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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第五章
223/227

33 失う命、拾う命

「ご主人様! キエヌ聖国が襲撃され、負傷者多数と連絡が!」

「なっ!? アイス、ミルク! すぐ向かうぞ!」

「うん!」

「はいっ!」


 観光を終えて家のリビングで(くつろ)いでいたリュウは、庭からキッチンに飛び込んで来たココアの報告に驚いたのも束の間、即座に庭へ出て三姉妹を連れてキエヌ聖国へと転移した。

 中央集落に転移して詳細を聞くリュウは、再び転移門で襲撃された南西の集落へ飛び、人だかりを見付けて駆け寄った。


「おお、皆様! こんなに早く来て頂けるとは!」

「いえいえシェン長老、それより怪我人達はどこです?」

「それについては私がご案内します、どうぞこちらへ」


 そこでシェン長老に出迎えられるリュウは、挨拶もそこそこにエルナダ兵に軍の仮設テントへと案内された。

 集落の外れに設営された仮設テントは、五メートル四方、高さ二メートルの物を縦横に三つずつ連結させた大きな物で、中から聞こえる叫びにも似た指示や報告が内部の慌ただしさを物語っていた。

 構わず中に踏み込むリュウは、そこでずらりと並ぶベッドに寝かされた負傷者とその周りを(せわ)しなく動き回る兵士達、そしてテントの隅で倒れ伏す魔人族の男女を見て唖然とする。


「アイス、とりあえず向こうを頼む!」

「うん、任せて!」

「おい! 何で魔人族を放ったらかしてんだ! ぶっ飛ばすぞ!」

「あっ、ち、違います! 我々もベッドを勧めたんですが、負傷者を優先する様に言われまして……その……」


 一先ずアイスに負傷者を任せるリュウが魔人族への対応に声を荒げると、兵士の一人が血相を変えて駆け寄り、わたわたと事情を説明した。


「俺達は大丈夫です、星巡竜様……力を尽くしたのですが、面目ありません……」

「魔力が枯渇したのか……俺はてっきり……分かった、ちょっと待ってて下さい」


 そこへ魔人族の一人が倒れたままでリュウに話し掛け、彼らが魔力枯渇によって疲労しているだけだと分かったリュウは、ほっと胸を撫で下すと左手を負傷者へ、右手を魔人族達へと向け、治癒の光を放射する。


「頑張って、もう大丈夫だから!」

「凄い……見る見る血色が良くなっていく……」

「こっちもです! 数値も安定しました!」

「あれ……私達どうして……力が戻ってる?」

「あれ……痛みが消えた? 治ってる……のか!?」


 リュウとアイスが治癒の力を発揮すると、兵士達が驚きの声を上げ、魔人族達がきょとんとした様子で次々と起き上がり始めた。

 負傷者も程度の軽い者達から次々と困惑した様子でベッドから起き上がる。


「ふう、これで良いかな……」

「だな。アイス、お疲れ!」

「ううん、リュウもお疲れ様!」

「ご主人様、アイス様、お疲れ様です!」

「二人がかりだと早いですね!」


 負傷者達の傷が癒えたと判断したアイスが光を収めると、リュウもそれに(なら)って互いに労い合い、ミルクとココアがそれに続いた。


「てか、ボボンさん達、集落の人もやられたんだな……」

「本部に上がった報告では、敵は百体程上陸した様です。四個分隊で何とか撃退に至った様ですが、ここの負傷者以外に十六名が戦死したとの事です」

「ド畜生が……(かたき)は絶対取る……」

「はい……」


 そんな明るい雰囲気も、リュウがボボンや集落の数人がベッドに寝かされているのに気付き、ミルクに本部の情報を聞かされると、重苦しい物に変わってしまう。

 だがリュウは、そんな気分を払う様にボボンのベッドの脇へと歩み寄る。

 そこにはボボンを泣き腫らした目で心配そうに見つめ、彼の手を両手でぎゅっと握り締めるヘレナが居たからだ。

 マーサとユーリはそんな母を(はさ)む様にして不安そうに母の服を掴んでいる。


「もう大丈夫です。そろそろボボンさん目を覚ましてくれますよ」

「あ、ありがとうございます! ボーマンさん、良かった……良かったぁぁ……」


 ヘレナがリュウに声を掛けられて感謝に声を震わせ、握るボボンの手に額を擦り付ける様にして彼が無事だった事に安堵し、涙を(こぼ)した。

 そんなヘレナを見て、これは(ただ)の親切なお隣さんってレベルを超えてるよな、とリュウの口元がニンマリと歪む。


「ヘレナさん、ボボンさんの事そんなに好きだったんですねぇ……」

「えっ? い、いえ、あの……ボ、ボーマンさんはとても純粋で誠実な方ですし、娘達もとても(なつ)いてて……そんな娘達をボーマンさんは自身の身も(かえり)みずに救ってくれました。こ、この人が娘達の父親になってくれたなら、なんて事を思った事も有りましたが、私はこの人より五つも年上ですし、二年前に亡くした夫を忘れる事など出来ませんし……」


 リュウの冷やかしが耳に入った途端、ボボンの手から額を引き剥がす様に背筋を伸ばしたヘレナが、弁解なのか自白なのか分からない事をわたわたと(まく)し立てる。

 だがその顔はもう真っ赤で、リュウのみならず三姉妹の口元もニンマリである。


「それって関係あるかなぁ?」

「無いですよぉ。そんな事言ったら、ご主人様なんて彼女が三人も居るんですし、リーザなんて七つも年上ですし」

「だよねぇ」

「まぁ!」


 そんなヘレナの一線を引く理由にアイスが首を(かし)げるが、ココアにリュウを例に挙げられると即座に納得し、リュウはヘレナに驚きと感嘆の入り混じった瞳を向けられて赤面する羽目になった。

 だがココアの例えに納得いかなかったミルクが吠える。


「三人って何よ! よ、四人でしょ!」


 ミルクさん、一人の男性が複数の女性と付き合う事に抵抗が有るとか言っておきながら、彼女枠から外される事は我慢ならなかった様だ。


「キス止まりで何を烏滸(おこ)がましい……姉さまは精々、準彼女ってとこです!」


 だがそんな事はココアも想定済み。

 やれやれ、とため息混じりに身の程知らずな姉に呆れて見せると、クイッと(あご)を上げて姉を見下ろし、格の違いを教えてやる。


「じゅ、準……彼……女……コ、ココアぁぁぁっ!」


 思わぬ反撃にミルクがぐふっ、と胸を押さえてよろけ……ココアに掴み掛る!


「何ですか姉さま、生意気ですよ! 準彼女のくせに!」

「き、きぃぃぃぃぃっ!」


 その手を逆に掴み取り、ココアが更にミルクを(あお)る。

 ミルクさん、プッツンし過ぎて言語機能に障害発生。

 突然の修羅場に、テント内の誰もが息を呑んでいらっしゃる。


「はぁ……アイス……」

「な、何? リュウ……」


 そんな中、深いため息と共にリュウに呼ばれ、アイスがビクッと返事する。

 アイスには見えたのだ、リュウの周りに揺らめくどす黒いオーラが。


「やれ!」

「へいっ!」

「ぶっ!?」

「ちょっ!?」


 顎でこき使われる三下の如くリュウの命令に即応するアイスによって、ミルクの顔がココアの胸に埋まり、ココアがまさかと目を見開いた。

 アイスの障壁に囚われたそれは、仲直りのチューという強制おしおきである。

 家では既に三回程実行されているが、公衆の面前というのは初である。

 プッツンしたが故に後先考えられなくなったミルクはともかく、ココアは公衆の面前では大丈夫だろう、という目論見が外れて真っ青になっている。


「ご主人様っ! 今のはココアが――」

「も、もうしません! 許して下さ――」

「「ん、んんんーっ!」」


 必死の訴えも虚しく、公衆の面前で触れ合う二人の唇は、アイスの見事な障壁の調整によって互いの顔の位置を調整され、より深く重なり合わされてしまった。

 誰もが固唾(かたず)を呑んで見守る中、身じろぎ一つ許されない涙目のミルクとココアの顔色は当然、爆発しそうな程に真っ赤だ。


『ご主人様、あんまりです! 今のは絶対ココアが悪いのに!』

『なっ!? 姉さまが些細な事にいちいち目くじら立てるからでしょ!』

『さ、些細な事じゃないでしょ!』


 すかさずミルクが脳内通信で主人に訴え掛けるが、それに納得いかないココアが割り込んで、再び醜い言い争いが始まるかと思われたが――


『ほう……この期に及んでまだ争うのか……』

『ッ! す、すみません!』

『ッ! ごめんなさいっ!』


 低く静かに感心する様に主人が呟いた途端、ミルクとココアはハッと我に返って叫ぶ様に謝罪し、主人の様子をびくびくと(うかが)う。

 これが嵐の前の静けさだと理解する二人は、せめて嵐が大きくありません様に、と祈る事しか出来ないからだ。


「これはもう無理だな……」

『いえ、そんな! もう二度と――』

『も、もう一度だけチャンスを――』


 主人の全てを諦めた様な呟きに、嵐が最大級だと知ったミルクとココアは主人を思い留まらせようと、口づけする体勢のままに必死に脳内で訴え掛けようとした。

 だが続く主人の言葉に、二人の気勢は()がれてしまう。


「だが心配するな。俺がきっちり、御使い様姉妹はえろく仲が良い、と誰もが声を(そろ)えるくらいの仲にしてやっから」

『エ、エロく……仲が……良い?』

『聞き間違いよ、姉さま。えらく仲が良い、に決まってるでしょ!』

『そっ、そうよね……ッ!?』

『ッ!?』

「「んあッ!!」」


 主人の言葉を反芻(はんすう)して頭に「?」が乱立して困惑するミルクが、ココアの指摘に納得し掛けたその時だ。

 押し当てられていただけの互いの唇が勝手に開き、ミルクとココアは全身を(はし)り抜けるぞくりとした感覚に思わず出してはいけない声を漏らしてしまう。

 聞き間違いじゃ無かったのか、との思いで主人を見るミルクとココアは、そこに口元を邪悪にニィっと歪ませる悪魔を見た。

 二人はその悪魔の強制介入によって、激しく舌を絡み合わされているのだ。


「ご主――んあッ!」

「はぅ……んうッ!」


 ぞくりとする感覚が不意打ちの様に全身を(はし)り抜け、抗議もままならぬミルクとココア。

 首から上の制御を奪われているのに、感覚だけは残されているのだ。

 唖然としていた周囲の者達が、二人だけの世界に没入し始めた御使い様に呼吸を忘れたかの様に陶然と見入ってしまっている。


「ま……まぁまぁ……」

「御使い様がチューしてる……」

「あ~、気にしない気にしない。この二人はこうやって仲直りするんだよ」

「へぇ~」


 それを間近で見るヘレナが思わず赤面して両手で頬を隠すその横では、まだ幼いマーサが二人にキョトンとした顔を向けるが、にっこり微笑むリュウに事情を説明されると疑う事もなく二人を(なが)める。


「リュウぅ……ほんとに良いのぉ?」

「アイス、勝手に障壁解除すんなよ? 解除したら、知らんからな?」

「へ、へいっ! ま、任せてくんなっしぇっ!」


 さすがにアイスは二人のその後が心配になるのだが、リュウにじろりと睨まれた途端、二人の心配はどこへやら、盛大に返事を噛んで障壁の維持に専念する。

 お蔭でまたもや三下っぽくなってしまって赤面するアイスが、両手で顔を覆ってプルプルと震えた。

 そんなアイスを放置して、リュウはマーサに話し掛ける。


「マーサちゃんはさ、ボボンおじちゃんがお父さんになってくれたら嬉しい?」

「うん!」

「ユーリも!」


 リュウの問いにマーサが笑顔で頷くと、ユーリも嬉しそうに手を挙げて続いた。

 因みにおじちゃんと言ってもボボンは二十五歳の青年である。

 しかし四歳のマーサと三歳のユーリから見れば立派なおじちゃんなのだった。

 リュウの意図が自分の発言にある、と気付いたヘレナが再び赤面している。


「そかそか。んじゃさ、ボボンおじちゃんが起きたら、パパって呼んでみよっか」

「パパ?」

「パパってな~に?」


 そこでリュウが笑顔で提案してみるが、幼い姉妹はおろか、ヘレナにも「パパ」という単語が分からないらしく、きょとんとした表情を浮かべた。

 どうやらキエヌ聖国には「パパ」に該当する単語が無いらしい。

 これではエルシャンドラやアイスの優れた力も役に立たない。


「お兄ちゃんの国ではさ、子供はだいたいお父さんの事をパパって呼ぶんだよ」

「へぇ~、じゃあ呼ぶー!」

「ユーリもー!」


 だがそんな事はお構いなしに「パパ」についてリュウが説明すると、幼い姉妹は嬉しそうにリュウの提案を受け入れてしまい、外堀を埋められたヘレナは赤い顔でおろおろしつつも、どこかやはり嬉しそうだ。

 そんな時、タイミング良くボボンの意識が覚醒する。


「う……あれ? おで……どうしたボン?」

「ボーマンさん! 良かった! 本当に良かったぁぁぁ!」

「ボボっ!? ヘヘヘ、ヘレナさん!? どど、どうしたんだボン!?」


 目を開けるも状況が分からずにぼんやり呟くボボンが、突然誰かに覆い(すが)られて目を丸くしつつ、それがヘレナだと分かると真っ赤になって慌てふためいた。

 生まれてこの方二十五年、ボボンは女性に抱き付かれた事はおろか、(ろく)に話した事すら無いのだから致し方ない。

 それでも何とか体を起こし、ヘレナを(なだ)めようとするボボンに更なる事態が襲い掛かる。


「「パパぁぁぁ!」」

「パっ!? ちちち、違――もがっ!?」

「ダメですよ、ここで否定しちゃ。二人が泣いちゃうでしょ?」


 幼い姉妹の呼び掛けにまたまた目を丸くするボボンは、あわあわと訂正しようとしてリュウに口を(ふさ)がれて目を白黒させる。

 エルナダには「パパ」に該当する単語がしっかり存在していた様だ。

 そんなボボンにリュウが耳元で(ささや)くと、ボボンもそれはそうかもと納得し、少し落ち着きを取り戻す。


「ふ、二人共、怪我はないボン?」

「「うん!」」

「それは良かったボン……」

「ボーマンさんが命を懸けて守って下さったお蔭です! でもこれからはボーマンさんも命を大切にして下さい……あなたが居るから娘達も笑えるんです……」


 そうしてマーサとユーリに話し掛けるボボンは、二人の元気な返事と笑顔に安堵するが、感謝を述べるヘレナに泣かれてしまうと途端におろおろしてしまう。


「そうですよ、ボボンさん。パパって言われる程慕われてるんですから」

「そ、それはマズいボン、リュウ様……ほ、本当のお父さんに怒られるボン……」


 そこへニィっと笑うリュウに追い打ちを掛けられると、おろおろからわたわたとボボンが手を振って青褪める。

 優しく繊細な心を持つが故に、相手を気にし過ぎて度々ドジを踏んでしまう事もあるボボン。

 だがその優しさが生者にも死者にも分け(へだ)てなく向けられているのだと知って、ヘレナは自身の心の針が一層ボボンに傾いた事を自覚する。


「いいえ、ボーマンさん。亡くなった主人だって、きっとボーマンさんに感謝してます! ボーマンさんがパパになって下さるなら、あの人もようやく安心して眠る事が出来るでしょうし、わ、私も……そ、その方が……嬉しいです……」


 そうして改めてボボンの手を取り、優しく語り掛けるヘレナが顔を真っ赤にしてボボンへの想いを打ち明けると、ボボンも見る間に顔を赤くして(うつむ)いてしまった。

 どう返事して良いのか分からずモジモジするボボンに、ヘレナが優しい微笑みを浮かべているが、このまま待っていても(らち)が明かないと判断したリュウがボボンに話し掛ける。


「ボボンさん、ヘレナさんの気持ちに応えてあげないと」

「でで、でも……おで……」


 リュウに返事を促されるも、俯いたまま肩を落とし、大きな体を縮こめてしまうボボン。

 突然の高過ぎるハードルに、今のボボンは自信無さげにちらちらとリュウを上目遣いで見る事しか出来ずにいる。

 そんなボボンにニマニマが止まらないリュウの口元が、より一層邪悪に歪む。


「ボボンさんが助けてあげないと、ヘレナさん子供達を連れてよそに出稼ぎに行く事になるかも知れませんよ?」

「え……?」


 リュウお得意の作り話に、不安そうに顔を上げて絶句するボボン。

 ヘレナも「何言い出すのこの人」とリュウに目を丸くするが、ボボンにはそんなヘレナが内緒話を暴露された様に見えていた。


「そうなったら、ヘレナさん悪い金持ちに引っ掛かって無理矢理結婚させられて、辛い思いをする事になりかねませんよ?」

「そそそ、そんなのダメだボン! ヘ、ヘレナさんはおでが守るボン!」


 そんな二人にお構い無しにリュウが続きを話して聞かせると、見事に乗せられたボボンが反対を叫んでヘレナを感激させる。


「ですよね~。さすがボボンさん! んじゃ、俺はこれで。マーサちゃん、ユーリちゃん、良かったね、ボボンおじちゃんパパになってくれるって!」

「「やったー!」」


 そうしてヘレナに抱き付かれて真っ赤になるボボンを放置し、マーサとユーリの頭を撫でてその場を離れるリュウは、残された問題に向き合う事にする。

 それはキスさせて放置したままのミルクとココアだ。


「ッ! アイス、解除して良いぞ」

「う、うん」


 ほんの数分放置しただけで、恍惚とした表情ではぁはぁといけない声を漏らしている二人に、リュウはこりゃマズいと奪った制御を返しつつ、アイスに障壁を解除させる。

 その途端、ハッと我に返って膝から崩れ落ちる二人は、リュウの前で仲良く顔を両手で覆って小さく(うずくま)り、プルプルと身を震わせた。

 衆人環視の中だというのに、互いのキスの気持ち良さに(とろ)けてしまった、という事実に消えてしまいたいくらい恥ずかしい二人なのだ。

 特に耐性の弱いミルクはキスの最中に一度システムがダウンしており、ココアに後でいじめられやしないか、とビクビクしていたりする。


「反省したか?」

「「はい……」」

「すみません、お騒がせしました。ところで、亡くなった人達はどちらですか?」

「それでしたら、私がご案内します。どうぞ、こちらへ」


 ミルクとココアがすっかり大人しくなり、一先ず二人を許す事にするリュウは、周囲の者にぺこりと頭を下げるとさらりと話題を変え、兵士に案内されるがままにテントを出る。

 そのお蔭で兵士達も治癒術士達も今見た事から解放され、ハッと本来の職務へと戻っていくのであるが、ミルクとココアはそれでも居たたまれずに逃げる様にして主人の後を追った。


「こちらになります」

「ありがとうございます」


 二輌のビークルの下へ案内されたリュウは、その荷台に八つずつ並べられた死体袋を見て拳を強く握り締めたのも束の間、姿勢を正すと瞳を閉じて合掌し、彼らの冥福を祈る。

 三姉妹もリュウに倣い、それが彼らの(とむら)いの仕方なのだと理解する案内の兵士がリュウ達に向けて敬礼する。

 そこへ治癒術士のリーダーであろう男が遅れてやって来た。


「彼らの中にはまだ息のあった者も居たのですが……不甲斐ないです……」

「何を仰います、ベルーザ殿。あなた達が居なければ、もっと大勢の者達が死んでいました。本当に感謝しかありません!」


 やって来るなり謝罪して悔しさを滲ませる魔人族の男に、案内の兵士がとんでもないと声を上げる。

 如何にエルナダの医療技術が進んでいようとも、肉体の損傷箇所を瞬時に治す事など出来ない。

 それを魔人族はたったの十人で手の(ほどこ)しようのない者達を、何とか出来るレベルまでに損傷の程度を引き下げてくれたのだから。

 二人のやり取りを見て、リュウは気持ちが少し軽くなった気がした。


「そうですよ。よく命を繋いでくれました。ベルーザさんでしたね、俺からも礼を言います」

「きょ、恐縮です……」


 リュウからも礼を述べられるベルーザが、まさか星巡竜様が頭を下げるなんて、と顔を赤くしておろおろと頭を下げる。


「ッ! ご主人様、オーリス共和国の偵察機が飛来する集団を(とら)えた、とソートン大将から連絡です!」

「分かった。すぐに向かうぞ」

「はい!」

「うん!」

「俺達は急ぎオーリス共和国へ向かいます。後の事は頼みます」

「了解です! ご武運を!」

「お、お気を付けて!」


 そんな中、ソートン大将から連絡を受けたミルクの報告で、リュウは残る二人に短く断りを入れると即座に転移門を創り出し、三姉妹を連れてオーリス共和国へと向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
シリアスな状況のはずなのに何やらいろいろと様子が… ミルクとココアはまったくもうという感じですが笑 ボボンが… まさかそんな事になるなんて想像していませんでした! 次話も楽しみにしております。 …
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