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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第二章
65/227

37 魔都襲撃

 ルドルの町を出て四日、魔都アデリアまで残り二時間という地点で、リュウ達は最後の昼休憩を取っていた。


「出来た! 出来ました、ハンナさん!」


 ほかほかと湯気を上げる卵焼きを皿に移し、空になったフライパンを掲げて喜びの声を上げるのはリズだ。

 魔炎石に頼らず、自身の炎の魔法だけで作り上げた卵焼きである。


「こんな短期間で……大したもんだよリズ! さ、皆を呼んどいで!」

「はいっ!」


 これには、これまで何人ものガトルの部下を見て来たハンナも驚きを隠せない様子で、素直にリズを褒めると皆を集めに行かせ、自身はリズの卵焼きを丁寧に切り分け始めた。

 そして皆が集まり車座になったところで、ハンナが皆を注目させる。


「今回の卵焼きは、リズが炎から全て自分で作ったんだよ! 見た目は完璧だから、味付けさえ間違ってなけりゃ逸品だからね、心して味わってやっとくれ!」


 リズの頑張りと卵焼きの出来栄えの良さをアピールするハンナの言葉を聞き、皆が感嘆の声を上げる中、普段「いただきます」の音頭を取るリュウが提案する。


「んじゃ、今回はリズさんに音頭取ってもらおう! リズさんからもアピールよろしくっ!」

「賛成~!」


 その提案にアイスが賛成の声を上げ、皆拍手でリズに注目する。

 突然の事に当のリズは赤い顔で縮こまっているが、隣りのエンバに小突かれると、ちらりと皆を見回して、俯いたまま話し出す。


「え、えっと……い、一生懸命作りました! 美味しくなかったらごめんなさい! い、いただきます!」

「いただきまーす!」


 緊張で噛みながらも音頭を取ったリズに、皆の明るい声が続く。

 そして皆から「美味しい!」と笑顔を向けられると、リズは目の端をキラキラさせながらも満面の笑みを(こぼ)すのだった。


「ふいー食った、食った~」


 食事を終えて女性陣が食器を洗い出すと、リュウは徐に立ち上がり、エンバと共に敷物などの後片付けを始める。


「もうあと僅かで魔都なんですね……あっという間でした……」

「四十五日の予定を十一日ですからね……」


 エンバが作業の手を止めて魔都の方を見て呟き、リュウが苦笑いする。


「ネクトの町を出てからが、思いの外早かった気がします……」

「ですよね……楽しい時間って、あっという間に過ぎますよね……」


 エンバが狩りばかりだった毎日とは違う充実した日々の過ぎ行く早さに触れると、リュウの脳裏にはリーザとのあれこれが思い浮かび、もっとペースを落として楽しむべきだったか……と再び苦笑いを溢す。


「リュウ様、感謝します。あなたのお蔭で、俺は色々な物を得る事が出来た」


 するとエンバはリュウに向き直って頭を下げ、しっかりとリュウの目を見て感謝を述べた。


「いやいや、俺は別に――」

「あなたが居なければ、俺はネクトの町で死んでいました……」


 慌てて謙遜しようとするリュウだが、エンバは構わず言葉を続ける。


「あー、あれは俺も死んだと思った……」

「だから今有る生もハンナさんから教わった新たな魔法技術も、全てあなたのお蔭です」


 その言葉にはリュウも同じ様な気持ちを抱くのだが、続くエンバの言葉にエンバの照れを見た様な気がして、(つつ)いてみる。


「リズさんも、でしょ?」

「勿論です……オーグルトの連中に殴られても放しません」


 するとエンバは堂々と頷いて、確固たる意志をリュウに示した。


「お~! くっくっく……みんながっかりするんだろうなぁ~」


 それを聞いてリュウは感心し、オーグルトの連中の顔を思い出して笑った。


 そうして片付けも終わって皆が車両に乗り込み、心地良い揺れの中でスヤスヤ眠るアイスを抱いたリュウが、リーザにもたれてウトウトし始めた頃だった。

 遠くの方で花火大会をしている様なドンドンという音が前方から散発的に聞こえ、リュウは目を覚ました。


「魔都でお祭りでもやってんのかな?」

「違うと思いますけど……」


 呑気に首を傾げるリュウに、怪訝な顔で答えるリーザ。


「ご主人様! 煙です、見えますか?」

「ん? まて……見えた……これって――」


 その時、上空に飛んだココアが魔都から立ち昇る煙を発見し、リュウもすぐさま視界をズームして煙を確認、推測を述べようとしたのだが、空気を震わせる爆発音に遮られた。


「爆発です! ご主人様!」

「ミルク! なるべく急いでくれ! 魔都まで荷台が()てばいい!」

「了解です!」


 続くココアの報告は、聞くまでも無くリュウにも分かった。

 ミルクが主人の指示を受けて、車両のスピードを上げ始める。


「女性陣とアイスは前へ! エンバさんは俺と後ろで! 後ろは壊れるかもなんで、その時は前に!」

「分かりました!」


 リュウの指示で、速やかに皆が荷台を移動して、リュウとエンバは激しく揺れる後部荷台前方の柵を掴む。

 ミルクが全能力を操縦につぎ込み、時速二十キロ程だった車両は時速六十キロまで加速し、静かだったモーターがヒュィィィンと唸りを上げている。


「魔人族や人間族って爆弾とか使うんですか?」

「爆弾ですか!? 聞いた事が有りません!」

「あんな音がする魔法は?」

「あんな大きい音は聞いた事が無いです!」


 ガタガタと激しく揺られながら、リュウはエンバに質問するが、エンバには該当する記憶が無かった。

 そうする内に、魔都を囲う城壁が見えて来る。


「うおー、でけえ! すげえ長い石垣だな!」


 前方に二階建ての建物くらいは有りそうな石垣が、街道の数十メートル東から西は大陸の端辺りまで続いており、リュウが思わず叫ぶ。

 魔都アデリアは城郭都市であり、城壁は東西約七キロ、南北約五キロの長方形の形をしており、リュウ達はその南東端に向かっているのだ。


 リーザを除く皆が城壁に目を奪われている間にも、モーター音を唸らせる車両は、城壁へとどんどん近付いて行く。

 その行く手は街道がそのまま垂直に城壁と交わり、街道の中央に位置する巨大な門から人々が右往左往しているのが見えてきた。


「ココア! 各連結部をチェックしろ! ミルク! 合図で減速するぞ!」

「「はい! ご主人様!」」


 このままの速度では城壁内部には突入できない為、リュウはココアとミルクに急ぎ指示を飛ばす。


「連結部のチェックオーケーです!」

「よし!」


 ココアの元気な声を聞いてリュウは荷台の最後部へ移動すると、柵ではなく荷台を直接掴んで飛び降りた。


「ミルク! 減速しろ!」

「はいっ!」


 上部荷台を左手で下部荷台を右手で掴むリュウは、両足で地面を滑りながら足の裏から人工細胞のスパイクを地面に浅く打ち込み、ミルクに合図を送る。


「ぐがぁぁぁぁっ! 止まれぇぇぇ! 人間ブレーキぃぃぃ!」


 地面に打ち込んだスパイクを徐々に伸ばしながら、リュウは両足を踏みしめる。

 とは言え実際には全身の人工細胞がフル稼働しており、リュウの靴が大きな轍を作るかの様に、地面を抉り飛ばしていく。

 先頭車両のブレーキのみでは荷台の重量を受けきれないかも、と考えたリュウのこの行動によって、車両はミルクの想定していた制動距離を大幅に下回る事になり、ミルクは危険を冒さずに車両を減速させる事が出来た。

 車両が通常走行に移行すると、リュウはトンっと地面を蹴って再び荷台に戻る。


「ぶはぁっ」

「ご主人様、ありがとうございます!」


 そこでようやく一息吐くリュウに、ミルクの嬉しそうな声が届く。

 そして車両は更に減速すると、門の中に侵入を果たす。


「おい! そこの馬車!? 止まれ!」


 すると後方から衛兵らしき人物が、叫びながら走り寄って来た。


「ミルク、スピードアップ! 大丈夫! 援軍です、援軍!」


 リュウはミルクに加速を指示すると、後方の衛兵に手を振って叫ぶ。

 町中を北へ加速する車両に、衛兵は真っ赤な顔で懸命に追い縋ろうと頑張ったが、人込みの中に消えて行った。


「衛兵さん……もっと頑張ろうよ……」

「ぶふぅっ!」

「リュ、リュウ様……酷い……ぶふっ!」


 そんな衛兵にリュウが悲しそうに呟くと、堪らずエンバが吹き出し、リーザが肩を震わせながらリュウを非難するも、やはり耐えられず吹き出し、必死に逃げ惑う人込みの中、リュウ達の車両だけが必死に笑いを堪える羽目になった。


「ひぃ、苦しかった……やっぱりリュウ坊は大物だよ……」

「あの衛兵さん、真っ赤だったね!」

「ぶふぅっ! ア、アイス様! うくっ……っぷ……」


 笑いを乗り切ったハンナが疲れた表情でリュウに呆れ、アイスの言葉でリズは再び苦しむ羽目に陥っている。


「ミルク、止めろ! みんな降りて!」


 そんな中、リュウはミルクに車両を停めさせ、全員を車両から降ろした。

 そこから十数メートル先には複数の建物が炎上しており、東側の城壁が破壊され、石垣の大きな石が無数に転がっていた。

 そしてリュウ達の少し前方には、多数の負傷者が血を流して倒れていた。


「リーザさん負傷者を! ハンナさんはアイスを見てて下さい! エンバさんとリズさんは救助と消火を頼みます!」

「はいっ」

「任せとくれ!」

「「了解です!」」


 リュウはてきぱきと皆に指示を出すと、車両と荷台を繋ぐ連結部を外し始めた。

 すると城壁の外側からタンタンタンという軽快な音と、城壁上部から人の叫び声が聞こえてくる。


「なんだ!? 銃声!?」

「はい、間違いないかと!」


 リュウは記憶からその音を疑うと、ココアがそれを肯定する。


「人間族って騎士とかじゃねーの? 銃を開発したのか?」

「分かりません! けど今の音は連射音です。作ったばかりでオートマチックなんて、普通考えられません!」


 リュウはガット支部長から聞いた人間族の話から推測を口にするが、ココアの話を聞いて訳が分からなくなった。


「むー、こうしていてもしょうがねえ……ミルク、ココア、戻って来い」

「「はい!」」


 だが人間族が攻めて来て魔人族がやられているのは間違い無いだろう、とリュウはミルクとココアを体内に戻し、城壁の外へ向かう事を決断する。

 その時、再び爆発音が空気を揺るがし、リュウが向かおうと思っていた崩れた城壁の一部に火柱が上がった。


「リーザさん! みんな! 急いでここから離れて! 敵が来る!」

「リュウ様はどうなさるのです!?」


 敵の侵入を警戒するリュウは慌てて皆に叫び、駆け寄って来たリーザは不安そうな面持ちでリュウに尋ねる。


「俺は敵を食い止め――ッ! ミルク! 車両を全速で敵に突っ込ませろっ!」

『はいっ!』


 それに答えようとしたリュウの目が崩れた城壁から侵入してくる軍人らしき姿を捉え、リュウは咄嗟にミルクに命令する。


 ミルクがリュウの体内に戻っている為、車両はリュウの左手から伸びる細いコードで繋がっており、フル回転するモーターがキィィィィンという音を立てる。

 そして荷台と言う(くびき)から解き放たれた車両は、信じられない加速を見せながら、有線誘導で侵入を図る軍人へと襲い掛かるのであった。

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