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魔法忍法帳

 新聞部とやらにやって来た。

 ここに来るまでの廊下に学院瓦版とかいうものが張ってあるのを見かけたが、魔法学校でもこういうものはあるんだな。


「誰かいるか?」


 中に入ると、そこにいたのはひとりだけ。

 その生徒は私の姿を見るなり、こちらに向きなおって偉そうに腕を組んだ。


「来たか、よくぞここがわかったな」


 ドアに新聞部って書いてあったからな。

 私が来るのがわかっていたようだが、つまりそれは押しかけて来られるような事をしていると見て間違いないだろう。

 それにしても……変な格好をしているやつだな。


「なんだお前、マフラーにマスクなんかして風邪でもひいてるのか」

「えっと、忍は顔を隠すものだけど丁度いい布が無くて……。あ、いや、そんな事はどうでもいい。察するにこの写真でも取り返しに来たか?」


 さっき見たデジカメか、珍しいものじゃないが魔法学校で見るのは新鮮だな。


「貴様たちに密着取材して尻尾を掴もうとしたが、いいネタが入った。次の一面はこれで決まりだ、覚悟しておくのだな」


 言ってる事がいまいちわからないが、敵意は感じる。

 とりあえず……ブッ飛ばしてカメラを頂いておくとするか。

 速戦即決、私は素早く間合いを詰め、鋭い蹴りでカメラを叩き落とすべくマスク女の手を狙う。


「!?」


 しかし、私の蹴りは紙一重で空を切り、同時に軸足に攻撃を受けて転ばされてしまった。


「甘い! 我は忍びの里出身、影中かげなか 小判こばん! 貴様のような素人とはわけが違うのだ!」


 油断した……まさか、本物の忍者だっていうのか?

 本当にいるんだ、忍者って。

 などと悠長な事を考えている隙に窓から逃げられてしまった、くそ、追いかけないと!


 同じ窓から飛び出すと、屋根の上を走るコバンの姿が見えた。

 少々ガタがきている古い屋根の上をああも素早く走れるなんて、忍者だというのも嘘じゃなさそうだ。

 私のは身体能力に任せてゴリ押しする野性のカン的な動きだが、あいつのは訓練された動きだった……まともにやり合うと厄介かもしれない。


「追いかけてくるか? 思ったより根性はありそうだな」


 こうして屋根の上で向かい合っているとバトル漫画みたいだ、忍者とおさげの魔女っ子もどきというひどい絵面じゃなきゃあな。


「コバンって言ったか? どうしてエリザをネタにしようとする、あいつがお前に何かしたっていうのか?」

「ふっ、別に貴様でもいいのだぞ? どちらかというとそのほうが良い」


 つまり、私のゴシップを狙ってたが、たまたまエリザの話が聞こえてきたのでそっちをネタにしたってところか。


「ずいぶんあたしの事を嫌ってんだな、お前とは初対面だと思ったが?」

「……我が主君のためだ」


 主君ときたか。

 忍者らしいといえばらしいが誰の事だ?


「無双の猛将、レムス様! 森羅万象の化身たるラシール様! そしてそのお二方を束ねる美しき女王、ロレイン様! 忍が仕えるに相応しき方々よ! 貴様は二度も対峙したというではないか……決して許せるものではない!」


 ああ、確かジルが私を目の敵にしてる規範生徒会ファンがいるかもしれないと言っていたな……まさにこういう奴の事か。

 記事が偏ってるというのもそういう事なのだろう。


「そんな事言われても、知らねえ……よっと!」


 再び逃げようとするコバンの背中めがけ、落ちていた手ごろなサイズの瓦礫を2・3個投げつける。

 だがコバンはくるりと身を翻し、飛んできた瓦礫を難なくキャッチした。

 普通にかわせばいいものを、実力差を見せつけているつもりなのか。


「甘い甘い、忍の技とはこうするのだ!」


 相手も何かを投げつけてきた、鎖だ。

 避けようとするが、その鎖は蛇のように曲がりくねり私の体を的確に捉えてぐるぐると巻きついてくる。

 これはただの鎖じゃないぞ。


「我は魔法と出会い、忍の技をさらに磨き上げたのだ! ヌンベス!」


 ぐっ! 痺れる!

 まるで鎖に電流が流れているようだ!

 この鎖、魔法の杖なのか!?

 だとするとこの忍者はこれでも成績優秀者ってわけか、面倒だな……


「これに懲りたら規範生徒会に逆らうのはやめるのだな。もっとも、記事にはさせてもらうがね」


 鎖は外れたがまだ体が痺れる……だがここで追跡をやめるわけにはいかない。

 何とか脚に力を入れ、再びコバンを追うべく屋根の上を走り出す。

 こちらがフラフラしているのに対し、コバンは鎖を屋根に引っ掛け縦横無尽に逃げ回っている。

 魔法杖のカスタムか、便利なものだ……できたら私もやってみたいが、とにかく今はあいつを捕まえないと!


 それにしても何という身のこなしだ、しばらく追いかけているが全然近づけないぞ。

 どうにかして間合いに入れればチャンスもあるんだけど……


「やれやれ、しつこい奴だな。貴様自身のことでもないのに何故そうムキになる?」

「さてね。とりあえず、誰にも迷惑かけてない個人の秘密を勝手に暴いて人目に晒そうなんて奴はぶん殴っといたほうがいいと思ったんだよ!」

「そうか、ご立派だな。だが無理だね」


 コバンが塔の窓に飛び込んだ、すぐさま覗き込むと……いた!

 まだ下の広間のあたりをウロウロしている、この距離なら届くぞ!

 急いで窓に飛び込み、覆いかぶさるように飛びかかる。

 よし、見事に捕らえることに成功した!


「覚悟しやがれ、この――」

「ひぃい、何するっすか! 痛いっす!」


 ……ん?

 キャラ変わったな、そんな喋り方だったか?


「はっはっは、甘い甘い! これぞ忍法身代わりの術!」


 離れた場所から耳障りな笑い声がする、それを言うなら変わり身じゃあないのか?

 という事はこいつは……。


「その声、もしかしてミデットか?」

「うう、コバンに何かされたと思ったら今度はメルっすか。今日はひどい日っす……」


 ポフンと煙が立ち、取り押さえていたコバンがその正体を現す。

 やっぱりミデットだった。

 忍法だか魔法だか知らないが見た目を変えていたのか。


「我に追いつくのは貴様では不可能というもの、大人しく部屋で泣き寝入りするのだな」


 面白い、だいぶ体も温まってきたところだ。

 ここはひとつ密かに練習してたアレを試してみるか。


「……む!」


 魔法の杖を取り出し、真っすぐ正面に構える。

 そうやって警戒してな、私にも魔法くらい使えるというところを見せてやるよ。


「ニクト・フォルテア! ……だったかな」


 呪文を唱えると同時に杖の先から魔法のエネルギーがほとばしり、黒い霧となって私の周囲を包み込む。


「うわっ!」


 出るには出たが、手を放したホースのようにやたらと霧が噴き出してまるで制御できていない。

 ま、まあこれはこれで上出来だ。


「……何だ、煙幕のつもりか? それでどうしようというのだ」


 バシッ!


 煙幕の中から不意を突くように物が投げつけられる。

 しかし、先ほどと同じくコバンはそれを難なくキャッチしてしまった。


「煙幕ごときで我を不意打ちできると思ったか、まったくもって甘――」


 ドガッ!


 よし、今度はいい音だな。

 私の放った蹴りがコバンの顔面にクリーンヒットした。

 突然の強烈な一撃に、コバンは何が起きたのかわからずフラフラしている。


「き、貴様……いったいどこから……?」


 なあに、煙幕で動きを読まれないようにしてからミデットのポーチに入り、お前に向かって投げてもらっただけさ。

 周りから見れば足だけが急に出てきたように見えただろう。

 力の差を見せつけたいお前ならキャッチしてくれると思ったからな。

 身代わりの術とやらにミデットを使ってくれて助かったよ。


「さて、ちょっと遊ぼうか……プロレスごっこしない?」

「い、いや、ちょっと待って……」


 問答無用、さんざん逃げ回ってくれたぶんのお礼くらいはさせて欲しいな。

 私の関節技に合わせて心地よい叫びが響く。

 それにしてもこの忍者、忍者ってわりにはちょっと締め上げたくらいで音を上げ出したぞ。


「ま、まいった……カメラは渡すから……」


 技を解いてやるとコバンは懐からカメラを取り出し渡してきた。

 やっとの事でデジカメを押収できた、こんなに時間がかかるとは思わなかったな。


「おのれ……痛そうだから拷問に耐える修行をサボったのが仇となったか。だが、我はあきらめんぞ……いつかまた別のネタで……」


 その時、周囲がザワザワと騒がしくなった。

 どうやら騒ぎを聞いて規範生徒会が駆けつけてきたらしい。


「よお、誰かと思えばやっぱメルだったか。お前も忙しい奴だな」


 レムス……相変わらずでかいな。

 その後ろにはラシールとロレインもいる、規範生徒会全員集合といったところだな。

 大好きな主君様の出現に、さっきまでしょげていたコバンが目を輝かせて元気になっているが、周囲との温度差は激しい。


「んで、コバン、またお前か……」

「は、はい! レムスさま! ただいま規範生徒会に仇なす者を追っておりまして……」


 仇なす者って私の事か?

 こいつ、全く反省してないな。

 レムスもなんだか迷惑そうだし。


「お前がオレ達のために頑張ってくれてるのは知ってるよ、でもやり方が良くないだろ? それに、それはお前がオレ達のことを他人を晒し上げて喜ぶような人間だと思ってるって事だぜ?」

「う……、も、申し訳ございません……以後気をつけます」


 おいおい、お前の大好きな主君様にも迷惑がられてるじゃないか……。

 だがこれでもう付きまとわれることも無さそうだな。


 おっと、一応写真を確認しておくか。


「……?」


 これは……さっきエリザがジル達と話してた時の写真……か?

 私達の部屋にいるジル達は写っているが、エリザがお守りを外した瞬間だからなのかエリザの姿は写っていない。


「安心しろ、もうその証拠写真には用はない……好きにするがいい」

「いや、証拠と言われても何も写ってないじゃないか。これでどうするつもりだったんだ?」


 私の言葉にコバンは少し不思議そうな顔をしたが、しばらく考えた後何かに気付いたのか、デジカメをひったくると顔を赤くして走り去ってしまった。


 まさか何も写っていない写真を証拠だと言うつもりだったのか?

 自分は事情がわかっていても写真だけ見せられた奴には何も伝わらないだろうに。

 この忍者、他人を振り回すところはメディア向きと言えなくもない……かな。


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