人と魔女
更新まったりです。よろしくお願いします。
魔女狩りの歴史は始まってからまだ日が浅い。3年前の大規模魔術テロをきっかけに世界は研究機関と軍隊を除く一切の魔術根絶に躍起になっていた。魔女の発生の原因はまだ解明されていない。100人に1人の割合で産まれてくるという事までしか分かってないのだ。見つける方法も前時代的で、怪しい人間に虱潰しに吐かせて回るか、軍の管理下にある”千里眼の魔女”からの情報を待つかの2つしかない。最近、どうやら男の魔女もいるようで、近いうちに魔女とは別の名称が付けられるかもしれない。
「なぁ、ナカムラ。魔女って…いや、敵って何だろうな?」
「どうしたんだいきなり?俺に問われても答えは国を害するものとしか答えれないぞ。これでも公務員だからな」
「公務員ってのは発言権まで縛られるのか?難儀な仕事だな」
世間体ってやつだろう。もっとも凶悪犯罪者にされた俺にとっては世間体などなんの事やら。判決が出るより先にその疑いがかけられた時点で人間社会ではもう既に死んだも同然だ。俺を含む非正規ハンターをやってる奴は表向きには犯罪者が”世間の皆様申し訳ございません。忌まわしき魔女を駆逐するので許してください”っていう罪を軽くする為の口実に過ぎない。実際のところはろくに反省もせず、それどころか娑婆に出て好き放題やりたい奴ばかりだ。
非正規ハンターには必ず監視官がつけられる。正規のハンターと違い、非正規ハンターは犯罪者だ。故に任務の放棄及び逃亡が想定されているからだ。監視官は直接魔女を殺す事はしないが、権限の及ぶ限りバックアップを行うのが大半だ。そして権限の1つに任務の放棄、又は逃亡を企てた者の即時射殺が許可されている。
「軍より酷い職場環境なのに悪態ひとつ許されない職場だ。もう少し給料を増やして欲しいものだ」
「それは悪態とは違うのか?」
「これは労働者の正当な要望だ。問題ない」
「意外と基準がめちゃくちゃだな」
街中のビルに張り込みを始めてから3日。魔女容疑の対象には動きがない。イケメンスポーツ刈りのナカムラもさすがに疲労が顔に出てきていた。スコープの先に見える対象はまだ思春期のあどけなさを残す少女だった。
「あんくらいだとちょうど高等学生か」
「魔女とはいえ子供を殺めるのは心が痛む」
「ナカムラも人間みたいな感情があるんだな?」
疲れからかお互いにポロリと本音がこぼれたりする。まだ1年の付き合いしかないが、同じ釜の飯を食い、共に死地を越えてきた間には信頼と似た関係が築かれていた。
「世間じゃ魔女っていうおおまかな存在しか知らされてないからな。自分の子供が魔女として覚醒したらどうしようと悩む時がある」
その時はどのような対応をしたらいいのか分からないとナカムラは零した。完璧超人に見えるナカムラも葛藤に悩まされているのだ。もし、引き金を引けば父としての自分が壊れ、引かなければ国を守るものとしての自分が壊れる。両方をとることの出来ない自分の立場が嫌になる時があるようだ。
「動いたぞ。見た限りじゃ重力操作系みたいだな」
少女のからだを覆うように煌びやかな黒い粒子が舞う。どうやら冷蔵庫を持ち上げているみたいだ。
「証拠写真は撮った。仕留めろ」
言われるまでもないと俺は、如月 ユウキはずっと覗いていた狙撃銃の引き金を引いた。市街地執行用に用意された亜音速弾を発射する狙撃銃はサイレンサーとの相性が良く、工事現場が多少近くにあるならば銃声はまず聞こえない。
次にスコープに写ったものは僅かに血が飛び散った壁とその場に倒れ込み、胸部からドクドクと血が吹き出ている少女だったものだ。
「今回は随分と楽に終わったな」
「魔女と正面切って殺し合いをする事をしたがるのはごく一部の人間だ。お前も暴れたがりの元軍人とは違うだろ?」
「確かにそうだな」
撤収準備をしつつ雑談で気を紛らわす。魔女とはいえ奪っているのは紛うことなく命だ。これでよく軍人時代に生き残れたと思う。だが、体はまるでロボットのように淡々と仕事をこなしていくことが出来るのは繰り返された訓練と実践のお陰だろう。
ナカムラは携帯電話を取り出し報告を行っている。どこに電話をかけているのかは分からない。非正規ハンターは制限が多く、知らない事の方が多いのだ。
「ナカムラだ。C7、任務完了。処理班を回してくれ。ああ、お疲れ様」
「今日はもうあがりでいいのか?」
「そうだな。欠員も出ていないようだ。最近、欠員が出て無さすぎて少し気味が悪いな」
「こういう時は大抵が良くないことが起こる前兆だからな。俺たちも警戒を強めていくか」
「そうだな。正規ハンターを招集するほどの大規模抗争が起きないといいが」
2年前、ついに本格的に魔女狩りに乗り出した政府と過激派魔女集団による、戦争とも言える程の掃討作戦が実施された。非正規ハンター70組、正規ハンター60名の計200名の実戦部隊とそれを支援する陸軍参謀本部のバックアップを含め250名が参加した掃討作戦は1ヶ月に渡る戦闘は戦力の79%を失う苦勝に終わった。時期がズレていた為、ユウキ、ナカムラ共に参加はしていないが、他のハンターや監視官から当時の惨状をよく聞いていた。
突如、ナカムラの携帯電話が鳴り出す。嫌な予感がすると、嫌々電話をとったナカムラの表情は驚きとやっぱりかという納得の2つが混ざり合っていた。
「はい、こちらナカムラ。ええ、これから撤収の予定です。はい、車に用意してはあります。了解しました。了解伝えておきます」
「嫌な予感的中か?」
「ああ、15km先の埠頭で潜入捜査していた警察の危険性魔女対策課の連中が待ち伏せを食らって交戦中らしい。相手の数は不明、だが、最低でも5人は確認したそうだ。民間人の退避は完了済みたいだから強襲装備で警察の支援。並びに魔女の殲滅だ」
「警察の特殊部隊はどうしたんだ?」
「あっちも人手不足で今は麻薬組織の殲滅作戦でみんないないらしい」
人手不足は確かに仕方のないことだ。ここ10年もしないうちに大きなテロや戦争が次々と起こっては世界的にも人口は大きく減少している。それに追い討ちをかけるように魔女狩りもしているのだ。命のリスクが大きい仕事を喜んでやるやつはごく希だ。
「結果的に忙しい1日になりそうだ」
「全く、割に合わない仕事だ」
部屋を飛び出し、駆け足で車に向かう。外見は至って普通のセダンだが。内部には強化されたシャーシ、装甲を施してあり、ロケットランチャーが直撃しても1発だけなら中の人間を守れるようになっている。
「警戒車じゃなくて強襲車で来れば良かったな」
「恐らく上がOKしてくれないだろう。想定外の事態だからな。本当なら俺たちの管轄でもない仕事だ」
「発砲は?」
「もう許可が出てる。現場に到着し次第、持てる火力をもって殲滅だ」
「じゃあアレ撃っていいのか?」
アレとはハンターの中でも殺傷率と生還率の高い者、又は現役の軍人のみが所持、運用が許可されている50口径対戦車レールガンのR50ver.3だ。ver.3はハンター向けにカスタムされており、銃身が少し短く、銃床が折りたためるようになっている。
「構わんが榴弾は使うなよ。徹甲弾のみ使用を許可する」
「了解だ。ワクワクしてきたぜ」
話している間に乾いた銃声が聞こえ始める。大分近づいてきたようだ。無線機を警察とリンクさせる。不足の事態に備えてハンターと警察で連携を取れるための策だが、一応法律でしっかり義務化されている。
「こちら国営非正規ハンターのC7だ。応援にきた。生存者は応答してくれ」
『こちらは危険性魔女対策課の佐々木だ。応援感謝する。現在、交戦中だ数は約20人。こっちは3人やられて7人だ。抵抗が激しく劣勢だ』
「まずいんじゃないか?いくらR50使えてもこれじゃあな」
「しょうがない。上に確認を取ろう。もしもし、ナカムラです。R50の榴弾使用許可を。ええ、かなり厳しい状況です。はい、ありがとうございます」
ナカムラ曰く、5分耐えてくれれば軍部が即応部隊を寄越してくれるそうだ。ついでに榴弾の使用許可も出た。
まずは銃床にバッテリーユニットを装填する。1マガジン分の使用で激しく劣化する為、これは使い捨てだ。弾丸は榴弾を装填。装填数は5発。備え付けのCPUにモードを近接信管で入力する。
「ナカムラ。このまま1回奴らの前を通過してくれ、できる限り減らしてみる」
「了解だ。振り落とされるなよ」
窓から身を乗り出し、構える。放電ユニットに電力が送り込まれ、銃口から小さなスパークが出てきている。
撃ち合いをしている若干後ろを通り抜ける。僅かに見えた敵は3人。弾丸は目標に向かってまっすぐ飛んでいき、爆破の有効範囲内に獲物を捉えた瞬間に起爆した。だが、3人目に狙いを定めた瞬間にそれは起こった。車のフロントが突如爆破を起こしたのだ。考える間もなく車はコンテナに突っ込み停車した。身を乗り出していたユウキは当然、投げ出され、コンテナに叩きつけられる。
「クッソ、なんだ。魔法ってのは透明な地雷も作れるのかよ。ナカムラ無事か?」
すぐに起き上がろうとするが、左膝より下が動かない。恐らく骨が折れてる。
悲鳴をあげる全身に鞭を打ち、車からナカムラを引きずり出してコンテナの背後に隠れる。
「おい、ナカムラ!?返事をしろ、ナカムラ!!」
呼びかけをするが返事がない。脈、呼吸共に若干激しく、頭部から出血もある。本来ならすぐにでも病院に担ぎこみたいくらい重症だ。
時計を確認する。軍の即応部隊まで残り3分だ。ナカムラに応急処置を施している間に、次第に銃声が1つ、また1つと減っていく。奴らの気がこっちに向いてくるのは時間の問題だった。
「よし、これで少しはマシだ。待ってろナカムラ。少し仕事をしてくる」
相変わらず返事はないが、先ほどよりかは落ち着いて見える。コンテナに体を預けながら進んでいく。ミサイルのように飛んでいく火の玉が目に入る。まるで戦車の相手をさせられているような気分だ。
「俺も正直、帰りたいレベルなんだがなぁ」
自分もこの絶望的な状況を冷静に感じるために気の抜けた事を言ってみる。銃声は2つ、悲鳴も一緒に聞こえるあたり最早どうしようもないようだ
。
「だが、ここで逃げたらそれはそれで殺されちまうからな」
即応部隊まで残り2分25秒。生き残れば勝ち上がり確定のデスマッチが開戦した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「即応部隊に”彼ら”を使ってよろしかったでしょうか?」
「構わん。”彼ら”の性能テストには十分だ」
「ですが、未知数な所も多く危険かと」
「毒を以て毒を制す。とはよく言ったものだ。”彼ら”が我々の特効薬になる事を祈ろう」
「私は心配でなりません。アレは一歩間違えれば劇薬になりかねません」
陸軍参謀本部対魔女第1戦闘師団第1戦闘大隊司令室。まるでお経のように長い肩書きを持つこの部隊はナカムラの直属の上司であり、即応部隊の出動命令を出した場所でもある。
「対魔は我々の今持ちうる最強の切り札だ。ジョーカーをチラつかせれば相手は下手に勝負は仕掛けてこれまい」
「対魔女掃討分隊ですか。魔女の力をもって魔女を殺す部隊。国民が知ったら暴動が起きかねませんね」
対魔女掃討分隊は結成から約半年の新参部隊だが、既に特殊部隊と同等、又はそれ以上の実力に至るまで時間が掛からなかった。何故なら、部隊全員が魔女だからである。男6名女4名の一個分隊は既に一個大隊と渡り合える程の力があった。
「国家機密に指定されている部隊だからな。今回のような周囲に民間人がいない場所でないと使えん
よ」
「しかし、どうやって魔女を集めたのですか?」
「簡単だ。半殺しにして洗脳した。だが、ある3人は自らここに来たがな。そいつらは魔女の中でも和平派の中の過激派とでも言おうか」
魔女と人間の和平の為なら喜んで同族を殺すと言い張る連中だ。どの道狂人には変わらんよ。それならいっそ兵器として利用させれもらう魂胆だ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「畜生、こんな時にヒューズ飛びやがったな」
恐らく衝突の衝撃で過放電を起こして、ショートしてしまったのだろう。R50を隠れているコンテナに立てかけ、腰にぶら下げていたマシンピストルに持ち替える。状況はあるかに劣勢、さらに武装はマシンピストルと手榴弾3つのみ。
「遠慮なく行くぜ。まだまだ死ねないんでね!!」
パパパパパと銃声が1つ増える。見える限りでは7人。当初の20人に比べれば遥かに減っているが、相手の攻撃の手が緩む気配は全くない。まるでテレビゲームの詰みステージのようにこちらが消耗していく一方だ。航空支援なんて贅沢は今こそ欲しい時であるが、魔女相手にヘリコプターや戦闘なんて空飛ぶ的でしかないのだろう。
一瞬攻撃が止んだ隙をついて数発撃ち込むのを繰り返していくうちにマシンピストルの弾薬はあっという間に尽きてしまった。
「残りはグレネードとナイフだけか、いよいよ終わりも近いか・・・」
最早、銃声は1つも聞こえない。残るは手負いの自分と虫の息の相方のみ。手榴弾を投げ込もうと構えると、背後からヘリコプターの音が近づいてきた。
「ようやくお出ましか。もう少し遅かったら死んでたぞ俺」
車載の機関銃をばら撒くその姿はまるで英雄の登場のような安堵をもたらす。だが、同時に目を疑うような光景を目撃した。ヘリから放たれたのは2m程の氷の柱だ。本来は有り得ないその状況に言葉を失う。あれはなんなのか、そもそも味方なのか、奴らは一体どの組織なのか。絶えない疑問を振り払い、ナカムラの元に歩んでいく。本能的にアレは関わる事は危険だと感じたユウキはナカムラを引きずり更に離れた場所へと身を隠した。
「一体なんなんだ。アイツらは」
「少なくとも・・・敵では・・・ない」
「ナカムラ!?今は喋るな、容態が分からないんだ。傷に障るぞ」
ナカムラはゆっくりと頷き、ヘリを指さす。改めてヘリを見ると機体後方部にはしっかりと軍のエンブレムが施されてあった。だが、あのエンブレムには全く見覚えが無かった。軍のエンブレムは全て六角形の形をしており、上半分は部隊や部署に関係無く統一され、下半分が個々の部隊のマークや文字が施されている。あのエンブレムにはフードを被った死神が小さな死神の首に縄をかけ、持ち上げている。意味ありげで不吉の象徴とでも言いたげだ。
「あんな部隊知らないぞ。お前は知っているか?」
ナカムラも首を横に振る。気づけば銃声は止み、聞こえるのヘリの音と未だにテンポ早い鼓動だけだった。ヘリはすぐ側の空いたスペースに着陸し、乗員を次々と降ろして行く。
『こちら、陸軍参謀本部所属の対魔女掃討部隊だ。陸軍専用回線で発信している。生存者は応答せよ』
聞こえてきたのは若い男の声。ユウキと同じか、少し下と思われる。陸軍所属なら味方だと判断し、呼びかけに応じる。
「こちら非正規ハンターの如月 ユウキだ。ゲート近くの詰所裏で身を隠している。1名重体でこちも腕と足が折れていて動けない。救助を求める。」
『了解した。今そちらに3名向かわせる。待機していてくれ。間違って撃つなよ。どうぞ』
「こちらも了解だ。交信終了。ナカムラ、助けが来るぞ踏ん張れよ」
反応が薄い。恐らく内臓出血が酷いのだろう。失神寸前で留まっている様子だ。駆け足で近づく音が聞こえる。今さら気が付いたが折れた肩から血がどくどくと溢れてきている。恐らく、折れた衝撃で腕の骨が剥き出しになり、開放骨折というものだ。自らの怪我を自覚した途端、叫び声をあげたくなるような激痛に襲われる。開放骨折は中にはあまりの痛みに失神する人もいると言われている。アドレナリンの助けが引いてしまった今、ユウキもまともに動ける状態ではなかった。血液が噴水のように溢れ出てればもちろん、体温はどんどん下がっていき、意識も遠のいていく。
「救援対象を発見。これは酷い状態だな。ここじゃどうしようも無い。応急処置をして急いで運ぼう」
「「了解」」
「おい、聞こえるか?返事をしろ。ダメだ意識が弱い。そっちは運び出せ、恐らく内出血だろう。こっちは外傷が酷い」
服の肩の部分をハサミで切り取られ、粉状の止血剤をかけられる。ジンジンとしみる痛みに目が覚める。
「クソッ・・・いってぇな・・・」
「よし、そのまま起きてろよ」
「相棒は・・・無事なのか?」
「今、ヘリで衛生兵が見てるよ。心配するな。今は自分の心配をしろ。おい!!担架急げ!!」
「アンタらがいなかったら、俺は今後天国だな」
「冗談言うには少し早いな。よし、運べ」
ユウキは担架に乗せられ、ヘリに向かって運び出される。横になったお陰か少し楽になった。意識があるうちに色々と聞いておく事にした。
「アンタ、名前は?」
「俺は仙道 リュウジ。この部隊の隊長だ」
「俺は」
「知ってるよ。如月 ユウキ。陸軍じゃ少し有名だからな。アンタは現役時代に2.5km先の分屯基地にいた数十人全員を射殺した英雄ってね」
「それは偶然だ・・・」
その一言を言い終えるとユウキの意識はゆっくりと闇に落ちていった。




