表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/71

ある日の田舎町

エキョウ。


 石造りの町が立ち並ぶこの小さな町は、コロア連合の一国、イマリ王国の北西部のラントク州にある。


 王都から離れたこの小さな町は、周辺の農村から集められた野菜が立ち並ぶ、週に一度の市の日にしか、賑わうことの無い、何処にでもある、田舎町である。


 王都から遠く離れた尾の街の住人は当然、国内情などに興味は無い。


 例え王都で、皇太子である、末の王子が何者かに襲われ行方知らずである事も、


 下から二番目の、王位継承権二位の、変わり者で知られる王子の婚期が遅れている事も、


 王が自室にこもり出て来なくなったことも、この町の住人にとっては関係無い。


 そんな事よりも他国から来た吟遊詩人の歌の方が気になるし、どこかの夫婦の痴話げんかの方が、噂に立つ。




 そんな小さな町で、昔ある母娘が噂になったことがあった。



 それは強い日差しが照り付ける夏の日の事だった。


 ある母娘が町に足を踏み入れた。


 暑い夏の日に、黒いローブを羽織り、木製の仮面をつけた二人は見るからに怪しい。


 皆が皆気味が悪がり、声を掛けようとする者は誰も居ない。


 嫌がる者はいても、止める者はおらず、その母娘は、町の市が立つ大通りから路地を二つ入った、日の当たらない、小さな貸部屋に住み着いた。


 普段は家から出て来ることは無く、市の日にだけ、小さな敷物の上に、手作りの木製の玩具を並べ、帰りに、食材と玩具の材料を買って帰る。


 気にはなるが誰も話しかけようとはせず、噂ばかりが町の中を飛び回っていた。



 その娘が今、エルフ十数人を相手に戦っていた。



 辺りに流れる血、繰り返し起きる巨大な竜巻、中から聞こえてくる悲鳴。


 騒ぎを聞きつけ集まってきた人々は、その真っ只中で、輝く球を無数に放つ、背の高く、金色の髪と耳が長い女性の美しい姿に息を飲み、目を奪われていた。


 常日頃深く被っている、黒色のフードはとうに切れていて、いつも隠れていた細くて白い顔も、大きな瞳も、露わになっている。


 大きな口の両端が釣り上がり、繰り返し聞こえてくる声は弾んでいる。


 集まった人々の頭の上を一本の矢が女性に目掛けて放たれるが、それは、彼女の起こした砂塵に阻まれ、小さな破裂音と共に砕けて、風に巻き上げられる。


 女性が、右手を矢の飛んできた方へとさし向けると、両手の間で新たに作られた光の玉が、一軒の屋根の上で、呆然としている人影にまとわりつく。


 人影は悲鳴を上げ、屋根から飛び降り駆けだすが既に遅かった。


 エルフの作る光球から逃れる術はない。


「しかし、それは奴も同じこと。腕の一本なら落としても構わないとのことだ、なんとしても奴を捕らえるのだ」


 司令官と思われる杖を掲げたエルフの叫び声を聞いて、彼を囲むエルフたちが両手の間を輝かせる。


 大岩一つを真っ二つにする切れ味を持った風に炎球、石礫。無数の魔法はまたも彼女の周囲で起こる砂塵に阻まれた。 


 パチリ。砂塵の中から音が鳴るといつの間にか、彼らを囲んでいた光球が日光に負けず、強い輝きを放つ。


 途端に彼らは凍りつき、勢いよく盛り上がった地面に弾かれて砕け散った。


 一方的な殺戮を続けた彼女は、その後、彼女を襲ったエルフ達が残っていないのを見ると倒れ伏せた。


 そこを、騒ぎを聞きつけて駆け付けて来た衛兵達に抑えられる。


 彼女は黒い布を被せられた鉄格子の馬車に乗せられ町の外へと運ばれて行った。


 王位継承権第二位にあった、下から二番目の王子シヨネの婚約と、即位の知らせが、この町にまで届いたのは、それから二年と半年後の事だった。


 王妃の名はノルア。

 

 出自は平民のハーフエルフであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ