな。

 そんなに暇なんだろうか。


 ルーレットボードに書かれているゲームはリバーシやポーカーなどよく知ったものだ。

 ルールがわからずに負けるなんてことはなさそうだな。


「それでは最初のゲーム、種目は……リバーシだ!」


 くるくると回るボードが止まり、矢印がリバーシを示す。


「そういう理詰めのゲームは私に任せて」


 ジルが名乗りを上げた。

 こういうのが得意なのかかなり自信ありげだ。


「そして対戦相手は……ソニア・モルラッキ!」

「え!? ソニアちゃん~!?」


 自信ありげだったジルを尻目に、ボードは非情にもソニアを指した。

 ジルとミデット、そしてソニア自身も顔が青い。


「えっと……ソニアちゃんラッキーガールだけど、理論的な事はちょっと苦手っていうか~」

「ソニアったら、魔法の成績はいいのに頭を使う事は苦手なのよね……」


 おいおい、大丈夫か?

 などと心配しても仕方がない。

 派手に飾り付けられたロビーの真ん中で、非常に地味なリバーシ対決が始まった。

 その結果は……。


「ムハハ、相手にならんな!」

「うう、ゴメンねみんな~」


 結果はもちろんマデウスの勝利。

 盤面が黒一色になっている。

 ソニアが下手なのもあるだろうが、このおっさんゲームもかなり強いな。


「大丈夫っす、まだ一戦目っす!」

「フフ、その元気がいつまで続くかな? それでは二回戦は……ブラックジャックだ!」


 ボードが今度はブラックジャックを示す。

 くそ、今回がソニアだったらよかったんだが、ソニアは脱落者席とかいうものに座らされているからその可能性は無さそうだ。


「そして対戦相手は……ジルコニア・オズボーン!」


 ここでジルか。

 できたら理詰めのゲームが出るまで取っておきたかったが……。

 というかなんで全員のフルネーム知ってるんだろう、そういえば私も知らなかったのに。


「へえ、ジルってそんな名前だったんだ」

「……長いし、あまり好きじゃないから愛称で通してるのよ。ちょっとあなたと被ってるからややこしいけど、私の方が先なんだから文句は言わないでよね?」


 そう言われても私の名前は二文字だし、これ以上縮めようがないのだけれど。


「わかってるよ。それより大丈夫なのか」

「やるしかないわね。大丈夫、ブラックジャックも理論よ、任せて」


 そうかもしれないが、それは数やった場合だろう?

 一発勝負では意味が無いと思うんだが。


 案の定ジルのカードがかなり運の無い手でバーストした。

 マデウスの手は18、ジルの運の悪さが出てしまったか。

 ジルは机に突っ伏して真っ白になってしまった。


「ついに半分負けてしまったな。まだやるかね?」

「当然だ、全滅するまで負けじゃないからな」

「いいだろう、次のゲームは……バスケットボール!」


 ここに来て急にスポーツになった。

 運動神経なら私だが、この展開はもしかして……。


「対戦相手は……ミデット・ベッカー!」

「あああ、やっぱりっす!」


 おい、これは本当にランダムなのか? 偶然ならばここまで続くのはおかしいだろう。

 ミデットは見るからに運動神経には優れていない。

 相手が吸血鬼の王ならばなおさら、プロ選手だって怪しいもんだ。


「ちょっと待て! そのルーレット、本当に公平なのか!?」

「何を言う、四分の一なのだからおかしくはあるまい。言いがかりをつけるのならばここで負けにしてもよいのだぞ?」


 くそ、完全アウェイだな。

 だがこのままやっても負けは確実、いったいどうする……?


「だ、旦那様!」


 その時、使用人のひとりが慌てた様子でマデウスに耳打ちをした。

 それを聞いたマデウスの表情がみるみる青ざめていく。

 いや、吸血鬼だからもともと青白かったけど。


「くっ、何という事だ。こんなアホみたいなゲームをしてる場合ではない!」


 だから、そっちが提案してきたんだって。

 アホだというのならそれはあんたの事だろう。


「お前たち、もうゲームはお終いだ! さっさと屋敷から出ていけ!」

「な……、そりゃないだろ! エリザに会えるまでは――」

「状況が変わったのだ! ここにいては……!?」


 とんでもない気配を感じて、マデウスをはじめそこにいた全員が同じ方へ向いた。

 もちろん私たちも。

 その視線の先、ロビーの大階段の上に誰かがいる。

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