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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
88/227

03 衝突と和解

 リュウが振り返ると一人の精悍な顔つきだが目元の優しげな騎士が立っており、その背後にはぞろぞろとその部下らしき騎士達が集まって来ていた。

 リュウはその様子に若干引き気味になった。

 しかも、どう説明しようかなどと考える暇も無い。


「え~、何者と言われてもですね……」


 なので答えようとはするものの、何も良い考えが浮かばず言葉尻が濁る。


「私はマーベル王国、王族親衛隊の隊長、ゼノ・メイヤーだ」

「あ、はい。自分はリュウ・アモウと言います……」


 落ち着いた雰囲気でゼノに自己紹介されリュウも名乗るのだが、ゼノの背後から声が上がる。


「それはエール・ヴォイドの紋章では……」

「へ?」


 その声にリュウがきょとんとした間の抜けた声を上げる。

 背後の騎士は、治癒の竜珠に浮かぶ竜の紋章を見ている様だ。


「む……君たちはヴォイド教徒か!?」

「は!?」


 だがゼノの言葉にその場の空気が一変し、リュウは困惑しながらもアイスに振り返る。


「なぁ、アイス……お前の父ちゃんって何か宗教やってんの?」

「そ、そんなの知らないよぅ……」


 リュウに問われ、アイスはふるふると首を横に振る。

 しかしリュウが改めてゼノに向き直ると、ゼノの背後の騎士達が剣に手を掛けていた。


「ちょ……」

「隊長、危険です! 下がって下さい!」

「待て、お前達……」

「こればかりは、隊長の命令でも聞けません!」

「そうです! 仲間の仇を討たぬでは騎士の名折れです!」


 そしてリュウがドン引きする間にゼノは部下達に後方に押しやられ、隊長の制止も聞かず血気に逸った部下達がその剣を抜いて前に出た。


「ご主人様――」

「アイス! 下がってろ!」

「う、うん……」


 ミルクに言われるまでもなく、戦闘は不可避と判断したリュウがアイスに叫び、アイスは素直に従った。

 その瞬間、ミルクとココアはリュウのベストの首元に入り込んだ。

 騎士達にはそう見えただろうが、実際にはリュウの体内へと同化を果たしているのだが。


 その時には一人の騎士の剣がリュウに向け振り下ろされたが、ギインという鈍い音と共に騎士の剣が弾かれる。


「な!?」


 突如リュウの左腕に出現した盾に剣を弾き返され、騎士が驚愕の声を上げた。

 剣を弾かれるなどと思ってもみないばかりか、その盾がどうやって現れたのかも分からぬのだから無理もない。


「どうやら、剣の性能は魔人族とそう変わらねえな?」

『はい。ですが、数が多すぎます。どうするんですか?』


 騎士が怯む間にリュウがミルクに問い掛けると、ミルクは肯定しつつもこの先の考えをリュウに尋ねる。


「……全員ぶっ倒すか?」

『え……』

「何だと! 貴様っ!」


 リュウの物騒な呟きにミルクが呆れ声を発する中、その呟きを聞いた別の騎士が憤怒の形相で襲い掛かって来た。


『大丈夫です、ご主人様! ココアに任せて下さい!』

「!」


 そこにココアが右手に剣を生み出し、瞬時に気付いたリュウは、それを躊躇無く振るった。


「ば、馬鹿な……」


 新たに襲い掛かった騎士は、剣を振り下ろした体勢のまま、驚愕に目を見開いてポツリと呟いた。

 同時に周囲の騎士達からどよめきが起こり、彼らの殺気が急速に萎んでいく。


 リュウが剣を振るった時、誰もがリュウが剣を手にしている事に驚きはしたが、騎士の剣はリュウに届く寸前であり、リュウの態勢も無防備であった。

 にも拘らず今は二人共剣を振り終えた体勢であり、リュウはしっかりと盾でその身をガードまでしていた。

 そして剣を振り終えた騎士の剣は根元から綺麗に消失しており、騎士達はその結果から、リュウが遅れた体勢から騎士の剣を斬り飛ばしたのだと理解せざるを得なかったのである。


「ふぅ、間に合った……これで終わりにしませんか?」


 誰もが言葉を発しない中、リュウのほっとした声が全員の耳に届く。

 だが腰が引けた騎士達を押し退けて、二メートルを超す程の騎士が武器も持たずに前に出て来る。


「面白い……ならば最後に俺と戦え!」

「はぁ? んじゃ、これで最後で良いですか?」

「俺に勝てたならな……」

「分かりました」


 その大男は鎧を身に纏うものの武器を持たず、リュウの前に立ちはだかるが、リュウにも物怖じした様子は見られない。

 周りの騎士達は大男に信頼を寄せているのか、黙ってその場を下がり、その場に即席の舞台が出来上がる。

 そして大男の申し出をリュウが了承した事で、隊長のゼノは興味深い眼差しをリュウに向け、事の顛末を見届ける構えの様だ。


「では、行くぞ!」


 大男の叫びと共に、その剛腕がリュウに振るわれる。

 が、リュウはその場には居らず、大男の右側から蹴りを放つが、ガーンと鎧が音を立てるのみで大男はビクともしない。


「ふん、軽いわ!」

「あ、そう……」


 右側に居るリュウに大男は叫びながら左腕を叩きつける。

 だがリュウも焦った様子は無く、その左腕を掻い潜って自身の左手を大男の腹を覆う鎧に添える。


「はあっ!」

「ぐうぅっ!」


 撓めた左腕を気合と共に突き伸ばされ、大男の体が後方に弾き飛ばされる。

 だが大男は掌底を受けた体勢のまま地面を滑ったのみで、両足で地面を踏みしめて耐えた。

 驚愕に目を見開く周りの騎士達が見ているのは、大男の腹だ。

 大男の鎧の腹部が掌底を受けてベコリと凹んでいる。


「何と言う衝撃……だが、まだだぞ!」

「マジかよ……タフだな……ふんっ!」


 さすがに驚きを見せた大男がその場からリュウに向けて突進し、リュウは呆れながらも正面から大男のタックルを受けた。


「嘘だろ!?」

「信じられん!」


 そんな言葉が周りから発せられる中、リュウは大男のタックルを一歩も下がらずに受け止めていた。

 百キロを優に超える体重の大男ではあるが、全身に人工細胞を隠し持つリュウもまた、それに近い体重と大男より遥かに桁違いのパワーを有しているのだから。


「何だとっ!? ビクともせんっ!」

「どうです? そろそろ止めませんか?」


 がっぷりと組み合いながら驚愕する大男と停戦を提案するリュウ。

 体重は二十キロ程の差ではあるが、体格は大男の方が遥かに大きい。

 なのに、押し潰されそうに見えるリュウは揺らぐ事無く大男を受け止めており、大男の強さを知る騎士達は驚愕を通り越し、ただぽかんと二人を見つめていた。


「なにを! 勝敗が決しておらぬのに、そんな事ができるか!」

「熱いなぁ……」


 リュウのパワーに驚愕する大男であったが、自身の胸元から聞こえるリュウの提案を侮辱と受け取ったのか激高し、力任せにリュウを押し負かそうとするのだが、リュウもまた苦笑いで大男のパワーに対抗する。


『参ったなぁ……何とかこの人を怪我させずに無力化できねーかな……』

『随分とヒートアップされてますからねぇ……』


 渾身の力比べが始まった様に見える中、リュウは脳内通話でミルク達に相談を持ち掛ける。


『足一本蹴り折ってから、アイス様と治癒の竜珠で治せば良いんですぅ!』

『待て待て待て! そういうの無しで! お前過激過ぎんだろ! それより今、俺が思い出してる記憶見れるか?』


 するとココアからとんでもない発言が飛び出し、リュウは慌てて却下しつつ記憶の閲覧を二人に促した。

 周りで見ている騎士達はリュウの表情に焦りが生まれた様に見え、握る拳に力が籠っている。


『はい……ってこれ、漫画じゃないですか!?』

『面白そうですぅ!』

『そーだよ! そのシーンってほんとに出来んの?』


 リュウの表層記憶を覗いたミルクの呆れ声と、能天気なココアの声にイラっとしつつも、リュウはその漫画のシーンの信憑性を尋ねてみる。

 そのシーンとは相手のパンチにカウンターを合わせ、顎を打ち抜いて脳震盪を起こさせる、というものであった。


『力加減を間違わなければ……』

『問題無いですぅ!』

『俺だと細かいコントロールは無理だからな……んじゃ相手の出方次第で右か左、一発で決めてくれよ?』


 そして、二人の返事に確信を得たリュウは、作戦実行を決定する。


『分かりました!』

『了解ですぅ!』


 元気な二人の返事を聞き、リュウは大男を下から跳ね返すべく力を込める。

 内心、過激発言をするココアの出番が来ません様に! と思ったのは内緒だ。


「ぬううっ!」

「がああっ!」


 気合が交差し、両者の足元はそのままに上半身だけが弾ける様に離れる。

 が、リュウはぐらりと上体が後ろに傾き、それを支えるべく右足を下げた。

 だが、これはリュウの誘いだった。

 リュウはそうして大男が左足を踏み込み易い様に隙を作り、大男から放たれる右ストレートにクロスカウンターを放つつもりなのだ。


 だが、リュウは一つ計算違いをしていた。

 大男は自慢のパワーですらリュウに拮抗されて、なりふり構わず勝ちを取りに来たのだ。


 その結果、窮屈なスペースに大男の右足が前に出る。


『えっ!?』


 リュウは予想外の展開に対応が遅れ、大男の右足に左足を踏まれてしまった。


『ミスった! って事は……』


 そうリュウが思った時には大男は左腕を目一杯振りかぶっていた。


『ココアの出番になっちまった! ココア、無茶だけは――』


 そこでリュウの心の叫びは止まっていた。

 何故なら、大男は左腕を振りかぶったままの姿で、顔だけが不自然に右を向いていたからである。

 カウンターを待つまでも無く、ココアがリュウの右腕を操って大男の顎に掌底を掠める様に放っていたのだ。


 その霞む様な速い打撃に、周りの騎士達は何が起こったのか分からなかった。

 だが大男の膝が折れ、地面に両手を突くのを見て、誰もが言葉を失っていた。


「ば、馬鹿なっ!? ま、まだだぞ! 俺はこんな事でっ!?」


 一瞬意識を飛ばした大男は自身が地面に手を突いている事が信じられず、慌てて立ち上がろうとした。

 だが、大男の意に反して四肢が痙攣して言う事を聞かず、無理矢理立とうとするものの、今度は尻もちをついてしまった。


「そこまでだ、チコ。どう見てもお前の負けだ……」


 そこにゼノの声が掛かり、ゼノはチコと呼ばれた大男を背中で隠す様にリュウの前へとやって来た。

 だが、リュウはゼノに背を向け、わなわなと震えていた。


『っく、汚ねえ……あの見た目でチコはねーだろ!』

『っぷ、ご主人様……耐えて下さい! ここで笑ったら、チ、チコさんが……』

『ぶふうっ! 姉さま……酷いっ! ひぃーっひっひっ、死ぬぅぅぅ……』


 リュウ達は懸命に込み上げる笑いに必死で耐えていた。

 体内に居るミルク達は笑っても問題ないのだが、ミルクは自身の笑いでリュウが釣られない様に必死で耐えようとしたが無意識に爆弾を落とし、ココアに直撃してしまった様だ。

 リュウも被弾している様で、腹筋がびっくんびっくんしている。


 そんな様子を正面で見ているネラとアマンダは、先程の驚愕も忘れてリュウに同情的な、苦笑いの様な眼差しを向けていた。

 どうやらチコにおける認識は、彼らもリュウと共通している様である。


『ミ、ミルク……もう無理だ……電撃頼む……』

『っく、仕方ありません……行きますよ!』


 場の空気を壊したくないリュウはミルクに最終手段を訴え、ミルクもそれしか無いかとリュウの足に電気を流した。


「つあっ! 効くぅぅぅ……」


 そしてリュウは足をさすりながら、再びゼノに向き合った。


「どうかしたのかね?」

「い、いえ。何でもないです……」


 怪訝な顔をするゼノにリュウが苦笑いを浮かべると、ゼノは一度ちらりと後方の部下達に目をやってから切り出した。


「先ずは先走った部下達の非礼を詫びよう。そして、部下達を傷付けずに事を収めてくれた事に感謝する。それにしても、先にも聞いたが君は一体何者なんだね? まだ随分と若い様だが、見た目通りの年ではないのかね?」

「いえいえいえ、俺は見た目通りの十六ですよ。ただ……この子達妖精のお蔭で、その力を使える様になったんですよ……」


 ゼノの問いにリュウが答えているとミルクとココアが姿を現し、リュウの肩にちょこんと座った。


「妖精の力を?」

「はい……説明するのは難しいんですけどね……」

「ふむ……今見たばかりだから疑いはしないが……魔法なのかね?」

「いえ……魔法じゃありません。物理的な……例えば鉱石から剣を作り出す様な、そんな力です。ただ、その速度がもの凄く早いんです……そうだ……」


 リュウはゼノの疑問に答えると、思い出した様に広場の脇へと向かい、先程斬り飛ばした剣を持って戻って来た。

 そして、剣を斬られた騎士の下へ向かう。


「すみません、それ貸してもらえますか? 元に戻してみますんで……」

「えっ? 戻せるのか!? わ、分かった……」


 リュウに剣を元に戻すと言われた騎士は、先程の剣幕はどこへやら、目を丸くしながらも斬られた柄の部分をリュウに渡した。

 そこへゼノが近づき、騎士達も興味深そうに集まって来る。


「ミルク、ココア頼めるか?」

「はい、ご主人様!」

「分かりました~」


 切断面を合わせる様に持つリュウに頼まれ、ミルクとココアが肩からリュウの両手の上にすいっと移動し、リュウの手にアクセスする。

 すると、リュウの手から銀色の液体が溢れ出し、見る間に剣をすっぽりと覆ってしまった。


 周囲が一斉にどよめくのも構わず、ミルクとココアはリュウの手を介して人工細胞を操り、切断面だけでなく剣自体を隈なく調べていく。

 一方でリュウは自身に視線が集まるのに未だ慣れぬのか、少々居心地が悪そうである。

 やがて、剣を包む液体がリュウの手に戻って行くと、リュウの手には傷一つ無い新品同様の剣が現れ、騎士達の驚きは最高潮に達した。


「ご主人様、終わりました」

「ピッカピカですぅ!」

「ご苦労さん」


 ミルクとココアを労い二人が肩に戻ると、リュウは剣の持ち主に剣を返した。


「どうです? 問題ありますか?」

「も、問題も何も……新品そのものじゃないか……継ぎ目も見当たらない……」


 リュウに声を掛けられた騎士は呆然と剣を眺め、途切れ途切れに感想を呟き、周りの騎士達から羨望の眼差しを受けている。


「とまぁ、こんな力を持ってるんですよ。この子達は……」

「な、成程……それでだ、君はどこの国の者なんだね? さっきの口振りでは君はヴォイド教を知らない様だったが……今、この国……いや、人間族でヴォイド教の名を知らぬ者は居ない程なのだが?」


 振り向いたリュウがゼノにミルク達の実演付きの説明を終えると、ゼノは一応の納得を見せ、忘れていないぞ、とばかりにリュウ自身の事を尋ねた。

 だが、リュウが返答するより早く、騎士達の後ろから若い声が掛かる。


「ヴォイド教を知らぬ者は居ないのにヴォイド教を知らぬ……それが答えなのではないのか? ゼノ……」


 ゼノが振り返る先にはリュウ程の年頃の身なりの良い少年が立っており、騎士達は一斉にそちらを向いて片膝を地面に突いて頭を下げる。


「これは、レオン様……少々騒ぎが大きかった様で申し訳ありません……」


 ゼノはその少年に腰を折り、騒ぎによってこの場に足を運ばせた事を謝した。

 親衛隊が敬う相手となれば、このレオンという少年は王子か何かなのだろうとリュウは当たりを付け、実際その通りなのであった。

 彼はレオン・クライン・マーベル王子、マーベル王国の正統後継者なのだ。


「いいのだ。お蔭で面白い物が見れた……話を戻そう。我が国にもつい最近までヴォイド教を知らなかった者がいたのではないか?」


 レオンは頭を下げるゼノに笑顔で応じると、ちらりとリュウを見てからゼノに問い掛けた。


「! エルナダ軍……」

「ご主人様……」

「ああ……」


 ゼノはそう問われて、ハッとした顔でポツリと呟くと、ミルクが小声でリュウに呼び掛け、リュウも小さくコクリと頷く。

 どうやってエルナダ軍の情報を得ようかと思案していたリュウは、その手間が省けそうだと思わず口元を緩めた。


「ほう、どうやら私の推測が当たったかな? お前はエルナダ軍、もしくはそれに近しい者という事だな?」


 レオンはリュウの僅かな笑みを見逃さなかった。

 その言葉に親衛隊が一斉にリュウを見る。


「そうなると何故手加減したのか分からんな……そうか……この多さ故に一先ずは仲間を装って……という事だな?」


 そしてレオンは自身の疑問を自己解決させると、リュウを睨みつけた。

 だが、リュウはレオンの言葉を聞いて、彼らがエルナダ軍と敵対関係に有ると分かっただけで十分だった。


「半分は合ってますけど、半分は違いますね……」


 レオンに睨まれるリュウは、苦笑いを溢しながらその問いに答える。

 リュウは自分と近い年頃であろうレオンに対して、しっかりしてるな、それとも身分が人をそうさせるのだろうか、とそんな風に感心していた。


「ほう……では聞こう。何が合っていて、何が違うのかを」

「確かに俺はエルナダ軍と同じ所から来ました。ただ……エルナダ軍と戦っていた最中に事故に巻き込まれて、この地に飛ばされてしまったんです。大体今から二十日程前の事です」

「それを信じろと?」

「う~ん……信じて貰わないと話にならないんですけどね……まぁ、俺としては、あなた達がエルナダ軍と友好関係じゃなさそうだって事が分かっただけでも十分ですけどね……」


 そうしてリュウは掻い摘んで事情を話すのだが、レオンにはそれが真実か否かを確かめる術がない。

 だがリュウの信じてもらえなくても構わないという様な言葉に、レオンは興味を惹かれた。


「十分とは?」

「とりあえず、あなた達との戦闘は避けられそうだ、という事です。信じて貰えないにしても俺達の事を黙っておいて貰えるなら、俺達はやるべき事をやるだけですから……」

「やるべき事とは何だ?」

「俺の仲間がエルナダ軍に捕らえられている可能性があります。それが本当なのかを確かめて、本当なら助け出します」


 レオンの問いに淀みなく答えるリュウが嘘を言っている様には思えず、ゼノは心の中で唸っていた。

 だがリュウの最後の言葉にゼノは驚き、目を見開いた。

 そしてそれは、レオンも同じだった様である。


「な……ちょっと待て。相手は我々の歯が立たぬ武器を持つ軍隊なのだぞ? それをどうやって助け出すというのか?」

「まー、それはこれから考えますけど……俺達だけなら身軽だし必ず戦闘になると決まってる訳でもないので、何とかなるかなぁと思ってます」

「な……」


 慌てた様なレオンの言葉に、リュウは頬をポリポリと掻きながら答える。

 レオンはリュウのあっけらかんと答える様子に一瞬呆気に取られたが、リュウがまるで動じもせず自然体でいる事に、思案顔になる。


「ゼノ、どう思う? この者が嘘を言っていると思うか?」


 レオンは自身だけでは判断が付かないのか、ゼノに意見を求めた。


「は、私にはそうは思えませんでした……」

「その根拠は?」

「普通ならもっと信用を得ようとすると思うのですが、この者は我々が黙ってさえいれば良いと言いました。それはこの者に我々を必要としない力が有るのか、我々を巻き込まぬ様にとの配慮なのかは分かりませぬが、先程の戦いを見る限り恐らく前者かと。そして仲間を想う気持ちは本物と感じました。勘ですが……」

「それ程の力が有ると言うのか?」


 真剣な眼差しで話を聞くレオンは、リュウへの過大評価とも思えるゼノの言葉に思わず声が大きくなった。

 それでも尚、問い掛けるのはゼノに全幅の信頼を置いているのだろう。


「ヨハンの剣を斬り飛ばした動き、あれは私も見えませんでした。あの動きで対処されていればチコも無事では済まなかったはずです。ですがこの者はチコに最小限のダメージを与えるに留めている……それには圧倒的な力量が必要です」

「なるほど……分かった」


 ゼノの説明を聞き終え、レオンはしっかりと頷き、ゼノも一礼してレオンの言葉を待つ。


 一方のリュウはゼノの言葉がこそばゆくはあったが、仲間を想う気持ちを評価されて嬉しくもあった。

 お蔭で耳は赤く、口元はちょっと緩みそうだ。


「名は何と言ったか?」

「リュウです。リュウ・アモウ」

「では、リュウ。お前の言葉を一先ずは信じる事にする。今夜はもう遅い、此処で休むが良かろう」


 レオンはリュウに名を問うと、全てを信じた訳では無いとしながらも、リュウに寛大な態度を見せた。


「レオン様、よろしいのですか?」

「構わん、ゼノ。これでもし私がリュウに殺されたなら、それは私の人を見る目が無かったという事だ……城を追われ、この様な場所でというのは無念だがな」


 そしてゼノに確認されると、レオンは寂しそうに笑って去ろうとした。


「俺からも良いですか?」

「ん? 何だ?」


 それをリュウに呼び止められ、レオンは鷹揚に振り返った。


「夜も遅いので一言だけ……恩を仇で返す様な真似はしないので、ご安心を」

「ふ……そうか。ではな……」


 リュウはそう言うとニィッと笑い、レオンは少し呆れた様な笑顔を浮かべると、くるりと踵を返し去って行った。


「リュウ、レオン様はああ言われたが我々は親衛隊だ。君の立場が明確になるまでは、少々窮屈な思いをさせる事になるかも知れぬが、それは理解してくれ」

「はい。まぁ、仕方ないですね」


 レオンが去ると、リュウはゼノから制約が課せられる可能性を示唆され、了承する。


「よろしい。では、一先ずは休息と食事にするが良かろう。それと皆、リュウの事は他言無用だ。我々の方から関係を壊す事は厳禁だ、良いな?」

「はっ」


 リュウが納得したのを見てゼノは頷くと部下達に念を押し、部下達は一斉に了承の声を上げた。

 これにより、リュウ達は一先ずの安息を得る事になるのであった。

たった一日でもう三話……もっとさらっと書けないものかと思う今日この頃です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 良いですね〜! こうして拠点が増えていくのは気持ち良く読めます。 [一言] チコちゃんが叱られる
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