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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第五章
221/227

31 人の地を守る為に

 エルナダへ転移した翌日、リュウとアイス、そしてココアの三人はマーベル王国フォレスト領北部に位置するエルナダ軍統括本部へとやって来ていた。

 最初は三棟のログハウスでしかなかった統括本部は、国交を開いた事で増加する支援の手によって、今や数千人を収容できるホールを持つ三階建ての庁舎となっている。

 エルナダの技術力であればより高くも建てられたのだが、この世界では城を除く大抵の建物が二階建てなので、三階程度なら威圧感も少ないだろうという訳だ。


 そんな場所へリュウ達が来たのは、エルナダ本国の軍トップであるゼオス中将に支援要請を思いの外あっさりと快諾して貰った為、支援部隊を受け入れる為に転移門を開き、言葉の壁を取り払う必要が有る為である。

 そしてココアが兵士達にこの世界の基本的な知識や、今回の事態となった経緯を映像付きで説明し、兵士達は配属先を振り分けられていくのである。

 因みにミルクは獣人達にまだまだ教える事が有る為、リーブラに残留して先生をしているのだが、リュウ達が居ない事と昨晩ようやく念願が叶った事が相まって、本日のミルク先生の口元は終始ニマニマしており、凛々しさは皆無である。


 支援部隊の第一陣は無人偵察機と電源装置を搭載した、三十台の中型ビークルとその搭乗員であった。

 これらは転移門で速やかに人の地北西の魔都アデリア、真西の町ルドル、南西の町ネクト、北東のオーリス共和国、南東のグーレイア王国、そして中央山脈の北端へと送られ、更に沿岸部へと移動して海上警戒に当たるのである。

 ただエルナダ本国程の通信設備はこの地に無い為、その索敵範囲はビークルから半径十数キロが限界であり、人の地沿岸を全てカバーする事など到底出来ない。

 また人の地中央から真南へ伸びる南中央山脈と周辺の森林は未踏査の地であり、リュウも向かう暇が無い為に転移門が設置できず、無警戒となってしまっている。

 だが獣人達が暮らしていた、魔人族の言う獣の地が言い伝えの通りに星の対極に有ったとすれば、気温が極端に下がる北か南の極点を通過してくるとは考え難く、人の地西部の魔都アデリア、ルドル、ネクトの各町と、北東部のオーリス共和国、南東部のグーレイア王国の防衛が最優先とされたのであった。


 以降は腕や足など体の一部を武器に換装出来る機械化兵が、人の地の各地で既にインフラ整備などに従事する兵士の追加装備と共に順次送り込まれ、五日が経った時点で人の地のエルナダ軍は総勢二万名を超えていた。

 当然、その配置は最も警戒を要する人の地東西の沿岸部に多数が振り分けられ、それ以外の地は幾つかの小隊が万が一に備えて哨戒任務に当たるのみである。

 因みにエルナダ軍での部隊編成は、最小の集団である分隊が二十名で構成され、四個分隊を小隊、四個小隊を中隊、という具合に規模を増す形となっている。


「ふい~、これで一先ず配置完了ですね……」

「お疲れ様でした、リュウ殿。後の事はお任せ下さい。転移門もきっちりこちらで管理、運用させて頂きます」

「はい、頼みます。もし転移門に不調が有ればいつでも呼んで下さい。すぐに駆け付けますんで」

「了解ですぞ」


 最終組となる支援部隊を転移門で送り届けたリュウに、(うやうや)しい態度で(ねぎら)いの声を掛けるソートン大将。

 普段は事故を恐れて転移門を出したままにしないリュウなのだが、今回は事態が事態なので、フォレスト領のエルナダ軍統括本部と各地を繋ぐ転移門をそのままにする事にしたのだ。

 敵に利用されない様に警備を厳重にする必要はあるが、軍の管轄下にあった方が部隊を効率よく動かせるし、何よりリュウが自由に動く事が出来るからだ。


 転移門は統括本部と緊急を要する為に無人偵察機を配備した六つの地点に加え、魔人族領の町であるオーグルトとバナンザ、キエヌ聖国、そしてエルナダ本国、と計十ヶ所を繋いでいる。

 なので統括本部は十基の転移門に囲まれており、少々物々しい雰囲気である。

 やがてリュウがアイスとココアを連れて去り、縦横三メートルもの転移門を感慨深げに見上げるソートン大将。


「閣下、そろそろお時間です。作戦会議室にお越し下さい」

「うむ、分かった」


 そうして副官のボナト中佐の呼び掛けに短く返答するソートン大将は、リュウを始めとするこの地の人々の期待に応えるべく、気を引き締めて歩き出すのだった。










 一方、各地に配備されたエルナダ軍は、各個に地元の協力を得て防御網の構築に取り組んでいた。

 その内の一つ、魔人族の国であるアデリア王国の首都、魔都アデリアの西端では城壁最上部に設けられた通路にて、エルナダ軍が一個連隊を小隊単位に分散させて南北に長く展開させていた。

 魔都アデリアは東西七キロ、南北五キロという城壁で囲まれた巨大な城郭都市であり、その城壁自体も高さ六メートル、最上部の通路は幅三メートルにもなる為、部隊を展開させ易く、迎撃に最適だったからである。

 また城壁が長大な為に、城壁内側には階段や隣接する建物など、通路へと行き来する箇所が至る所に設けられている点も、部隊を移動させる上で重宝されていた。


 ただ問題が無い訳では無い。

 西の城壁から更に西へ三百メートル程で海なのだが、そこは十メートル程の崖であり、そこまでの間は魔人族の生活資源となる森だったからだ。

 なので伐採する訳にはいかないが、城壁より高い木々については視界確保の為に切っても良いと許可されたので、部隊は現在、通路上にレールを敷設(ふせつ)中である。

 これは、長大な城壁のどこに敵が来ても対応出来る様、レーザー砲と電源装置を移動させる為に急遽追加で用意された物であった。

 これにより敵が空から襲来した場合の対処は容易となるが、森を抜ける敵の早期迎撃は困難となり、城壁間際での迎撃を強いられてしまうのである。


「大佐、レールの敷設が完了しました」

「よし。では陛下、ニグル殿、今からレーザー砲の試射を兼ねて視界を確保させて頂きますが、よろしいですね?」

「うむ。よろしく頼む」

「レーザー砲とやらの力、見せて頂きましょう」


 南北に伸びる城壁の中央では、副官のローリエ大尉の報告を受けたアデリア方面司令官のバウム大佐がすぐ横に並び立つ魔王ジーグと主席衛士のゼオン・ニグルに確認を取っている。

 魔都での警備全般を(にな)う衛士の長であるゼオンは、エルナダ軍の準備がまもなく終わると部下から聞いて、ジーグと共にやって来たのだ。

 城壁に合わせて森を切り(そろ)える事に異論など無いジークとゼオンだが、伸びるに任せていた森の木々を南北五キロに(わた)って切るとなると、相当の手間が掛かる事は容易に想像出来た。

 それをエルナダ軍がどの様に処理するのか、ジーグは単純に興味が湧いただけであるが、ゼオンは今回共闘するに当たり、ジーグや以前の襲撃事件に対応した部下から自分達より圧倒的に強い、と聞かされていたエルナダ軍の力を見ておきたいと思ったのだった。


「ローリエ大尉、これより試射を行う。全軍に通達してくれたまえ」

「は。これよりレーザー砲の試射を行う。各員所定の配置に着け。レーザーにより火災発生の恐れが有る。どんな小さな炎も見逃さぬ様、センサーの感度を上げろ。またトラブル発生時は速やかに照射を中止、状況を逐一報告せよ。照射準備!」


 バウム大佐の合図でローリエ大尉が通信機を手に全軍にてきぱきと指示を出す。

 その様子をゼオンが感心した様に見つめているが、ジーグの口元は少々ニヤリと歪んでいる。

 実はジーグ、城に設置している投書箱の中に「長く影を落とす森の木々を切って欲しい」という要望が含まれている事を以前から知っていたのだ。

 だが莫大な費用が掛かる事と緊急性が低い事、加えてその声が少数だった事からこれまで放置していたのだ。

 なので今回のエルナダ軍の申し出は、ジーグにとって渡りに船、という訳なのである。


『一号レーザー準備良し!』

『二号、準備完了です!』

『各小隊、問題無し!』

「大佐、ご命令を!」

「レーザー照射!」

『『照射!』』


 各方面から準備完了の報告を受け、ローリエ大尉から通信機を手渡されるバウム大佐によって命令が発せられる。

 だが特に何かが変わった様子もなく、ジーグとゼオンは無言で顔を見合わせる。


『一号レーザー、照射良好! 旋回終了、移動開始!』

『二号順調! 指定座標へ加速中!』

『こちら第一小隊、小規模火災多数発生なれど、今のところ全て鎮火!』

『第四十四小隊、消火に手こずっている! 増援を!』


 そんな中、設置された通信装置から各隊の報告が次々と上がって来る。

 北端のものは北に、南端のものは南に、それぞれ砲身を向けていたレーザー砲が命令と同時に木々を切り落としながら西へと旋回、旋回完了と同時に城壁中央へと走り出したのだ。

 レーザーで焼き切られて発火した木々には、最寄りの小隊による消火が行われている。


 そうする内にレールが振動している事に気付いたジーグとゼオンは、北の遠方にうっすらと立ち上る煙と、木々を縫う一条の赤い光に気付いて目を見開く。

 視界を(さえぎ)る兵士達が邪魔で、思わずレールに近付いて北を凝視する二人。

 赤い一条の光を放つ白っぽい物体が、どんどん近付いて来ているのが見える。


「陛下、ニグル殿、そろそろ危険です。レールから少々離れて下さい」

「う、うむ」

「わ、分かりました……」


 バウム大佐に促され、元の位置へと戻る二人。

 だがその視線は北に釘付けにされたままだ。

 もうはっきりと見えるレーザー砲が、馬などと比較にならない凄い勢いでやって来るからだ。

 しかもレーザー砲の後方には、城壁より高い木々が綺麗さっぱり無いのだから。


「一号レーザー、停止!」

「二号、停止!」

「試射完了! 各小隊は消火作業を継続せよ! 新たな火災の発生に留意せよ!」


 ゴウ、と音を立ててやって来たレーザー砲が次第に速度を落として停止し、連結された電源装置に複数乗っていた兵士の一人の合図と共に、赤い光も掻き消える。

 直後に南からやって来たレーザー砲も同様に停止し、ヒューンと唸っていた電源装置の音が静かになってローリエ大尉が各隊に指示を出す中、ジーグ達は深く息を吐いて忘れていた呼吸を再開する。


「凄まじい物だな、これは……」

「まさかこれ程だとは……思いもしませんでした……」


 そうしてジーグが(うな)る様に感想を口にすると、ゼオンも青ざめた顔で心境を吐露しつつ、光沢のある白を基調としたレーザー砲をまじまじと見つめた。

 幅五十センチのレールに乗る全長三メートル、全幅七十センチ程の貨車自体は、二十センチの車輪が付いた簡素な物なのだが、その先頭部分から伸びる支柱に支えられるレーザー砲は直径約七十センチ、全長二メートルの円柱状であり、その後方には全幅五十センチ、全長一メートル二十センチ、全高一メートル程の電源装置が二基据えられているので、結構な大きさとなっている。

 周囲では発火した木々の消火作業が行われているが、二人はレーザー砲から目が離せない様だ。


「これにて試射は終了です。が、まだ火災が発生する恐れがありますので、我々は引き続き警戒を継続します」

「む……承知した。バウム殿、聞いても良いか?」

「はい、何でしょう?」


 そんな二人に試射の終了を告げるバウム大佐は、断りを入れて来るジーグの顔を見て、おおよその見当が付きつつもジーグからの言葉を待った。


「この兵器……敵に対して使う事に躊躇(ためら)いは無いのか?」

「仰る事は分かります。我々も本来なら、これを敵に直接使う様な事はしません。元々これは、通常兵器で対処不能な場合にのみ用いるか、絶大な威力を見せつけて敵の戦意を喪失させる為の物ですから。ですが今回の相手は、生身の我々を遥かに凌駕する万の軍勢だと聞いております。味方の犠牲を最小限にする為ならば、その使用もやむを得ないと考えます。それに……」

「それに?」

「いえ、何でもありません」


 ジーグの問いが予想の範囲内だった事に内心安堵しつつ、淀みなく答えるバウム大佐であったが、つい余計な事まで口にしかけて、続きを促すジーグに申し訳なく思いながらも口を(つぐ)む事にする。

 ちらりと目が合ったローリエ大尉が、あ~あ、知りませんよ、と言わんばかりに目を逸らすのを見て、この野郎と思いつつも無表情を貫くバウム大佐。

 副官歴が長く、バウム大佐の癖も良く知っているローリエ大尉は、饒舌になるとついポロリとやらかしてしまう大佐の為に、合図の咳払いをしていたのだ。

 この後は恒例の「合図が遅いだろ」「気付くのが遅いんですよ」の応酬が繰り広げられる事になるので、周囲の士官達に動揺は無い。


「ここまで話してそれはないぞ、バウム殿……」

「失礼しました。では申しますが、敵の軍勢を束ねるのは星巡竜だとか。ならば、恐らくこの兵器は役に立ちません――」

「何ですと!?」


 案の定、ジーグに食い下がられて、仕方が無いと噤んだ口を開くバウム大佐。

 そしてローリエ大尉の予想通り、驚愕の声を上げるゼオン。

 だがこのままにも出来ないので、ローリエ大尉がやれやれと大佐の前に出る。


「大佐の言う事は事実です。なので敵の星巡竜に対しては星巡竜であるリュウ殿とアイス様のお力に頼らざるを得ません。ですがその戦いを邪魔させぬ為にも、この兵器の力は必要なのです。どうか、ご理解下さい」

「よく分かった。よろしくお願いする」


 大佐の言葉を肯定しつつレーザー砲の必要性を訴え、深々と頭を下げるローリエ大尉に、小さくであるが頭を下げるジーグとそれに続くゼオン。

 どうやら大尉のフォローはそれと気付かれる事無く、部隊を代表する熱意としてジーグ達に届いた様だ。

 その後、消火作業が手間取る所でゼオンが水の魔法で火災を鎮火させた事が兵士達の喝采を浴び、ローリエ大尉とゼオンの間で部隊と衛士達との連携が協議され、彼らはより密接な関係を築いていくのだった。

今回はつまんない説明回なので悩みましたが、

今後の話を面白くする為には必要だと思って

敢えて書く事にしました。

実際、後半で生きて来ると良いなぁ…(汗)

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― 新着の感想 ―
エルナダと戦ったのが懐かしくも思えてくるし、ジーグ達の反応を見て改めてエルナダの技術は凄いんだなと思った。 敵が攻めてくるのかはわからないけど、着々と準備が進んでいるようで次の展開が楽しみ!
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