表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星を巡る竜  作者: 夢想紬
第二章
54/227

26 禁忌の魔法

「似た様な部屋ばっかだな……」

「恐らく、食料貯蔵庫か何かをアジトにしているのでしょう……」


 大きさこそ違いはあるものの、通路と丸い部屋ばかり続く事に、リュウがため息混じりに呟くと、ミルクが正解を言い当てる。


 ここは元々、町の者達が作った食料貯蔵庫であった。

 それを「闇の獣」が拡張し、鉄格子やその他設備を設置したのだ。

 鉄格子の手前側は、町の幾つかの場所から出入りできる様になっており、宿屋の厨房からの通路もその一つである。

 だが、鉄格子の奥は「闇の獣」のアジトであり、襲われ捕らえられた者達の監禁場所でもあるのだった。


 扉を開き、リュウ達は遂にリーザが捕らわれる広間へと到達した。


「いた! リーザさん!」

「ッ! お前達! 姉さんを放せ!」


 鉄格子の向こうに二人の男に挟まれるリーザを発見し、リュウとリズが叫ぶ。

 リーザが首だけを回して、泣き顔のまま目を見開く。


「うらあっ!」


 リズの目の前に居たはずのリュウの姿が霞み、鉄格子の直前で右手を振るう。


「ッ! うわっ!?」


 直後に鉄格子を取り巻く空間が爆ぜ、リュウは右手を振り終えたままの姿勢で後方に弾かれた。

 咄嗟に両足で地面を踏みしめるリュウだが、その姿勢のまま土煙を上げながら後方に滑っていく。


「っく、何だ!?」


 地面を滑り終えたリュウは、鉄格子から六、七メートル後方まで押し戻されていた。


「何だじゃねえよ、にーちゃん。とんでもねえ動きしやがって……風爆壁が有って助かったぜ……って、おいおい、鉄格子切れてんじゃねえか……」


 リュウの動きにまるで対応出来なかったガトルであるが、リュウが押し戻された事で余裕が出来たのか、まるで焦りを感じさせない口調で仕込んでおいた風の結界に安堵しようとして、鉄格子が一部切られている事に気付いて呆れた声を上げた。


 リュウはあの一瞬で右手から剣を伸ばしつつ踏み込み、それを振るったのだが、本当ならそのままあと数回剣を振るって内部に侵入するつもりだったのだ。


「さすがは星巡竜の守護者ってか……だが、放せと言われて放す奴が居るか?」

「うるせえっ!」


 ガトルは風爆壁が破れないなら問題ない、と太々しく笑うが、リーザを掴んでいる男の一人を既にロックオンしていたリュウは、叫びと共にニードルを発射する。


「ぐあっ! うぐうぅぅぅ……」


 撃たれた男が弾ける様にガトルの脇に倒れ、呻き声を漏らす。

 腕を掴まれていたリーザがよろけ、もう一方の男が踏鞴(たたら)を踏んだ。


「てめえ、何しやがった!?」

「さてね。そうなりたくなかったら、とっととリーザさんを放せ!」


 撃った針が小さかったからか、それともその射出速度が速すぎたからか、結界がまるで反応しなかった事に、さすがのガトルもリュウが何をしたのか分からず叫ぶが、リュウは相手にせず毅然とリーザの解放を要求する。

 この部屋に入ってから今まで、何も聞かされていなかったアイスとリズ、エンバが呆気に取られている。


 これはミルクとココアに脳内で相談した結果の賭けだった。

 人質を取られている以上、絶対的にこちらが不利なのだ。

 敵の虚を突き、一気にリーザを奪還できれば良かったのだが、そうならなくても絶対勝てないと怯ませて、一気に畳み込んでリーザを解放させる。

 これに失敗しても元から絶対的に不利な状況なのだから、試す価値は有ると考えての行動だったのだ。


 しかし、やはり上手くは行かない様だ。

 ガトルは即座にリーザの陰に身を置いてリーザに手を伸ばすと、その首に腕を巻き付けて後ろ抱きにする。


「もう一回やってみろよ……ふん、やはりできねーか……形勢逆転だな。動くんじゃねーぞ、リーザを傷付けたくなかったらな……」

「くそったれが……」


 ガトルがリーザを盾にして挑発するが、リュウが撃たないのを見るとニヤリと笑い、リュウ達の動きを言葉で封じる。

 そして、それまでリーザを捕えていたもう一人の男と共に、樽の横数メートルの位置まで後ずさる。

 リーザともう一人の男の立ち位置がガトルへの射線を極端に狭めてしまい、さすがにリュウも無理はできず、毒突く事しかできない。


「いいか、言っておくがな、こいつは俺達の所有物だ。五年前に逃げ出したが、今こうして帰って来ただけの事だ」

「ふざけないでっ! 脅して従わせているだけじゃないのっ!」


 ガトルはリーザの顎を掴み上げると、淡々と当然の様に主張するが、それにリズが激高する。

 リーザは怯えの為にか、力無くされるがままだ。


「おいおい、言いがかりはよせって。確かに俺達は従わない奴を飼う余裕は無いんでな、そういう奴は処分するさ。だがな、こいつは自分から俺達に尻尾を振ったんだぜ? 何でもします、可愛がって下さいってな!」


 リズの迫力にガトルは肩を(すく)めると、いけしゃあしゃあと自分達に非は無いと言い放つ。


「嘘よっ!」

「おい、脱げ。俺の言った事が嘘かどうか、可愛い妹に教えてやれ」


 それを聞いてリズは反射的に叫ぶが、それをこそ待っていたかの様にガトルはニヤリと笑うと、腕の中で震えるリーザに命令する。


 実際、ガトルは待っていたのだ。

 自分に歯向かう者達が、力の無さに嘆き、悲しみ、絶望していく様を楽しんでいるのだ。


 リーザが震える手でベストの編み上げに手を掛ける。


「やめて、姉さん! そんな奴に従わないでっ!」


 リズの悲痛な叫びが耳に届き、リーザの瞳から一層涙が溢れ出し、嗚咽が漏れる。


「リズ……ごめ……ん……なさい……」


 それだけを呟くと、リーザは地面にパサリと衣服を落とし全裸で立ち尽くす。

 震え俯くその姿を、リュウ達の誰もが言葉も無く、沈痛な面持ちで見守っている。

 そんな様子を、ガトルは満足そうに口元を歪める。


「こいつはな、肉片になった恋人を見て、俺達に絶対服従を誓ったのさ。この獣の刺青も、地面に頭を擦り付けて入れて下さいと懇願したのさ。おい、俺の言う事に間違いはあるか?」


 そしてリーザが胸に秘めてきた事をいとも簡単に暴露し、わざわざリーザに答えさせるべく確認する。

 リーザの下腹部には、連中と同じ獣の刺青が彫られていた。

 

「い、いいえ……わ、私が……お願い……ヒック……しましたぁぁぁ……」


 リーザは崩れ落ちる事も許されず、ぽろぽろと涙を溢し、しゃくり上げる。

 そんな姉の悲惨な姿に、リズの瞳からも涙が零れ落ちる。


 そんな時、先程ガトルに指示されて三人が入って行った扉が開いた。


「おっと、もう来たか。これで分かったら大人しく待ってな。先に済ませる用事が有るんでな……おい、気にせず始めろ」

「へ、へい!」


 ガトルは入って来た男達の方を見もせず、用心深くリュウを見たまま男達に指示を出す。

 男達はリュウ達侵入者に一瞬気を取られたが、ガトルの指示が飛ぶと即座に動く。


 男達は更に一人の男を連れて来ていた。

 だがその男には猿轡が噛まされ、両手は後ろ手に縛られている様だ。

 男達はその男を二つ並ぶ樽の傍に連れて行くと、天井から垂れ下がるロープにその男を結わえ、猿轡を外した。


「お頭! 許してくれ! 二度とあんな真似はしねえよ! だ、だから、許してくれぇぇぇっ!」


 男は「闇の獣」の一員だった様だが、何を仕出かしたのか、必死に許しを乞うている。


「構わん、やれ」


 男の叫びを無視し、ガトルは冷酷に指示を出す。

 指示を受けた男達がロープを引くと、結わえられた男が軽々と浮き上がった。


「ま、待ってくれ! お頭! 盗んだ金はちゃんと返す! だから――」

「人のおこぼれで生きてる奴が、どうやって返すってんだ。笑わせるな」


 ロープを吊り下げる滑車が天井のレールを移動して樽の方へと向かい、必死に男が叫ぶが、ガトルは眉一つ動かさずに切って捨てた。

 樽の真上に男を移動させるとロープを引く男達がその力を緩め、男が樽へと下がり始める。


「待ってくれ! 助けてくれ! 嫌だ! お頭ぁ!」

「やめろぉぉぉ!」

「うるせえ、黙って見てろ! 裏切者は許さねえんだよ!」


 樽と樽の僅かな隙間に下ろされていく男が泣き叫び、見かねたリュウが叫ぶが、ガトルは一喝し、決定を曲げない。


 樽から突き出た刃から逃れようと、男は必死に下を見ながら足を刃から守ろうとするが、太ももに一つの刃が当たり、身を捩った為に体が揺れ、更に他の箇所にも刃が刺さる。

 その間もゆっくりと男の体は下がり、更に太くなる腰の部分に両側からゆっくりと刃が刺さり男が絶叫する。


「ひいっ……」


 男の絶叫に、リーザの喉から引き攣れた音が漏れた。

 リーザの脳裏に五年前の惨劇が蘇る。


 初めは強がっていた護衛の人達も、リーザを除く若者達も皆、何かと理由を付けられて、おぞましい最後を遂げた。

 若者達の中には、当時付き合い始めたレクスも居た。

 レクスの亡骸の前でリーザは無様に命乞いをした。

 それでも、生きたまま肉片にされていく死に方だけはしたくなかった。

 顔面蒼白でガタガタと震えるリーザは、いつの間にか失禁していた。


 その間にも男の体は下がり続け、樽は中心に通した軸でそれぞれが回転する為、ゆっくり次々と腰に刃が刺さってゆく。


 やがて男の足が地面に届き、樽の回転は止まった。

 痛みに呻き声を上げる男は、必死の形相でよろける体でバランスを取ろうとする。

 倒れてしまえば、上半身まで切り刻まれるからだ。

 そしてロープが引かれ、今度は男の体が浮き上がり、樽が逆回転を始める。


 私刑はそれだけでは済まなかった。


 何度も何度も男の体は上下させられ、樽と樽の間隔は徐々に狭められていった。

 地面には血溜まりができ、幾つかの肉片が落ちている。

 赤黒く染まる樽が黒かったのは、これまでに浴びた血の色であった。

 下半身がボロ切れの様になった男が、虫の息でブツブツと何かを言っているが、それが「殺してくれ」だというのは容易に想像できた。


 リュウ達はその凄惨な光景に目を背けずにはいられなかった。

 ミルクとココアもこの時ばかりは、ただのAIだったら良かったのに、と思ったに違いないだろう。


「も、もう見てられないっ! 火焔球!」


 そんな中、風の結界の事も忘れ、リズは叫びながら男に向けて火の玉を放った。

 せめてもう、一思いに楽にしてやろうとの思いからだった。

 だがその思いは、予想外の結果をもたらす事になる。


「うわっ!?」


 リズから少し離れていたにも関わらず、リュウは突然の火の玉に驚き、反射的に腕を上げ、顔を背けた。

 火の玉は真っ直ぐ男に向かったが、鉄格子の直前で風の結界に弾かれ、霧散してしまった。


「あっ!」

「思わず撃っちまったか? ふん、お蔭で面白いもんが見れそうだ……」


 魔法が弾かれた事で、リズは結界が有った事を思い出した。

 ガトルはそんなリズを笑って済ませ、その視線をリュウに向けた。

 先程のリュウの火に対する過剰な反応に、興味を惹かれたのである。


「闇の読心」


 ガトルがリュウに向けて小さく言葉を放つ。

 だが、リュウに何かが起こる事も無く、リュウにしてみれば、裸のリーザを盾にするガトルが、何かを呟いたくらいにしか分からない。

 周りの者もガトルが何をしたのか分かっていない。


「ふ、ふははは。そうかい、そうかい。にーちゃん苦労してんだなぁ……」

「?」


 突然笑い出したガトルに、リュウは何を言われてるのか分からず、怪訝な表情をするのみだ。


「よし、楽にしてやろう。大いなる闇の再現」


 ガトルはニヤリと笑うと、今度ははっきりと呪文を詠唱する。


「――ッ!? う……うわっ!」


 すると、リュウがビクッと身を震わせ、何かから身を守る様に片膝を突いた。


「「ご主人様っ!?」」

「リュウ!」

「リュウ様!?」


 エンバを除く皆がリュウの異変に反応するが、エンバは別の事に反応した。


「闇!? 今、闇って言ったのか?」

「ほう? そっちのにーちゃんは、聞いた事が有るってか?」


 エンバの言葉に、ガトルが嬉しそうに尋ねる。


「闇の魔法は禁忌として、とっくの昔に封じられたはず……」

「よく知ってんな、にーちゃん。身内に魔導士でもいるのかぁ?」


 エンバが独り言の様に闇魔法についてを口にすると、ガトルは感心した様に更に尋ねる。


「いや、聞いたことが有るだけだ……」

「ふん、そんなもんか……確かに闇魔法は魔王によって伝承を禁じられたがな、魔王の下には魔道を極めた賢者ってのが、今でも闇魔法を伝承してんだよ……」


 エンバの答えに、少々がっかりした感じのガトルだったが、エンバに教えてやるとでも言う様に、闇魔法の現状を話し始めた。


「な、何故……」


 闇魔法は精神に作用し、対象者を蝕む様な効果を持つものが多く、また他の魔法の様に効果を目にする事が難しい。

 随分と昔の話だが、闇魔法を使った国家転覆が図られた事があり、魔王によって闇魔法は禁忌とされ、伝承を禁じられたのだ。

 なのにそれが今も尚、伝承されている事がエンバには信じられない。


「何故って、そりゃあよ、どこかで密かに闇魔法が伝承されていたら困るからに決まってんじゃねーか」

「あ……じゃ、じゃあ、あんたは……」


 ガトルが笑ってエンバの呟きに答えると、エンバにもそれは理解できた。

 そしてエンバは、闇魔法を使うガトルが何者なのか、という事に思い至る。


「俺か……俺は魔王の下で魔導士をやってたのさ。だが闇魔法の素質が高いってだけで、クソつまんねえ賢者なんかにされてたまるかってな、里に帰って来たって訳よ……」


 ガトルはやれやれと言った感じで、自身の過去を話す。

 闇魔法の話になってから、ガトルはやけに饒舌だった。

 確かにかつてガトルは、闇以外の全属性魔法を操る数少ない魔導士であった。

 だが彼は、闇魔法を習得すれば賢者としての高い地位と引き換えに、自由を失う事を嫌ったのだ。


「なっ! なら何故、闇魔法を使える?」


 誰もが魔王の下で働ける事を誇りに思う昨今、ガトルの様な自分勝手な考え方をする者はおらず、エンバは驚愕する。

 そして魔導士止まりであったなら、何故闇魔法を使えるのかが疑問だった。


「そりゃ、魔導書を読んだからに決まってんだろ……魔導士と賢者が懇意になれば賢者の下に呼ばれる事も増える。盗み見なんざし放題よ……さて、ここまで話したからには、俺に従う以外にゃ生かしちゃおかねえんだがよ、どうする?」


 ガトルは事も無げに言ってのけるが、実際は魔導士であっても賢者と懇意に成れるのはほんの一握りである。

 恐るべきは、それ程の者が悪事を成しているという事実であろう。

 種明かしは終わった、とガトルの口調が残忍なそれに変わる。


「……」


 エンバが答えずに、リュウやその周りで心配する皆にちらっと視線を向ける。


「あー、守護者のにーちゃんが気になるか? 心配しなくとももうそろそろ壊れると思うぞ?」

「何っ!?」


 それを見てガトルは心底楽しそうに告げると、エンバは片膝を突いて脂汗を流すリュウを注視する。


「ご主人様! しっかりして下さい!」

「だめ、姉さま、届いてない! それよりもまずいわ姉さま、細胞が!」

「ッ! 人工細胞の制御が……こ、こんな事って……」


 ミルクが必死にリュウに声を掛けるが、リュウの意識がまるで声に反応しない事にココアは気付いた。

 そればかりか、人工細胞が二人の制御を離れ始め、ミルクとココアは困惑した。


 一体リュウの身に何が起きているのか――


 ガトルの魔法を受けて、リュウの意識は一瞬闇に閉ざされた。

 すぐに視界が開けたが、それはリュウの意識が過去の記憶を見た為だった。

 それはガトルの魔法によって誘導された、負のイメージの強い記憶だった。


 親戚が両親の遺産目当てに近付いた事。

 教科書類が破り捨てられていた事。

 クラスメイトの秘密を暴露して恨まれた事。

 大勢に囲まれて殴られた事。


 他にもリュウが嫌だ、思い出したくない、と思う事をどんどん見せられ、否、再体験させられていく。

 そして過去の記憶になればなる程、体験する自身も当時の年齢になっていく。

 当然、過去になればなる程、辛さに対する耐性が低く、リュウの心のダメージが大きくなる。


 それらの記憶と記憶の合間には、リュウは現在の状態に戻されるのだが、心に負ったダメージは蓄積されたままであり、次の記憶に飛ぶまでの間、リュウは何度も心の中で、止めてくれ! と叫んでいた。


「ミルク、一体リュウはどうなってるの!?」

「分かりません! ミルク達もご主人様の意識にアクセスできないんです!」


 リズに抱かれたアイスがミルクに尋ねるが、ミルクにも答えられない。

 そればかりか、リュウと繋がる人工細胞がどんどんミルク達の制御を離れていくのだ。


 ミルクとココアは、このままではマスターコアにも影響が出るかも知れない、とマスターコア周辺の人工細胞を一定量確保し、その上で一時的にリュウとのリンクを切断した。

 なので現在、ミルクとココアはマスターコアと最低限の補助機能、そして実体化させている小さな体だけしかなく、おろおろとリュウの身を心配する事しかできなくなってしまった。


 そして、アイスの問いに答えるかの様に、リュウの右手からプロジェクターが起動する。


 リュウの意識は極度の混乱状態に陥っていた。

 何度も不快な体験をさせられ逃げ出したい思いと、陥る事態になんとか対処しようという思い、ガトルと対峙する仲間への心配、そういった物が絡み合って収拾がつかなくなっているのである。


 プロジェクターが起動したのも、そういう混乱する意識の中で、不意にアイスの声が意識に届いた為であった。

 ただその作動は滅茶苦茶であり、リュウの記憶にある不快な記憶がひたすらランダムに表示されるだけだ。


「ほう、面白いじゃねーか……今、にーちゃんが見てるものか……」


 ガトルはプロジェクターの映像を見て、それが自分の魔法によってリュウの意識が見ている負の記憶だと理解した。

 いつもは「闇の読心」で読み取ったものを「大いなる闇の再現」で見させているとは思っていても、実際にこんな風に映像として見る事など無いのだ。

 ガトルはそんな思わぬ収穫に、口元を歪めて舌なめずりするのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ