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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
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05 問題解決に向けて

「本当にそんな事が!?」

「はい。ミルク達とは離れていても連絡が取れるので……獲物に気付かれずに接近できます。後は皆さんがミルク達の誘導に従ってもらえれば、効率よく狩ができるかと……」


 ゼノに呼ばれた狩猟隊のリーダー、ロブはリュウ達の説明を聞いて驚くのだが、効率よく狩ができると言われて困った表情になった。


「いや、だが……狩猟隊と言っても我々は狩猟経験者なだけで、弓や罠等の道具が有る訳ではないんだ。昨日、散開して鹿を包囲して野営地へ追い込もうとしたんだが、一頭を仕留めただけで残りには逃げられてしまったんだ……」


 ロブはゼノに頼まれて狩猟隊を編成し食料の確保を試みてはいたが、道具も無く見知らぬ森という状況ではそれくらいしか方法を思いつかなかった。

 数頭の鹿を見付けたのも単なる偶然であり、連携が上手く機能しなかった為に、一頭を除き他は取り逃がしてしまった。

 確保した一頭も幸運が味方してくれただけの事であり、次も同じ結果を得られるとはロブ自身思えなかったのであった。


「そうですか……ではその時、狩猟隊の皆さんに弓矢が有ればどうでしたか?」

「え……そりゃあ、確実に数頭は仕留めていたと思うが……」


 そんなロブにミルクが仮定の話を振ると、ロブは困惑しながらもその時の状況を思い出して答えた。


「では、皆さんの弓矢など準備を進めていいですか? ご主人様」

「うん。ミルクに任せるよ……俺も狩は素人だしな……」


 ロブの答えにミルクがリュウに確認を取ると、リュウはあっさりとそれを了承する。


 その後、狩猟班の剣がミルクとココアによって弓矢に変えられ、皆の驚きが覚めやらぬ中、打ち合わせが行われた。

 因みに弓矢は狩猟隊の剣から小型の弓が作られ、矢はその余剰分で数本ずつ用意されており、紛失を想定して発信機が内蔵されている念の入り様である。


「それではご主人様、行ってきますね!」

「大物を見付けてきますね!」

「頼むぞ~。気を付けてな~」


 リュウから人工細胞を補充したミルクとココアは、普段よりも倍ほどの大きさになって笑顔で手を振りながら森の中へと消えて行った。

 ミルクとココアはどれ程の探索範囲になるかが不明な為に、所々に自身の体から通信機を木々に設置しながらミルクは南から西へ、ココアは北から西へ向かうのである。


「さ、発見の報告まではまだ時間があるでしょう。今の内に弓矢に慣れておいて下さい」

「あ、ああ……そうだな……」


 ミルク達を見届けリュウがロブに声を掛けると、ロブ達狩猟隊の面々は漸く我に返ったのか、ぞろぞろと野営地の外れに向かい、弓矢の試し撃ちを始めた。


「何だこれは……扱い易い! 威力もだが、狙い通りに撃てるぞ!」

「本当だ! たったこれだけの工夫で……信じられん!」


 試し撃ちを始めた面々から驚きの声が上がる。

 ミルク達はロブから普段使う弓矢の形状を聞き、その文明レベルを維持しつつ、命中精度と威力を上げていたのだ。


 彼らの言う工夫とは弓の中央に有る二つの輪っかと、矢を番える弦の部分が赤く色分けしてある事と、矢は先端が重く鋭利なだけの何の飾り気もない、ただの棒である事だった。

 右利きの場合、左手で弓を持ち、弓の右側の輪っかに矢を通して弦の赤い部分に矢を番え、弓の左側の輪っかの中に目標を捉えて撃つだけなのである。

 ただのそれだけで個人差や目標までの距離による補正が必要なものの、矢は目標から大きく外れる事無く的を射抜くのだ。


「こんな凄い物は初めて見た。これなら撃ち漏らしする方が難しいぞ……」

「気に入って貰えて良かったです……あとは獲物発見の報告を待つだけですね」


 即席の木で(こしら)えた的を射抜いたロブが興奮気味に呟くと、隣で見ていたリュウは安堵の笑みを溢した。


「今度は何の集まりだ? 随分と楽しそうだな?」


 その場に掛けられた声に、辺りがふっと静かになった。

 だがリュウは訝しみはしない。

 その声がレオン王子のものだと、すぐに思い出せたからだ。


「これはレオン様。度々お騒がせして――」

「良いんだゼノ。天幕の中は(はなは)だ退屈でな……で、どういう事なんだ?」

「は、実は――」


 ゼノが頭を下げようとすると、レオンは片手を上げてそれを制し訳を尋ねた。

 そこにロブも加わってレオンにあれこれと説明を始める。


「やはりまたお前か、リュウ……どれ、貸してみろ」


 説明を聞き終えたレオンはリュウに苦笑いの様な表情を向け、傍にいた狩猟隊の一人から弓矢を受け取った。

 暫しその弓矢を眺めていたレオンは弓に矢を番えると、練習に使っていた的に向けて矢を放った。


「お見事です、レオン様」


 矢が見事に的を射て、ロブがレオンに賛辞を贈る。


「なるほど……これは扱い易い。妖精とは凄い力を持っているのだな……よし、私も狩猟隊に同行する」


 レオンは左手に持つ弓をしげしげと見つめると感嘆の言葉を漏らし、その場で宣言する。


「殿下、それはお待ち頂けませんか?」

「いや、決めた。それで怪我をしても文句など言わん。私の腕はお前も認めているだろう?」


 すかさずロブが困り顔で宣言の撤回を求めるが、レオンの意志は固い様だ。


「それはもう。ですが、この森は我らも初めて。リュウによると我らの知らぬ魔獣が出るとか……万一の事を考えますと――」

「リュウ、お前も私の同行には反対か?」


 それでも更に危険性を訴えるロブなのだが、レオンは聞く耳を持たぬとでも言う様に言葉を遮ってリュウに問い掛けた。


「え、いや、良いんじゃないですか? 王子様だからとあれもダメ、これもダメと言われたら息が詰まりますよね?」

「そ、そうなのだ! よし、決定だ! 私は絶対に行くからな!」


 突然話を振られたリュウは一瞬きょとんとしたが、レオンの堅苦しそうな立場に深く考えもせずに同情した事で、レオンは心底嬉しそうに改めて宣言した。

 まるで最大の理解者を得たかの様に目を輝かせるレオンだが、その周囲に居る親衛隊の面々にジト目を向けられてリュウは目を泳がせていた。

 ミルクというブレーキが無いと、慎重さが大幅に下がるリュウなのである。


「どこに行くんですの? お兄様」


 そんな中、新たな声がその場に掛かり、狩猟隊をかき分けてどう見てもお姫様という少女が現れる。

 彼女はサフィア・クライン・マーベル第二王女、十四才の王家の末娘である。


「む、サフィアか……なに、少しばかり狩に行くのだ……」

「そんな! 私も連れて行って下さい!」


 知られたくなかったのか、レオンが眉を下げてぼそりと答えるとサフィアは目を丸くして同行を願った。

 どうやらレオンはこうなる事を見越していたのだろう。


「いや、この森は出会いの森とは勝手が違う。何が起こるか分からんのだ」

「でも、お兄様は行かれるのでしょう? だったら私も行きます!」


 レオンは今しがた自分が言われた事をサフィアに言い聞かせるのだが、血は争えないというべきか、サフィアは聞く耳を持たない。

 周りの面々が肩を落とすレオンに生暖かい目を向けている。


「リュウ、どう思う?」

「えっ、いやぁ……どう見ても本人は行きたそうですけど……もし事故が起こった場合、自己責任で済むんですか?」


 やれやれ、といった感じのレオンに尋ねられ、さすがに今度はリュウも言葉を選んだが、ゼノはとんでもないと声を上げる。


「そんな訳には行かんぞ、リュウ。そんな事になれば私に隊長の資格など無い」

「大袈裟よ、ゼノ! そう、あなたがチコを倒したリュウね! お兄様から聞いてるわ。あなたが私を守りなさい!」


 だが、サフィアはゼノを一喝すると目を輝かせてリュウに向かい、護衛する様に命じた。


「はぁ!?」

「あなたもの凄く強いんでしょ? あなたでさえ私を守れなければ誰も文句は言わないし、言わせないわ!」


 素っ頓狂な声を上げるリュウに、サフィアは腰に両手を当ててふんぞり返る。


「いや、ちょっと待って。俺はみんなとは別行動で――」

「そんなの認めないわ! 私だけ仲間外れにするつもり!?」


 そして説明しようとするリュウを遮り憤慨するサフィアであったが、その瞳がうっすらと涙で滲んでいた為に、リュウは困りながらもある決断をする。


「え~……分かった! とりあえず、ちょっと待って!」

「何よ!」

「いいから! ちょっと待つ! な?」

「……」


 待てと言うリュウにまたも憤慨しかけるサフィアであるが、リュウに怒鳴られて口を噤んだ。


『ミルク、ココア、聞こえるか?』

『はい、ご主人様。どうされましたか?』

『ばっちり聞こえますよ、ご主人様ぁ』

『ちょっと予定通りに行かなくなった……実は――』


 リュウはサフィアに背を向けると脳内会話でミルクとココアに呼び掛け、事情を説明する。


『そうですか……何だか断り辛そうな状況なんですね?』

『あ~、うん……』


 ミルクがリュウの口調と内容から状況を推測し尋ねると、リュウは済まなそうに返事する。


『分かりました。では……狩猟隊を二つに分けて一班から三班は南ルートに、四班から六班は打ち合わせ通りに北ルートに、ご主人様は王女様の歩き易い北ルートに付いてあげて下さい』

『すまん、助かる……』


 そんなリュウにミルクが明るい声で当初の計画を変更して指示を出し、リュウはほっと胸を撫で下ろした。

 因みに、当初は狩猟隊が北に展開し、リュウが一人で獲物を追い込むという、リュウの能力をフル活用する案であった。


『ご主人様ぁ、姉さまに後でチューしてあげて下さいね?』

『コココ、ココア! な、何言って――』


 そして悪戯っぽいココアの提案にミルクが慌てて叫んだかと思うと、脳内会話は途切れてしまった。

 リュウは、それまではきはきと話していたミルクの慌てる声にクスッと笑うと、サフィア達に向き直る。


「えっと……ミルク達の了解を得られたので、王女様は俺が護衛します……なので王女様は動きやすい服装に着替えて来て下さい」

「本当ね! 分かったわ、すぐに支度して来るから!」


 リュウがどんな回答をするのかと不安そうな、それでいて怒った様な複雑な顔をしていたサフィアだったが、リュウの言葉にパッと表情を明るくし、満面の笑みで天幕へと駆け戻って行った。


「おい、リュウ……大丈夫なのか?」

「ま、何とかします……それより、今の内に計画の変更を伝えますので集まって下さい」


 サフィアが去るのを見届けてゼノに不安そうに尋ねられ、リュウは肩を竦めて答えると、狩猟隊を集める。


「先程の打ち合わせの案を変更して隊を二つに分けます。ロブさんの一班から三班までは南ルート、四班から六班は当初の予定通り北ルートで向かいます」


 三十人居る狩猟隊は五人ずつ六班に分けられていた。

 それを当初はココアが各班の長に指示を出して配置し、ミルクの誘導でリュウが追い込む作戦であった。

 それならば、群れが多くてもリュウ一人で数を減らしながら、狩猟隊にも面子を保たせる事ができる、というミルクの計画だったのだ。

 だがそれは廃案になった為、ミルクとココアで三班ずつ面倒を見る事にしたのである。


「分かった。だが、レオン様とサフィア様はどの様に?」

「四班に俺も含めて入ります。弓矢が足りなくなるので……どなたか済みませんが二人抜けてもらう事になりますけど……なので四班だけ六人になります」

「なるほど。では済まんが……エイブとリックはレオン様とサフィア様と交代だ。ヘイルはリュウと班長を代わってくれ」

「いえ、俺は単独で動く事も有るので、代わるのならレオン王子に……」


 各班の編成を済ませると、ロブは四班の班長であったヘイルに交代を促したが、リュウは自身の役回りを考えてレオンに話を振った。

 だがそれはレオンをなるべく危険から遠ざけたいロブと傍で聞いていたゼノからジト目を頂戴する羽目になり、リュウは再び目を泳がせるのだった。


「よし、私が代わろう。だが、これは何だ?」


 そんな事には気付かず、レオンはヘイルから受け取った物について尋ねる。

 それは各班の班長に一つずつミルクが用意したヘッドセットであった。

 普段、文明レベルを気にしているミルクだが、今回はある程度の連携が必要だと仕方なく用意したのだ。


「それを頭に付けていれば、ミルクやココアと連絡が取れるんです。レオン王子はココアからの指示を聞いて、皆を連れてもらう事になります」

「なるほど……便利そうだな。少し試しても構わんか?」

「いいですよ……」

『ココア、ちょっと良いか? 四班の班長がレオン王子に変更になった。少し王子と通信してみてくれ』


 リュウがヘッドセットの説明をすると、興味を引かれたレオンは試用を尋ね、リュウはココアに連絡を取ると事情を話す。


「む、コ、ココアか……うむ、良く聞こえる。その、よろしく頼む……」


 すると早速ココアから連絡が入った様で、レオンは少し顔を赤らめて少し話して通信を終えた。


「なるほど、これは凄いな。エルナダ軍もこうやって連携を取っているのだな」

「そういう事ですね……」


 そしてレオンはエルナダ軍の兵士達も似た様な物を頭に付けていた事を想い出して悔しそうな表情を覗かせ、リュウは同情するものの短く答えるに留めた。

 それは心情的には手助けをしたいと思っても、自身の目的すら見通しが不明確な現状では軽々しく協力を約束出来なかったからである。


「ま、皆さんが城を取り戻すにしろ、何にしろ、先ずは獲物を仕留めない事には話になりません……まだミルク達から連絡は来ないでしょうから、練習でもして待ちましょう!」


 重くなりかけた空気を払う様に、リュウは努めて明るい声を出した。


「そうだな、よし! もっと的を遠くしてくれ! リュウ、お前も付き合え!」


 そんなリュウを見てレオンは何か言い掛けたのを飲み込み、同く明るい声で新たな弓矢の練習を皆と共に始めるのだった。

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