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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第二章
31/227

03 魔人族

 ベッドに横たわるリュウと右腕にしがみつくアイスが、五人の人物に見下ろされている。

 革ベストに革ズボンの四人の男を従え、丈の短い革ベストに革のショートパンツの美人だが勝気そうな金髪のお姉さんがリュウを見て目を見開く。

 このお姉さんがリーダーなのかも知れない。


「一体これはどうしたんだ!? 酷い怪我じゃないか!」


 小さな赤い宝石が額の中央を飾る細いヘアバンドで長めの金髪を纏めたお姉さんに中腰で顔を覗き込まれ、先程の決意はどこへやら、リュウはしばし見惚れていた。

 革ベストから覗く、深い谷間に。


『ご、ご主人様っ!』

「うおっ! っと、ど、どうも……」


 ミルクの怒った声で我に返るリュウは、とりあえず言葉を返す。


「君、大丈夫か? 魔獣に襲われたのか?」

「は? 魔獣? いえ、違いますけど……」


 どうやら言葉は通じる様だが、魔獣と言われてもさっぱり分からず、違うと答える以外に無いリュウ。


「そうか……で、その子はまさか……星巡竜……の子か!?」


 リュウの返事に少し安心した表情を見せたお姉さんは、リュウの腕にしがみつくアイスを見て、信じられないといった様子で聞いてきた。


「! 星巡竜を知ってるんですね!? 他の星巡竜も居るんですか!?」

「知ってる……というか、言い伝えでな。私も見たのは初めてだ」

「そうですか……」


 まさかお姉さんの口から星巡竜という単語が聞けるとは思わず、期待に満ちた目を向けるリュウだったが、お姉さんの答えを聞いて肩を落とす。

 見た目に反して元気な様子を見せるリュウに、ちょっと引くお姉さん。


「その宝石は?」

「これは治癒の効果を持つもので、この子の親から貰ったんです」

「そうか……」


 そうして真っ先に聞かれてもおかしくない輝く竜珠に質問が及び、リュウは素直に答えつつも少し警戒したが、お姉さんは少し考える素振りを見せただけで奪ってくる様子もなく、リュウは内心安堵する。


「他にも聞きたい事はあるが、一先ず場所を移そう。ここは少々危険なんだ」

「と、言われてもですね……」


 そこで一旦質問を止めたお姉さんの提案に、絶対安静のリュウはどう答えるべきか困った。


「それは困ります!」

「な!? え!? よ、妖精……様!?」


 そんなリュウの様子にミルクが意を決して左手から姿を現し、お姉さんと仲間達は驚愕を露わにした。

 そしてハッと我に返ったお姉さんと仲間達は、一斉にミルクに向かって(ひざまず)く。


『何!? 何この状況!? ミルク何やったんだよ!?』

『し、知りませんよぉ! ミルクにも意味がわかりません!』

『と、とりあえず、こっちの状況伝えて……後は任せるぞ?』

『え、あ、はい!』


 突然の展開に、脳内でちょっとパニクるリュウとミルク。


「今、ご主人様は絶対安静が必要なのです。今、無理すれば傷に(さわ)ります」

「ご、ご主人様!? あ、あのっ、し、失礼ですが、あなた様はどういう――」

「いやいやいや、ちょっと訳ありのただの怪我人ですよ!?」


 ミルクは絶対安静を強調したかったが、お姉さんはご主人様という単語に反応し、リュウは自分をちょっと怪しい人みたいに言ってしまった。


「え!? しかし妖精様のご主人様だなんて……お、お名前は何と……」


 しかし、お姉さんがそんな説明で納得できる訳はない。


「リュウ・アモウですけど……」

「リュウ! で、では、あなた様も星巡竜でいらっしゃるのですか!?」

「違うって! ただの名前だから! 親がリュウって名付けただけだから!」


 お姉さんはリュウを特別な存在にしたいみたいだが、リュウは真面目な対応が面倒臭くなった様だ。

 その時、後ろで控えていた一人の男がお姉さんに近付き、口を開く。


「おい、リズ、そろそろ……」

「あ、そ、そうだな……この付近は魔獣が居て危険なのです、我々が丁重にお運び致しますから、お聞き入れ頂けませんか?」


 リズと呼ばれたお姉さんは我に返ると、先程とはまるで違う丁寧な口調でリュウ達に移動を促した。


「分かりました。ミルク、この人達にお任せしよう」

「は、はい、ご主人様。では、皆様、よろしくお願いします」


 こうしてリュウはリズの後ろに居た四人の男達にベッドを担いでもらい、川沿いを下って行くのだった。








 四人の男にベッドの四隅を持ってもらって川沿いを下って行くリュウは、ミルクを出したまま右腕にアイスを抱いて、前方を睨みつけていた。

 正確には、目の前のリズのぷるんと弾むけしからん尻だが。


『ご主人様……お尻ばかり見てないで、ちゃんとお話しして下さい!』

『ミルク、エルナダにこんな褐色の肌の人達居たか?』


 ミルクが呆れた声で情報収集を勧めるのを無視して、リュウはミルクに質問する。


『え? いえ、見かけませんでした……ココアくらいです……』

『エルナダは転移技術とか有ったのか?』

『いえ、データベースにはありません。あ! まさか、ご主人様!』


 答えを返すうちにミルクは、リュウが何を考えているのかに気付いた。


「リズさん、この星の名前を教えて下さい」

「え? ウィリデステラですが……」

「やっぱり……ヨルグヘイムの技術なんだな。リズさん、ナダムという星をご存知ですか?」

「ナダムですか? いえ、ちょっと聞いた事が有りません……」

「そうですか……」


 突然のリュウの質問に、リズは戸惑いながらも答える。

 そして、その答えはリュウの想像通りだった。

 ここは惑星ナダムではなく、ウィリデステラという別の惑星だったのだ。


『ミルク、誰が尻ばかり見てるって?』

『はうっ! も、申し訳ありません!』


 確かに尻に釘付けだったのだが、推測が当たった事でミルクを封じて冷や汗を拭うリュウは、視線を感じてアイスを見た。

 そこには右腕にしっかり掴まりながら、リュウをじーっと見つめるアイス。


「リュウ、お尻好きなの?」

「……嫌いな男なんておらん……」

「ふーん……」


 アイスの純粋な質問に、所詮子供だとリュウは開き直った。

 が、左手から突き刺さる視線に目をやると、真っ赤な顔で頬をぷくっと膨らませた涙目の妖精が。


『ミルク。そんな顔してると、折角の美人が台無しだぞ……』

『は!? は……い、ご主人……様ぁ……』


 こうして泣きそうな妖精を、ほわほわと舞い上がらせる事に成功したリュウは、震え声にならなかった自分を褒めつつ咳払いを一つして、リズに色々とこの世界について、聞く事にするのであった。


 リズ達は川を南に下ったオーグルトと呼ばれる町のハンターであり、更に東にあるバナンザという町から森に魔獣が出たとの報告を受けて、周囲を見回っていたとの事だった。


 魔獣は普段、人里に近付くことは滅多になく大抵が山間部に生息し、森で見かける事も稀なのだという。

 それが山を下りて来るというのは作物が不作の年が定番なのだが、今年の作物は豊作であり、通常では考えられない事だったのだ。


 そういう話を聞きながら、リュウはリズ達がナイフしか持っていない事に気が付いた。


「あの、皆さんハンターなのに、どうしてナイフしか持ってないんですか?」

「え? リュウ様、本当に分からないのですか?」

「は? えっと、はい……」


 何気ないリュウの質問にリズは怪訝な顔で聞き返すが、本当に知らないのだからリュウは素直に頷くしかない。


「私達は魔人族です。ですからナイフ以外の武器は必要ないのです」

「え、あー、済みません、リズさん。俺には、魔人族だから武器は不要という事すら分からないんで、そこから教えてください」


 当然の様に答えるリズに、困惑するリュウ。

 確かに人より耳の先端が尖っている様だが、褐色の肌は日本でも普通にお目に掛かれる。

 だが、だから武器が不要という事は理解できない。


「えっ!? そ、そうなんですか……ええと、私達魔人族は、様々な魔法が使えまして――」


 リュウがこの星の人間では無い事を知らないリズはリュウの言葉に驚き、種族の特性を説明しようとして、リュウに遮られる。


「マジでぇっ!?」

「ひっ!? は、はい! あ、あの、ご覧になりますか?」


 魔法というファンタジー溢れる言葉にテンションが跳ね上がり、普段より五割増しの音量で叫んでしまうリュウ。

 リズは言葉の意味が分からず、一瞬怒らせてしまったのかとビクッと振り向くが、リュウの目がキラキラしているのを見て、魔法の実演を提案してみる。


「はい、是非! お願いします!」


 リュウの怪我人とは思えない元気一杯の返事に引き気味のリズであるが、気を取り直すと川向こうの大木に向けて右手を伸ばし、魔法のトリガーを引く。


「火焔球!」


 リズが叫ぶのと同時にリズの右手の掌の先に直径二十センチの魔法陣が描かれ、拳より大きい火の玉が(はし)った。

 大木に直撃した火の玉は激しく勢いを増し、炎が大木の幹を完全に包み込む。


「う、うわ……」

「リュウ、魔法すごいね!」

「これは、驚きですね……」

「ココアも覚えたいです!」


 少し得意気なリズの魔法に驚くリュウとそれに追従するアイスとミルクだが、出て来たココアを見て、リュウは慌てて右腕を背中に回して隠した。


『ココア!? な、なんでそんな格好してんだ!?』

『だってご主人様、リズさんの胸とお尻に食いついてたじゃないですか!』


 そう、ココアはリュウがリズに見惚れた為に、リズより更に露出度を上げてビキニアーマー仕様で現れ、ギョッとしたリュウは咄嗟にココアを隠したのだ。


『だからって対抗すんなよ! いつもの可愛いお前に戻れって!』

『か、可愛い!? は、はい! ご主人様!』


 冷や汗を流しながらリュウはココアを説得し、同意を得られた事で不自然に隠した腕を元に戻した。

 そこには黒いスーツの普段通りのココアが、モジモジしながら立っていた。


「あの、今、ココアって……ッ!」 


 リズが聞き慣れない声にリュウの方を見て、視線を走らせココアを見つけた。


「初めまして、ご主人様の可愛いココアでーす!」

「よ、妖精様がもう一人……」


 満面の笑みでココアに挨拶されて、驚き固まるリズ。


『ご主人様! ココア完全に舞い上がってるじゃないですか!』

『さっきの格好でいられるよりマシだろ? それよりちょっと待って』

『……』


 脳内ではミルクの非難にリュウが言い訳しつつ話を切って、リズに話し掛ける。


「リズさん、あれ消す事もできます? 火事になりそうですけど……」

「え!? あ、はい、できますよ。水流渦!」


 リュウに消火を頼まれるとリズは再び大木に向けて右手を伸ばし、魔法陣から水の竜巻を撃ち出し、大木を包む炎を消し去った。

 後に残ったのは、焼け焦げた大木が一本。


「おー! マジ凄い! 良かったぁ!」

「あっという間に消えちゃった!」

「見事なものですね!」

「ココアも覚えたいですぅ!」


 称賛を浴びるリズは、少し照れた様な表情をしつつも困惑していた。

 それはミルクとココアの妖精二人が魔法を知らないと思われる事と、星巡竜の子供がまるで話しているかの様にタイミング良く鳴く事だ。

 星巡竜の子供はともかく、妖精の二人が魔法を知らないのはおかしいとリズは思った。

 何故なら、リズの知る妖精はリズより遥かに魔法に長けていたからである。


「あの、妖精様のお二人は、魔法をご存知無いのですか? 私の知る妖精様は私より魔法が上手なのですけど……」

「え、あの、それは……」

「ご主人様、どうしましょう……」


 リズの問いに、ミルクは言葉に詰まり、ココアはリュウに助けを求めた。

 リズが勝手に勘違いしているだけで、二人は妖精ではなくAIである。

 だがこの場でそれを否定していいのか、二人が判断に困ったからである。


「リズさん、その妖精様は何の妖精なんですか?」

「何の妖精?」

「ほら、花の精とか、水の精とか、そういうの無いんですか?」

「あ、それなら、森を司る妖精と仰っていましたね……」


 困り顔のミルクとココアの視線を浴び、リュウはリズに質問した。

 そしてその答えを聞いたリュウは、小さく頷いて話を続ける。


「この子達とは違うんですね……ミルクとココアは金属の精なんですよ……」


 そう言いながらリュウは、両手をズボンのポケットに入れ、訓練用の人工細胞を両手に分けて出して握り、ポケットから両手を出した。


「金属の!?」

「はい。魔法は使えませんけど、金属を自在に操れますよ。な?」


 そう言ってリュウは、握った両手を上向きに開き、ミルクとココアに目配せする。


『ほら、リズさんみたいに魔法っぽく、何か可愛い物に変えてみろって』

『は、はい!』

『分かりました!』

「そ、それでは……」

「いきますよ~」


 ミルクとココアの立体映像が、それぞれの掌に乗る金属に向けて両手を伸ばしながら、リュウの手を通して金属塊にアクセスする。

 するとミルクの方の金属は銀色の蝶に、ココアの方は銀色の花に変化する。


「こ、これは……綺麗……す、凄いですミルク様! ココア様!」


 ただの金属の塊が、あっという間に姿を変える様を見て、リズの目は大きく見開かれ、感嘆の言葉を口にした。

 リュウを運んでいる男達も、口々に「おお……」とか「凄い……」と興奮した様子だ。


「ありがとうございます。喜んで頂けて嬉しいです」

「アイス様も、見るのは初めてでしたね~」

「うん、とっても綺麗!」


 リズの興奮した様子に、ミルクがぺこりとお辞儀をし、ココアの言葉にアイスも嬉しそうに応じる。

 そんなアイスを見て、リズはもう一つの気になる質問をする事にした。


「あの、その星巡竜の子は……言葉を理解してるのでしょうか?」

「アイス様ですよ、リズさん。もちろん理解していらっしゃいますよ」


 リズの物言いをミルクは優しく(たしな)め、その推測を肯定する。


「す、済みません。私には『クルルルル』としか聞こえないので……」

「あー、最初に俺がアイスと会った時と同じですね。そういや、俺は何でアイスと話せる様になったんだろ?」


 そして、リズの疑問の理由を聞いたリュウが、今更ながらに自分がアイスと話せている事に疑問を感じた。


「母さまがリュウに、竜力を与えてくれたんだよ。母さまの力は、どこの誰とでも話せる様になるの!」

「そっか……アイスはできないのか?」

「どこの誰とでも、というのは無理だけど、その場に居る人となら話せる様にできるよ。あ、でも、今は竜力が無いからできないけど……」

「竜力が回復すればできるのか……」

「うん! だったらできるよ!」

「そっか……」


 アイスの説明で、これまでの疑問が解けたリュウ。


「あの……アイス様は今、リュウ様とお話しされてるんですか?」


 更に話し込むリュウとアイスに、リズは小声でミルクに話し掛ける。


「ええ、そうですよ。アイス様のお力が元に戻れば、リズさんも話せる様になりますよ」

「ほ、本当ですか!?」

「え、ええ……」


 そして、ミルクにいずれ自分も話せる様になると言われたリズは、瞳を輝かせてミルクに迫り、ミルクはちょっと引いてしまった。


「おい、リズ……」

「は!? し、失礼しました……で、では先を急ぎましょうか……」


 そして再び仲間の声で我に返ったリズは、顔を赤らめて案内を再開するのだった。

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