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ラッキークローバー

 見事なまでに失敗してしまったので、居合わせたミデットを加えいったん私達の部屋で作戦会議をする事となった。

 だが、部屋に向かうソニアの足取りは重い。


「は~、またやっちゃった……ソニアちゃんてば派手なのが好きだから、つい演出過剰になっちゃうんだよね~」


 わかっているならやめりゃあいいじゃないか……と言おうとしてやめた。

 私も似たようなものだからな。


「ね、エリザ~、吸血鬼の能力でパパっと解決できない?」

「え……!? それは……できるかもしれませんが、今は日中ですし……それに、人の心を操るのは良くない事ですわ、わたくし気が進みません」

「冗談だってば~、エリザちんはカワイイね。いっそこっちの部屋に移っちゃおっかな~」


 それはマジでやめろ、私が耐えられない。


「まったく、バカな事言ってないでどうするのか考えたらどうだ」

「へ~い、怖いメルちんが言うから考えます~」


 ……お前が相談に乗ってくれって来たんだろうが、殴っとこうかな。


「ジルの家は弟や妹が多くてちょっと苦労してるんす、だから魔法の道で成功して家族に楽させたいっていつも言ってるっすから……焦りもあって怒ってるんすよ、きっと」


 ふうん、人それぞれ苦労があるんだな。

 真面目に努力しててもなかなか結果が追い付かなかったら、そりゃ誰でも焦るか。


 部屋に戻ってきた、だが少し様子がおかしい。


「何か……荒らされてないか? どうなってるんだ」

「……!」


 すると、突然エリザが慌てだした。

 自分のベッドの周りで何かを探している様子だ。


「プリンドル、どこへ行ったのですか!?」


 プリンドル?

 もしかして何かペットを飼ってたのか。

 様子がおかしかったのはそのせいだったんだな。


「どこにもいない……部屋の外に逃げてしまったのでしょうか……」


 広くもない部屋でずっと一緒にいるのに、いつまでも隠せないだろう。

 いったい何を飼ってたんだか。


「エリザ、なにを飼ってたんだ?」


 その時、部屋の外から悲鳴が聞こえた。

 廊下に飛び出し、声のした方を見ると、通路いっぱいに赤くぶよぶよしたものが広がっている。


「プリンドル! やっぱり外に出てしまっていたのですね!」


 あれか……どう見てもスライムの類だ。

 しかも、よく見ると廊下に倒れている生徒もいる。


「おい、大丈夫か?」


 ケガはしていないようだが、疲れた顔してるな。

 寝不足か?


「あ~、これ魔力切れ起こしてんね。魔力も体力みたいなもんだから、食べて寝れば回復するけど、一気に消耗するとこうやってヘロヘロになんのよね~」

「一気に消耗……やっぱり、あの子の仕業なのですね……」


 あの赤いスライムが魔力を吸い取ったという事なのだろうか。

 放っておくわけにもいかない、さっさと捕まえてしまおう。


「それにしても、けっこう大きいな。どうやって捕まえたものか」


 とりあえず端っこをつまんでみた。

 意外と弾力もあってゼリーみたいな触り心地だ。

 ぷにぷにとゼリーの感触を楽しんでいると、触っている手をゼリーにすっぽりと包まれた。

 これは……マズイかも。


「くっ!」


 危険を感じゼリーまみれの手を思いきり振り払った。

 赤いスライムはいったん飛び散ったもののすぐにまたひと塊に集まり、意外な速さで廊下の先へと逃げて行ってしまった。


「う……ちょっと何か吸われた気がする」


 軽くめまいがする……大量に吸われるとちょっと厳しいな。


「大事になる前に何とかしないとな、追いかけるぞ」


 倒れている生徒をミデット達に任せ、逃げたスライムを追う。

 騒ぎを辿って追跡していくと、スライムは校舎を出て敷地にある森の中へと逃げ込んだようだ。

 人がいない場所なら好都合、今のうちに何とかしよう。


「……んん?」


 何とかしようと追いついたのはいいが……デカくなってる。

 逃げながら魔力を食って成長したのか、さっき見た時よりデカい。


「プ、プリンドルくん? 飼い主が呼んでるんだけど……」


 私なりに優しく話しかけてみたつもりだったが、近付こうとすると威嚇するかのようにその体を膨れ上がらせる。

 くそ、もう退治するしかないか? だが魔力を食ってるくらいだ、魔法は効かないだろう。

 かといってこんなゼリーを殴っても効果ないだろうしなあ。


「じゃあ……こいつはどうかな?」


 ポケットから白い粉を取り出し、スライムに投げつけてみた。

 すると、ジュウジュウと音を立てて粉のかかった部分が小さくなる。

 さっき食堂で貰っておいたただの塩だけど、やってみるもんだ。


「よし、このままイケそうだ――」


 ピコン!


 いて。

 何かで後頭部を殴られた。

 いや、この感覚は前にも経験したことがある、他ならぬピコハンだ。

 という事は……


「メルちんてさあ、人の気持ちがわからないヒト?」


 ソニア……いきなり人の後頭部を殴った上に、邪魔をするようにスライムと私の間に割って入るとはどういうつもりだ?


「さあね、お前に言われたくない気もするけどな。で、何のつもりだ」

「いきなりヤっちゃうってのもあんまりじゃね~? エリザもこの子もかわいそうじゃん」

「言いたい事はわかるが……どうしようっていうんだ?」

「それはさ~、そのためにみんなで知恵を絞るんじゃん?」


 ちょっと……久々にムカついてきた。


「ふざけてないでどけよ、さもないとお前ごとブッ飛ばすぞ」

「……」


 ソニアは何も答えず、魔法杖であるピコハンを取り出した。

 両手にひとつずつ、あわせてふたつ。

 こいつ、魔法の杖を2本持っているのか。


「ひとつで双葉、ふたつで四葉。これがソニアちゃんの杖、ラッキークローバーだよ~」


 そう言うとソニアは持っているピコハンの片方を投げつけてきた。

 だがたいした速さでもないので避けるのはたやすい。


「あ痛っ」


 いて。

 避けたつもりだったが後頭部に当たった。

 ピコハンだからダメージはほぼ無いが……


「ヒミオグ・ヘヴティ。ソニアちゃんの幸運魔法はピコピコふたつ出してる時が本気だよ~。ブーメランみたいに自在に飛んで、当たるとメルちんの運が下がってソニアちゃんの運が上がるからマジ気を付けてね~」


 ……さらっと言うが、それって凄く恐ろしい魔法じゃないか?

 本当に何を考えてるんだ。


「ちっ……まさかお披露目がお前になるとはな」


 こっちも魔法で対抗しないとヤバそうだからな。

 ケンカ売ってきたのはそっちだ、後悔するなよ。


「わお、それマジ……?」


 完成した私の魔法杖、形状はソードオフショットガンにした。

 この形状にして指向性や出力の制御を杖で行えば、私の魔法の欠点は解消されるハズ。

 あと単純にカッコいいしな!


「んじゃ、さっそく……リオース!」

「!?」


 私の照明魔法は制御が効かず閃光弾のようになる。

 ならいっそ杖で方向と飛距離を指定して閃光弾として使えばいい。

 隙を作ったら懐に飛び込んで、いつものペースで攻めればいいのだ。


「ぐっ……怖あ、メルちんてマジヤバいね……」


 銃床で殴りかかったが、交差したピコハンで受け止められた。

 踏み込んだ時に少し足が滑って力が入りきらなかった……幸運操作の影響か。


「お前、いつまでもふざけてないで、とっととそこをどきやがれ!」

「ふざけてない!」


 うおっ、また足が滑ってバランスを崩したところを弾き飛ばされた。

 慌てて体勢を立て直し、ソニアを確認すると、対峙するソニアの表情がいつもより少し凛々しく感じられる。


「ソニアは今までふざけた事なんか無いんだよね~。みんな誰もが楽しくいられたらいいなと思ってんの。だったら自分のできる限りの力でみんなを楽しませられたら素敵じゃん? ジルだってそうだよ~。頑張って、努力してんの知ってっから、少しでも楽しくやれたらいいじゃんて思ったの!」


 ……それを私に言ってどうする。

 それに、今この状況と何の関係がある。


「メルちんも、いつも怖い顔してばかりじゃん? エリザだって、スライムだって、メルだって、ハッピーなほうがいいに決まってるっしょ!」


 ソニアはその両手に持ったピコハンを、打ち鳴らすように目の前で叩いた。


「スキャンド・レクト!」


 呪文と共に、鐘のような音が鳴り響く。

 この音、まるで直接頭の中に響くようだ。

 ムカついていたはずだが、不思議と怒りが収まっていく。

 見ればソニアの後ろにいたスライムも、いつの間にかかなり小さく大人しくなっている。


「この子だって驚いて逃げて怖かっただけだよね~、優しくしてやらなきゃ~」

「……ふん」


 杖を元の形に収納した、ケンカはここまでだ。


「メル! ソニア! プリンドル! みんな無事なのですね、よかった……」


 エリザ達が駆けつけてきた、というよりは見ていたのかな。

 その証拠にひとり増えている。


「ソニア、あなた……」

「ジル……」


 エリザ達と出会ってついてきたのだろう、あの様子だとさっきの会話を聞いていたようだ。


「もう、気持ちはわかったけど、やり過ぎはやめてよね」

「う。マジごめんね、ジル……」

「いいのよ、やんちゃな子供の相手には慣れてるから」


 こっちの問題はこれで解決しそうだな、後は……


「あっ、プリンドル……!」


 赤いスライムはエリザの手を離れ、ゆっくりと森の奥へと進んでいった。


「この森は魔法動物も住む広大な森、これでよかったのよ」

「うう……感動的っす、お別れっす」


 完全に姿が見えなくなる直前、スライムが一瞬振り向いたように感じられた。

 でもやっぱりスライムだからどっちが前だかわからない、たぶん気のせいだ。


「さようなら……プリンドル」


 事件も解決し、食堂で忘れていたランチをとる。

 まだ時間内で助かった。


「本当に、申し訳ありません。地下で小さなスライムを見つけて、実家を思い出してしまったものですから……つい連れて帰ってしまいましたの」


 スライムを隠していた事でエリザが平謝りしている。

 100年監禁状態だったとはいえ、他にはこの学院しか知らないんだろうからな。

 実家が恋しくなるのも無理はない。


「なあ、ふと思ったんだが、地下で見つけたんなら地下に帰せばよかったんじゃないか? アレを森に放って良かったのか……?」

「……」


 全員が沈黙する。

 よし、この話題は忘れよう。

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