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地の下の試練

 エリザと2人、中庭の端っこへ立つ。

 そこには草に隠れるように地下への扉があった。

 ゴミ入れかと思っていたが出入り口だったとは。

 鍵は外してあったので早速階段を下りていく。

 扉は開け放しだがこんな所に好き好んで入る奴はいないだろう。


 それにしても下り階段が長い。

 地下1階というからすぐに着くのかと思ったのに、相当深くに作られた施設らしい。

 今は使われていないだけあって明りもあまりない、ライトでも持ってくれば良かった。

 マッチを擦ってみたがこの燃焼時間では意味が無いな。


「メルったら、先ほどこれは魔法の試験だと言われたばかりですわ。魔法を使ってくださいな」


 魔法……魔法か。

 そりゃお前に強引に連れていかれた授業でいくらかは覚えたが、私が使うとどうにも上手くいかない事があるのだ。


「えーと……リオース」


 杖を出して明りを灯す呪文を唱えてみた。


「きゃっ!」


 そのとたん、眩い閃光がほとばしり私とエリザの目を眩ませた。

 光はすぐに収まり元の薄暗い階段に戻ったが、強い光を浴びたせいでさっきよりむしろ暗く感じる。


「ああ……目がチカチカしますわ。メルは魔力的な素質はおありなのにコントロールは苦手なのですね」


 まったくだ、これじゃ閃光弾だよ。

 仕方がないので照明の魔法はエリザに代行してもらった。

 ただ、エリザも昼間で力が弱いのか、その光の玉は少し頼りない。


「申し訳ありません、昼間だと魔力も平均以下になってしまうようですの……お恥ずかしいですわ」

「謝るなよ、役に立つ分あたしのよりマシさ」


 エリザが一緒に来た理由はお目付け役という事なのかもしれない。

 だが、悪い気はしないな、現に役にも立ってくれている。


 しばらく下ってようやく階段が終わり、床が平らな空間へと出た。

 ここは廊下か……薄暗い上にあちこち古びて散らかっている。

 こんな所を探索するのはあまりに面倒だが、そのへんの石ころを持って帰っても試験はクリアできないだろう。


「あら、これは何でしょうか」


 そう言うエリザが手を伸ばす先には、壁のブロックの中にひとつだけある色の違う石。


「おい、そういういかにも危険そうなものに触るんじゃ――」


 その瞬間、床から槍のようなものが勢いよく飛び出し、私の鼻先をかすめた。

 危な……、あと一歩進んでたらここで死んでたかも。


「す、すみません! ケガはありませんか!?」

「ああ……大丈夫、だから今度からは気をつけてくれよ」


 と、言ったのに。

 言ったそばからまた怪しい物に手を伸ばしている。


「こんな所にボタンが……えい」

「うわっ!」


 今度は落とし穴か……なんとかギリギリ落ちずに済んだ。

 済んだけど、さっき注意したばかりだろう。


「おい、いい加減にしろ! 何でも触るんじゃない! 幼児か!」

「はぃい……! も、申し訳ありません!」


 つい怒鳴ってしまった。

 下りてくる時は役に立つとか思ったけど、現状では足を引っ張られている。

 そのことをわかっているのか、怒鳴られたエリザはしょげ返ってしまった。


「本当に申し訳ありません……わたくし、お父様に100年ほど屋敷の外に出る事を禁じられておりましたから……つい色々なものを見るのが楽しくなってしまって」


 100年……見た目は同い年くらいだけど、やっぱり吸血鬼は長生きなんだな。


「いや、あたしも怒鳴って悪かったよ。お前も――」


 言葉を遮るかのようにギロチンの刃が落ち、またしても私の鼻先をかすめた。

 今度こそ鼻が無くなるかと思ったぞ。

 見ればまた何か怪しいものを触っている、言ったそばからコノヤロウ。


「……もういい、担いで行く」

「あっ、そんな!」


 エリザを肩に担ぎあげて進むことにした、これなら余計なものは触れまい。

 長い間外出禁止だったという事に同情したが、放っておくとこっちの命がいくつあっても足りないからな。


「あ、メル! ちょっとお待ちください、あちらの様子がおかしいですわ!」


 そう言われて振り返ると、確かに部屋のひとつから明かりが漏れている。

 逆さに担いだから後ろ側に気が付いたのか、まあ、役に立ったという事にしておこう。


 明りを追って部屋に入ると、その部屋の中央は祭壇のようになっており、大きな鏡が祭られていた。

 こういう場所にあるんだ、ただの鏡ではないのだろう。

 持って帰るならこれがいいかな?


(夢を見るか、若き魔女よ)


 ……ん?

 なにか聞こえたような。


「エリザ、何か言ったか?」

「いいえ、何も言っておりませんわ。あの、それより降ろしてください……」


 おっと、そうだった。

 エリザを担ぎっぱなしだった。


「はあ、メルったら強引ですわ。それにしても……不思議な鏡ですわね、見ているだけで吸い込まれてしまいそうな……」


(鏡を覗き、汝を示せ)


 また何か聞こえた、空耳じゃあなさそうだ。


「鏡から離れろ、何か妙な声が聞こえる。気を付けた方がいい」

「そうですか? わたくしには何も聞こえませんが……」


(我は鏡の番人。魔女よ、力を求めるならば己を示せ)


「い、今のはわたくしにも聞こえましたわ。いったいどなたの声なのでしょうか」

「さあな。おい、変な声の奴! 何が言いたいんだ!」


 声は聞こえる、いや、どちらかというと頭に直接響いてくる。

 そして声の主の姿はどこにも無い。

 いよいよダンジョンらしくなってきたじゃないか。


(この鏡に姿を映し、試練を乗り越えよ。勇気あるものには祝福を、資格なきものには死を与えん)


 面白い、それなら私の答えはひとつだ。


 ガシャーン!


 なかなかいい音がした。

 普段の生活だと少々青ざめる音だが、こういう機会ならむしろスッキリする。


「なな、何をなさるのですか!」

「何って……石を投げて鏡を割ったんだよ。試験中なのに二重に試練とかやってられないし、あいつちょっと偉そうだったし」

「そういう事ではありません! 先生も暴力はいけないと仰っていたでしょう!」

「大丈夫だよ、殴ってないし蹴ってない、投げただけ。石を拾う時に杖を使ったから、ギリギリ魔法ってことでいいんじゃない?」


 少し間が空く。

 エリザは何か考え込んでいたようだが、すぐに安堵の息を吐いた。


「……ほっ、そういう事でしたらよろしいですわ」


 理解してくれて嬉しいよ、やっぱりエリザはいい奴だ。


(いや、全然よろしくないぞ魔女よ)


 あれ、鏡は思いっきり割れたのにまだ声が響いてくる。

 あの鏡が喋っていたわけじゃないのか。

 なら、もしかしてどこかに誰か隠れてたりするのかな?


(なんという無茶苦茶な事をしでかすのだ。自分が何をやったのかわかっているのか……? あ、こら、祭壇の下を覗くでない)


 祭壇の下を覗き込むと何かがボソボソと喋っている、目が合ってなんだか気まずい。

 そうだ、いい事を思いついた。


 ***


 地下の探索を終え、エリザと2人、魔工研究室に戻ってきた。

 私達の姿を見ると、教師それぞれ違った反応を見せる。


「お前たち、無事に戻って来たか……よかった」


 マリネッタ先生のこういう反応が普通だと思うんだ。


「おかえり、地下2階には下りてみた? 階段が見つからなかったの? なーんだ」


 こういう反応は教師として有り得ないと思うんだが。

 そもそもコイツ本当に教師なのか?


「それで、何を持って帰ったのかな?」


 おっと、そういう試験だった。

 さっそく持って帰ったものを引き渡す。


「これは……」

「鏡の試練とか言ってた小さい人」


 祭壇の下を覗き込んだ時に見つけた奴を、せっかくだから捕まえてきた。

 物珍しさでは合格ラインだと思う。


(魔女よ……お前には常識というものが無いのか)


 また頭の中に声が響く。

 もう目の前にいるんだから普通に喋ればいいのに。


「あっはっは! そう、鏡の間に辿り着いたのね。彼は古代エルフにあのあたりの管理を任されている妖精さんてところかしら。どうせなら鏡の試練も受ければよかったのに、パワーアップできたかもよ?」


(その娘は鏡を割ってしまった、もう試練はない)


 あ、コイツ、余計な事言うなよ。


「割った!? また凄い事を……まあ、どうでもいいか」


 どうでもいいのか、妖精泣いてるぞ。

 いや、割ったのは私だけどさ。


「んー、そうねえ……面白かったから合格にしよっか」


 審査基準も適当だな。

 合格だからいいけど、それなら試練の必要性すら無かったんじゃないか?


「やりましたわ! よかったですね、メル!」


 喜ぶエリザが後ろから抱きついてきた。

 ああもう、いちいち距離が近い。

 自分の事でもないのにそんなに喜ばなくていいから。


「はあ、まったく……おふざけも程々にしてください、先生。ほらメル、カスタム杖の要望書だ、これにどんなふうにカスタムしたいのか書いて出しな」


 マリネッタ先生も呆れている、この化物はいったい何者なんだろう。

 ……そうだ、忘れていた事がある。


「そういえば先生、合格したら質問に答えるって言ってたよな?」

「……いいわよ、何か聞いてごらんなさい」


 聞きたい事は色々あるが、とりあえず気になった事を聞いておくか。


「あたしの願書を出したのあんただろ、どうしてメル・ディードなんだよ」

「あら……そういえばオクリの名で暮らしてたんだっけ。あなたに興味を持ったきっかけが実の父親であるハロルドからだったから、その名前で書いておいたのよ」


 実の……父親? 

 そんな事考えた事もなかったな。

 一緒に暮らしていたのが養父母だという事は知っていたが、正直そういう事を考える余裕が無かった。

 この名前は父親の姓だったのか……


「なあ、あたしの父親ってどういう――」


 あれ、いない!? 今まで目の前にいたのに!

 くそ、本当にひとつだけかよ……


 あの化物のことだ、探しても無駄だろう。

 今はとりあえず当初の目的を果たしておく。

 要望書に書く内容は決めているんだ、さっさと書いて提出しよう。


「もう書いたのか……って、お前、本当にこれでいくのか?」

「あたしにだってちゃんと考えがあるんだ、それでいくよ」

「……そうか、わかった。それじゃあこれで仕上げておこう、また取りに来な」


 よし、これで私もカスタム杖が使える。

 今から完成が楽しみだ。


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