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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第二章
82/227

54 気分転換

「うおぉ……格好良いな、これが伝説の星巡竜かぁ……」


 壁に掛けられた大きな絵画を見て、興奮しているのはリュウである。

 リュウは気分転換と称して、客間の並びにある一番東端の部屋に、こっそり無断で侵入していた。

 別に何かを探しに来たというのではなく、単純に暇で扉が開いたから入ったという不法侵入である。


 その部屋は、リュウが泊る客間とは比べ物にならぬ豪華な部屋であった。

 落ち着いた光沢の有る木目で統一された腰壁と、窓から差し込む光を無駄に反射させないオフホワイトの壁と天井。

 所々にさりげなく置かれている、磨き上げられた調度品。

 それらはどれも、一流の職人の作品の中から更に厳選された品々だ。


 他にもこの部屋には、部屋の中に階段が付いているという違いが有った。

 その階段を上ると上階はドーム状になっており、リュウが見た絵画はその壁に掛けられていた。

 描かれているのは大きく翼を広げ、咆哮している雄々しい黒い竜であった。


「そういや、アイス以外にちゃんと星巡竜の姿って見てないなぁ……これがアイスの父ちゃんだったら、なかなかドラマチックなのになぁ……」


 リュウは独り言を呟きながら、そんな余裕がまるで無かったにせよ、アイスの父であるアインダークの竜化した姿をちゃんと見ていない事をちょっぴり悔んだ。

 そうしてリュウは絵画に見飽きると、一際大きな扉へと向かう。

 扉はその大きさに似合わず軽々と開き、リュウは外へと踏み出した。

 そこはドームをぐるりと囲む様に作られた、異様に広いテラスであった。


「は~ん、竜化したまま降りられる様になってんのか? あ? んじゃ、ここって竜の間ってやつ? 不味くね? いやいや、俺もリュウだし、まぁ良いか……」


 テラスから周りを見渡しながら、ここが星巡竜の為に作られた竜の間なのでは、と気付いたリュウは勝手に立ち入った事に今更ながら冷や汗を流すのだが、自分勝手な理由を付けて開き直ろうとした。

 だが、悪い事は得てしてバレるものである。


「まぁ良いか、じゃないわ! まったく貴様という奴は……」


 突然の怒鳴り声に、リュウの体がビクッっと跳ねる。

 恐る恐るリュウが振り返ると、そこには仁王立ちの魔王様。


「え、魔王様!? なんで……」

「ここには風の結界が張ってあるのよ。今はアイス様がいらっしゃるから、近衛達も対応に困って余に伺いを立てに来たのだ。普段ならば、近衛達が押し寄せて来る手筈なのだぞ……」


 たじろぐリュウにジーグはあっさりと種を明かすが、迂闊過ぎるリュウに半ば呆れ顔である。


「すんませんっしたー!」

「まぁ、良いわ。アイス様が戻られたら、案内するつもりでいたからな……で、何をしに来たのだ?」


 音が鳴る勢いで頭を下げて謝るリュウをジーグは鷹揚に許すと、ここへ来た目的を尋ねる。


「いえ、特には。明日以降の事を考えていたら行き詰ったんで、気分転換しようと思って……ここの入り口、鍵が掛かってなかったから、つい……」


 ぽりぽりと頬を掻きながら、素直に答えるリュウ。

 腹の中では「何だよ、ちょっと来るのが早かっただけじゃん」とは思っていても、顔には出さない。


「そうか……で、どうだここは? 中々に良い眺めであろう?」


 リュウの答えにジーグは軽く頷くと話題を変え、この場所の感想を求めた。

 相当自信があるのだろう、口調が既に自慢気である。


「そうですね。町が一望出来るし、朝日も夕日も拝めるなんて最高のロケーションですよね……あとは、部屋が落ち着いていて……ん?」


 リュウの評価に、うんうんとにこやかに頷くジーグであったが、リュウがテラスの下に目を止めたのを見て、その場へ歩み寄る。


「カリス、いつまでも怖がっていては、飛翔の風を体得できないぞ?」

「でも兄上、僕には風の感覚が掴めなくて……」

「仕方ないな……俺は、城壁の復旧状況を見て来るから。頑張ってみろ」

「はい、兄上……」


 リュウ達がテラスから身を乗り出すと、一階下の小さなテラスに二人の王子の姿を見る事が出来た。

 どうやら彼らはテラスで魔法の練習をしていた様だが、兄のクリフは弟のカリスに発破を掛けると、襲撃で破壊された城壁へと飛び立ってしまった。

 テラスに残されたカリスが、飛び去った兄の姿をじっと見守っている。


「ふむ、カリスか。クリフと違って少々大人しくてな……何か切っ掛けさえ掴めればとは思うのだが、生憎と飛翔の風は自分一人しか運べぬのだ……」

「なるほど……切っ掛けかぁ……魔王様、俺ちょっと行ってきていいですか?」


 事情が分からないリュウにジーグが次男のカリスについて聞かせると、リュウは少し考える素振りを見せ、ジーグに断りを入れる。


「ん? 何か良い方法が有るのか?」

「いや、ただの思い付きです。切っ掛けが掴めれば良いなぁ、と思うだけで……」


 リュウの申し出に、ジーグは興味深そうな表情になったが、当のリュウは自信が無さそうに答えるのみだ。


「まぁ、良かろう……気楽にやってくれ」

「分かりました。では……」


 それでもジーグが笑って了承すると、リュウもニィっと笑って頷き返し、テラスの手摺に手を掛けると、ひょいと下のテラスへと飛び降りてしまった。


「わあっ!?」


 突然、視界の隅に音も無く降って来たリュウに、カリスは驚きの声を上げた。


「ごめんよ驚かせて、カリス王子」

「あ……リュウ様……こ、こんにちは……」


 声を掛けてきた相手がリュウだと分かったカリスはぎこちなく挨拶するものの、それ以上は思考が停止しているかの様に固まっている。


「こんにちは。実はさ、偶然クリフ王子とのやり取りを聞いちゃったんだ」

「はい……」


 そんなカリスにリュウが正直に訪れた経緯を話すと、カリスは自分が飛べない事を知られて恥じたのか、顔を赤くして俯いてしまった。


「でさ、どうしたらクリフ王子みたいに飛べると思う?」

「え、わ、分かりません……兄さんは『風を感じろ』って言うんですけど、確かに風は感じますけど……それがどう飛ぶ事に繋がるのかがイメージ出来なくて……父は『飛べば分かる』って言うんですけど、分かったらもう飛べてますよね……」


 カリスの事はお構い無しにリュウが質問すると、カリスは少し顔を上げ上目遣いにリュウを見ながらポツポツと答え出し、最後に力無く笑った。


 クリフの言葉はともかく、ジーグの身も蓋も無い言葉に、リュウはジト目を上階に向けるが、魔王は素早く死角に隠れていた。


「飛べば分かるって、酷え父ちゃんだな! じゃあ、どうしたらイメージを掴めると自分では思う?」

「えっ、それは……分からないです……本当に父の言う様に飛んでみたら分かるのかも知れませんけど、そんな事して飛べなかったら死んでしまいます……」


 笑いながらリュウが大袈裟にジーグを非難しつつ、カリスにどうすれば良いのかを尋ねると、カリスは父に気を使ってか、擁護する様な発言をするものの、涙目になって俯いてしまう。


「カリス王子は優しいなぁ……よし、じゃあ飛んでみるか!」

「ええっ!? と、飛ぶって、どうやって……」


 そんなカリスにリュウは目元を和らげるが、その発言にカリスが目をまん丸にして狼狽える。


「いいから、いいから。ほら、ちょっと向こう向いて……」

「は、はい……」


 だがリュウはお構いなしにカリスに回れ右させると、カリスの背後にくっつく様に自身の体を重ねた。

 リュウより十五センチ程低いカリスは、リュウの鼻くらいまでの高さしかない。

 なのでリュウは少し膝を屈めながらくっつき、体内の人工細胞を操作する。


「ちょっとそのまま、じっとしててくれよ? ミルクみたいに、マルチタスクじゃねーからなぁ……」

「まるちたすく?」

「あー、いいから、いいから……」


 カリスの背後でブツブツ言いつつ人工細胞を操作するリュウを、ジーグが上階から怪訝な表情で見つめている。

 カリスも不安そうな表情である。

 やがてリュウのベストの脇の隙間、腕の付け根部分から銀色の紐が伸び、カリスの腋の下を潜って胸の前を通過すると、リュウの反対側の腋の下に同化する。


「あっ!?」

「よしよし、上出来だ。もう少し待ってくれよ?」


 驚くカリスをそのままに、リュウは次にベストの裾の脇、腰の横から同じ様にしてカリスを人工細胞の紐で結わえてしまった。

 二本の紐はリュウの指令を受けて太さを増し、やがて太いベルトとなった。


「よし、出来た。どうだ? きつかったり、緩かったりしないか?」

「何ですかこれ……ぴったりとくっついて……でも苦しくは無いです……」


 リュウに確認を促され、戸惑いながらもベルトの締め具合を報告するカリス。


「そかそか、上手く出来た。ちょっと持ち上げるぞ?」

「はい……」


 カリスの報告に満足するリュウが屈めた膝を伸ばすと、身長の低いカリスの両足が地面から離れる。


「うん、どうやらずり落ちたりしないみたいだな?」

「はい、しっかり固定されています……」

「よし。んじゃ良く聞いてくれよ? まず慌てない事、次に落ち着いて風を感じる事、絶対に王子の安全は守るから、俺を信じる事……だ。できるか?」


 体を揺すってベルトに不具合が無いのを確認すると、リュウはカリスが万が一にも暴れたりしない様に、念を押しておく。

 上階からその様子を顎に手を当てて興味深そうに見つめるジーグ。

 だが次の瞬間、ジーグの目が驚きに見開かれる。

 リュウの背中から黒い竜の翼が生えてきたからだ。


「は、はい……出来ます……でも、あの、どうやって飛ぶんですか?」


 リュウの背中から翼が生えている事に気付いていないカリスは、リュウの念押しにしっかりと頷くものの、人間族のリュウがどうやって飛ぶのかと尋ねた。


「ん? もう飛んでるぞ? 俺の足も浮いてるんだけど?」

「えっ!? あ……浮い……てる!?」


 だがリュウの答えを聞いて、カリスは目線が先程より僅かに高い事に気付いて動揺し、リュウはプチドッキリが成功して、ニィっと口元を歪めて笑う。


「よっし、最初は下を見るなよ? 行くぞ~」

「わっ!? わっ!? えええええ!?」


 そしてリュウの掛け声と共に二人の体は更に浮き上がり、テラスを出ると更に上昇していく。


「と、飛んでるっ! うわっ高い! 怖い!」

「落ち着け、上を見ろ上を! そうそう、ゆっくりと視線を前に戻して……」


 慌てかけたカリスにリュウが指示を飛ばすと、カリスは言われるままに従った。

 カリスの大人しく素直な性格が功を奏し、カリスはすぐに落ち着きを見せた。


「うわぁ……」

「落ち着いたか? とりあえず慣れるまでは下を見るなよ?」

「はい……というか、リュウ様はどうやって飛んでるんです?」

「あー、それは気にしなくていいよ……ちょっとズルしてるだけだから……」


 城より遥かに高い高度からの眺めに、感動の声を上げるカリス。

 そんなカリスに一安心するリュウは、カリスの問いをはぐらかしつつ、ゆっくりと周辺を飛び始める。


「どうだ、慣れたか? イメージできるか?」

「あっ、そうでした! 頑張ってみます!」


 しばらくしてリュウが声を掛けると、カリスは未体験の景色に感動していた様で、ハッと我に返ると両腕を広げて意識を集中し始めた。


「うん、慌てなくてもいいからな? こう飛んで欲しい、とか要望が有れば、指示してくれたっていいぞ?」

「はい!」


 そうしてまたしばらくの間、リュウは高度を上下させながら城の上空を飛んでいたが、「あっ……」というカリスの声で、その場に滞空した。


「今……何か、分かった様な気がします……」

「お!? やったじゃん! んじゃさ、今やってみようぜ?」

「い、今……ですか?」

「俺さ、明日ここを旅立つんだよ。だからもう、当分こんな機会は無いぞ?」

「わ、分かりました! やってみます!」


 飛翔の風を使う様に言われて躊躇するカリスであったが、リュウからこんな機会は当分訪れないと聞かされると、少年らしい元気な声で飛ぶ事を決意する。


「飛翔の風……」


 そうしてカリスが慎重に魔法を詠唱する。


「おわあっ!?」

「う……っく……わあっ!?」


 だが、周囲から集まる風にリュウがバランスを崩してしまい、カリスは乱れた風を必死にコントロールしようとしたが、頑張りも虚しく風は霧散してしまった。


「悪い、俺のミスだ。まさかあんな強い風とは思ってなかった……」

「いえ、僕の方こそ……でも今のでまた少し分かりました。多分このままだと成功しないと思います……」

「マジで?」

「その、言い難いんですけど……リュウ様の体に風が当たってしまって風が乱れてしまうんです」

「あちゃ~、俺が邪魔なのね……」


 最初の試みは失敗に終わり、互いに謝り合う二人であったが、カリスはそんな中でも失敗の原因を理解していた。


「い、いえ! ただ、その、今の形じゃなくて、上からぶら下げられていたら風に乗れたかも知れません……」

「なるほど……んじゃ、やってみなきゃな!」


 そしてカリスの意見を聞いて、リュウはニカッと笑うと上昇を始めた。


「ちょっと高いけど、この高さなら落ちても十分に助けられるからな……思う存分練習してくれ」

「はい!」


 そして十分な高度に達すると、リュウはカリスの体を両腕で抱きしめ、人工細胞のベルトを解除する。


「よし、腕を伸ばして……手首を掴んで……そうそう――」


 ベルトを解除した事で、今やカリスを守るのはリュウの両腕だけとなった訳だが、更に二人はお互いの手首を掴み、カリスをぶら下げる形で滞空する。

 そんな時、リュウを見上げたカリスがぽかんと口を開けた。


「リュ、リュウ様……翼が生えてる……」

「あ? だから言ったろ、ズルしてるって……そんな事より、集中だろ?」

「は、はい! ちょっと待って下さい! すぅ……はぁ……飛翔の風!」


 驚くカリスにニィっと笑うものの、リュウがカリスに集中を促す。

 そうしてカリスが深呼吸して力強く叫ぶと、カリスの周りに風が集まり始める。

 そこでリュウはカリスの手首を掴む手を放す。

 今やカリスの両手だけが、リュウの手首を掴んでいる状態だ。


「い、行きます!」


 カリスが叫び、両手を放した。

 すかさずリュウは身を翻して距離を取り、カリスよりやや下方で滞空する。


「浮いてる! 出来てるぞカリス! うおお、凄え! マジで飛んでる!」


 リュウが空中に滞空するカリスに興奮した声を上げる。

 だがカリスはそれに応える余裕など無く、風を操るのに四苦八苦していた。


「っく、うう……はぁ、はぁ……わあっ!」


 そしてバランスを崩したところを、リュウにすかさず掴み上げられた。


「すみません、ダメでした……」

「何言ってんの!? しっかり飛んでたぞ? 時間は短かったけど、あれは確かに飛んでたって!」

「でも、兄さんみたいには……」

「そんなの当たり前だろ? だから練習するんだろ?」


 ぶら下がって意気消沈するカリスに、ちょっと呆れながら元気付けるリュウ。

 初めて飛べたというのに、もう完成形と比較するところは、さすがジーグの息子といったところか。


「そうですね……あの、もう少し練習してもいいですか?」

「おう! 任せろって!」


 そうしてしばらくの間、リュウはカリスの練習に付き合うのだった。










 小一時間程して、リュウ達は城へと戻って来ていた。

 カリスはまだ練習し足りない様子だったが、カリスの表情に疲れを見て、リュウが切り上げたのだ。


「さてと、練習し足りない様だから、最後に此処からテラスまで飛んでみる?」

「はい、飛翔の風!」


 城まであと三十メートル、という辺りでのリュウの問いに、カリスは返事する間も惜しいと言わんばかりにリュウから手を放し、リュウは少々苦笑いである。

 そんなカリスは一瞬落下しかけた様に見えたが、風を掴むとふわりと滞空、流れる様に宙を滑ってテラスの手前でふわりと上昇し、見事テラスへと降り立った。

 いつでもフォロー出来る様に後を追っていたリュウも、続いてテラスへと降り立つと、上階のテラスへ向けてニィっと笑った。


「な……こんな短時間で……」


 そこにはジーグが唖然とした様子で、手摺を握り締めて立っていた。


 ジーグはリュウ達が飛び立ってからも、そのまま様子を見守っていた。

 ただリュウがかなり上昇してしまったが為に細かい事が分からず、ジーグは自分も飛んで見に行こうか、とやきもきしていたのであった。

 そうこうする間にカリスがリュウに抱えられて降りて来た為に、ジーグはてっきり結果が芳しくなかったのだと思っていた。

 その矢先、城の陰からカリスが単独で飛んで帰って来た為、先の言葉となったのである。


「リュウ様、ありがとうございました。お蔭で何とかコツを掴む事が出来ました」

「いやぁ、カリスが頑張ったからだって……」


 カリスに頭を下げられてリュウが照れていると、カリスの背後にジーグがマントを翻して降り立った。


「飛翔の風、見事だったぞカリス……」

「父上!? あ、ありがとうございます! リュウ様のお蔭で何とかコツを掴む事が出来ました。こ、これからも精進したいと思います!」


 声を掛けてきたのが父だと判ると、カリスは途端に顔を赤くして頭を下げ、何とか言葉を探し出した。

 普段から出来て当たり前という態度を取っていた父が、リュウだけとは言え人前で自分を褒めてくれた、それがカリスには嬉しい反面、余計に緊張する事にもなったのだった。


「うむ、頑張るのだぞ……リュウ、感謝するぞ」


 頷きながらカリスの肩をポンポンと優しく叩くジーグは、リュウに感謝を述べるとマントを翻してテラスから去って行った。


「驚きました……いつも厳しいのに……リュウ様が居てくれたからでしょうか?」


 ジーグの姿が見えなくなると、カリスは気恥ずかしそうにリュウに尋ねる。

 十四才にもなれば人前で父に褒められるのは恥ずかしい、それはこの世界だろうと変わらない様だ。


「違うと思うぞ? 厳しい様に見えたって本当は心配なんだよ、きっと……そんな事より、少し休んだ方がいいぞ? 魔力が枯渇すると結構しんどいんだろ?」


 そんなカリスに、リュウはニマニマとした笑顔を向けてカリスを赤くさせるが、一転真面目な顔に戻ると、カリスを気遣う。

 恥ずかしくも嬉しそうにしているカリスだが、その額には汗が滲み、どこか疲れた印象が拭えないからである。


「そうですね、今日はもう休んで明日からまた頑張ります。リュウ様、本当にありがとうございました……では、夕食の時にまた……」

「夕食? えっと……何か有ったっけ?」


 素直に忠告を受け入れたカリスは、リュウに礼を述べて去ろうとしたが、リュウの疑問顔に足を止めた。


「え……今朝母が、今日の夕食はリュウ様達と一緒だと……」

「そ、そうなのか……初耳だ……いや、分かった。んじゃ、また夜に」


 戸惑いながらのカリスの説明に、リュウもまた戸惑うが、すぐに納得すると笑顔でカリスと廊下で別れるのだった。


「あれ、誰も居ないのか……ま、そのうち帰って来るか……」


 そうして戻った客間には誰も居らず、リュウはごろんとベッドに横になる。

 天井を見つめながら、リュウは先程までのカリスの頑張りを振り返り、飛べる様になって良かったなぁ、と一人口元を緩めた。

 だがジーグに褒められて、照れながらも嬉しそうにしていたカリスを思い出すと、リュウは少し羨ましいと思ってしまい、居心地が悪そうにゴロンと横を向く。


「晩メシ……行きたくねぇなぁ……」


 そしてポツリと呟くリュウは、いつしか眠りに落ちていくのだった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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