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貴女の名は

 学院の古臭い廊下をひとりブラブラしている。

 スライム騒動は大した被害は出なかったが、危険な生物をこっそり飼育していたとしてエリザは今日一日自室謹慎となった。

 いつもついて来る奴だから、いないというのも少し妙な感じだ。

 それにしてもヒマだな……。


 人気のない中庭に出た。

 隅にある地下への扉は再び固く閉ざされている。

 どうせならまた下りてみようかと思ったが、開かないのではどうしようもない。


「あ、そうだ」


 試練の答えとしてあの場にいた妖精を連れ帰ったが、実は他にも持ち帰ったものはあった。

 叩き割った鏡の破片だ。

 そこそこの大きさだからナイフ代わりにでもなるかと思い持ち帰ったが、破片はキラキラと輝き不思議な暖かさ感じる。

 これは魔力を帯びているという事なのだろうか。


「貴女は……そこで何をしているの? 地下へは立入禁止よ」


 地下への扉の前でぼんやり立っていたのを見咎められ注意を受けた。

 話しかけてきたのはあの規範生徒サマだ。


「なんだ、ロレインか。今日は取り巻きは一緒じゃないのか?」

「なっ……失礼な! 貴女こそ、問題ばかり起こしてルームメイトが謹慎になったのでしょう?」


 うーん、確かにいきなり失礼だったかな。

 突然注意されたんでちょっとイラついてしまった。

 まあ、地下に入ろうとしていたのは事実なんだけど。


「……貴女、何を持っているの? まさか危険なものは持っていないでしょうね」

「危険? 杖を剣にしてる奴に言われたくないなあ」


 おっといけない、ロレインに話しかけられるとついケンカ腰になってしまう。

 こいつの高圧的な態度が悪いんだよ、まったく。


「杖と刃物は別です! いいからお見せなさい!」

「あ、こら危ないって!」


 ロレインが私から鏡の破片を取り上げようとした瞬間、破片が強い光を放つ。


「!?」


 すごい光だ、目を開けていられない。

 時間にすると一瞬だったが頭がクラクラする、何なんだこの鏡は。


「今のはいったい……貴女、何を持って――」


 ロレインが何かを言いかけて止まった。


「何だよ、言いたい事があるなら最後まで……」


 あれ、ロレインって茶髪だったっけ?

 バカみたいに長い三つ編みを結ってるし、目つきも鋭い……

 って、これ私じゃないか!


「ど、ど、どうして私が目の前に……!?」


 向こうも困惑しているみたいだな、無理もない。

 私だって動揺しているぞ。

 ちょっとだけ楽しいけどな。


「これは、まさか妖精鏡では……」


 鏡の破片に気付き、ロレインが拾い上げる。

 へえ、妖精鏡って名前なのか。


「あ、それ前に地下へ下りた時に見つけたんだ。面白そうだから破片だけ持って帰ったんだよ」

「貴女という人は……。いろいろ言いたい事はありますけど、文献によるとこの鏡は妖精族の魔力が込められた鏡。姿を映した者に様々な影響を与えるとありました。重大なものからイタズラのようなものまで多岐にわたるとの事です」


 多岐にわたる、ねえ。

 あの妖精、何をさせようとしてたんだか。

 叩き割って正解だったんじゃないか?


「これは破片ですから魔力も弱く、放っておけば治ると思いますが……何か対策を――」


 うわ、びっくりした。

 魔力を使い果たしたのか、鏡が粉々になって消えてしまった。


「……と、とにかく、先生がたに連絡して、なるべく早く元に戻る方法を考えましょう」

「おっと、待った」


 その場から立ち去ろうとするロレインを引き留めた。

 今日は退屈してたからな、いい機会じゃないか。


「なあ、このまま入れ替わって遊ぶってのはどうだ? バレないかどうか試してみたい」

「じ、冗談を言わないで! そんな事をしている暇なんてありません!」


 何だよ、遊び心の足りない奴だな。


「私は一刻も早く元に戻りたいんです! 貴女、ちゃんとお風呂に入っているの? さっきから獣臭くてたまらないんですけど」

「く、臭いだあ? あたしはこれでもきれい好きなんだよ!」


 言ってくれるな……こうなったら意地でも遊びに付き合ってもらう。


「なら好きにしやがれ、だが元に戻るまでにどれだけかかる? その間にあたしが何をするか、賢いお前でも想像できないかもしれないぞ?」

「……!? なんて卑劣な……!」

「そう怒るなよ、ルールはそれぞれの普段通りを演じてバレるまでの時間で勝負。自分からバラすような行動はダメだぞ。遊びに付き合ってくれるなら変な行動はしない、約束する」

「くっ……、本当ね? もし私の名前に傷がつくようなことがあったら、貴女の体のままでも舌を噛み切って死にますから、覚悟しておきなさい!」


 契約成立、これで今日一日は退屈せずに済みそうだ。


「さーて、それじゃ首席サマの部屋でも見学しよっと」

「あ、ちょっと! プライバシーも守りなさい! 最低ですよ!」

「わかってるよ、部屋を見るだけだ、必要以上の事はしないから安心しろ!」


 ロレインの部屋はどんなところかな、楽しみだ。

 一方のロレインは私の体のままうずくまり、何やらブツブツと呟いている。


「私はロレイン……ロレイン・ルザルカフ……サン・アルヴンの首席で……」

「おい、大丈夫か……? ほら、立てよ。あたしの部屋で休んでな」

「貴女……どうしてそんなに冷静でいられるの? 信じられないわ」


 どうしてって言われてもなあ、そういう性分だし。

 とりあえず、コイツを部屋に連れて行ってから遊びに行くとするか。


 そういうわけで自室に中身がロレインの私を連れ込む。

 今日はエリザが謹慎で暇してるからちょうどいいだろう。


「あら、おかえりなさいませ。ロレインも一緒なんですの?」


 机で自習か、エリザは真面目だな……私ならたぶんずっと寝てる。

 とにかくロレインを置いて行こう。


「メルの体調がすぐれないみたいで、部屋に連れて来たよ……来ましたのよ、ホホ」


 ぐっ、さりげなく肘打ちされた。

 ロレインが睨んでくる、そんなにおかしい事言ってないだろう。

 それにしても、私はこんなに目つき悪かったんだな。


「まあ、それは大変ですわ! 熱は……ありませんわね、とにかくお休みください」

「ちょっ、エリザさん……? 距離が近いんですけど……」


 そのままエリザに遊んでもらうといい。

 さて、私もさっそく遊ばせてもらおうかな。

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