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鋼鉄のハインリヒ

 今日も魔工研へとお邪魔する。

 別にサボっているわけではない、サボるとエリザがうるさいからな。

 空き時間を利用して、くつろぎついでに何か便利なものがないか見に来ているだけだ。


「また来たっすか、今日は出張でマリネッタ先生はいないっすよ」


 部屋の中でひとり作業していたミデットが言う。

 そうなのか、まあ先生に用があるわけじゃないけど。


「先生はいないのにお前はいるのかよ、ミデット」

「あたいはここで修行してるようなものっすから、自習っす」


 ミデットは何か機械のようなものをずっといじっている。

 これもゴーレムとか魔法で動く道具なんだろう。


「あ、しまったっす! パーツが足りないっす……うう」


 例のアーティファクトのひとつだというポーチに頭を突っ込んで騒いでいる。

 アーティファクトか……そんな便利な道具があったら助かるんだけどな。


「なあ、ミデット。そのポーチってどこで手に入れたんだ?」


 私の質問に、ぎょっとしたのかミデットは一瞬動きを止めた。

 何かやましい事でもあるのだろうか。


「い、いや……これは……その」

「なんだ、隠すなよ。即答できないって事は何かやましい事があるって事じゃないのか?」


 もともと気が弱いせいもあってか、私の質問にミデットはすぐ観念した。


「うう……形見とでも即答すればよかったっす。これはこの学院の地下室でたまたま見つけたものっす、ナイショっすよ」

「地下だって!?」


 意外な答えだったが納得はできる。

 言われてみればあの鏡もそうだったのかもしれないな。


「でもあそこは立入禁止だろ? このあいだ行ったけど危険なとこだったし」

「……知ってたっすか、というか行ったんすか!? 確かに立入禁止っすけど、あそこはいい材料が拾えるっすから。あたいだけが知ってる秘密の出入り口があるんすよ」


 こいつも臆病なくせして意外と大胆な事する奴だな。

 でも面白いじゃないか、ちょっと見て見たい。


「……行くっすか? ちょうど材料が切れたっすから、あたいとしても拾いに行きたいっす。秘密を守ってくれるのと、ボディガードしてくれるのなら教えるっすよ」

「ああ、いいぞ。あたしも何かいいものが拾えるかもしれないしな」


 魔工研を出て、さらに校舎の外へと向かう。

 ここまで来るといつかの森がすぐ目の前だ。


「ほら、ここっすよ」


 ミデットが指さす1本の木、その根元に人が通れるくらいの穴が空いている。


「この穴が地下室まで通じてるっす。正確にはどこかの階段の途中に出るんす」

「ふーん、まあとにかく行ってみるか」


 穴に体を押し込むと、中はゆるやかな坂になっており、さらに進むとミデットの言う通り階段に出た。

 この階段、上に行く道が崩れて潰れている。

 どこかに正規の入口があるんだろうが、これじゃそっちは機能していないな。


 ミデットと共に階段を下りていく。

 この間エリザとふたりで来たのを思い出すな、あの時は罠だらけでひどい目にあったが。


「この地下、ダンジョンて呼ばれてるっすけど、空間が不安定らしくてその時によって廊下と部屋が違ったりするみたいっす。階段は変わらないから帰れなくなることはないっすけどね」

「その様子だと、迷って死にかけたけど階段は動いてなかったから助かったってところか?」

「……! な、ナイショっす」


 たぶん当たったな。

 まあ、お互い死ななかっただけ幸運だと思おう。


「そ、それと、もし下り階段を見つけても下りちゃダメっすよ!」

「そんな事『先生』も言ってたな。下りた事あるのか?」

「ないっす、あるわけないっす……本能でわかるんす、ここからはヤバイって」


 本能ねえ……。

 だが直感を信じるのは悪い事じゃない、用が無ければ私もやめとこう。

 そういえばエリザはここで実家を思い出すとか言ってモンスターを拾ったようだが、ここの深部は魔界にでも繋がってるんじゃないだろうな。


 少し広い部屋に着いた。

 前に来た時とは違う場所だが、ゴチャゴチャと散らかっているのは同じ。

 そして、ミデットにはこれが宝の山に見えるらしい。

 部屋に着くなりガラクタを拾っては見定め、ポーチへと放り込んでいる。


「それ、何かの役に立つのか?」

「素人にはただのガラクタかもしれないっすが、わずかに魔力を帯びていたり、魔道具の部品に使えたりするんす。3割くらいっすけど、ただのガラクタじゃないんすよ」


 私にはまったく違いがわからないが……まあいいや。

 適当にそれっぽいものでも探すとするか。


 しばらくガラクタを漁ってみるが、まともな形が残っている……少なくともそう思えるものは見つからない。

 面白そうだから来てみたが、私にとっては無意味な事だったかもしれないな。


「……ん」


 ふと、瓦礫の中に何か大きめのものを見つけた。

 どうやら鎧のようだ。

 かなり重いが引っ張り出してみよう。


「ぐっ、重いな!」


 ちょっと辛かったが引っ張り出す事には成功した。

 どうも中世の鎧っぽい。

 でも、足を持って引っ張り出したのに頭の先まできれいに繋がってるし、それにこの重さ。

 もしかして中身入りなんじゃないだろうな……


「ああっ!」


 びっくりした。

 ミデットめ、急に何なんだ。


「おい、びっくりするだろ。いきなり大きな声を出すな」

「ご、ごめんっす……でも! それ、すごいっす! 大昔のゴーレムっす!」


 ゴーレム? 学院内でいろいろ作業してるアレか?

 どう見てもただの鎧にしか見えないが。


「この顔のような兜の形、間違いないっす。壊れてるみたいっすけど……すごい掘り出し物っすよ! 持って帰るから手伝ってほしいっす! 早く!」

「お、おう」


 テンションの変わり方が凄い、つい圧倒されてしまった。

 クソ重い鎧をポーチに詰め込み、今回はこれで地上へと戻ることになった。

 担いで行けと言われないだけマシだな。


 それからしばらくして、魔工研にエリザ、ジル、ソニアもやって来た。

 と言うよりは、あれからミデットが修理にかかりっきりでやる事なかったから私が連れて来たんだけど。


「ほえ~、こりゃまたゴツいの拾って来たね~」

「古いゴーレムの修理なんかして大丈夫なの? 嫌な予感しかしないんだけど」


 そう言えばそうだな、いきなり暴れだしたりしなきゃいいんだが。

 当のミデットは周囲の言葉なんか聞こえてないみたいだし。


「損傷もほとんど無い……まさに奇跡っす、これならすぐに……」


 すぐに直るんだって、構えておいた方がいいかな?

 そういった周囲の心配をよそに、修理は着々と進んでいく。

 そして、ミデットが装甲を閉じた瞬間、ゴーレムの目が光り、ゆっくりとその上半身を起こしたのだった。


「わ……わたし……は……」


 喋った!?

 いや、まあ学院にいるゴーレムも喋るけど。

 この場合はミデットの修理の腕を褒めているという事になるかな。


「私の名はハインリヒ、鋼鉄のハインリヒ……」

「まあ、ご丁寧に。わたくしはエリザと申します、お見知りおきくださいませ」


 おいおい、こんなロボットみたいな奴にそんな丁寧な挨拶しなくてもいいだろ。


「あ、あたいはミデットっす! あたいがハインリヒを修理したんすよ!」


 対抗意識を燃やしたのか、ミデットもエリザに負けじと自己紹介。

 母性でも目覚めたのか?


 ハインリヒと名乗るゴーレムはしばらく動きを止めていたが、グルリと頭を回転させると再び言葉を発しはじめた。


「理解した。ここは、私が動いていたよりも、はるかに先の時代なのだな」


 おお、流暢に喋ってる。

 そして賢い、すごい性能だな。


「……うう」


 感心していると、ハインリヒは急に頭を抱えうずくまってしまった。


「ど、どうしたっすか!? まだどこか直ってなかったっすか!?」

「うう……私は……妻を探しているのだ」


 妻を探しているだって? ゴーレムにもそういうのがあるのか。


「まあ、奥様が行方不明なのですか? それはお辛い事でしょう」

「ゴーレムの妻……。あまりうまく想像できないけど、どんな見た目なの?」


 みんな探してやるつもりになってるぞ、優しいなあ。

 でもいるとしたら地下だぞ、また行くのは面倒だなあ。


「見た目は……そうだな、色白で美しい均整の取れた体。後は清く優しい心の持ち主であれば申し分ない」

「……申し分ない?」

「あの、行方不明になった奥様を探されているのではないのですか?」


 ハインリヒは大きく頷いた。


「そうとも言える。私はかつての主人たちに学び、まだ見ぬ妻を探したいと思っているのだ」


 そっちの話だったか。

 それを聞いてみんなのやる気が失われたのをはっきりと感じたぞ。


「そうね……うちは魔法の学校だから電化製品はそんなに多くないのよ、冷蔵庫でいいかしら」

「装束展示用のマネキンなんてどうかな~? スタイルは最高っしょ~」

「いや、勘違いしているぞ娘たちよ。私はそういうのではない」


 多分だけど、そいつらわかってて言ってるんだと思うぞ。

 もっとも私も協力する気は無いけど。


「みなさん、もっと真剣に話を聞いてあげてください! 長い間、地下で埋もれていたのですから、寂しくなるのも仕方ありませんわ、いい方を見つけてあげましょう?」

「とは言ってもな……」


 そのいい相手ってのが難しいんだよな。

 正直言ってアテは無いに等しい。


「学院長はどうかな、一応美人ではあるし、見た目エルフっぽいし」

「でも学院長は100歳超えてるって話よ、魔法で若く見せてるだけだとか」


 凄いな、さすが学院長。

 というか、こんな話しに行ったら殺されそうな気がする。


「あと美人といえば……」


 4人と顔を見合わせる。

 エリザ以外の3人が何やら妙な動きをしているのが気になるな。


「エリザかロレインってところだな……」

「何でよ! メガネか! メガネが嫌いか!?」

「ギャルはけっこうモテるんだよ~、知らない~?」

「うう……どうせそんなもんっす……」


 何だ、アピールしてたのか、お腹痛いのかと思った。


「うむ、そのエリザという娘、なかなかに美しい。しかし同時に何か恐ろしさも感じる、いまいちピンとこないな。ここはひとつ、もうひとりのロレインという娘を見に行くとしよう」


 ハインリヒが突如立ち上がり、魔工研の扉を破壊して走り去ってしまった。

 あいつどこに向かったんだ?

 いや、問題はそれじゃない。


「あの野郎、エリザをイマイチとか言いやがって、スクラップにしてやろうか!」

「あ、そちらなのですね……。大丈夫、わたくしは気にしておりませんわ」

「わわ、壊しちゃダメっすよ! 取り押さえるだけにしてほしいっす!」


 あいつがどこに行ったのかは知らないが、追いかけるのは難しいことじゃない。

 壊れたものとか周囲の反応を見れば辿った道のりは明らかだからな。


「ね~、だいじょぶ~?」


 何人かの生徒が腰を抜かして座り込んでいる。

 毎度毎度騒ぎを起こして悪いが、今回は私のせいじゃないからな。


「おい、ロレインがどこにいるか知ってるか?」

「い、いえ、知らないわ……」


 くそ、先回りしようかと思ったが、ロレインがどこにいるのかわからないんじゃどうしようもない。


「!」


 その時、廊下の先でいいものを見つけた。

 これなら居場所がわかるかもしれない!


「おらっ! ロレインの居場所を吐け!」

「なな、なんだいきなり! 拙者が何をした! でござる」


 たまたま歩いていたコバンを捕まえた。

 規範生徒ストーカーのこいつなら今いる場所を知ってるかもしれない。

 ……しかし、何なんだその喋り方は。


「お前、そんな喋り方だったっけ?」

「これは、ロレインさまが忍の個性を出せと仰ったので、まず言葉使いから変えてみることにしたのだ、でござる」


 あ……、それってもしかして私のせいか?

 ロレインのやつスルーしたな。


「えっと、忍者ってゴザルとか言わないんじゃないかな……? ロレインもその語尾はおかしいと思ってるんじゃないか?」

「う……、確かにあまりいい反応は見せてくださらない……そうかも」


 ふう、すんなり聞いてくれてよかった。

 私のせいでおかしな事になるのはさすがに気が引けるからな。


「ちょっと、メル! 早く追いかけないと!」


 おっと、そうだった。

 肝心な事を忘れるところだった。


「おい、コバン。そのロレインがちょっとピンチかもしれないぞ。今どこにいるか知ってるか?」

「何……!? 今は大講堂で召喚術の授業中のはず! ピンチと聞いては黙っておれん、拙者も向かうぞ!」


 語尾は直ったけど一人称はそのままなのか。

 まあいいや、とにかくハインリヒを先回りして捕まえてくれる。


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