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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第五章
193/227

03 互いの事情を知って

 司令部の会議室がシーンと静まり返っている。

 ゼオス中将を始めとする軍の面々が驚きの表情で固まっているからだ。

 その原因は、立ち上がって翼を広げているリュウである。

 イリーナは一度見ているが、緊張は隠せない様子だ。


「ね、嘘じゃないでしょ?」

「本当に……」


 ニィっと笑いながらリュウが翼を畳んでしまうと、セグ大佐が何とか言葉を絞り出し、緊張を解かれたドッジ中尉らのため息がどっと漏れる。

 転移先で魔人族に助けられた事からの出来事を、ミルクの助けも借りてリュウはざっくり説明したのだが、転移が星巡竜となったリュウの力によるものだ、という事を信じてもらえず、仕方なく翼を開いて見せたのだ。


「す、凄えな、リュウ……そう言えば体も何かでかくなってないか?」

「ま、育ち盛りですからね~」

「いや、育ち過ぎだろ……」

「あはははは」


 そしてドッジ中尉が緊張から逃れる様にリュウに話し掛け、リュウもコミカルに応じた事で場の緊張感がほぐれていく。

 中尉が指摘する様に、リュウはこの二月程で百七十センチ前半から後半へと随分背丈が伸びている上に、がっしりとした体つきで以前の線の細さは見られない。

 それは増量された人工細胞とコアの影響が大きな要因であるが、今後もどこまで影響するのかは全くの未知数である。


「しかしそうなると、これからはリュウ様って呼ばなくちゃならん……のか?」

「ちょ、止めて下さいよぉ……確かにヨルちゃんには星巡竜を名乗っても良いって言われたけど、俺は前のまんまですって。そりゃ、ちょっとは強くなって空飛べる様になったけど……」


 だがドッジ中尉に今後の呼び方を問われると、リュウは慌てて不満を露わにして口を尖らせる。

 レジスタンスの人達にまで特別扱いされて、よそよそしい気分を味わいたくないからだ。


「ヨルちゃんて……てかよ、空飛べたらもうそれは、ちょっとじゃねーだろ……」

「え~……」


 そんなリュウに対し、呆れた様なドッジ中尉。

 見ればドッジ中尉の同僚達までもがうんうんと頷いており、ミルクがくすくすと笑っている。


「んんっ、リュウ。君達の事情は大体理解した。それにドクターゼムやロダ少佐、ソートン大将の部隊までもが無事とは。君達を大変な目に遭わせてしまったというのに、貴重な情報まで持ち帰ってくれて感謝の言葉も無い……」


 そこへ咳払いを一つ入れ、真剣な眼差しでリュウを見つめるセグ大佐は、感謝と共に深く頭を下げる。

 明るく説明していたリュウであるが、見知らぬ土地で幾つもの不安要素を抱えるリュウの大変さを、セグ大佐は思わずにはいられなかったのだ。


「いやぁ、大変な目には遭ったけど、それは大佐のせいじゃないですから。敢えて言うなら、ヨルグヘイムの偽物が欲を掻いてアイスの父ちゃん達を罠に()めたせいですよ。それに、皆さんだって大変だったでしょ? 陽動している間、偽物と直接戦ってたんだから……」


 そんなセグ大佐にわたわたと手を振ってフォローするリュウは、大変だったのはお互い様でしょう、とドッジ中尉に話を振る。


「あ~、あれは大変だった……何せ俺達の大半は一度死んだ身だからなぁ」

「えっ!? マジで!?」


 すると予想以上の答えが返り、リュウだけでなくミルク達もが目を丸くする。


「おうよ。こいつらは車ごと爆散して、俺はエレベーターの底で瓦礫の下敷きよ。だけど戦いの後でアインダーク様が敵も味方も関係無く怪我人を癒し、死体は復活させて下さったんだよ」

「マジか……アイスの父ちゃん凄え……」

「ま、中には生き返れなかった奴も居るんだけどな。ただ、義手や義足まで生身になっちまって前の様には働けないから、ここで大佐の世話になっているのさ」

「世話になってばかりでは困るんだがな……ま、そんな事より、アインダーク様とエルシャンドラ様はあの後すぐにアイス様を探しに行かれたのだが、戻って来ても良かったのか? リュウ」


 更なる中尉の説明でアインダークの力の凄さに思わず唸ってしまうリュウだが、中尉の締めの言葉にジト目になるセグ大佐は、一先ずそれを置いてリュウに戻って来ても良かったのかを問う。


「俺達もそこは気にしてますから、すぐ引き返すつもりなんです。ただ、こっちの事が気になってたし、状況によってはお願いしたい事が有って……」

「ふむ、お願いとは?」

「実はですね――」


 なのでリュウはすぐに戻るつもりである事を告げるのだが、丁度良いタイミングだと本命であるお願いを切り出す事にする。

 そのお願いとは、フルト少佐に設計を依頼したグーレイア王国の娯楽施設建設に必要な、資材と人員を貸して貰う事である。

 その内容をセグ大佐が思案する中、意外にもゼオス中将が口を開く。


「転移はこれまで通り、自由に行き来できるのだろうか?」

「制限を掛けなければ出来るはずですよ?」

「制限とは?」

「事故が怖いんで、使ったらすぐに転移門を消してるんですよ。出したままならば壊れない限りはずっと行き来できるんでしょうけど、俺達が飛ばされた時は崩落で壊れたのか、座標が狂って出口とは全く関係のない山の中に放り出されましたからね……なので事故を未然に防ぐ手立てが有れば良いんですけど……」

「なるほど、良く分かった。私は出来る事なら君の願いを叶えたいと思う。しかし現実問題として、今はこちらも軍施設の復旧に手が一杯でね……崩壊してしまった未だ手付かずのエルナ山と研究施設の整備に、一体どれ程の人員と時間が掛かる事やら……」


 リュウの説明で転移について納得するゼオス中将であったが、リュウへの協力がいつになるのか約束できず、申し訳なさそうに言葉を濁した。


「そうですか……因みに、それらの整備ってどんな事をするんですか?」

「一先ずは更地にして、その後崩壊した総合研究施設を建て直す予定だ。しかし、更地にするだけでも相当な時間と人員を要しそうでな……」

「んじゃ、俺にやらせて下さいよ? んで、空いた時間と人員を貸して下さい」

「ど、どうするというのかね?」


 だが落胆する様子も無く整備について明るく尋ねるリュウは、中将の話を聞いて協力を申し出て、中将の瞳を期待に満ちさせる。


「ん~、崩れた山をなるべく平らにすれば良いんですよね?」

「大雑把に言えばそういう事になるな……」


 確認するリュウに中将に代わってセグ大佐が答える。

 大佐も中将と同様に、落ち着いた口調とは裏腹に期待に満ちた目をしている。


「そんじゃ、アイスに障壁を張って貰って、上から竜力砲を撃ち込んでみるか……アイス、出来るか?」

「りゅ、竜力……砲……?」

「う、うん……多分、出来る……と思うよ?」


 そうしてプランを呟くリュウがアイスに確認を取ると、アイスは少し自信無さげではあるが、皆の手前こくりと頷く。

 リュウの呟きが聞こえていたイリーナが何やら頬を引き攣らせているが、どうせぶっ放すつもりなのでリュウは敢えてスルーする。


「よし、それでやってみよう。ミルクとココアはその際に何か注意する点が無いかチェックしてくれ」

「はい。ですがご主人様、今からとなると皆さんも準備が大変でしょうし、お城で用意されている昼食が無駄になってしまいますけど……よろしいんですか?」

「あ、そっか……」


 方針が決し、ミルクとココアに指示を出すリュウであったが、ミルクの周囲への気遣いを聞いて、はたと動きを止める。


「こちらもあと二時間程でお昼ですから、ここは一旦戻って三時間後に来てからの方が良い様に思います」

「うむ、そうしてくれると助かる。その際、出来る事ならロダ少佐達にも会いたいものだが……」

「分かりました。じゃあ一旦引き上げて、ロダ少佐達も連れて来ます」


 そしてミルクの提案にセグ大佐が同意すると、リュウはセグ大佐の要望に応えるべく、アイス達を連れて一旦マーベル王国へと引き返すのであった。










 マーベル王国へと戻ったリュウは早速、ロダ少佐とドクターゼムにエルナダへの転移が成功した事を報告し、エルナダの現在の状況を語って聞かせた。

 そうして三時間後のエルナダへの再訪問時に彼らの同行の同意を得ると、転移でフォレスト領のソートン大将や副官のボナト中佐、情報部のフルト少佐にも事情を話し、皆を引き連れてエルナダへと向かった。

 久方ぶりの再会を一頻(ひとしき)り喜び合った皆は、司令部を出ると用意された大型車両に乗り込んでエルナ山西側の兵器実験場へと向かう。

 崩壊したエルナ山を平らにする、というリュウが何をするのかは分からないが、実験場の観測施設ならばエルナ山を一望できる上に、建物強度が非常に高いからである。


 司令部では話し足りなかったのだろう、移動中の大型車両ではこれまでの空白を埋める様に皆が談笑している。

 そんな中、リュウと親し気に話すソートン大将を見て、セグ大佐が転移先で何があったのかと話し掛ける。


「いやぁ、そこまで閣下がリュウと親しいとは思ってもいませんでした……」

「リュウ殿の寛大さ故だよ、大佐。クーデターに加担した我々をリュウ殿は殺さぬ様に手加減して下さったばかりか、皆もエルナダに帰りたいだろうから、と国王に掛け合ってその後の生活の保障までして下さったのだ。その上、宿舎の建設協力に造反騒ぎの鎮静化、リュウ殿には感謝してもし切れぬというのに、今度は祖国への帰還……もう私は何を以って恩義に報いれば良いのか見当もつかんのだよ」


 セグ大佐の言葉にソートン大将が少々興奮気味に語り出す。

 その様子に、周りの者も会話を止めて興味深そうに耳を傾ける。

 特にドッジ中尉らは、自分達がタメ口で話しているというのに、ソートン大将がリュウに敬語で話しているのが気持ち悪くて仕方なかったのだ。


「お、大袈裟だなぁ……街道整備に尽力して貰って大助かりなんですから、お互い様じゃないっすか……それに俺は魔人族領で――」

「リュウ殿、それは違いますぞ。あれは命令を無視して戦闘を仕掛けた偵察部隊に非があるのです。それに本を正せばエンマイヤー公爵とより密接な関係を築こうとして偵察を命じた私に責任があるのです。リュウ殿は何も間違ってはおりません」

「む、どういう事ですかな?」

「実はですな――」


 そんなソートン大将に顔を赤くさせられたリュウが口を挟むのだが、魔人族へと侵攻した部隊を全滅させた事を口にしかけると、ソートン大将が鋭く反応して先にリュウに非が無い事を明言し、当然要求される事情の説明を行った。

 如何に部隊に非があろうとも、味方の死には敏感に反応するのが軍人というものである。

 ソートン大将はその事を十分に分かっていた為に、自分の非を前面に押し出してリュウを不問に付す様に、先手を打ったのだ。

 ソートン大将の迅速な対応を見て、今更ながら自分がした事の重大さに気付いて表情を強張らせるリュウであったが、「そういう事であれば致し方ありません」とゼオス中将が納得して見せた事で、この件はそれで済まされる事となった。


「な、なんか済みません……」

「この件でリュウ殿が謝る事など、何もありませんぞ? そんな申し訳なさそうにしないで下され。それにしても魔人族領ではそんなに怒ったリュウ殿が、どうして我々には手加減して下さったのです?」


 軍人達の間で偵察部隊の非が認められた、と言うよりは、大人達に守って貰ったと感じたリュウが恐縮のあまりにぺこりと頭を下げるのだが、それを笑って(なだ)めるソートン大将はふと気になった事を尋ねてみる。


「え……いやぁ、捕虜にしようと捕まえた一人に泣かれたんですよ。故郷に帰してくれって……。だから他のみんなも、そうなんじゃないかって……」

「なるほど……そのお蔭で、部隊は故郷に帰れるのですな……皆を代表して改めてお礼申し上げますぞ、リュウ殿」

「いやだから、そんなに大袈裟にしないで下さいって――」


 なのでリュウはその切っ掛けとなった出来事を話すのだが、ソートン大将に再び大袈裟に頭を下げられて、赤い顔でわたわたと手を振って皆の視線から逃れようとする。

 ドクターゼムやロダ少佐にとってはすっかりお馴染みのやり取りだが、他の皆にとっては大将が一少年に(へりくだ)る姿は何とも奇妙に映るのだから致し方ないのだが。

 そうこうする間に大型車両は実験場へ到着し、気恥ずかしさに居た堪れなくなるリュウは逃げる様に車両を降りるのであった。

次回はぶっ放します(笑)

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[気になる点] 次回に竜力砲で力を誇示し、周囲を圧倒する様を見るのが楽しみです。
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