21 急転
透き通る様な青空と羊の様なもこもことした雲の下、青々とした草を食む本物の羊達。
小麦の収穫を終えたキエヌ聖国では、冬場の羊達の飼料として麦わらを回収し、余った麦わらを羊達が食んでいるのが常なのだが、南西の海に近い一角では今年、新たな試みが行われていた。
それが羊達が食んでいる草、エルナダから持ち込まれた根菜類の栽培である。
「うーむ、凄い成長速度だ……羊達も嬉しそうに見える……」
「上手くいって良かったボン。おでも嬉しいボン」
中央集落から実験の視察に来ているマウリが、羊達を夢中にさせている根菜類に正直な感想を述べるのを、農夫姿の大男が笑顔で応じている。
エルナダ軍の兵士であったボボンこと、ボーマン・ボンデールである。
ボボンが何故、帰国もせずにここに居るのかと言うと、この国の実にゆったりとした雰囲気に魅せられたからである。
エルナダ郊外の実家の農家ではお荷物扱いされて、ソートン大将のコネで兵士を渋々やっていたボボンは、視察で訪れた際に皆に歓迎された事もあって、出来ればここで暮らしたい、と思ったのだ。
だが親戚とは言え軍の重鎮で、しかも軍に口利きまでしてくれたソートン大将に相談する勇気は無く、ロダ少佐に相談して口添えして貰ったのだ。
そして本人が望むのなら、とソートン大将の許しを得たボボンは、リュウに連れられて国長の下を訪れ、この地で働かせて欲しいと願い出たのだった。
ボボンが持ち込んだ根菜類はキエヌの地と相性が良く、すくすくと育った。
キエヌの人々はその驚異的な収穫サイクルと新たな味覚の出現を喜び、ボボンは新たな仲間として迎え入れられていたのだった。
「ボボンさん、凄えっすね。この芋、めっちゃ美味いっす」
そんな当時の事を思い出して笑顔になるボボンが、背後からの声に振り返る。
その声の主は、ソートン大将にキエヌ聖国に向かう事があれば、ボボンの様子を見てきて欲しいと頼まれたリュウであった。
「それはヘレナさん達のお蔭だボン。蒸かして食べるエルナダよりも、こうやってこんがり焼いた方が美味しいなんて、おでも初めて知ったボン」
齧りかけの芋を手にするリュウの満足そうな様子に、笑顔で応じるボボン。
ヘレナとは、ボボンがここ南西部の集落で暮らす様になって色々と世話を焼いてくれる、心優しいお隣さんである。
ボボンが作った根菜類は、ヘレナや近隣の女性達の自由な発想を得て、エルナダとはまた違った料理となって食卓を飾る様になったのだ。
「ボボンおじちゃん、あっちで遊ぼ!」
「遊ぼ! 遊ぼ!」
そこに可愛らしい声と共に、ボボンのズボンが引っ張られる。
ヘレナの幼い娘達だ。
その人柄で近所の子供達から好かれているボボンであるが、この幼い姉妹は特にボボンに懐いている。
それはボボンがお隣さんだからだけでなく、彼女達には父親が居ないからだ。
病で夫を早くに亡くしたヘレナは、女手一つで娘達を育てているのだ。
「マーサ、ユーリ、ボーマンさんのお仕事の邪魔しちゃダメでしょ」
「「え~」」
「ヘレナさん、お、おでなら大丈夫だボン。さあ、今日は何して遊ぶボン?」」
母の注意に声を揃えて不満声を上げる姉妹に、ボボンが顔を赤らめて仲裁をするかの様にわたわたと手を振りつつ、幼い姉妹に連れて行かれる。
「まぁ、あの子達ったら……」
その様子を呆れた様に眺めるヘレナだが、その口元には笑みが浮かんでいる。
「良い雰囲気ですね、ご主人様ぁ」
「そだな。ソートン大将に心配無用だって報告出来るな」
同じ光景を見ていたらしいココアに背後から囁かれ、目元を和らげながら応じるリュウ。
その図体に似合わず、おどおどしていたボボンはここには居ない。
聞き取りなどするまでも無く、彼がこの地に歓迎されていると分かっただけで、リュウとしては十分なのだ。
「では、そろそろ帰りますか?」
「そだな……おい、そこの食いしん坊ども。そろそろ帰るぞ~」
そうしてココアに問われて帰る事にするリュウは、背後で未だもぐもぐしているらしいアイスとミルクに声を掛ける。
「ッ!? ミ、ミルクは違いますぅぅぅ! 」
その主人の言い様に、ミルクが目を丸くしてわたわたと否定する。
確かにヘレナから振舞われた芋料理をじっくり味わっていたミルクだが、それは自身でも家で作れる様にと味を分析していたからだ。
だが今の今までもぐもぐしていたのは事実な訳で、食いしん坊枠から逃れようとするミルクにアイスもまた目を丸くする。
「ひほいよ、ミぅク! はっひまで――んぐっ!? んー! んー!」
「だっ、大丈夫ですか!? お、お水を――」
なので思わずミルクに非難の声を上げるアイスだったが、両手に芋を持ったまま絶賛もぐもぐ中だった為に、芋を喉に詰めてしまう。
慌ててミルクが水を飲ませて事なきを得たアイスだが、最後まで芋を手放さないその姿に、リュウは呆れて天を仰ぐのだった。
翌日、随分と日が高く昇った頃合いに目覚めたリュウは、寝ぼけ眼のまま一階に下りると簡単にシャワーを済ませ、やけに静かだなと思いながら食堂へ向かう。
アイスと共に星巡竜として認知される様になって数ヶ月、ウィリデステラの各地から問題や要望などが寄せられる度に、面倒臭えとぼやきつつも積極的に足を運ぶリュウにとって、今日は珍しく予定が何も入っていない一日なのだ。
「おはようございます、ご主人様ぁ。ぐっすり眠ってらっしゃいましたね」
「ああ、おはよ……寝すぎてちょっとダルい……てか、ミルクだけか?」
食堂に入るなりエプロン姿のミルクに笑顔を向けられて、気怠そうに応じながら椅子に腰掛けるリュウは、他のみんなはどうしたのかと尋ねる。
「ドクターは相変わらずグランと地下で研究です。アイス様とココアは小菊さんに付いて市場へ買い出しです」
「ミルクは行かなくて良かったのか?」
「はい。ミルクは昼食を任されていますから」
「そか……お、さすがだなぁ……」
答えながら主人に歩み寄るミルクが、主人の前にコトリとコップを置く。
その答えに頷きつつコップに口を付けるリュウは、ちょうど飲みたかった冷たいジュースだと分かって満足そうに微笑む。
マスターコアが頭の中に有るので当然なのだが、リュウにとっては思った通りに物事が進んで心地良いし、ミルクにしてもそうする事が許されているのが今や自分だけという事が嬉しいのだ。
「きゃっ!? ご主人様……」
「二人きりなんだから良いだろ?」
「あう……はい……」
飲み掛けのコップをテーブルに置いて、椅子に座ったまま体ごと向き直る主人に手を引かれて小さく驚くミルクだが、腰に手を回されて強引に膝に座らさせられて耳元で囁かれると、真っ赤になりながらもコクンと頷き、主人のキスに応じる。
「んう、ご主人様っ、これ以上は……ダメですぅ……」
その最中に胸に主人の手が触れ、ミルクは思わず主人の手を掴み、消え入る様な声で抵抗してしまう。
「え……何でだよ?」
「だ、だってこんな明るい内から……しかもこんな所でだなんて……誰かに見られちゃいますぅ……」
「なら大丈夫だ。周囲に人の気配は無い」
「でっ、でも……ここっ、心の準備が……」
「自分で大きくしておいて何言ってんだ……触って下さいと言わんばかりのこの胸が悪い……」
「あう……あうぅ……ん……」
だが恥ずかしいからという理由は、リュウにしてみればただのいつもの可愛い子ムーブでしかない訳で、なし崩し的に流されてしまうミルク。
そんなミルクも主人に求められているという事実は嬉しく、何よりも二人きりであるが故の特別感には抗えない様だ。
そうして絡み合う息遣いが激しさを増すかと思われた二人であったが……
「ご、ご主人様っ、もうダメですぅ……」
「えっ、何でだよ……」
「ミルク、こっ、壊れちゃいますぅ……」
「はぁ?」
突然中止を訴えるミルクに困惑するリュウは、その理由を聞いて間の抜けた声を漏らした。
見ればミルクはこれ以上なく真っ赤であり、涙目で小刻みに震えつつ荒い呼吸を繰り返している。
「こ、これ以上はシステムが耐えられません……」
「え~、マジか……至福の時間だったのになぁ……」
そしてそれがシステム上の問題だと分かるとリュウもさすがに諦めざるを得ず、ガリガリと頭を掻いた。
これはミルクという存在が確立されて胸のサイズを戻せなくなったのと同じで、最初期に基本システムに十八禁を設定してしまったのが原因だ。
それは心を持って乙女システムとなった今でも根幹にしっかりと刻まれており、ミルクにはどうする事も出来ないのだ。
「あうぅ……ごめんなさい、ご主人様……も、もう少し……時間を下さい……」
落胆させてしまった主人に、すがりつく様にして謝るミルク。
だが至福の時間と言われたからだろう、申し訳なさそうなミルクの表情はどこか嬉しそうだ。
「ま、こればっかりは仕方ないか……そんな済まなそうにしなくて良いって」
「はい……で、ではミルクはお料理に戻りますぅ……」
だが主人は苦笑いしつつも気遣う様に優しく頭を撫でてくれ、ミルクは精一杯の感謝の気持ちを込めて主人の頬にキスをして、料理に戻るべく主人から身を離す。
そうして料理を再開するミルクは、主人との関係が一歩進展した事に喜びつつもなかなか消えない頬の熱に困ってしまうのだった。
その日の午後はリックのボウガンの練習に付き合うリュウ。
が、教えを受けているリックはどこか落ち着かない様子で集中力を欠いている。
「師匠~、気になってしょうがないんだけど……」
「これくらいで気が散ってる様じゃ、一人前のアーチャーには成れねえぞ?」
「だってさぁ……」
とうとう我慢出来ずにリュウに意見するリックは、師匠の言う事も分かるものの口を尖らせながら横に目をやる。
そこには、しゅんと肩を落として正座する一頭のヴォルフが居た。
「リュウ様、もう許してあげたらダメ? ココアちゃん、震えてる……」
「こいつにはこれくらいしないとダメなんだよ、ミリィちゃん。すぐにやらかすんだから……」
すると見張りを頼んでいたミリィからも心配そうな顔で出見上げられ、リュウはやれやれと肩を竦めつつヴォルフ化させたココアにジト目を向ける。
未だにはっちゃけ癖が抜けないココアはトラブルメーカーの筆頭である。
そんなココアの悪癖に頭を悩ますリュウは、ついさっきもミリィのちょっとした疑問に答えるココアが調子に乗って夜の営みにまで口を滑らせた事で、お仕置きが必要だと判断したのだ。
ミリィの言う様に、正座しているだけなのにプルプルと震えているヴォルフ。
何故ならこのヴォルフのコスチュームには改良が施されており、装着した途端に人工細胞の制御を著しく制限され、ただの人と化してしまうのである。
その為、今のココアは正座慣れしていないただの人と変わらず、しかも主人からロックを掛けられて足を崩す事も出来ず、三十分を過ぎた辺りからその辛さに悶絶しているのだ。
正座するヴォルフというコミカルな姿の為に見る者の笑いを誘うが、ココアには全く笑えないお仕置きなのである。
「ちゃんと反省してんだろうな?」
「もっ、もぢろんでずぅ……許じで下ざいぃぃ……」
ヴォルフの口をカパリと開けて問い掛ける主人に、苦悶の表情で応えるココア。
相当堪えているのだろう、褐色の肌が生気を失って青褪めて見える程だ。
「まだ一時間経ってねーぞ?」
「も、もう足の感覚がぁぁぁ……ご主人様ぁぁぁ……」
「しょうがねーなぁ……」
なのに主人の言葉は冷ややかで、さすがのココアも涙目で訴える。
そうなるとリュウもそれ以上は厳しくはなれず、体の拘束を解いてやる。
途端に足を崩して苦痛から逃れようとするココアだが、相当足が痺れている様で眉根にしわを寄せて呻いている。
「ココアちゃん、大丈夫ぅ?」
「あうう……足が痺れて……立てないぃぃ……」
「大丈夫かぁ? ココアぁ……」
「づあっ!? リ、リック! つつかないで!」
ミリィに気遣われて泣き笑いの様な表情を浮かべるも、横から呆れ顔のリックに足をツンツンされて堪らず悲鳴を上げるココア。
お仕置きを解除されたとは言え、ヴォルフの姿のままなので足の感覚は人のそれなので痺れがなかなか消えないのだ。
「ずっと正座するとこんな風になるんだね……何だか面白い……」
「んがっ! ミリィちゃんまで!?」
「一時間待たずに解除してやったんだから、それくらい我慢しろ」
「そんな、ご主人さ――んおっ! ま、待って――ぬぐうっ!」
するとミリィもくすくす笑ってココアの足をツンツンし始め、リュウはミリィとリックにココアを任せて家の勝手口へと向かう。
午前中の買い出しでは買えなかった雑貨類を一緒に買いに行く、とアイスに半ば強制的に約束させられたからだ。
「お待た――うおっ!」
勝手口の扉を開けた途端、黒い影が足元を駆け抜けて驚くリュウ。
その正体は今や中型犬程に成長し、小ぶりながらも二対の角を生やしたチョコとショコラだ。
二頭はもふもふのヴォルフコスチュームがお気に入りなのだが、ココアが反省中だったので家の中でお預けを食らっていたのだ。
ミリィとリックだけでなくチョコとショコラにもじゃれつかれ、ココアが悲鳴を上げているが、どこか楽しそうなのでスルーするリュウ。
「リュウ、もういいの?」
「おう、お待たせ」
「あの様子だと、ココアはお留守番だね~」
「だな」
そうしてリュウは待っていたアイス、ミルク、小菊と共に、十五分程歩いて市場へと向かい、思い思いに買い物をするのだった。
「あれ、アイスは?」
「アイスちゃんならさっき、マギーおばさんの所でフルーツ食べてたよ」
買い物を始めて小一時間程、姿の見えないアイスを気にしたリュウは、雑貨店で買い物する小菊の言に従って教えられた露店に向かった。
「よお、リュウ。寄ってかねえか?」
「リュウちゃん、一つどうだい? 安くしとくよ」
「今、アイス探してんすよ。また後で~」
途中、色々な露店から声を掛けられて手を振りながら応じるリュウ。
リーブラの町の人々はリュウがノイマン男爵に次ぐ大きな家に住んでいる事や、ミリィやリックの両親やノイマン騎士団達から話を聞いている為、国の重要人物である事を知っている。
だがその対応はとても気さくで、リュウ達が町の一員として溶け込んでいる事が伺える。
「アイスは? 一緒じゃないのか?」
「アイス様なら、ジェム爺さんにお茶をご馳走になっていましたよ?」
「ったく、あいつ何しに来たんだよ……食って飲んでるだけじゃん……」
「まぁまぁ、ご主人様……一緒に探しましょ?」
小菊に教えられた露店にアイスの姿が無く、代わりにミルクを見かけたリュウはアイスが飲食しかしていない事に呆れつつも、クスクス笑うミルクと共にアイスの姿をキョロキョロと探す。
一方、虫型の小型偵察機を周囲に放つミルクは、偵察機を管理しているものの、主人の左腕に右腕を絡めてこっそり甘えている。
「あ、いらっしゃいまし……た……ご主人様……」
「ん? どした? あ? 誰だあれ……」
しばらくしてアイスを発見するミルクであるが、その困惑した様子に怪訝な顔でミルクを見るリュウは、ミルクの視線を辿って不満そうに呟いた。
露店の並びからやや離れた所で、アイスは見知らぬ若い男と一緒だったからだ。
しかもアイスは一方的に言い寄られて困惑している様子だったのだ。
なのでリュウはすぐさま二人の下へ歩み寄り、リュウに気付いたアイスが安堵の表情を浮かべる。
「あー、お取込み中悪いんだけど――」
「何だ?」
「いや、その子の彼氏なんだけど?」
そうして男に声を掛けるリュウであるが、男に見向きもされずに言葉を遮られた事で、ムッとしつつも問いに答えてやる。
人とは桁違いの強さを得た事で、こんな事くらいで手を出すリュウではないが、あまり態度が酷い様ならデコピンしてやろう、くらいには思っている。
普段滅多に言われない彼氏という言葉に、感激の瞳でリュウを見つめるアイス。
なので主人にジト目を向けるミルクには気付いていない。
「……そうか、お前が……」
「――ッ!」
小さく呟く男と目が合った途端、何かヤバいと直感するリュウを衝撃が襲う。
その直後、数件の露店が爆発したかの様に吹き飛んだ。
一瞬の出来事に目を見開いて固まるアイスとミルクが、男の右拳がリュウの居た顔の位置に掲げられているのを見て理解する。
男の裏拳を顔面に喰らったリュウが露店まで殴り飛ばされたのだ、と。
「ご主人様っ!」
「リュウっ! ッ!」
土埃が舞い上がる吹き飛んだ露店へ顔面蒼白で駆け出すミルクと、駆け出そうとして男に遮られるアイス。
吹き飛んだ露店の周辺では、訳が分からず人々が呆然と立ち尽くしている。
「ど、どいて! リュウが!」
我に返る人々が騒ぎ出す中、行く手を遮る男に叫ぶアイス。
「もう死んだ。お前はもう俺の物だ。一緒に来い」
「――ッ」
だが有無を言わさぬ冷ややかな物言いで男に腕を掴まれて、アイスは息を呑んで立ち尽くしてしまった。
これまでに経験した以上の得体の知れない恐怖を男から感じ取ったからだ。
「ご主人様! ご主人様!」
瓦礫の下敷きとなった主人に呼び掛けるミルクの叫び声を耳にしながらも、体が震えて動けないアイス。
男に唯一抵抗を示しているのは、溢れ出る涙だけだ。
「竜の一族が涙など……人間などと暮らすからだ。だがまあ構わん。二つのコアを持つ女は珍しい……より強い子を産めるだろう……」
「――ッ」
そんなアイスを見て呆れた様に口を開く男だったが、それは些事に過ぎない様で本来の目的を口にするとアイスを強引に抱き寄せる。
男の膂力に敵わないのだろう、顔を背ける事しか出来ないアイス。
その時、露店の残骸がガランガランと音を立て、目を開くアイスがより一層目を見開く。
残骸を押し退けて立ち上がるリュウの姿が有ったからだ。
「このクソボケぇ、アイスから離れやがれ! 何やってんだ、アイス! とっとと障壁張って身を守れ!」
「うん!」
「なっ!?」
そのリュウから一喝されて恐怖から解放されたらしいアイスが、嬉しそうに返事すると同時に障壁を身に纏って男を弾き退ける。
思わず男が驚愕の声を上げるが、それは抵抗して見せたアイスに対してなのか、それともリュウが生きていた事に対してだったのか。
「よくもやってくれたな、てめえ……ぶっ飛ばしてやる!」
「ふん、お前も同種だったとはな……死んでいれば良かったものを」
アイスの下へ駆け寄って口元の血を拭いながら激高するリュウと、まるで動じる様子もなく気怠そうに呟く男。
「皆さん、急いでここから逃げて下さい!」
主人が無事だった事に安堵するも束の間、突如現れた竜の一族であろう若い男と主人の戦闘が不可避だと判断するミルクは、巻き込まれた怪我人に肩を貸しながら大声で人々の避難を促しつつ、ココアとグランに連絡を取るのだった。
諸事情により、長らくお待たせして済みません。
楽しんで頂けると良いのですが…。




