表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/30

さまよえる狼少女

 知らない街をあても無くただ歩いている。


 部屋に置いてあった通行証が何を意味していたかなんて知らない。

 もしかしたら私に出て行って欲しい学院の誰かが置いたのかもしれない。

 でも、理由なんか考えている余裕なんてなかった。


「ねえ君、サン・アルヴンの子? 一緒に――」


 街にいるのが珍しいのか、それとも単にサン・アルヴンの生徒が人気なのか。

 制服を着ているせいかたまに男に声を掛けられる。

 もっとも、皆私の顔を見ると決まって凍り付いたようになり逃げ出してしまった。

 自分の事をかわいいなんて思った事はないけど、今は特に恐ろしい顔をしているのだろう。


 とはいえ声をかけられるのも面倒だ、そのうち誰かバッサリいくかもしれない。

 幸い、いくらか持っていたので適当な服を買った。

 もうこの制服に用は無いだろう。

 制服をゴミ箱に突っ込んで私はまた歩き出した。


 しばらくフラフラしていると肩に衝撃を感じた。


「痛えな、どこ見てんだよ」

「こりゃ骨いってるかもな! お姉ちゃんお金ある? 治療費欲しいんだけどなあ」


 こういうの、どこにでもいるんだな。

 バカバカしい。


「おい、どこに行く気だ?」

「俺らいいとこ知ってんだ、ちょっと付き合ってもらうぜ」


 男たちに腕を掴まれた。

 いつもならここで反撃しているところだが、今はそんな気も起きない。

 私は何もせず男たちに引っ張られていった。


 だが、腕を掴まれたときに振りほどくなりなんなりしておけば良かったと後悔する。

 こうなる事は予想で来ていたはずだから。

 ぶつかった男2人とたまり場にいた男たち3人、合わせて5人。

 彼らは今、虫の息で床に転がっている。


「くっそ……ふざけんな……!」


 倒れていた男のうちひとりがヨロヨロと立ち上がり、力を振り絞って向かってくる。

 その手には鈍く光る刃物のようなものが見えた。

 私は相変わらず何をするでもなく、ただ男を見つめている。

 脇腹にナイフが突き刺さるのが見えた。


「……ひっ」


 刺さったはずのナイフが押し戻され床に落ちた。

 かなり深いはずの傷もほとんど出血することもなくみるみるうちに塞がっていく。


 そうか……。

 今まで運がいいのだと思っていたが、こうして瞬時に治っていただけなのか。

 わかっただろうメル、お前が一番『化物』なんだ。


 逃げようとする男を反射的に掴み、壁に押し付ける。

 反対側の手で魔法の杖……といってもショットガンにしか見えないが、とにかくそれを取り出し男の口へと突っ込んだ。

 制服は捨てたのに魔法の杖は持っているなんて滑稽だな。

 男はそれだけで白目をむいて失神してしまった。

 本物の銃でもないのに情けない。


 外に出ると辺りはだいぶ暗くなっていた。

 野宿してもいいが警察に見つかると面倒だ、とりあえず街から離れよう。


 しばらく山の中を歩いた。

 意図したわけではないが、いつの間にか見覚えのある建物の前に出た。

 ここは……あのパペトンとかいう爺さんの工房だったな。

 ついでだ、山の中で寝るのもなんだし利用させてもらおう。


「誰じゃ、こんな遅くに来客の予定はないぞ」


 以前と違い、ブザーを鳴らすとすぐにパペトンが顔を見せた。

 この間もそうなら余計な暴力は振るわなかったのに。


「お前は……あん時の?」

「現役JKが一晩泊りに来てやったぞ、その辺の床でいいから寝かせてくれ」

「何が現役JKじゃ、お前のような……おい、聞いておるのか!?」


 老人の答えなど聞く気は無い。

 私はずかずかと工房へ入り、適当な床で横になった。

 朝までの間だ……朝までの。


「ほれ、スープじゃ。食え」


 ぼんやりしている私の前に湯気の立つ皿が差し出される。

 てっきり出ていくよう催促されると思っていたので意外だった。


「……あんたが作ったの?」

「ワシを誰だと思っとる、天才ゴーレム技師のパペトンじゃぞ。家事用ゴーレムの一体や二体、常備しておるに決まっとろうが」

「……そうだったね」


 温かいスープを流し込む。

 冷えた体には刺激が強い。

 だが味は悪くなかった。


「お前さん、今日は妙にしおらしいの。図々しいのは相変わらずじゃが」

「……」


 私は何も答えない。

 私自身にも何と答えたらいいのかわからなかったから。


「ま、若い時にはいろいろあるものよ。そこのソファーなら好きに使うがいい」


 それだけ言うとパペトンは自分の部屋へと戻っていった。

 老人の言葉に甘えた私はソファーに寝転がりぼんやりと天井を眺める。


 自分の手を見るのが恐ろしい。

 あんなに鋭利な爪がエリザを……。

 そんな事を考えて眠れるわけもない。

 私は何となく立ち上がり、部屋の入口からパペトンを見ていた。


「なあ、爺さん。エリザの事をどう思う」


 会話をしようと思ったわけではない。

 どうしてこんな事を聞いたのかは自分でもわからない。

 パペトンは何か作業をしながら振り向かずに答えた。


「あの金髪のお嬢さんか、育ちの良さと性格の良さが感じられる娘さんじゃったな」

「……だよな」

「じゃがちょっと優しすぎるのう。ありゃ何でもひとりで抱え込むタイプじゃ。相手を大切に思うほど、特にな」


 ふと、あの時の事を思い出した。

 まだ太陽が出ていて不死身ではないというのに、エリザの傷があっという間に塞がっていた。

 それにあの顔。

 血で汚れていたとはいえ、いつものエリザとは明らかに雰囲気が異なっていた。


 もしかして、エリザの方にも何か大変なことがあったのか……?


 もしそうなら、それが何であろうと聞いてやりたい。

 何よりもあの時の事。

 傷付けた上に突き放してしまった、その事を謝りたい。


「ほれ、持っていけ」


 私の前に何かが置かれた。

 これは、私の制服……。


「街に出しとったゴーレムが拾って来たんじゃ、洗って修繕するのはちと面倒だったがの」

「ええ……。爺さん、ゴーレムに何やらせてんだよ。趣味か?」

「やかましい、さっさと寝ろ! 朝になったらまた車を出してやるからな」


 部屋から追い出された。

 制服か……。

 あんなに嫌がっていたのに懐かしささえ感じる、おかしなものだな。


 制服に着替えると再びソファーに横になった。

 今は夜が明けるのを待とう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ