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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
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04 直面する問題

 食事を済ませ、リュウは改めてゼノや数人の部下達と顔を突き合わせていた。


「エルナダ軍が魔人族の都に?」

「はい。連中が襲ってきたお蔭……と言っていいのかな、それで俺は消えた仲間がこっちに居るかもとやって来た訳なんです」


 リュウは質問攻めにされたが、ゼノ達が深くは詮索しない事もあって比較的楽に説明を終えていた。

 今はこれまでの動向を答えている終盤である。

 因みにアイスは、アマンダに別の場所で果物とお茶をご馳走になっている。


「それで、エルナダ軍はどうしたんだ?」

「え~、全滅しました……」

「何だって!?」

「いやぁ、本当は先行してきた部隊の一人をとっ捕まえて情報を得ようとしたんですけど、後続部隊にその捕虜を狙撃されて、その部隊は事故で山が崩れて……他にも森で魔獣に襲われたりして生き残った者はいませんね……」

「なんと……」


 皆が絶句する中、リュウはポリポリと頬を掻いていた。

 肝心な所を言ってはいないが嘘も言っていない、という訳だが、少々ばつが悪い様である。


「そんな訳で、こっちに来たのは初めてなんです。ですので、分かる範囲で構わないんでマーベル王国やエルナダ軍の事を教えて貰えると助かります」

「ふむ、それは構わんが……我々も城を出て十三日……今は城がどうなっているのかなど、見当が付かん。それでも、各領地の事などは教えられよう……」

「そう言えば、城を追われた……とか言ってましたね……」

「レオン様はそう言っておられたが……王家暗殺の動きが有ってな、脱出せざるを得なかったのだ。如何に我々と言えども、エルナダ軍を相手にする事は出来ぬからな……」


 そうしてリュウは、ゼノから色々と教えて貰う事となる。

 ただ、リュウ自身が一度に全てを覚えるのには無理が有る為、ミルクとココアがしっかりとサポートしてくれていた。


 その後リュウは予備の天幕を貸し与えられ、皆に礼を告げるとアイスと共に天幕へと入って行くのだった。


「一時はどうなる事かと思いましたけど、結果的には上々ですね、ご主人様」


 リュウの体内から人工細胞を引っ張り出しながら、ミルクがリュウに笑顔を向ける。

 ミルクとココアは人工細胞を使って、床に弾力性のあるマットを作成中なのだ。


「ほんとになぁ……食いしん坊に置いて行かれるわ、見つけたと思ったら襲い掛かられるわ、一晩で覚える事が多すぎるわ……凄え疲れたわ……」

「あうぅ……」


 リュウはその様子を見ながら苦笑いを浮かべ、隣りにちょこんと座るアイスは返す言葉が見つからず、しゅーんと小さくなった。


「アイス様ぁ、もうご主人様も怒ってませんよ……さ、マット完成ですぅ!」

「お~、ふわふわだな……ほらアイス、もう反省したんだろ? 寝んぞ?」


 そんなアイスを宥めるココアがマットの完成を告げると、リュウはその完成度に満足しつつ、アイスを促してごろんと横になった。


「う、うん……」


 それでもアイスはリュウの機嫌を気にしているのか、リュウの横に寝そべると控え目にリュウの左腕を掴む。


「おい、アイス……そんなちょこっとだけ掴むなよ……頼りないだろ?」

「え……う、うん!」


 だが、リュウにダメ出しされると、アイスは嬉しそうにリュウの左腕をぎゅっと両腕に抱く。

 そしてミルクとココアがリュウの胸の上にふわりと寝そべる。


「とりあえず今日はもう寝て、情報の整理は明日だ……おやすみ」


 そう言って目を閉じたリュウは、何を考える間もなく深い眠りに落ちていくのであった。










 一夜明け、リュウが目覚めると天幕の中にはリュウ一人であった。

 天幕の外では明るい声が行き交っており、釣られる様にリュウはのそのそと外へ出る。


「アイスちゃん、お代わり頼むよ!」

「はーい!」

「こっちにも頼むよ、アイスちゃん!」

「はーい!」


 リュウが外へ出ると、そこら中に七、八人で車座に座る騎士達の間をアイスがお盆を持ってちょこちょことせわしなく動き回り、その後をミルクとココアが付いて回っている。

 どうやらアイスは給仕のお手伝いをしている様で、にこにこと何だか嬉しそうであり、それを見る騎士達もデレッと表情が崩れている。


「あら、起きたのね。おはよう。疲れは取れた?」

「あ、おはようございます……」


 ボケーッと突っ立ってその様子を眺めていたリュウは、ネラに声を掛けられて慌てて挨拶を返した。


「凄いわね、アイスちゃん! 昨日も可愛いとは思ってたけど、朝見たら天使かと思っちゃったわ! それにお手伝いまでしてくれて、本当に良い子ね!」

「お蔭で連中のあんなだらしのない姿を初めて見たわ……」

「あ、はは……」


 そこへアマンダがやって来て興奮した様にアイスを褒めると、ネラは腑抜けた身内に呆れており、リュウはポリポリと鼻を掻いた。


「そこの裏に水瓶が有るから、顔を洗っていらっしゃい。すぐに食事よ」

「はい、分かりました」


 そしてネラに促されて、リュウは顔を洗いに向かうのだった。










 食事を済ませたリュウは、天幕に戻り今後の方針を話し合っていた。


「折角ざっくりだけど情報貰ったのになぁ……旅人に扮してって厳しいか?」

「国王が見つかっていない現状では、地方領にも監視の目が光っているかと」

「けどさ、ここは日本じゃないんだから監視カメラが有る訳じゃないし騎士の格好した連中さえ気を付けていれば何とかなるんじゃね?」

「町や村の人達だって分かりませんよ? 懸賞金でも掛けられていたら、見た事の無い人だってだけでも通報されそうですぅ……」

「そんなんじゃ、メシも落ち着いて食えねえな……」


 だが、クーデターが起こった今となっては、リュウにもミルクとココアの懸念が十分に理解でき、リュウは俯き気味にう~ん、と考え込む。

 リュウにくっつく様に座るアイスは、そんなリュウに少しでも力になれたら、とリュウの顔を覗き込む様に口を開く。


「あのね、リュウ。アイスが――」

「却下……」

「まだ何も言ってないよう!」


 だがアイスの言葉は俯くまま呆れた視線を投げかけるリュウによって素っ気なく却下されてしまい、アイスは目を真ん丸にして憤慨した。


「アイス、お前は目立ち過ぎる。単独行動は禁止」

「あう……」


 だがリュウに理由を説明されると、アイスはしょんぼりと項垂れた。

 どうやらリュウの懸念は図星だった様だ。


「ア、アイス様は美し過ぎますからね! 色んな男の人に声を掛けられて、調査どころじゃなくなっちゃいますよ……」

「そうですよぅ! 悪い人にエッチな事されちゃいますぅ!」

「え……そんなのヤダぁ……」


 しょんぼりするアイスをミルクとココアが慌ててフォローすると、アイスは露骨に嫌な顔をして、リュウの腕にしがみついた。


「だ、だからご主人様もそんな事にならない様に許可なさらないんですよ……」

「アイス様を大事に思ってらっしゃるんですよ!」

「えへ……リュウぅ……」


 そして続くミルクとココアの言葉に乗せられたアイスに甘えられると、リュウもさすがに顔が緩んでしまうのだった。


 そんな中、リュウ達は外の騒がしさに気が付いた。


「ん? 何かあったのかな?」


 なのでリュウが様子を見に天幕の外に出ようとすると、アイスはリュウの左腕にミルクとココアはそれぞれリュウの肩にと、すかさずそれぞれの居場所へと落ち着くのであった。










 リュウ達が外へ出ると、リュウ達の天幕から程近いアマンダ達が調理場に使っている所で、何人かが深刻そうな顔をして集まっていた。


「物資が届かないって本当なの!?」

「ああ。もうノイマン男爵領も公爵の手に落ちてしまったんだ……街道はノイマン騎士団によって封鎖されていて、怪しい動きは取れねえんだよ……」


 アマンダの驚きの声に、農夫の様な格好をした男が答えている。


「じゃあ、ノイマン男爵が裏切ったって言うの!?」

「そうじゃねえ。男爵は王城で拘束されたらしい。ノイマン騎士団は男爵の命を盾に取られて言いなりになっちまったんだ……」

「伯爵は? フォレスト伯爵はどうなっているの?」

「一緒だよ……男爵と同じく騎士団は言いなりさ……」

「なんて事……」


 アマンダは他にも色々と男に質問していたが、男の答えに言葉を失ってしまっていた。


「だけどコグニーさん、よくここまで来られたわね……助かるわ……」

「ああ……俺はヤバいと思って一旦東に向かってから、ノイマン領の南を迂回して来たんだよ……お蔭で随分時間が掛かっちまったが……」


 代わってネラがそんな状況の中で情報をもたらしてくれた男、コグニーに感謝を述べると、コグニーは苦笑いを浮かべた。


「出会いの森を抜ける羽目になったのか……よく無事だったな、コグニー」

「お蔭で貴重な肉を囮にせざるを得なかったんですがね……」

「では物資は……」

「なんとか米だけ……それでも切りつめて二日が限界で……面目ない……」

「そうか……」


 そしてゼノにも労いの言葉を掛けられるコグニーは、肩を竦めて事情を説明すると、皆を落胆させる結果を詫びるのだった。


 コグニーは城に出入りする商人の一人であり、隊長のゼノとは古くからの知り合いであった。

 彼はゼノから王家暗殺の動きを聞かされ、物資の手配を依頼されていた。

 だが彼が言った様に街道は封鎖され、ノイマン男爵領への物資搬入以外の動きは出来ず、大きく男爵領を迂回して出会いの森と呼ばれる難所を抜けて来たのであった。


 出会いの森とは大森林とは比較にならぬ小ささではあるものの、野生動物が豊富で肉食獣も多数存在する。

 ハンティングも行われてはいるが、それは男爵領に面した北側の一部分であり、全域を網羅している者など居ない。

 森に入れば必ず何かしらの動物と出会う事から、その名が付けられたとの噂も有るが、一説ではこの森に隠れ住んでいた星巡竜が余所からやって来た星巡竜と出会い、旅立って行ったからだとも言われている場所なのであった。


 ゼノは王家暗殺の動きをノイマン男爵から聞かされた際、隊を分けて先に王子と王女を男爵の手引きで脱出させた。

 その後、王と王妃を東のオーリス共和国へ亡命させると見せかけて南へ進路を変え、森の南側を抜けて王子達との合流を果たす。

 そしてゼノに逃亡後の支援を頼まれていたコグニーはノイマン男爵の助力が得られなくなった事で、ゼノから聞かされていた逃走経路を追ってきたのだ。

 だが馬のみを連れて単独で森に入ったコグニーは、肉食獣に襲われない為に積荷である豚や鶏の肉をばら撒く以外に安全を確保出来なかったのであった。


「仕方ない、狩猟隊に更に森の奥へ踏み入ってもらうか……」

「大丈夫でしょうか?」


 ゼノが気を取り直すかの様に顔を上げて呟くと、ネラが心配そうな顔をゼノに向けた。

 ネラの心配は狩猟隊の安否か、それとも自分達の先行きか、恐らくはその両方であろう。

 因みに、狩猟隊は今のところ鹿一頭をなんとか仕留めたのみである。


「どのみち我々にはそうする以外に道は無い……」

「そうですね……」


 ネラの問いにゼノは僅かに苦々しい表情を覗かせ、ネラもそれを見て俯いた。

 周りに居る者の表情も暗く、誰も言葉を発しない。


「なんか、予想以上に深刻だったんだな……」


 ゼノ達の後方から様子を見ていたリュウは、暗殺の手から逃れて来た、彼らの食糧事情を知って声を潜めた。


「ですね。ここから人間族領も魔人族領も町までは一週間程の行程が掛かります。なのに食料は二日分しか無いとなると、移動も出来ず飢えるのみです……」

「それに、人間族が魔人族と同じ様に狩ができるとは思えないですぅ……」

「リュウ、アイスがオーグルトまで行って町長さん達にお願いすれば――」


 そしてミルクとココアも声を潜めて悲観的な感想を述べると、アイスは打開策を提案しようとしたのだが、リュウによって遮られてしまう。


「いや……ダメだ。昨日、ヴォイド教に間違われて襲い掛かられただろ? お前が星巡竜だと分かると、また揉める事になるかも知れねえぞ?」


 リュウは昨夜の出来事から、人間族の星巡竜に対する認識が魔人族のそれとは違う事を懸念していた。

 ヴォイド教とは星巡竜を唯一の神と崇め、そうでない者を認めないという狂信的な集団なのだと、その後ゼノから聞かされてもいたが、星巡竜自体を彼らがどう思っているのかなどは曖昧なままだったのである。

 何故なら、彼らも星巡竜という存在はただの言い伝えでしかない為、漠然としたイメージしか無く、ヴォイド教の存在によってあまり良い印象を持たれていない様子だったからである。


「そうですね。彼らが星巡竜をどう捉えているのか、そこが分からない以上は正体は隠された方が良いかと思います……」

「じゃあ、どうするの? リュウ……」


 それにミルクも同意した為、アイスは心配そうにリュウの顔を覗き込んだ。


「どうするって……この辺にどんな動物が居るのかすら分かんねえしな……」


 アイスに問われてリュウも困った。

 リュウならば獲物を仕留めるのは簡単ではあるが、獲物が居なくては話にならない。


「ご主人様、ミルクとココアでこの周辺を探索すれば、獲物を発見次第お知らせするのも容易です。許可を頂ければ探索に向かいますが?」

「そっか、ミルク達なら獲物に気付かれずに探せるのか……」


 だが、ミルクからの提案でリュウは問題がほぼ解決した様に思えた。


「もちろんですぅ! 騎士達にぞろぞろ来られたら獲物が逃げちゃいますぅ」

「よし。んじゃ、ダメ元で聞いてみるか……あの、隊長さん――」


 そしてココアの明るい声に口元をニィっと緩ませて、リュウはゼノに声を掛けるのであった。

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