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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第二章
46/227

18 心配

「ミガルさん喜んでくれてましたね、ご主人様ぁ」

「そりゃそうだろう、何と言っても妖精様直伝の技術だからな~ 」


 ミガルの工房からハンターギルドに戻って来たリュウに、ココアが嬉しそうに話し掛ける。

 答えるリュウも喜ぶミガルの顔を思い出して自然と笑顔になるが、ミルクは主人の言葉にもじもじしながら呟く。


「何だか照れますねぇ……」

「そうか? ともあれ二人共お疲れさん!」

「ありがとうございます」

「はい、お疲れ様ですぅ」


 リュウは二人に労いの言葉を掛けると、夕食を摂るべく食堂へ向かう。

 食堂は半分近く席が埋まっているが、端の方のテーブルではリズとリーザが話していた。

 リュウは二人に近付いて、アイスが居ない事に気付く。


「リズさん、アイスは居ないんですか?」

「あ、リュウ様お帰りなさい。アイス様はちょっと気分が良くない様で、お部屋に戻ってらっしゃいます……」


 リュウに声を掛けられたリズは一瞬嬉しそうな顔を見せたが、すぐに済まなそうに答えた。


「何か有ったんです?」

「いえ、今日は一日一緒に散歩したり買い物していましたが特に何も。ただ、夕食を少し食べたところでお部屋に戻ると仰って……」


 そして原因を尋ねるリュウにリズは首を振り、心配そうな顔で経緯を答えた。


「あの食いしん坊がねぇ……ちょっと見て来るか。ミルク、ココア、夕食適当に注文しておいてくれ」

「はい、ご主人様」

「分かりました~」


 そう言うとリュウは、ミルクとココアを置いて部屋に向かう。










 リュウが部屋に入ると部屋にはリズが付けてくれたのか、既に明かりが灯っていた。

 植物の油を使ったランプなのだが、思った以上に明るく灯るそれのお蔭で、すぐに部屋の隅で丸くなるアイスを見つける事が出来た。


「アイス~、ただいま~。どうした、気分悪いのか?」

「ん……お帰り、リュウ。ううん、えっと、眠かっただけ……」


 目の前でしゃがんだリュウに声を掛けられ、眠っていたにしてはすぐに目を開いたアイスは、丸くなったまま答える。


「リズさん心配してたぞ? ちゃんと眠いなら眠いと言わないとダメだろ?」

「あ……ごめん……えっとね、その時は眠いって思わなかったんだよ……ただちょっとしんどいなぁと思ってて……ごめんね?」


 リュウに優しく諭され、アイスは思い出した様に謝ると、ばつが悪そうに言い訳をする。


「しょうがねえなぁ、リズさんには俺から言っといてやるよ……ベッドで寝ないのか?」

「ありがと。えっと、ここ冷たくて気持ちいいから、ここでいいの……」

「そっか……」


 リュウはやれやれと立ち上がると、(きびす)を返そうとして立ち止まる。

 アイスがきょとんとリュウを見上げると、リュウの口元がニヤリと歪んだ。


「おねしょの心配なんてしなくていいんだぞ?」

「し、してないよっ!」


 ニィっと笑うリュウに、目を丸くして慌てて否定するアイス。


「そかそか。んじゃ飯食ったら戻って来るから、お利口さんで待ってろよ~」

「もう! すぐ子供扱いするんだから! ……リュウの馬鹿ぁ……」


 笑いながらリュウは今度こそ踵を返し、ひらひらと手を振って扉に向かう。

 憤慨するアイスはぷいっと横を向くと首を下げ、小さくポツリと呟いた。。


 パタンと扉が閉じられリュウが食堂に向かうと、アイスはゆっくり起き上がる。

 そして伸びをする様に翼を伸ばすと、右腕に首を向ける。


「やっぱり言えなかったなぁ……どうしよう……」


 アイスは不安そうに右肘を見つめる。

 小さかった白いシミは、完全に肘の関節を覆っていた。










 リュウがアイスの下へ向かい、ミルクとココアは食事を注文する為にカウンターへと飛んでいく。

 カウンターでは主のコスタや他の従業員が一瞬驚き、そして笑顔になった。


「いらっしゃいませ、ミルク様、ココア様。お茶でよろしいですか?」


 コスタがにこやかに二人に話し掛ける。

 ミルク達が飛ぶのを見るのは初めてだが、妖精はそういうものと思っているのか、特にそれについて言及はしなかった。


「いえ、ご主人様の食事を……お任せしても構いませんか?」

「ええ、分かりました。出来たら席までお持ちしますよ」

「ありがとうございます」


 ミルクが用件を伝えるとコスタはにこやかな表情のまま頷く。

 ミルクとココアは笑顔でぺこりと頭を下げると、元のテーブルへと戻る。


「ミルク様、天使のお姿とっても似合ってますわね!」

「あ、ありがとうございます……」


 リーザに褒められ赤くなるミルク。


「ココア様のそれは、悪魔的なデザインですね……でも素敵です!」

「えへへ、姉さまと対なんです。ご主人様に作って頂いたんですよ!」


 ココアはリズにコスチュームを褒められて自慢気に胸を張るが、リーザはそれを聞いて頬を赤く染め、俯き加減に呟く。


「まぁ、そのデザインをリュウ様が? リュ、リュウ様は大胆な格好がお好みなのかしら……」

「い、いえ、ココアの好みをご主人様が反映させただけですよ……」


 そのリーザの呟きに、ミルクが慌てた様にフォローを入れる。


 そんなたわいのない話をしている内にリュウの食事が運ばれ、やがてリュウ自身も戻って来た。


「どうでした? アイス様のご様子は……」


 戻って来たリュウに、不安そうな顔でリズが尋ねる。


「アイスが言うには、どうやら眠かったらしいですよ? ただ、最初はそれに気付かずにしんどいんだと思ってたらしいです。人騒がせで済みません……」

「い、いえ。そうだったんですね、良かったです。何も無くて……姉さんごめんね、私の早とちりだったみたい……」


 リュウの説明を聞いて、リズはホッとした表情を見せた。

 そしてリーザに向き直ると、軽く頭を下げる。


「いいのよ、リズ。何も知らされぬまま大事になるより、後で取り越し苦労だったと分かる方が余程いいもの。また何か有ったら声掛けて……じゃあね。リュウ様、私はこれで失礼しますわね」

「あ、はい。どうも……」


 アイスを心配したリズに相談されていたリーザは、リズににっこりと微笑むと、リュウに向き直ると丁寧なお辞儀をして去って行った。

 一方のリュウは、お辞儀で強調された谷間に気を取られ、ろくな挨拶も返せずにミルクとココアのジト目を頂戴していた。


「いただきまーす」


 もりもりと夕食を食べ始めたリュウをリズは何も言わず眺めていたが、クスリと笑うと口を開いた。


「なんだか『あーん』してた時が遠い昔みたいな気がしますね……まだ五日程しか経っていないのに……」

「そ、そうですか?」


 昔を懐かしむ様にリズに言われ、リュウは介抱されていた時を思い出して照れた。


「ええ、多分きっと色々有り過ぎたからなんでしょうね……大怪我で運ばれて来て、あっと言う間に治って、ヴォルフを退治して……リュウ様がすっかり此処に溶け込んでいらっしゃるからなんでしょうね……」

「えっと、それは良い意味なんですか……ね?」


 リズはこれまでを思い出しながらクスクスと笑った。

 対するリュウは少し顔を赤らめながら、自身の評価が気になった。


「え……もちろんですよ! どうしてですか?」

「いやぁ、図々しいとか思われてたら嫌だなぁ……と……」


 リズが一瞬きょとんとして全力で肯定し、疑問の意図を尋ねると、リュウは頭を掻きながら不安を口にする。


「図々しいはともかく、男の人は多少強引なくらいが良いんですよ?」


 そう言ってリズは、ずずいっと椅子ごとリュウの隣に接近した。

 言ってる本人も相当強引である。

 しかし当然の様にデレるリュウ。


「リズ! 何してるの!」

「「ッ!?」」


 突然鋭く名を呼ばれ、ビクッとリズが背を伸ばす。

 当然、リュウも同じリアクションだ。

 声を掛けたのは、帰ったはずのリーザであった。


「ね、姉さん! 帰ったんじゃなかったの!?」

「フリよ。危険分子を残して去る訳が無いでしょ……全く油断も隙も無い……」


 慌ててリュウから距離を取るリズにつかつかと詰め寄るリーザは、呆れた様な表情でリズの腕を掴む。


「ちょ、ちょっと姉さん!?」

「いいから来なさい。あなたが居ると、リュウ様が落ち着いて食事できないでしょ! リュウ様、失礼しました。アイス様のご様子にくれぐれも注意してあげて下さいね、では……」


 ぐいっと腕を引かれて困惑するリズだったが、リーザはお構いなしにリズを連れて行ってしまった。

 その様子にリュウは冷や汗を流しながら固まっていたが、その内部では秘話回線でミルクとココアが話し始める。


『はぁ……リーザさん、こんな時でもアイス様の事を気遣って……さすがです……ミルクも見習わないと……』

『何言ってるんですか、姉さま。リーザのあれは「他人を気遣える私って、良い女でしょ」アピールなんですよ! 本命はリズの邪魔です!』


 リーザの対応を見て、お手本にしようとため息混じりに感心するミルクに、憤慨気味に自分なりの解説を入れるココア。


『そ、そんな穿った見方しなくても……』

『はぁ……これだから乙女は……』


 鼻息の荒いココアにミルクは困り顔で(いさ)めようとするが、逆にココアに呆れられてしまう。


『コ、ココアこそ、もっと素直に物事を見れないの?』

『一番の危険人物を素直に評価など出来ませんよ、姉さま……』


 乙女と言われ、ちょっとカチンときたミルクだが、ココアは柳に風と受け流し、ミルクを諭す様に静かに話す。


『き、危険人物だなんて……』


 ココアのその言い様が、ミルクにはあんまりに思えた。

 普段のリーザはミルクにとって、理想的に思えたからだ。


『忘れたんですか? 姉さま。ご主人様を奪われかけたあの夜の事を!』

『あう……わ、忘れてないけど……で、でも今は……』


 だがココアはミルクがリーザを擁護する姿勢が面白くなく、あの夜の出来事を持ち出した。

 自分は何もしなかった、と言うか、面白がって見ていたくせにである。

 それでもミルクの煮え切らない態度に、またもココアのスイッチが入る。


『ご主人様の初めてを頂くのはココアです!』

『は!? ダ、ダメよ! そんなの!』


 唐突にココアがリーザから、主人との話に切り替える。

 ミルクは一瞬の混乱を脱すると、反射的に全力で反対した。


『ふ~ん、姉さまも欲しいんだ?』

『えっ!? ミミ、ミルクは……あの……その……』


 ミルクをジロリと見下ろすココアは、その口元をニヤリと歪める。

 ミルクはそのココアの表情を見て、自分が何に反対したのか、それが意味する物がどういうものかを理解し弁解しようとするが、顔が熱く赤くなるばかりで言葉が出てこない。


『何照れてるんですか……姉さまがご主人様を大好きなのはとっくに知ってますよ? ご主人様の首にキスしてましたもんね?』


 真っ赤になって慌てるミルクにココアは、ミルクの気持ちなどお見通し、と呆れ口調になるが、またもニヤリと笑うと爆弾を投下した。


『ななな、何の……事……を……』


 対するミルクは瞬時にその時の記憶を呼び覚まし、あの時は誰にも見られていないはず、と思いたいのだが相手がココアでは自信が持てない。


『うふ、うふふ……あの時の姉さま、うっとりとして可愛かったですよ?』

『う、嘘言わないで……ひ、引っ掛からないんだから……』


 当時を思い出して微笑むココアに、ミルクは懸命に心を落ち着かせながら、毅然とした態度を取ろうとするが、消しきれない動揺が声をわずかに震わせる。

 するとココアはにっこりと微笑んでミルクを手招きして歩み寄らせると、自身の顔からやや離れた位置で合掌し、その合わせた手を顔の幅ほど横に開いた。

 その開かれた手の平の間の空間にはモニターが起動し、リュウの首であろう部分に抱きつき、頬を染めて口づけするミルクが映し出されていた。


『うああっ! ど、どうしてっ!? てっ、偵察糸!?』


 再び真っ赤な顔で、ミルクはココアに飛びつく様にその両腕を掴むが、ココアも想定していたのかびくともしない。


『姉さま、手を放して下さい……ご主人様に見せますよ?』

『わあああっ! ダメっ! は、放すからっ! 見せないって約束して! お願い! コ、ココアぁ……』


 静かな声で手を放すように言うココアだが、その表情は勝ち誇ったそれだ。

 逆にミルクは盛大に狼狽え、放すと言いながらもココアに(すが)りついたままだ。


 皿の横でのそんな二人の様子を、リュウは食事をしながら見下ろしていた。

 そして、ココアが偉そうにふんぞり返ったりミルクが真っ赤になったりするのを見て、またココアがはっちゃけてんのか? と、もぐもぐしながら思っていた。


 秘話回線なのでリュウはその内容を聞く事はできないが、リュウが食事を終えたその時、真っ赤な顔でミルクがココアに掴みかかった。

 なのでリュウは、やれやれと思いながらも動く。


「はうっ!」

「むぎゅっ!」

「何やってんだお前らは……行くぞぉ」


 むんずと乱暴にミルクとココアを掴み、リュウは二人を肩に乗せると、食器を返却しに向かう。

 すかさず解放されたミルクが、抗議の声を上げる。


「ご、ご主人様! もっと優しく扱って下さい!」

「ケンカしなかったらな……」

「ケ、ケンカじゃありません!」

「じゃあ、何だよ?」

「え、えっと、お願い……そう、お願いをしていたんです!」

「お願いねぇ……」


 リュウの言葉にミルクがつっかえながら答える様子に、リュウは何やら胡散臭さを感じていた。

 なのでリュウはストレートにミルクに尋ねる。


「お願いって何だよ?」

「えっ、あの、それは……な、内緒です!」

「内緒ぉ~?」


 ミルクは少し考えてきっぱりと答えるが、リュウは胡散臭さが増した気がした。


「は、はい……その、ミルクだって女の子なので……お、男の人には知られたくない事が……済みません……」

「ふ~ん……」


 胡乱げな主人の声にミルクは女の子の事情という事で乗り切ろうとするが、内容が内容でなかったらココアを叱ってもらえるのに、と少し悔しい想いをしていた。


 リュウはそんなミルクの態度に既視感を覚えていた。

 それは学校で先生に対し、いじめられている生徒がいじめている生徒を庇っている時のものだ。

 庇いたくて庇っているのではない。

 脅されたり、更に酷い事をされない為に、仕方なく庇っているのだ。


 何が、という訳でもないのだが、リュウには今のミルクがその生徒と被って見えたのだ。

 なのでリュウは、部屋に向かう階段を渋い顔で上がりながら考える。

 そして階段を上がり終え、部屋に向かう誰も居ない廊下で足を止めると、ミルクとココアを手の平に乗せ、目の前に掲げて向き合った。


「なあ、勘違いなら良いんだけどさ、ミルク……ココアにいじめられてる?」

「えっ!?」

「はぁっ!?」


 考えても上手く話す事は無理だと思ったリュウは、単刀直入に切り出し、ミルクとココアは予想外の質問に驚き、思わずといった声を上げた。


「あ、あの、ご主人様……別にいじめられてはいませんけど……」

「そか。んじゃ、脅されたり、弱みを握られたりは?」


 主人がどういうつもりで聞いているのかとミルクがおずおずと答えると、リュウは軽く頷いてから別の心当たりを聞いてみる。

 そのリュウの静かな口調に、ミルクとココアが敏感に反応する。

 これは嵐の前の静けさだと。

 なのでミルクは慎重に言葉を探し、ココアは少し青褪めている。


「えっと、ご主人様。確かにココアに意地悪な事を言われたりとかは有りますが、悪意を感じる類のものでは……ミルクが十八禁なので、大抵はからかわれる程度の事です……」


 ミルクは完全に否定はせず、ただしリュウが事態を深刻に受け止めない様に、その程度の軽さを強調してにっこり微笑む。

 微笑んだのは別に芝居をした訳では無い。

 主人が心配してくれている事が嬉しかったのだ。


「そうか……ッ!?」


 リュウは微笑むミルクを見ながら見当違いだったか、と話を終えようとしたが、その時ミルクの瞳から涙が零れるのを見て息を呑んだ。


「あ、あれっ!? す、済みませんっ! やだ……どうして……」

「ね、姉さま、やめてよぅ……」


 ポロリと零れた涙に、ミルク自身自覚が無かったのか、慌てて涙を拭う。

 ココアもまさかミルクが泣くとは思っておらず、おろおろしている。


「ココア、俺が中学の時……何でぼっちだったか記憶見てるだろ?」

「はっ、いえ、あの……はい……」


 リュウが静かにココアに問い掛けると、ココアはビクッと身を震わせて否定しかけたが、リュウと目が合うとしゅんと項垂れてポツリと肯定した。


 それはリュウが関東に居た、中学一年の時に起こった出来事。


 ある事で脅されていた男子が、放課後に担任からいじめを問われた際に、いじめていた男子達を庇った事だ。

 その場に居合わせたリュウは、休み時間などでいじめをしていた連中がゲラゲラと笑いながら話しているのを聞いて大体の事を把握していたが、当事者でもない為に黙っていた。

 だが、どうせバレるはずもないとニヤニヤ笑う連中と、ヘラヘラと笑ってその場をやり過ごそうとする男子を見て、リュウはイライラを抑え切れずに暴露してしまったのだ。


 その為にリュウは、いじめていた連中から恨みを買い、いじめられていた男子からも恨みを買う事となってしまったのだった。


「俺はさ、あの時の大失敗はまずかったと思ってるけど、それでもああいう陰湿な事は嫌いなんだよ。だからさ、俺と一緒にじゃれてる時ならともかく、俺の分からない所で誤解を招く様な事はするなよ?」

「は、はい、ご主人様。気を付けます……姉さま、ごめんなさい……」


 リュウは当時を思い出して苦い顔をしながらも、ココアの目を見て真剣に話す。

 ココアもしっかりと受け止めた様子で、リュウとミルクに頭を下げた。


「ご主人様、ごめんなさい。ミルクが泣いてしまったから深刻な感じになってしまって……でも泣いたのは、きっと嬉しかったからなんです……」


 ココアから謝罪されるミルクは、主人が激怒する様な事にならなくて良かった、とホッとしつつ、誤解を招いた事を謝る。


「嬉しい?」

「はい。その、ご主人様が心配して下さって……ちゃんとミルク達の事を見て下さっているんだって思って……」


 意味が分からず聞き返すリュウに、ミルクはその理由を説明する。

 それを聞き少し照れてしまったリュウは、照れ隠しに少し声が大きくなる。


「お、おう、ちゃんと見てるぞ。普段のお前達の様子からパンツまでなー!」

「はうっ! パ、パンツは見なくていいですぅ!」

「さすがご主人様です!」


 リュウがニカッと笑い、ミルクが困った顔で赤くなり、ココアがクスクスと笑う。

 そしてリュウはミルクとココアを再び肩に乗せると、部屋へ向かって歩き出す。

 その表情は先程と違い、晴れやかなものとなっていた。

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