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ようこそ学院生活

 人生何があるかわかったものじゃない、交通事故にあったりはしなくても、私にとっては生い立ちそのものがそう思える。

 でも、それはそういう事ではなく……その日、私は怪物に出会った。


 いつもと変わらない、くだらない日常。

 いつまでも続くように思えたそんな生活の中、不思議な雰囲気の女に話しかけられた。


「初めまして。えーと、尻尾のような長いおさげ髪に鋭い目つき、あなたは……メル・ディード、16歳、で間違いないかな? 今日から私があなたの事を預かることになったから、よろしくね」


 この女、若いんだか年なんだかわからない。

 格好も妙だし、何より私の名前を間違えている、関わらない方がよさそうだ。


「……人違いじゃないですか。あたしは奥里おくり 明瑠めるだから。それじゃ、さよなら」


 正直なところ、誰であっても私には関わってほしくない。

 私は養父母の愛情を感じられず、ほぼ家出状態でフラフラしているが、人にはそれぞれ理由というものがあるんだ。


「フフ、何も間違ってはいないわ。さあ、行きましょう」


 女が私の腕を掴む。

 その瞬間、背筋にザワザワとしたものが伝わり、それと同時に腕を掴んでいる女の手を力いっぱい弾き飛ばした。


 ……またやってしまった。


 フラフラと家出したりはするが、私はいわゆる『悪い事』は好きじゃない。

 でも、何故だか私の心は怒りに支配されやすく、少しの事でも歯止めが利かなくなることがしばしばある。


 さらに悪い事に、私は強かった。


 医者は稀にみる特異体質だと言っていたな……小娘らしからぬ身体能力を持っているせいで、クラスメートに大怪我をさせたことも、変に絡んできたチンピラ達を手ひどく痛めつけたこともある。

 そりゃあ、怒っていなくてもケンカっ早いのは認めるけど、だからこそ誰も私には関わらない方がいいんだ。


「あら、聞いてた通り荒っぽいのね。でも、それでこそ鍛えがいがあるってものよ」


 しつこい奴だな……あまり付きまとわれても困る、少し脅かして退散させようか。

 そんな事を考えながら女の方へ向き直る、だが、そこに女の姿はなかった。

 それどころか周囲の景色がまるで違う、というより私のほうがいつの間にかはるか上空へと投げ出されているのだ。


「うぉっ……なんだこれ!?」


 なすすべもなく私の体はロープの無いバンジージャンプのように地表へと向かって落下していく。

 凄まじい勢いで地面に叩きつけられるかと思った瞬間、あの女の顔が目の前に現れ、私の体は逆さの状態で空中に停止した。


「うふふ、凄いでしょ? 私の事は気軽に『先生』って呼んでね。それじゃあ行きましょうか」


 今のはなんだったんだ、私の理解を超えた現象に正直戸惑っている。

 それと同時に、この謎の女とファミレスに来ているという状況にも戸惑っている。


「おい、行きましょうってファミレスの事なのかよ」

「あなたの事を預かるって言ったでしょ、どうせなら親交を深めておこうと思ってね。それで、最近学校はどうなの?」


 お前は思春期の子供に接する親父か。

 ろくに行ってないからこうやって妙な女に捕まってるんだろうが。

 またザワザワと怒りが湧いてくるのを感じる。


「ふざけてんのか……!」


 目の前のコップを掴み、女に向かって水をぶちまけた。

 ……つもりだったのだが、掴んだはずのコップは私の手の中ではなく、元の位置に静かに置かれたままだった。

 確かに掴んでいたはずなのに。


「乱暴ねえ。若い子に話を合わせつつ、大人の威厳を保とうと頑張ってるんだから察して。……ところで持ち合わせある? 日本円忘れて来ちゃって、テヘッ」

「自分だけパフェ食べながら子供にたかって何が威厳だよ」

「そうよね……まあ、最悪政府から圧力かければいいか」


 政府とか言い出した、この女マジでヤバい。

 本能が一緒にいてはいけないと言っている、逃げねば!


「あら、どこに行くの?」

「お前のいない所だよ、バーカ!」


 その時すでに嫌な予感はしていた、もう2回も不思議な現象に出くわしていたから。

 そして今もまた。

 ファミレスの出口へと走ったはずの私の体は、席から数メートルも離れていない場所で、この怪しい女に頭を掴まれ吊り上げられていた。


「ぐっ、くそ……離せ……」

「もう、仕方ないんだから。それじゃあ……」


 女が何かつぶやくのが見え、私の意識はそこで途絶えた。


 それからどれくらいの時間が経ったのだろう。

 目を覚ますとそこはベッドの上、見知らぬ部屋に寝かされていたようだ。


「あっ、目を覚まされたのですね」


 声のする方を見ると、部屋の反対側にあるベッドに腰かけた少女がいる。

 年の頃は自分と同じくらいだが、育ちがいいのかちょっとトロそうな印象だ。


「はじめまして、わたくしは……エリザと申します。あなたと同じく、先生のご紹介で今日からこのサン・アルヴンに入学する事になりましたの」


 入学……? とすればここは何かの学校なのだろうか。

 あの得体の知れない女に連れてこられたのか? いずれにしろ、こんな所で寝てる場合じゃあない。

 急いでベッドから出ると、勢いそのままに部屋から飛び出した。


「あ、あの! どちらに向かわれるのか存じませんが、何か着たほうがよろしいと思います……」

「……げっ」


 気が付かなかったがパンイチだった、上も着ていない。

 慌ててドアを閉め、着るものを探す。


「これは……ここの制服か?」


 部屋中探してみたが服らしきものはこれだけだ。

 趣味じゃないが他に見当たらないので仕方がない、スカートはいまいち好きじゃないんだけどな。


 制服に着替え再び部屋の外に出ると、長い廊下に同じような部屋のドアが並んでいる……どうやらここは学生寮らしい。

 授業中なのか他に誰かいる様子はない、まあ、逃げるのだからそのほうが好都合か。


 そのまま外に出ると本校舎らしき古めかしい建物も見える、かなり大きい。

 思ったよりも敷地が広いので苦労したが、誰にも会わず正門までたどり着くことができた。


 しかし、どういうわけか正門より向こうは壁のように分厚い霧に覆われ全く先が見えない。

 確認したわけではないが、その霧の壁はどうやら敷地の周囲をぐるっと囲んでいるような感じだ。


 何か得体の知れない不気味さを感じたが他に道は無いし、とにかくこの霧の中を進んでいこう。



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