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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第五章
194/227

04 エルナ山崩し

 セグ大佐らは現在、実験場の南に有る観測施設で壁に並ぶ多数の大型モニターの前に集まっていた。

 リュウ達がどの様にして「エルナ山を平らにする」のかを観測する為である。

 そこには特別に見学を許可されたイリーナ・パッセも顔を並べており、リュウが竜力を使うと聞いて観測の指揮を買って出たドクターゼムが、軍人以上に偉そうに無線で指示を飛ばしているのを呆れ顔で眺めている。


「小僧、こっちの準備は整ったぞ。いつでも始めてええからの」

『了解っす。ってか、みんなに見られてると思うと、何か緊張するっすね……失敗しても勘弁して下さいよ?』


 ドクターゼムから知らせを受けて、スピーカーからリュウの応答が流れる。

 緊張すると言っている割には、リュウの声色は明るい。

 大型モニターの一つに、エルナ山上空で翼を広げるリュウが映し出されている。

 他にもあらゆる観測機器が、ドクターゼムの指示でエルナ山を取り囲む様に配置されていた。


「それは失敗次第じゃな。山が崩れんでも現状のままなんじゃから問題無いわい。皆は落胆するじゃろうがの。それよりもじゃ、外部に被害は出すなよ? 折角修復させた施設を壊したら、賠償するまで軍にこき使われる事になるからの」

『え~……やめよっかな……』


 なのに賠償という言葉を聞いてリュウの声色が(しお)れると、モニター前の面々から笑い声が漏れる。

 思わず吹き出してしまったイリーナの横では、苦笑いするセグ大佐がやれやれとマイクを手に取る。


「リュウ、心配無用だ。エルナ山が崩せるのなら、周囲に多少被害が出ても遥かに安く済む。エルナ山の外周から一キロ以内には誰も立入らない様に徹底させているから、安心して始めてくれ」

『了解っす!』


 そうしてセグ大佐の説明に安堵するリュウは、元気に返事をするとミルク達へと呼びかける。


「どうだ~? 問題無さそうか?」

『はい。こちらは問題ありません』

『こっちも大丈夫ですぅ!』

『北東の斜面は崩れやすそうですが、内側に崩せば問題無いでしょう……』

「よし。んじゃ、俺達も準備すっか……」

「うん」


 そしてミルク、ココア、グランの三人の返事に満足気に頷くリュウは、アイスと共に高度一千メートルまで更に上昇する。

 ミルク達は、不測の事態を懸念したリュウの指示で、上空からエルナ山を隈なく調べていたのである。

 ドクターゼムに同行して来たグランは元々その予定では無かったが、ドクターに間近でリュウを観察する様に言われた為、どうせならと姉二人に協力したのだ。


「う~ん……リュウぅ、竜化しても良い?」


 上空からエルナ山を見下ろすアイスが困った様な声を上げる。


「ん? 範囲が広過ぎたか?」

「出来ると思うんだけど、リュウの力は強いから……」


 そしてリュウの問いにアイスは上目づかいで甘える様に答える。

 直径約二キロのエルナ山の周囲に障壁を張るだけならば可能だろう、とアイスも思うのだが、ここ最近の成長著しいリュウを思うと自信が持てなかったのだ。

 何せリュウは一度アイスの障壁を粉砕しているのだから、尚更なのである。


「そっか……ま、こっちの人達は見慣れてるだろうし、その方が安心できるんなら別に俺は構わねーぞ?」

「うん、じゃあ竜化するね!」


 その障壁を砕いた本人は効果範囲の事しか気にしていない様で、嬉しそうに笑うアイスの竜化を笑顔で呑気に見届ける。

 一方のアイスは竜化した事で「これなら絶対破られないもん!」と密かに決意を胸に抱いていたりする。


「おお……」

「これがアイス様の竜のお姿か……う、美しい……」

「色は違えど、エルシャンドラ様を見ている様だ……」


 モニター越しとは言え、突然のアイスの竜化に観測施設内がざわめき、セグ大佐とゼオス中将が思わず呟きを漏らしている。

 そうしている間にエルナ山を囲む様に光の幕が立ち昇り、誰もが感嘆のため息を漏らす。


「うお……さすがだな……」

「えへへぇ……」


 エルナ山をすっぽり隠してしまう巨大な光の幕は壮観で、リュウの素直な感嘆にアイスが照れて赤くなる。

 やがてミルク、ココア、グランの三人もアイスの下へ合流すると、リュウは一人高度八百メートルまで降下する。

 そして黒い翼同様に、リュウの両腕が黒く染まる。


『んじゃ、行きますよ~?』


 スピーカーからリュウのまるで気負いの感じられない声が流れた直後、リュウのエルナ山に向けられた右手から拳大の光の玉が発射される。

 今回は演出の必要が無い為、砲身は形成していない。

 光の玉はエルナ山の山頂中央に着弾すると同時に爆発的に光を増し、山頂部分の土砂を巻き上げて分解していく。


「これが……リュウが得た力か……」

「これ、空中から連発されたらヤバいっすね……」


 大型モニターに映し出される映像を見て、セグ大佐が呆然と呟く隣では、ドッジ中尉が頬を引き()らせている。

 他の面々も似た反応で食い入る様にモニターの映像を見つめている。

 そうして光が収まると、山頂部分は直径五百メートル程にわたって削り取られたかの様に標高が五十メートルは低くなっていた。


「ふむ……。これだと、グランの報告と大して変わらんの……小僧、威力はこれで限界か?」


 だがドクターゼムは、リュウが南部解放同盟のアジトを消滅させた光景をグランから見せられていたので大した驚きは無く、リュウに力を出し惜しみしていないか確認する。


「いや……今のでも十分凄いっすよね……?」

「そうだな。通常兵器であれ程の威力を持つ物は現存しない。核でも使えば別だが、それだと周囲もただでは済まない……」

「ふぅむ……効果範囲を限定しつつ、放射能も検出されない核並みの一撃……か。リュウ殿は半人前だと謙遜しておられたが、さすがはヨルグヘイム様のお力を継ぐお方、という訳か……」


 そのドクターゼムの淡々とした口振りにドッジ中尉が乾いた笑いを(こぼ)すと、ロダ少佐も頷きつつその威力について推測する。

 それを聞いて観測データに目をやるソートン大将は、リュウが一人前の星巡竜だと証明された様な気がして嬉しそうである。


『いや、今のは試し撃ちっすよ。目標がデカいんで、一発撃ってみないとイメージし辛いと思って……ま、今ので大体分かりましたんで、次、本番行きまーす』

「そうか、そうか。期待しとるぞ」


 そこへリュウの応答が入り、その内容に大半の者が耳を疑う中、ドクターゼムが満足そうに応じている。

 ソートン大将も驚きはしたが、その後の嬉しそうな笑顔にゼオス中将がちょっと引いている。


『ご主人様、ご指示通り先程の威力を数値化して脳内ツールに落とし込みました。ですが暫定的な措置ですので鵜吞みにせず、一、二段階は威力を低めに見積もって下さいね?』

『あいよ~。っと……んじゃ、こんなもんか……』


 ミルクから通信が入り、リュウが脳内ツールにアクセスすると、リュウの視界に新たな情報が映し出される。

 それは竜力砲を扱うのに必要な各種パラメータであり、勘に任せた使用を不安に思ったリュウがミルクに用意させた物である。

 これによりリュウは射撃目標点とその効果範囲、そして威力を事前に確認できるのである。

 リュウはミルクの忠告に従って効果範囲の円を少し小さく設定し、威力ゲージも少し弱めに設定する。

 先程とは違い、リュウの右手が強い光を発している。


「よっし、発射!」


 合図と共に、放たれた光の矢が一瞬でエルナ山に着弾する。


「ん、あれ……さっきはあっと言う間に光が広がったのに……」


 息を呑む面々の中、ドッジ中尉が変化が起こらない様子に拍子抜けした様な声を漏らしたその時だ。

 エルナ山のあちこちから光が(あふ)れ出し、山頂や山肌が、内側に飲み込まれる様に崩壊を始めた。


「ふはははは……こりゃ、ダメじゃ。測定値が振り切れよった……」


 ドクターゼムが肩を(すく)めて笑う中、誰もが大型モニターの映像に釘付けになっている。

 主に皆が見ているのは遠目に設置されたカメラからの映像だ。

 何故なら他のモニターは完全にホワイトアウトしてしまっているからだ。

 遠目の映像には眩い巨大な光の中、エルナ山の輪郭が崩れていく様子を辛うじて確認する事が出来る。


『ひぃう……こ、壊れちゃうよぉ……』

『ご、ご主人様! 設定を弱めにと言ったじゃないですか!』

『したって! お前が言う通り、二段階弱めたんだぞ!?』

『えっ、そうなんですか……うう、やはり検証を重ねないと……』


 障壁に掛かる予想以上の圧力にアイスが情けない声を上げ、ミルクは非難の声を上げるのだが、逆に主人に憤慨されてやはり無茶だった、と検証不足を嘆く。


『凄いです、ご主人様ぁ! ココアもう、クラクラですぅ!』

『いや、姉さま。感激してないでちゃんとデータ取って下さい……』


 一方ココアは主人の想像を絶する破壊の力にうっとりしており、呆れるグランに(たしな)められている。


 眩い光は二十秒程続いたが、急速に光の中心へと収束して消えてしまった。

 そうして皆の目が光から解放されると、エルナ山は完全に消失していた。

 更には優に地下百メートル程、地面が抉れてしまっている。


『うわ、やっべ……全然平らじゃねえじゃん……』

「別に構わんじゃろ。研究施設を新たに建てるんじゃ、かえって地下整備の手間が省けたじゃろ」

『そ、そっすか?』


 大きく抉れた地面を見て少々落胆するリュウであるが、ドクターゼムののんびりとした説明を聞いてほっと安堵する様がスピーカーから伝わって来る。


「う、うむ。ドクターの言う通りだ、リュウ。想像以上で驚いたが、これで大幅に工期が短縮できる。本当に感謝する」

『なら、良かったです……』

「リュウ・アモウ君、私からも礼を言う。これで私も心置きなく君の頼みを叶える事が出来る。君達が戻り次第、その話に入るとしよう」

『了解っす!』


 そしてセグ大佐とゼオス中将から感謝されるリュウは、グーレイア王国の人員と資材が借りられると分かると明るい声を返し、アイス達と共に観測施設へ向かうのであった。

遂に書き貯めが一文字も無くなりました…(汗)

頑張って書きますが、定期的な供給は厳しくなりましたm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二段階弱めてこの威力というのが爽快でした!
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