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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
98/227

13 王城探索

 マーベル王国の王城は、地上五階建ての横長で直方体な中央棟の四隅に円柱の塔がくっついた形状をしている。

 中央の三階までの部分は身分などによって立ち入りに制限は有るものの、公共的なスペースがほとんどを占めている。

 残る四、五階のフロアは王家のプライベートエリアが大半を占めており、例外として身の回りの世話をする侍従達の生活エリアや客室等が用意されていた。


 城の四隅に有る円柱の塔は四人の領主に与えられた物であり、南西をノイマン男爵、南東をゴーマン男爵、北西をフォレスト伯爵、北東をエンマイヤー公爵が管理している。

 各塔は中央棟と同じ五階建てであるが、中央棟は屋根が有るのに対して各塔は屋上が見張り台になっている。

 どの塔も外壁に沿って内側に螺旋状の階段が通っており、その更に内側部分に円形の部屋が各階に用意されている構造だ。

 そして中央棟からのみ出入り出来るのであるが、それは三階までであり、それ以上の階へは塔の階段を利用するしか無い。

 そんな塔の一つ、ゴーマン男爵が管理する南東塔の最上階は、ノイマン男爵とフォレスト伯爵の軟禁場所となっていた。


 城の入口にある親衛隊詰所、今は守備隊詰所であるが、そこから南東塔へ至る途上でエミールは周囲を確認して革袋を胸に抱き、その口を緩める。

 すると何かが一瞬で革袋を飛び出し、天井に張り付いた。

 それは拳二つ分くらいの金属塊であったが、すぐに形状を薄く変化させ天井と見分けがつかなくなってしまった。


「エミール、もういいわよ」

「了解」


 小声の短いやり取りを済ませ、エミールは再び革袋を肩に下げて先へ進む。


 南東塔を警備するのはゴーマン騎士団の仕事である。

 エミールは塔一階の入口で面会許可の札を見せ、当直の騎士の案内で最上階へ向かう。


「あまり長い時間は遠慮してくれ……」

「分かりました」


 最上階に着き、規則と言うより個人の願望の様な言葉を掛けられ、エミールは短く笑顔で応じながら最上階の部屋へと入り、静かに扉を閉じながら人差し指を口元に立ててノイマン男爵とフォレスト伯爵を見る。

 二人は部屋の奥の簡素なテーブルセットに向かい合う様に腰掛けてエミールを見ていた。


「ノイマン騎士団のエミール・アドラーです。公爵閣下に許可を頂きましたので本の差し入れに参りました」

「お、おお……そうか、わざわざ済まないな。こちらに掛けたまえ」

「は。失礼します」


 エミールの仕草とセリフをすぐに察したノイマン男爵が返答し、手招く。

 入って来た扉を背に臆する事無くエミールは椅子に腰掛けると、声を絞る。


「すみません。本を口実に顔を覚えてもらおうという設定でして……」

「まぁ、我らが宰相閣下は欲深い奴が好きだからのう……」

「なに、後の扱いが楽だ、くらいにしか考えておらんだろう……」


 苦笑いするエミールに、やれやれといった感じで応じるノイマン男爵と不機嫌そうに呟くフォレスト伯爵。


 ノイマン男爵はやや小太りで温厚そうな六十代、フォレスト伯爵はやや細身の眼光鋭い七十代である。

 二人共、現国王が幼い時から頼りにしており、友であり教師とも言える存在であった。

 そんな二人とエミールは、何かとエミールを頼りにしている副団長のハンスのお蔭で随分と前から見知った間柄なのであった。


「で、お前さんが来たという事は何か有ったのかね?」

「はい。その前に紹介したい人物が居るのです……いいですか、声は出さないで下さいね? その人物とは妖精なのです……」


 声を潜めた男爵の問いに、エミールは机に大きく身を乗り出す様にして本題を切り出し、釣られる様に二人も顔を近づけ、怪訝な表情で顔を見合わせた。


 そんな二人を置いてエミールが革袋の口を開き、口の部分を机の上に乗せる。

 すると革袋の口の端を内側から小さな手が掴み、恐る恐る、という感じでそっとココアが顔を覗かせた。


「「――ッ!?」」


 大きく目を見開くノイマン男爵とフォレスト伯爵は、そのまま顔を見合わせて再びココアへと視線を戻した。


「初めまして。ココアと申しますぅ……よろしくお願いしますぅ……」

「ほぉ、これはこれは。ロイス・エイムズ・ノイマンです」

「わしは、グレッグ・ソーン・フォレストだ……よろしく、可愛いお嬢さん」


 革袋の口から二人の前に歩み出てちょこんとお辞儀するココアに、老人二人が可愛い孫でも見るかの様な笑顔になっている。

 特に普段から強面で知られるフォレスト伯爵の笑顔に、エミールの口元が引き攣っている。


 その後、エミールとココアから小声でこれまでの経緯と今後のココアの予定が説明され、二人が納得したのを見てエミールが席を立つ。


「では、私はこれで。あまり長居もできませんので。まだ暫くは不自由をお掛けしますが、何卒ご容赦を……」

「なに、気にする事は無い。わしはここで昼寝するだけだ」

「その通り。お主らはお主らの成すべき事に専念するが良い」

「エミール、ここまでありがとう!」

「はい。では失礼致します」


 頭を下げるエミールに、ノイマン男爵とフォレスト伯爵の気負わせまいとする言葉とココアの感謝の言葉が掛けられ、エミールは笑顔で再び頭を下げて部屋を去って行った。


「で、どんな具合だね?」


 エミールを見届け、ノイマン男爵が元の半分程の大きさになった箱に腰掛けるココアに問い掛ける。


「どこも要所には数名ずつ見張りが居る様ですけど……エルナダ軍が見当たらないですぅ……」


 腰掛けた箱に座ったまま、ココアはノイマン男爵を困り顔で見上げた。

 ココアは中央棟一階の天井に金属塊を射出した時から今も尚、並列処理により金属塊を様々な形態で分散させて城内を隈なく調べているのである。


 見た目は可愛らしく振舞っているココアであるが、その能力はまさにリュウが魔王城で思っていた様に反則の一言に尽きるのであった。


「我らもここに拘束されてからは、何も分からんからのう……ううむ……」

「ひょっとすると、北棟かも知れんぞ……」

「北棟……ですかぁ?」


 ノイマン男爵が顎をさすりながら唸る中、フォレスト伯爵には思い当たる所が有った様で、ココアは首を傾げて伯爵を見上げた。


「城の北側には使われなくなって久しい侍従達の住居棟が有る。倉庫も含めれば二百人くらいは入れるだろう……」

「本当ですか! 早速調べてみますぅ!」


 そしてフォレスト伯爵の説明に、ココアは嬉しそうに調査を再開する。










 北棟は木造の二階建ての屋敷に大きな倉庫が隣接しており、倉庫の屋根をぶち抜いて石造りの三階建ての塔が立てられている、風変わりな建物であった。


 ココアは城内に分散させた人工細胞を外壁の僅かな隙間から城の北面外側に移動させ、様々な角度から北棟を観察していた。

 そして屋敷の窓の向こうに、エルナダ兵の姿を発見する。


「うふ、見ぃつけた……フォレスト伯爵の言う通りでした!」

「そうかそうか。では行くのかの?」


 嬉しそうなココアの笑顔にフォレスト伯爵も破顔して出発を尋ねる。


「はい。お城の中はあと少しで全部見終わりますし、北棟を調べたら公爵領へと向かいます」

「北の山には注意せんといかんぞ? ファラゴという魔獣が出るからの……」


 そして出発を肯定するココアにノイマン男爵が心配そうに声を掛けた。


「どんな魔獣ですかぁ?」

「火を操るヒョウでな……山から下りる事は無いが、鉱夫が襲われる事がある」

「とは言え、ファラゴは山の小動物を追っているだけ……人を好んで襲ったりはせんよ……ココア嬢ちゃんは可愛いからの、逆に懐かれるかも知れんて……」


 ココアの問いに声を潜めて説明するノイマン男爵と補足するフォレスト伯爵であるが、最後に伯爵は目尻を下げて冗談めかして笑う。


「笑い事じゃないですぞ、伯爵……いい加減な事を言ってココア嬢に万が一の事でも有ったらどうするんです……」

「なに、こういう時は過度に緊張するより多少心にゆとりを持つ方が良いのだ」

「しかしですな――」


 やれやれと伯爵に苦言を呈するノイマン男爵と、柳に風と受け流して言い返すフォレスト伯爵。

 そんな言い合いになりそうな彼らのやり取りを、ココアの元気な声が止める。


「ありがとうございます男爵様ぁ、伯爵様ぁ。お二人のお気遣いを無駄にしない為にもココア頑張りますぅ!」


 笑顔でぺこりと頭を下げるココア。

 途端に顔を綻ばせて頷く二人。


「では、見張りを遠ざけに行くか……」

「あ、それには及びませんよ、男爵様ぁ。ここの壁は隙間だらけなので!」

「隙間……」

「だらけ?」


 そしてノイマン男爵が立ち上がろうとするのを留めるココアの言葉に、二人は顔を見合わせ、ココアを見て目を見開く。


 ココアが座っていた金属の箱が端から溶け出し、液体となって机の端へと流れ出したからだ。

 銀色の液体は机の端から零れるかと思いきや、天板の裏、脚を伝い生物の様に床を流れ進んで行く。

 そして石積みの壁に辿り着いた銀色の液体は、そのまま石積みの隙間に消えて行き、後に続いていたココアはそこで二人に振り返る。


「あっという間に……」

「消えてしもうた……」


 ぽかんと口を開ける二人に、クスクスと笑うココア。

 彼らにとっては密閉されているかの様な石壁も、ココアにとっては障害にすらならないのだから当然なのであるが。


「ココアは金属の精ですからねぇ。では男爵様、伯爵様、失礼致しますぅ」


 再び二人にペコリとお辞儀すると、ココアはあっという間に壁の隙間へと姿を消してしまった。


「凄いものを見ましたな……伯……」

「長生きはするもんだのう……ロイス……」


 ココアが消えた壁を見つめ、二人は互いにぽつりと呟く。

 彼らもエミール同様に、ココアの出現に変化の訪れを期待せずにはいられないのであった。

やってる事は重要なはずなのに、のんびりムードで締まらない…

ミルクやココアでスパイ物書いても緊張感を出せる気がしない(笑)


よろしければ一言でも構いませんので感想等頂けると有難いです。

別に過去話の感想でも全然構いません。

よろしくお願い致します。


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