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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第五章
227/227

37 成長

 オーベルが向かった第三隊は当初、商店エリアを背に魔蟲(まちゅう)族と対峙していたが、魔蟲族の圧力に通路へと押し込まれる形でじりじりと後退していた。

 そこは北の宿泊施設と南の温泉施設の間に有る東西に長いエリアであり、大人が三人並べる程度の細い通路が東西に三本、南北に五本走っている。

 兵士達は東西に走る三本の通路に分散する形で、エリア東端から西へと押されており、比較的広めの東から二本目の通路で部隊を再編しようとしていた。

 しかし狭い通路では隊列が細くなってスムーズに後退できず、魔蟲族と相対する東の前線の兵士達は窮地に陥っていた。


「耐えろ! これ以上、進ませるな!」

「ぐあっ!」

「くそっ! 援護をっ! があっ!」


 何とか魔蟲族の侵攻を食い止めようと奮戦する兵士達だが、硬い殻の様な体表に剣が弾かれ、殻の隙間を狙おうにもその動きは素早く、そして力強い。

 しかも腕が四本もある為、(つば)迫り合いにすらならず、通路のあちこちで兵士達が倒れていく。

 更に悪い事に、思う様に移動出来ない兵士達と違い、魔蟲族は飛翔して兵士達の側面や背後へと回り込み始める。


「うわあああっ!」

「まずいぞ! 引けっ! 引けっ!」

「うわっ――がっ!?」


 狭い通路で魔蟲族に挟撃(きょうげき)された兵士の一人が恐怖に呑まれ、誰かが撤退を叫んだその時、突如現れた青白い光から放たれた閃光が挟撃された兵士を弾き飛ばした。

 紫電剣から放たれたドローンの一つが、非殺傷レベルの電撃を放ったのだ。


「皆、伏せよ!」


 少年の声と共に兵士達の眼前を、頭上を、(いかずち)(はし)り抜ける。

 一拍の間を置いて倒れ、墜落する魔蟲族達。


「今の内に下がれ! 私より後ろに下がるのだ!」


 少年の二の句が放たれ、混乱する兵士達はようやくそれが自分達の敬愛する王の声だと理解する。

 と同時に雷が再び通路に張り巡らされ、魔蟲族を(はば)む間に兵士達が通路から撤退する。

 そして兵士達は目撃する。

 少し開けた場所で剣を掲げ、雷を発し続ける自分達の王の姿を。


 オーベルは、先行させたドローンから第三隊の状況を知る紫電剣の提案に従ってこの場にやって来ていた。

 そこは東西に三本走る通路の中央、兵士達が隊列を再編しようとしていた東から二本目の比較的広い通路だ。

 紫電剣は正面通路の細い十字路、その左右の(てい)字路、そこから魔蟲族の先頭へと引き返す様にドローンを配置、それらを(つな)ぐ様に電撃を流し続ける事で、魔蟲族の更なる通路への進入を防いでいるのだ。

 そうして十字路と丁字路のドローンはそのままに三本の通路の先、つまりエリア東端へと残るドローンが雷を誘導する。

 上空から見ると、オーベルから魔蟲族へと三叉のフォークの様に雷が奔っている様な格好だ。


「良いか皆、雷が消えたら一気に建物を駆け抜けて隊列を組むのだ! 戦わずとも敵を阻むだけで良い! その隙に負傷兵を下がらせるのだ! 良いな!」

「「「はっ!」」」


 その間にオーベルの力強い指示が飛び、兵士達は気持ちを新たに三つの通路へと集結する。


「今だ!」

「「「おおおおおっ!」」」


 そして電撃が止むと同時に発せられたオーベルの合図に、兵士達は雄叫びと共に一気に通路を駆け出した。

 その間にオーベルは一旦紫電剣を(さや)に戻し、救出される兵を見やりつつ、中央の通路から急ぎ足で前線へ向かう。

 通路を駆け抜けた兵士達は誰一人襲われる事無く、隊列を組む事に成功する。

 雷が止んでも紫電剣の操るドローンが、雷を(まと)って魔蟲族を牽制していたのだ。


「陛下、準備万端ですわ」

「うむ。道を開けよ!」


 隊列に追い付いたオーベルは紫電剣の合図で隊列中央を開けさせると、一人前へ出て紫電剣を抜く。

 同時に魔蟲族を牽制する六つのドローンの内の二つが鍔へと戻る。

 小型でもまだまだ飛行を続けられるドローンであるが、このまま使い続けるなら二機だけでも先に充電しておこう、という紫電剣の判断である。


 紫電剣を下段に構えるオーベルが静かにスッと正眼に構え直す。

 その美しい所作に近くの兵士達が見惚れ、目を見開く。

 何の予備動作も無く、王の構える剣からバリッと音を立てて雷が魔蟲族の群れに乱れ飛び、バタバタと魔蟲族が倒れたからだ。


「「「う……うおおおおっ!」」」

「これが陛下に贈られたという……」

「雷の剣……」

「お、オーベル陛下、万歳!」

「「「オーベル陛下、ばんざーい!」」」


 一瞬動揺する兵士達の声が、一気に歓声へと変わる。

 兵士達が口々に叫ぶ中、誰かが唱えた万歳が兵士全体へと広がる。


「まだ全て終わっておらぬぞ! 最後まで気を抜くな!」

「「「ははっ!」」」


 それをオーベルが一喝し、兵士達が気を引き締め直したその時、残った魔蟲族の半数にあたる数十体が一気に飛翔、オーベルへと殺到した。


「「陛下っ!」」


 ブゥゥンと唸る羽音が迫り、王を守らんと前に出る兵士達。


「この程度であれば! 陛下、剣を高く!」

「ッ!」


 紫電剣は対処可能だと二つのドローンの充電を中止、即座に空中へと飛翔させ、オーベルに剣を掲げさせると間髪入れずに電撃を放った。

 先程より激しくスパークする紫電剣。

 より確実に敵を即死させる為、紫電剣が威力を一段回引き上げたのだ。


 バチバチと音を立て、煙を噴き上げて落下する魔蟲族。

 中には発火する個体も居て、紫電剣の必殺の覚悟が(うかが)える。

 だがこの魔蟲族の突撃は、紫電剣の予想を超えた効果を生む。

 数体の落下軌道がオーベルを直撃するコースだったのだ。


「陛下! お下がりを!」

「くっ!」


 紫電剣の叫びに咄嗟に反応して飛び退くオーベル。


「がっ!」

「陛下っ!」


 だが一体の腕が身を(ひね)る肩に直撃し、紫電剣の悲鳴じみた叫びの中、オーベルは弾き飛ばされてしまう。

 一部の接触とは言え、自分の倍近い体重の落下質量は相当なもので、オーベルは右の鎖骨を砕かれ、軽い脳震盪を起こしていた。

 この攻撃が魔蟲族の計算なのか、単なる偶然なのかは分からない。

 だがオーベルが倒れた事で、残る魔蟲族は一斉に突撃を開始する。

 魔蟲族がオーベルを最大の脅威だと認識していたのは間違いない様だ。


「ぐ……うう……」

「陛下っ! お気を確かに! 陛下っ!」

「だ、大丈夫だ……」


 紫電剣が必死に呼び掛ける中、右肩の激痛に歯を食い縛りつつ、よろよろと立ち上がるオーベル。

 右腕は動かせないのだろう、だらりと肩からぶら下がっている。

 それでも左手に握る紫電剣を手放さず、向かってくる魔蟲族に左手一本で構えを取って見せたのは、見事と言うしかない。

 だが兵士達にはそんな王の姿を目に焼き付ける余裕など無かった。

 魔蟲族がもう目前にまで迫っていたからだ。


「来るぞっ!」

「陛下をお守りし――」

「おらあっ!」

「――ろ……!?」


 叫びながら身構える兵士達が、目を見開いて固まった。

 目前に迫っていた魔蟲族が突然消失したからだ。

 北中央山脈から転移してきたリュウが、紫電剣からの緊急信号をキャッチ、上空から消滅球を放ったのだ。

 お蔭で少々地面が(えぐ)れているが、リュウとしてはオーベルが守れたので問題無しである。


「っと、まだ生き残りが居たか……力の差くらい分かれよなぁ……」


 地上に降り立つなり、まだ十体程の魔蟲族が向かって来るのに気付くリュウは、翼を体内に戻しつつやれやれと気怠(けだる)そうにため息を()く。

 だがその視線は鋭く、魔蟲族一体一体の特徴を見定めている様だ。

 そんなリュウを困惑の眼差しで見つめる兵士達と、激痛と感激で(あふ)れ出しそうな涙を(こら)えるオーベル。


「ッ!?」


 そのリュウの姿が(かす)んだと皆が思った瞬間、魔蟲族が次々と弾け飛んで、誰もが目を丸くする。

 如何に複眼で動きを捉えようとも、元々速いリュウのスピードに加え、地を滑る動きがトリッキー過ぎて魔蟲族には対処出来ないのだ。

 そしてパワーは言わずもがな、魔蟲族の外殻など卵の殻同然なのである。


「おっと、逃がすか!」


 本能的に飛び上がった最後の二体の足首を咄嗟に飛び上がって掴むリュウ。

 そして落下する勢いのまま両腕を振り下ろし、二体を地面に叩き付ける。

 が、力が強過ぎて二体の上半身はぐしゃりと(つぶ)れ、両手に掴む足はそれぞれ付け根からもげてしまい、兵士達がドン引きする。

 よく見れば他の死骸も一つ残らず原型を留めていない。


「うわっ、きもっ」


 ビクビク動く足に驚いて、その場にポイっと捨てるリュウ。

 リュウにとってはデカい虫退治のつもりなのだろうが、兵士達の頬は引きつり、その目は悪魔を見るかの様だ。


「よ、待たせたな。大丈夫か? 今、治してやっからな」

「す、凄いですね、リュウさん。噂以上でした……」

「申し訳ありません、創造主様! 私が付いていながら――」


 兵士達の間を割ってニカッと笑い掛けて来るリュウに、オーベルは痛みも忘れて感嘆の言葉を(つむ)ぐが、紫電剣はオーベルを無傷で守れなかった事を謝罪する。


「いや、ログ見たけどお前は良くやったって。ちゃんと信号もくれてたし」

「ありがとうございます!」


 だがリュウは笑って許すばかりか褒め、紫電剣は感情が無いにも(かかわ)らず、まるで感激した様に礼を述べた。

 実は紫電剣はオーベルが戦闘に入った時から、自身の位置情報と行動ログを発信し続けており、リュウはその信号を頼りにこの場に飛翔して来たのだ。

 因みに転移して来た場所は普段から指定している王城の傍で、三姉妹に第二隊と対峙する敵を任せての単独行動である。

 なので三姉妹は現在、アイスが障壁を駆使し、ミルクとココアが両腕を剣化して第二隊の兵士達を魅了している事だろう。


「あ……痛みが……」

「腕、動かしてみ? まだどっか痛むか?」

「いえ、どこも……嘘の様に痛みが消えました!」

「そかそか。良かった、良かった。んじゃ、後は俺に任せてお前は城に戻れ」


 そうしてオーベルの傷が完全に癒えたと判断したリュウは、オーベルに城に帰る様に勧める。


「いえ、そういう訳には――」

「これ以上お前に怪我されたら、俺が叱られるからダメ。いくら紫電剣が優秀でも絶対じゃないって分かったろ? 今お前に何か有ったら、この国はまたバラバラになっちまうぞ?」

「あ……そ、そうですね……」


 それを固辞しようとするオーベルだったが、リュウの説得にハッとすると、肩の力を抜いて頷いた。

 まだまだ若いこの国の未来の為、オーベルは倒れる訳にはいかないのだ。

 そうだった、と本来の自身の役割を思い出し、新たな決意を瞳に宿すオーベル。


「な? だから後は任せて……帰ってアリアさんとイチャイチャしてろ」

「リュ、リュウさん!」


 なのに顔を寄せて来たリュウに耳元で囁かれ、真っ赤になってしまうオーベル。

 自分達が敬愛する王を赤面させてニンマリと口元を歪めるリュウを、やはり悪魔なのでは、と兵士達がオロオロしている。


「ははは、まぁ、それはアリアさん次第だけどさ、王様には戦後処理やら何やら、この後の方が大変なんだからな」

「分かりました。では城で吉報をお待ちします」

「おう。紫電、しっかり頼むぞ」

(かしこ)まりました、創造主様。ご武運を」


 そうしてオーベルが紫電剣を腰にその場を去るのを見届けたリュウは、火焔剣の信号の発進場所へと急ぐのであった。










 時は少し戻り、オーベルが第三隊へと向かった直後、シャザは火焔剣に促されて第五隊の戦場へと向かい、魔蟲族を側面から攻撃していた。

 シャザの前には倒れ伏して尚、燃え盛る魔蟲族が数十体は居るだろうか。

 そして右斜め前方には第五隊と魔蟲族がぶつかり合っているのが見える。


「火焔殿、もう少し火力を(おさ)えられぬか?」

「む? 吾輩は敵を焼き尽くすのが使命ぞ?」

「しかしこのままでは、右の兵達まで巻き込んでしまいかねん」


 シャザの注文に怪訝な声を返す火焔剣であるが、シャザは扇状に広がる炎が味方まで巻き込む事を懸念していた。

 広範囲に敵を焼き尽くす火焔剣であるが、それはドローンの支援のお蔭であり、実際の火焔剣自体の炎の射程は十メートル程である。

 なので火焔剣は味方を巻き込まぬ様にドローンを配置しているのだが、見た目に派手な炎の攻撃は、シャザに要らぬ心配を与えてしまった様だ。


「やれやれ、仕方ない……では少々危険だが、あと十歩左に移動するとしよう」

「承知した」


 そこで火焔剣はシャザの不安を払うべく、移動を提案する。

 シャザの後方にカイルを始め、第三隊もやって来ている為、シャザだけ孤立する事は無いとの判断だ。


「む、火焔殿?」

「気付いたのは二体か。シャザよ、やって来る二体は火焔無しで仕留めてくれ」

「任せよ!」


 その時、火焔剣から噴き出す炎が極端に弱まり、シャザは火焔剣に問い掛けるのだが、火焔剣は焦っている様子でもなく、その指示に応じるべく声を張り上げる。

 このまま行けば二体の魔蟲とほぼ同時に接触する為、如何に切れ味鋭い火焔剣を持とうとも、不覚を取らぬ為にシャザは気合を入れたのだ。

 だがその心配は杞憂(きゆう)に終わる。

 呼び戻されたドローンが、一体を足止めしたからだ。


「ふんっ!」

「見事!」


 先に襲い掛かった一体が、シャザとすれ違いざまに二つに裂ける。

 そうしてドローンに阻まれて遅れた一体に向かうシャザが目を見開く。

 遅れて火焔剣の火力低下に気付いた魔蟲達が、一斉にシャザへと殺到したのだ。


「若っ! お下がりを!」


 シャザの耳に後方からカイルの声が飛び込んで来るものの、遅れた一体は目前であり、斬らずに下がる事は出来ない。

 だが斬ればその分下がるのが遅れ、殺到する集団に追い付かれてしまう。


「心配無用、胴を()げ!」

「ッ、おおおーっ!」


 一瞬の迷いの中、火焔剣の声に雄叫びを上げて横薙ぎに剣を振るうシャザ。

 その雄叫びに呼応するかの様に火焔剣から再び炎が爆発的に噴き出し、殺到する魔蟲達を一匹残らず焼き尽くす。


「見たか、愚か者ども。我が神が与えたもうし、見事な殲滅(せんめつ)術を!」

「……なるほど……」

「ん? どうした?」


 またしてもシャザが唖然とする中、意気揚々と勝ち誇る火焔剣がシャザの呟きに怪訝そうに反応する。

 火焔剣の超小型カメラに映るシャザが、超ジト目だったからだ。


「ペテン師殿の策という訳か……さすが、やる事が姑息だ……」

「ぺ、ペテン師とは何事か! しかも姑息とは、我が神になんという暴言!」


 疲れた様なシャザの呟きに大憤慨する火焔剣。

 リュウの呼び方が紫電剣と火焔剣で違うのは、きっと製作者の違いだろう。


「しかし火焔殿。今のはどう見ても、完全にだまし討ちではないか?」

「い、いや、それは……」


 それでも(ひる)まず苦言を呈すシャザに、火焔剣が口ごもる。

 実は火焔剣、リュウにこの策を提案されて、少々回りくどいのでは、と意見した過去があるのだ。

 だが、敵が向こうから寄って来た方が効率が良いという事と、技術的には問題が無い事、そして何より提案するリュウがとても嬉しそうだったので納得したのだ。


「その様な手を使わずとも、貴殿程の力が有れば堂々と敵を打ち滅ぼせよう」

「た、確かに……」


 だがシャザの言葉を聞いて、やっぱりそうだよな、と思い直す火焔剣。

 リュウ、作らせた剣に授けた策を、回りくどく、姑息だと認定されてしまう。


「常に正々堂々全力を尽くす、それでこそ火焔剣の名に相応しいのではないか?」

「うむ、その通りだ! シャザよ、お主に吾輩の全てを託そう!」

「承知した。では火焔殿、改めてよろしく頼む!」

「おう!」


 そうしてシャザの耳心地の良い言葉に乗せられる火焔剣は、シャザとより強固に結束を固めて残る敵集団に狙いを定めるのだが、程無くして神の接近を感知する。


「シャザ、しばし待たれよ。我が神がいらっしゃった」

「む……噂をすれば何とやら……か……」


 火焔剣に呼び止められるシャザは、後方上空から飛来するリュウを視認して苦笑混じりの呟きを漏らした。


「よ、無事で何より。火焔剣、役に立つだろ?」


 兵士達が見守る中、シャザの下に降り立って気さくに声を掛けるリュウ。

 リュウは紫電剣同様に火焔剣からも戦闘ログを送られていた為、シャザが無事である事を既に知っていたのだ。

 少し口元がニヤケているのは、火焔剣はココアから創造主様をいつも神と呼んで敬いなさいと言われている為、今日はどんな風に褒めたたえてくれるのだろう、とちょっと厨二心がワクワクしているからである。


「ああ、素晴らしい剣だ。授けた策はいただけないがな……」

「……え?」

「我が神よ、やはりあの戦い方はどうかと吾輩は思いますぞ……」

「え……なんでだよ? 効率的な方がお前も楽だろ……」


 だが興奮した様子で剣を褒めてくると思ったシャザはどこかジト目で、火焔剣もシャザに同調している様子に、リュウは何か思ってた展開と違う、と困惑する。


「しかし、美しくありませぬ……」

「は?」

「シャザに教えられたのです。吾輩はもっと正々堂々と戦うべきであると!」

「えぇ……」


 シャザがうんうんと頷くのを横目で見ながら、リュウは火焔剣が自分の思惑とは違う方向に成長している事を知って、ちょっぴり落胆してしまう。


「リュウ~、お待たせ~」

「おう、お疲れ――」

「まだ南はこんなに残っているんですね。ココア、行くわよ!」

「了解、姉さま! アイス様、兵士達と魔蟲族の間に障壁をお願いします!」

「うん! 気を付けてね!」


 そんな中、第二隊と対峙する魔蟲族を無力化してきたらしいアイス達が合流し、てきぱきと連携してアイスは空中へ、ミルクとココアは両腕を剣化して駆け出して行く。


「おお、さすがはアイス様! こうしてはおれん! 吾輩達も行くとしよう!」

「うむ!」


 そうして兵士達と魔蟲族を分断する様に光の幕が立ち上ると、火焔剣は感嘆するのも束の間、シャザを促して後に続いた。


「えぇ……何かやっぱ思ってたのと違う……」


 一人取り残されたリュウは、どこか釈然としない様子でぼそりと呟き、皆の後を追ってのそのそと歩き出すのだった。

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― 新着の感想 ―
オーベルのピンチ…と思ったら、駆けつけたのは悪魔リュウ(笑) 二つの宝剣に個性が出てきているような… 宝剣と使い手がお互いとてもマッチしているように思えて、今後も楽しみです!
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