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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第二章
79/227

51 夜明けの騒動

 リュウが客間に戻ると、もう深夜になろうかと言うのに皆は起きて待っていた。

 寝そべるボスにもたれ掛かる、肩にミルクを乗せたアイスの目はとろ~んとしているが。


「リュウ様、お疲れ様でした。ミルク様から話は伺っていますよ」


 声を掛けるリズの横には泣き腫らした赤い目のリーザが座っており、更にその横に座るハンナが立ち上がる。


「リュウ様……ご迷惑をお掛けしました。そして、ありがとうございます。町の皆の分もお礼を言わせて下さい……」


 ハンナはそう言って深々と頭を下げる。


「そんな改まって……止めて下さいよ、ハンナさん……いつもみたいにリュウ坊、ありがとよって言ってくれる方がまだマシですよ~」

「あ、あたしだってね、きちんと感謝くらいするんだよ! まぁ、リュウ坊がそう言うんなら、いつも通りにするけどさ……町の事まで考えてくれて……本当に感謝してるんだよ……」


 そんなハンナの改まった態度は、照れたリュウに冷やかされたお蔭で元に戻ってしまったが、再び感謝を述べると服の裾で涙を拭った。

 そんなハンナを立ち上がったリーザが肩を抱いて座らせると、リーザはリュウの前までやって来る。


「リュウ様、ありがとうございます。ハンナさんを救ってくれて……」


 散々泣いたであろうに、そう言うとリーザの目に涙が溜まっていく。


「それ以上泣いたら、明日起きたら目が腫れちゃいますよ? みんなも話したい事は有るでしょうけど、今日はもう遅いから寝ましょう……ね?」


 リーザを宥めてリュウがそう提案すると、さすがに皆も疲れていたのか、素直にそれに従った。

 早々にエンバとリズは右隣の部屋へ、ハンナは左隣の部屋へと移って行く。


「あの、リュウ様……今夜はハンナさんと一緒に居てもいいですか?」

「はい、それはもう……ゆっくり休んで下さい。おやすみなさい」

「済みません。おやすみなさい……」


 エンバ達を見送ったリュウは、申し訳なさそうに尋ねてくるリーザを笑顔で見送ると、ようやく深くため息を吐いた。


「ご主人様、お疲れさまでしたぁ」

「マジで疲れたわ……ミルクとココアもお疲れさん……で、アレどうする?」


 皆が去ってミルクに労いの言葉を掛けられるリュウは、どかっと椅子に腰掛けると、二つ並ぶ大きなベッドの脇を親指で指してジト目を向けた。

 そこにはボスにもたれたアイスが、幸せそうな顔で眠ってしまっていた。


「アレって! アイス様もご主人様が心配で頑張って起きてたんですから!」

「寝てるじゃん……」

「ついさっきまで頑張って起きてたんですぅ!」

「で、どうする? ボス温かいから、このままにしとくか?」

「ダメですよ! 風邪ひいちゃいますよ!」

「でもな~、折角寝てるのに起こすのもな……これでいいか……」


 創造主たるアイスをアレ呼ばわりされて憤慨するミルクと困り顔のリュウ。

 結局、リュウは片方のベッドから掛け布団を引っ掴んでアイスに掛けてやる。


「う~、仕方ありませんねぇ……ミルクがアイス様に付いてます……」

「じゃあ、ご主人様ぁ。今夜はココアと二人っきりでベッドですね~」


 そうしてアイスの下へと向かうミルクだったが、その耳にココアの甘ったるい声が飛び込んで来る。

 即座にミルクはベッドへと引き返した。


「や、やっぱりミルクもこっちで寝ます!」

「アイスは良いのかよ?」


 赤い顔で宣言するミルクに呆れ顔を向けるリュウ。


「あう……ボ、ボス! アイス様をお願いね?」

「大あくびしてるぞ?」

「ボスは利口なので、だ、大丈夫ですぅ!」


 なのでボスにアイスの事を頼むミルクなのだが、主人の指摘には目を泳がさざるを得ず、赤い顔でそくさとベッドに潜り込むのだった。

 そんなミルクに苦笑いするリュウであったが、さすがに眠たかったのだろう、何も言わずにベッドに入ると、あっという間に眠ってしまう。


 その後、ぐっすりと眠るリュウだけでなくミルクとココアもスリープモードに移行した頃、ふと目覚めたアイスは寝ぼけ眼で薄暗い部屋を見回し、フラフラとベッドへ向かった。

 そうしてリュウが眠っているのに気付くと、アイスは寝ぼけ眼のまま、もぞもぞとベッドの中に潜り込んで行くのであった。










 人の脳というのは、夜眠っている間に情報の整理が行われるという。

 そして、それは人工細胞と星巡竜のコアをその身に宿したリュウと言えど、例外ではない。


 明け方、リュウは夢を見ていた。

 それは昨日得た膨大な情報の中にあって、特にリュウの記憶に残っているもの。

 それは、人化したアイスであった。

 子供だと思っていたチビドラ状態のアイスが成竜と化し、更に人の姿となった時の衝撃がリュウの中に強く残っているのだ。


『いやぁ、可愛かったなぁ……そういや俺、キスされたんだっけ……柔らかかったよなぁ、唇……柔らかいと言えば、お尻も触らせてくれたよなぁ……それにあの腰……あれは凄かった……そう、こんな感じで……』

「はうぅぅん……リュウぅ……」

『おお!? 昨日はこんな声聞かなかったぞ!? てか、これ、夢見てんのか? 久し振りだな、寝てる間に夢って気付くの……なら、今のうちにもっと触っておかねば……しかし柔らけえなぁ……』

「リュウぅぅ……くすぐったいよぉ……はうぅ……もう、寝ぼけてぇぇ……」

『うはあ! これはリアルだな……まるで本物みたいじゃ……』


 そこでリュウは夢から覚めてしまった。


「はっ!?」

「おはよ、リュウ……起きた? もう、くすぐったいよぉ……」

「え……マジで……って、なんで裸なんだよ!?」


 リュウがビクッと半身を起こすと、すぐ左に頬を赤く染めたアイスが上目遣いではにかんでいた。

 しかも布団が捲れたせいで、小振りだが形の良い双丘が露わになった為、リュウは混乱するまま声を上げてしまう。


「あう……ご主人様ぁ?」

「ッ!!」


 その声で背後のミルクが目覚め、リュウは超神速で布団を掴むとミルクとココアに被せた。


「もがっ!?」

「えっ!? 何っ!? 姉さま! どうなってるの!?」


 起きた途端に布団を被せられて驚くミルクと、目覚めたはずなのに真っ暗闇で混乱するココア。


「やあぁぁん、リュウのエッチぃぃ……」


 そしていきなり布団を引っぺがされたアイスは、起き上がって真っ赤になって胸を隠すのだが、下半身がまるで隠せていない。

 そう、アイスは全裸で寝ていたのだった。


「ちがっ、お、落ち着けっ! とにかく服着ろ、服っ!」


 まさかの寝起きドッキリに、リュウは完全にパニック状態だが、服を着させる事だけは間違えなかった様だ。


「え~、落ち着くのはリュウだよう……もうちょっと寝てたかったのにぃ……」

「いいから、服を着てくれ! な!」


 一方、アイスの方はリュウの事をエッチとか言いながらも、見られる事が嫌ではない様で、そのままの姿でぷぅっと頬を膨らませて、リュウを焦らせる。

 それでもアイスから目を離さないあたりは、さすがリュウと言えよう……。


「分かったよぉ……」

「ぷはあっ!! 一体……アイス様!? はうぅ……綺麗……じゃなかったっ! ご主人様っ! 何してるんですかあっ!」


 残念そうにリュウの願いを聞くアイスにリュウがホッとする間もなく、ミルクが布団から抜け出した。

 そしてまだ服を着始めたばかりのアイスを見て一瞬目を奪われたものの、主人に金切り声を炸裂させた。


「違うって! 俺は何もしてねえ!」

「え……もみもみしてたよ?」


 ミルクに向き直って必死で無実を訴えるリュウだが、背後からアイスがきょとんとした表情でそれを台無しにしてしまい、ミルクがぷるぷると震えだす。


「ちがっ! 夢だったんだって! そこに有ったら揉むだろ? 普通!」


 電撃待ったなしの状態にリュウが必死に弁解している様だが、言ってる事は至っておかしい。

 そうする間に騒ぎを聞きつけたリーザがやって来てリュウは最大のピンチを迎える事になるのだが、アイスが慌てて真実を話した事でリュウは一先ず窮地を脱するのであった。










「アイス様、どうしてその……は、裸でベッドに?」

「え? だって、寝る時は裸になるよね?」


 事情を把握して困惑気味にリーザに尋ねられ、何かおかしかったかな、とアイスがきょとんとした表情で答えている。


「えっ!? な、なりませんよ? 寝巻に着替えますけど……」

「寝巻? あれ? でも父さまと寝る時、母さま裸だったと思うんだけど……」


 だが首を横に振るリーザの言葉に、確かにそうだと首を傾げるアイスは、う~ん、と自信が無さそうに記憶を辿った。

 そんなアイスの言葉にリュウの口元がニンマリと歪むが、「エルシャンドラ様が、そんな……」と赤い顔で呟くミルクはかなりショックを受けている様だ。


「そ、そうなのですね……で、でもそれは、毎日という訳じゃないのでは……」


 それはリーザも同様で、少し頬を赤く染めてドギマギしながら答えている。

 思わぬ所で星巡竜の私生活を聞く羽目になるとは、思ってもみなかった事だろう。


「う~ん、そうなのかなぁ……好きな人とは裸で寝るんでしょ? リーザはリュウと寝る時は裸じゃないの? リズも違うの?」


 それでもやはり納得がいかないらしく、アイスはリーザとその横に立つリズに問い掛ける。


「そ、それは……」

「あ……う……」


 アイスの純真無垢な青紫色の瞳に見つめられ、リーザは顔を真っ赤にして狼狽え、リズも同様に赤い顔で目を泳がせている。

 同様にパートナーであるリュウとエンバの顔も赤くなった。

 そんな中、アイスの前にココアがすいーっと飛んで来る。


「アイス様ぁ、別に間違っていませんけどぉ、一緒に寝る人の寝相が悪いとお布団取られて風邪をひいちゃいますよ? それに、もし寝室に突然人が入ってきた時、困っちゃいますぅ……」

「う~ん……リュウじゃない人に見られるのは嫌だなぁ……」

「でしょ? だから寝巻が有るんですよぉ!」

「そっかぁ、分かった! ありがと、ココア!」

「はい、アイス様ぁ」


 否定的に話を始めた自分と違い、アイスに理解を示しつつ例を挙げてマイナス面も有るのだと諭すココアに、リーザがコクコクと頷いている。

 そうして皆がほっとしていると扉がノックされ、リュウが応じると入って来たのはギーファであった。


「こちらでしたか。皆様、おはようございます。朝食の用意が出来ておりますので、 一階下の小食堂へとお越し下さい」


 そう伝えると、ギーファは綺麗なお辞儀をして、退室すべく扉に手を伸ばす。


「あの、ギーファさん、朝食も魔王様とか来られるんですか?」

「いえ、朝食は皆様だけですので、お気遣いなさらず、そのままお越し下さい」


 リュウの問いにギーファは手を止めると穏やかな笑顔で応じ、改めて一礼すると、扉を閉めて去って行った。


「魔王様達が居ないとなると、気が楽で助かるなぁ……んじゃ、行きましょうか」


 堅苦しくなくて済むと笑うリュウに促され、皆が頷きながら食堂へと向かう。

 静かな廊下を、リュウは右手にリーザ、左手にアイスをくっつけて歩く。

 そうして口元を緩ませながら、こんな幸せな状態がいつまでも続くといいなぁ、と思うリュウなのであった。

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