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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第一章
27/227

26 門出

 大空洞と地下施設を押し潰して山頂を大きく陥没させたエルナ山は、更には各所に亀裂を生んで地響きを上げて崩壊し、その形状を大きく変えてしまっていた。


「こんな事になってしまうとは……」

「自分を責めるな大佐。命じたのは私だ」

「……」


 ヨルグヘイムから妨害を受けたとは言え、発射したレーザー砲による想像を絶する被害にハイム総司令の言葉が届いていないのか、セグ大佐は呆然とエルナ山を眺めている。

 そして今またエルナ山から大きく地響きが聞こえると、その上空に光の玉が現れ、セグ大佐の下へすぅっと接近していく。

 呆然と見つめるセグ大佐の目の前で光の玉がその輝きを収めると、気を失っている様子のエルシャンドラを横抱きにアインダークが立っていた。


「そなたがセグで間違いないか?」

「は、はい。私がセグです。星巡竜様」


 アインダークは通信機でしか話した事がないセグ大佐を認識していた。

 セグ大佐は何故それを、と言いかけたが、星巡竜相手に詮無い事だと素直に返事をするに留めた。


「我はアインダーク。一先ず妻を休ませたい。此処を借りるぞ」

「そ、それでしたら他に場所を――」


 アインダークは名を名乗るとエルシャンドラを抱いたままセグ大佐らの脇に停めてあった救護車両に向かい、セグ大佐は慌てて引き留めようとした。

 救護車両には確かに簡易ベッドが二床有るのだが、今は重傷者がどちらも使用しており、その周りにも多数の負傷者が治療を受けている最中なのだ。


「いや、ここで構わぬ。もう我に危害を加えられる者は居らぬからな」


 セグ大佐の言葉を待たず、アインダークは真紅の光を放った。

 するとどうだろう、救護車両で寝ていた二人の重傷を負った兵士がきょとんとした表情で起き上がり、自身の体をあちこち触りながら車両を降りてくるではないか。

 そればかりか、周囲で治療を受ける者達までもが、口々に驚きの言葉を発しながら立ち上がり始めた。


「こ、これは……」

「どうだ? もう問題無かろう? 済まぬが借りるぞ」


 セグ大佐もハイム総司令も、その場に居た将兵の誰もが、突然起こった神の奇跡に言葉を失う中、アインダークはエルシャンドラを簡易ベッドに横たえた。


「あなた……」

「竜力を使い果たして気を失ったのだ。少し休むのだ、エルシャンドラ」


 ベッドに横たえられて意識を取り戻したエルシャンドラに、アインダークは優しく語り掛けると車両を降り、負傷を癒された兵士達に次々と感謝の言葉を浴びた。

 エルシャンドラはアインダークの普段の敬称と違い、自身の名をきちんと呼ばれた事から夫の強い願いを感じ、大人しく従った。


「待たせて済まぬ。ヨルグヘイムは滅したが、こちらはどうなっておるのだ?」

「は!? そ、それは本当なのでしょうか!?」

「嘘は言わぬ。奴はこの身を奪いに来たが、大気圏外で滅びの力の前に成す術も無く消滅したのだ」

「なんと……」


 真紅の竜が遥か上空へと飛び立ち、戻って来たのはつい先程誰もが目撃した事ではあるが、まさかヨルグヘイムが滅びていたとは思わず、その場の誰もが言葉を失ってしまった。


「アインダーク様、私はレジスタンスで総司令を務めておりますハイムと申します。私から、現在の状況をお話しさせて頂きます」


 皆が言葉を失う中、我に返るハイム総司令はアインダークの先の問いに答える。


「なるほど。ならば、もう無用な血が流れずに済むのだな」

「そうなります。政府転覆は成りませんでしたが……」


 現状説明に納得した様子のアインダークに、ハイム総司令は肯定しつつも悔しさを(にじ)ませた。

 だが、その表情はすぐに驚きに変わる。


「何故だ? これからそれを成すのであろう?」

「は? いえ、如何にヨルグヘイムが居なくなったとは言え、この数では――」

「で、では、アインダーク様……」


 アインダークの言葉に、諦めを口にしかけるハイム総司令を押しのける様にして、セグ大佐がアインダークの前に出る。


「我らの解放に尽力してくれた借りを返すだけだ。そなたらに手は出させぬ」


 アインダークは事も無げに言うが、レジスタンス、いや、独裁政治に苦しんでいた全ての人々にとって、これ程心強い言葉が有るだろうか。


「あ、ありがとうございます! セグ大佐、首脳部を集めてくれ! それと各市長に連絡を!」

「は、すぐに。アインダーク様……感謝致します!」


 理解が追い付いたハイム総司令が立場も忘れて深く頭を下げ、セグ大佐や将兵達もそれに(なら)って深々と頭を下げるのであった。










 それから二時間後、レジスタンス首脳部とそれを裏で支えて来た各市長とその補佐達、そして現政権首脳部と軍首脳部が、国政運営部の大会議場に集まっていた。


 最後まで引き締まった表情で着席するレジスタンス首脳部の横には、明るい表情の市長達が座り、それらに向かい合って現政権首脳部と軍首脳部が青い顔で座っている中、ゼオス中将だけは何故かスッキリした表情を見せていた。

 そしてアインダークは、レジスタンス首脳部の後方に控えるセグ大佐の横で、未だ権力の座にしがみつこうとする現政権首脳部の醜さに閉口していた。


《ここで一気に反抗勢力を(ほふ)るつもりか……全く、どこの星でも権力者というものは変わらぬものだな……》


 アインダークは会議場の外からレジスタンスと市長達を狙う複数の敵意を感知していた。

 そしてその排除に動こうとして、その動きを止めた。

 その必要が無くなったからである。


「あなた、外の不穏分子は排除しましたわ。気付いていたのでしょう?」

「無論。もう良いのか? エルシャ」


 大会議室の扉から静かに歩み寄って、アインダークに話し掛けるエルシャンドラの美貌に誰もが息を呑んでいる中、アインダークだけが平然と答える。


「お、お待ち下さい、あなた様は……それに不穏分子とは一体……」

「我の妻、エルシャンドラだ。そなたらを狙っておった連中を排除してくれたのだ」


 アインダークの声で、はっと我に返ったグランエルナーダ市長、エダン・ミットがエルシャンドラに問い掛けるが、自分が答えた方が早かろうとアインダークが答えに応じる。


「あなた方が居なくなればまだ政権にしがみつける、とそこの方達に指示されていたのですわ」


 補足するエルシャンドラの現政権首脳部を見る目が、氷の様に冷ややかだ。


「な、何を根拠に! で、でたらめだ! 我々は――」

「あら、(わたくし)にそれを問いますの? いいでしょう、では……」


 現政権首脳部の一人が、証拠など有るはずがないと激高するが、エルシャンドラは麗しい声色でそれを静かに止め、ゆっくりと右手を現政権首脳部に向けた。

 すると彼らの頭部に淡い濃紺の光が(まと)わりつき、皆が向かい合う中央の空間に直径一メートル程の濃紺の球体が現れる。

 そしてその濃紺の球体に、この大会議室ではない小さな部屋で顔を突き合わせる、現政権首脳部の連中と数人の兵士が映し出される。


「よいか、お前たちは大会議室の外で機を伺うのだ」

「突入させるよりは、直接外から撃つ方が確実ではないか?」

「そんな事をして、星巡竜は大丈夫なのか?」

「星巡竜を撃つのではない。レジスタンスと市長どもだ」

「しかし……」

「なに、星巡竜も守るべき者が居なくなれば、去るやも知れん」

「そうだ、ヨルグヘイム様と対立してまで残るとは思えん」

「しかしヨルグヘイム様はどこに行かれたのか……」


 そこに映し出される光景を見て誰もが絶句していたが、先程激高した男が再び顔を真っ赤にして叫び出す。


「でたらめだ! こ、これはまやかしだ! 皆、騙されるな!」

「あら、あなたが一番強硬に主張していましたのに……(わたくし)達を撃て、と」


 男の叫びとは対照的に、エルシャンドラの声はとても静かに響く。


「ち、違う! 星巡竜を撃てとは言ってない!」


 男はそう言った瞬間、はっとした表情を一瞬覗かせた。

 そしてエルシャンドラは、皆がぞくりとする笑みを溢す。


(わたくし)は知識を司る星巡竜、エルシャンドラ。私を(あざむ)く事はできても、私の力を欺く事は誰にもできませんわ」


 エルシャンドラの声が皆の心に沁み込む様に届く。


「どうやらこれは、控室でのあなた方の真実の姿の様ですな……」


 意外にも、エルシャンドラの力が真実である、と最初に口にしたのは軍のトップであるゼオス中将だった。


「ゼオス!? 貴様、ヨルグヘイム様への恩を忘れたのか!」

「忘れはしません。が、それとこれとは話が違いましょう……」

「貴様……ヨルグヘイム様が戻られたら――」

「奴は戻って来ぬ」

「……は?」


 激高した男に代わって別の初老の男がゼオス中将に食って掛かる。

 が、アインダークの一言が再びその場を沈黙させた。


「奴は我が手によって滅んだ。もう二度とその姿を現す事は無い」

「そんな……我らの星巡竜様が……」


 静かに、だが力強く告げられるアインダークの言葉に、初老の男は反論する気力が失せたのか、弱々しく呟く。


「違いますわ。あなた方の言うヨルグヘイムは、星巡竜ではありませんわ」

「なっ!?」


 そしてエルシャンドラによって、ヨルグヘイムの真実が告げられる。










 霧と化したヨルグヘイムが、竜化したアインダークに襲い掛かった際、知識の力を放ったエルシャンドラはヨルグヘイムと名乗る霧の正体を知る事になった。


 何万年もの昔、とある恒星から発生したガスの一部が分離し浮遊していた。

 そのガスは、偶然通り掛かった星巡竜の体内へと入り込み、その星巡竜を内側から(むしば)んでいった。

 そして星巡竜のコアが侵されたその時、そのガスは生命体となって自我に目覚め、そのまま内側から星巡竜の体を喰らってコアを奪ったのだ。

 以来、ガス生命体は星巡竜の姿で仲間に近付き、竜力すら行使するという星巡竜と似て非なるものになったのだ。

 そして数千年前この惑星ナダムに降り立ち、神を気取ってエルナダに君臨していたという訳だ。


「ふうむ……エルシャの言う事を疑いはせぬが、それで生命が誕生するなど、奇跡と呼ぶに相応しい確率であるな……」

「最初に犠牲となった星巡竜の力が大きな要因なのですわ」

「その力とは?」

金色(こんじき)のコア、創造の力ですわ」

「!! 実在したのか……」

(わたくし)も驚きましたわ。その存在を聞いたのは、あなただけでしたから」

「では、ヨルグヘイムというのは……」

「ええ、最初に犠牲となった星巡竜。それが本当のヨルグヘイムですわ」

「そうか……他の二体の星巡竜については?」

「それは残念ながら……あなたが飛び立ってしまったので……」

「そうか、済まぬな……」

「いいえ、あなたが無事で何よりでしたわ」


 エルシャンドラは最後にそう言うと、アインダークに微笑みかけた。

 アイスの事が心配だろうに、気丈に振舞うエルシャンドラを見て、アインダークはその肩をしっかりと抱き寄せる。


 そんな仲睦まじい様子を見せる二人に気付くこともなく、周囲の者達は告げられた真実に呆然としていた。


「わ、我々は……これから……どうしたら……」


 現政権首脳部の一人がポツリと漏らした呟きが、静かすぎる大会議場の皆の視線を集める。


「そなたらもヨルグヘイム……いや、侵食者とでも言おうか……奴の被害者と言えぬ事もないが、ここは身を引くべきであろうよ。被害者としては、彼らレジスタンスや国民の方が余程被害を(こうむ)ってきたのだからな」


 誰もが言葉を発さぬ中、アインダークが静かな、されど腹に響く声で、僅かに同情しつつも現政権首脳部の退陣を迫った。


「それに反抗勢力だから、という理由で人体実験を容認する存在が国を束ねるなど、人として正気の沙汰とは思えません。私はあなた達がこれ以上この国を束ねる事など認めません。速やかにその場をお譲りなさい」


 対してエルシャンドラは、無表情にピシャリとアインダークに追従した。


 温かく、諭す様なアインダークの言葉の後だけに、その場の誰もがぶるりと震える様な冷たさを持ったエルシャンドラの言葉は、現政権首脳部にそれ以上の反論の余地など無い事を悟らせていた。










 翌日、エルナダ全国民に向けて新政府代理としてグランエルナーダ市長、エダン・ミットからヨルグヘイムの死が公表され、続いて現政権の解体、軍とレジスタンスの戦争終結が宣言された。

 新政府の発足を初め、様々な課題が山積みであるが、恐怖の存在に怯える事の無い未来に人々は歓声を上げた。


 国民達がお祭り騒ぎをしている中、軍事施設の比較的被害が少なかった広場には、今回の戦闘での負傷者が政府軍、レジスタンスを問わず集められていた。

 そしてその後方には、現時点で可能な限り集められた多数の戦死者が棺や死体袋に入れられる事無く、陣営関係なく並べられていた。

 そしてそれらを一望する様に政府軍とレジスタンスの高官達が集まり、その中にはアインダークとエルシャンドラの姿もあった。


「アインダーク様、現時点ではこれが集められる限界の様です」

「そうか、では始めるとしようか……」


 高官達の中からハイム総司令が部下からの報告を受けてアインダークに告げると、アインダークはその身を輝かせて光の玉となった。

 そうして光の玉はふわりと浮き上がるとその高度を上げ、地上から数十メートルの位置で真紅の竜に姿を変えた。


「おお……」


 地上の誰もがその勇壮な姿に見入る中、アインダークは再び輝き出し、真紅の光を地上に向けて放射する。

 放射された真紅の光が負傷者や死体に纏わりつき、生命の力を発揮する。


 負傷者はたちまち傷が癒え、彼らが上げる声は、困惑のどよめきから次第に歓声に変わっていく。

 そして死体はそれがどんな状態であろうとも見る間に生前の姿を取り戻し、やがて何事も無かった様に起き上がり、負傷者同様に戸惑い、そして喜びを露わにした。

 その中には父親程年の離れた男達と抱き合うヒース少尉や、仲間と喜び合うドッジ中尉達の姿も有った。

 ただ一つ以前と違うのは、負傷者も死体から蘇った者も機械化していた部位までが生身の肉体に戻っていた事だろう。


「夢でも見ているのか……こ、こんな事が……」

「これこそが奇跡だ……」


 高官達が口々に呆然と呟く中、人の身に戻ったアインダークが降りてくる。

 そこへふらふらと近寄り、アインダークの前で膝をついた人物が一人。

 ゼオス中将だ。


「か、感謝致します、アインダーク様。何度この身を滅ぼしても足らぬ私の罪を……こんな……」


 ゼオス中将は懸命に言葉を紡ごうとしたが、嗚咽が邪魔をして、それ以上は言葉にならなかった。


「そなたの為にやった事ではない。借りを返しただけだ」


 アインダークはそう言って、そっぽを向いた。

 隣のエルシャンドラがクスリと笑う。


「感謝します、アインダーク様。ゼオスが自害でもしていたら……今後の取り纏めが大変になるところでした」


 ハイム総司令が膝をつくゼオス中将の横に立ち、深々と頭を下げた。


「な、ハイム……何を言って、もう私は軍を――」

「それは聞けませんな、ゼオス中将」


 慌てて顔上げ、ハイム総司令に抗議するゼオス中将を遮ったのはセグ大佐だ。


「あなたには軍に残って責任を果たして貰わねば困ります。これ以上ハイム総司令の愚痴を聞かされるのは、御免被りたいのです」

「セ、セグ大佐!」


 セグ大佐の非難の矛先が自分に向かい、慌てるハイム総司令。

 周りで事情を知る者達が堪えきれず吹き出す。


「ふはははは。セグよ、それで良いのか?」


 吹き出す者達に釣られる様に、アインダークが笑いながらセグ大佐に確認する。


「はい。ヨルグヘイムが居なくなり、ゼオス中将の軍に於ける影響力は更に増したと言えるでしょう。その中将に協力して頂かねば、我々レジスタンスが上に立っただけでは兵士達は付いてきません」


 セグ大佐は周りの者達にも聞こえる様に、しっかりとした声で答えた。


「そうか、世話になったな。エルシャ、行くか」

「ええ、あなた」

「お、お待ち下さい! まだ我々は何のお礼も――」

「そうです! せめてもうしばらく――」


 突然別れを切り出したアインダークに、エルシャンドラが同意する。

 慌てて引き留めようとするセグ大佐に、ハイム総司令が追従する。


「いや、良いのだ。恩を受け、借りを返した。それで良いではないか」

「しかし、それでは余りに……」


 しかしアインダークの瞳に宿る意思は固く、引き留める言葉を失っていく二人。


「それに我らは、どこかに飛ばされた我が子を探さねばならぬのだ……」

「あ……」


 心なしか寂しそうなアインダークの言葉に、セグ大佐達は今度こそ、本当に言葉を失ってしまった。


「それにあの時、リュウと共に居た方達も、一緒に居るかと思われるのです」

「ロダ少佐とドクターゼム、それにリュウも無事なのですか!?」


 だが続くエルシャンドラの言葉に、セグ大佐はずっと気になっていながら切り出せなかった事を問える機会を得た。

 彼らが居なければ、今こうして皆が喜び合う事など無かったはずなのだ。

 誰が知らなくても、セグ大佐が彼らの事を忘れる事など有り得なかった。


「ただの推測ですけれど……恐らくは……」

「で、では、彼らが見つかったら……」


 エルシャンドラは答えながら、最後に見たリュウの姿に、無事と答えても良いのか分からず、言葉を濁さざるを得なかった。

 だがその状況をセグ大佐が知るはずもなく、彼は期待に満ちた目を向ける。


「その時は、我が連れ帰ってやろう」

「で、では、その時こそ、私達に礼を尽くす機会をお与え下さい!」

「我は祭り上げられたりするのが苦手なのだ……美味い酒を飲ませてくれればそれで十分だ」

「分かりました、アインダーク様。この国、いや、この星最高の酒を用意してお待ち致します!」

「うむ」

(わたくし)は、美しく生まれ変わったこの国を見てみたいですわね……」

「は! 肝に銘じます、エルシャンドラ様!」


 最早引き留める事は叶わないが、もう一度会える機会をアインダークから示され、話の流れとは言え、セグ大佐は周りの者達の事も忘れて確約を取り付けた。


「では、さらばだ。良い国を作ってくれ」

「皆さま、お元気で。またお会いしましょう」


 別れを告げ、光を纏ってふわりと浮き上がるアインダークとエルシャンドラ。

 上昇する二人が一段と輝きを増すと、そこには勇壮な真紅の竜と美しい濃紺の竜が顕現し、翼を打って上昇していく。

 人々はその姿が見えなくなるまで、敬礼や手を振って見送った。


「やれやれ、最後は一人で締めてしまうとは、独断が過ぎるな大佐……」

「あ、いや……これは、その……」


 地上の騒がしさが落ち着いた所で、先程のお返しとばかりにハイム総司令に苦言を呈され、セグ大佐が珍しく狼狽する。


「なに、それだけ大佐がお主より優れている証拠だ。宰相でもして貰ったらどうだ、ハイムよ」

「ゼオスもそう思うか! よし、すぐに市長達に――」

「ちゅ、中将! 総司令も! 勘弁して下さい! 私は……」


 それにゼオス中将が乗っかり、更にハイム総司令が悪乗りを始め、その場は笑いで溢れていった。


 この日を境に、惑星ナダムは平和で穏やかな日々を歴史に刻んでいく事だろう。

 エルシャンドラに言われた美しい国に生まれ変わる為に。

 アインダークが言った良い国を作る為に。

 いつか再び彼らが訪れた時に、胸を張れる様に。










「楽しみが一つ増えたな……」

「そうですわね……その為にも、必ずアイス達を見つけませんとね」

「うむ、必ず見つけ出す。なに、ここから順に各星系を回れば、そう遠くないうちに会えるだろう」

「では向かいましょうか、あなた」


 惑星ナダムを見下ろして、アインダークとエルシャンドラは、再び訪れるであろう未来のナダムに思いを馳せる。

 そして顔を上げ、何処かに消えた我が子を想い、彼方に輝く星々に目を向ける。

 やがて二体の竜は一つの大きな光となると、星々の海へと消えていった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

1章はこれにてお終いですが、2章もよろしくお願いします。


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[良い点] 壮大な物語の始まりに胸が高鳴りました。星巡竜…すごくロマンを感じます。 最初の1章だけで、まるで大作映画を見たような感覚でした。 ヨルグヘイムのボス感が凄かったです…! この後リュウたち…
[良い点]  世界構想がしっかりしていて読みながら感心してしまいました。  ヨルグに両親やられちゃうんだろうなぁなんて思ってたら、何気にハッピーな感じで終了したので胸をなでおろした所存です。  リュウ…
[良い点] ・アイスが成人するまでは……!!と思って読むのを止められませんでした(´∀`) ・しっかりお話がまとまって、続くったら続く!!ですね。まだ2割……。 すごいボリュームです。 ・リュウくん…
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