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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第一章
19/227

18 奮戦①

 リュウとアイスが再会を果たしていた地下通路の上では、第一小隊が必死の逃走劇を繰り広げていた。

 五台ずつに分かれ南と北に逃走を開始した第一小隊だったが、黒竜はやはり北に逃げる五台の内のいずれかの車両がアイスを連れ去ったとみて追いかけていた。


 星巡竜の子供が乗っているならばいきなり攻撃はされない、と思いながら五台の車両は分散して逃げていたが、その一台に光が(まと)わりつくと車両は浮き上がり、上空の黒竜の下へ運ばれていった。

 そして車内に小竜の姿が無いと分かった途端、車両は地上に落下して爆発、炎上した。


 黒竜の背後からは第二小隊が狙撃を行ったが、光を纏った黒竜には何の効果も与えられなかった。

 三台目の車両が地上に激突した時、残る二台の車両は研究施設へ向けてあと少しの所まで駆けていたが、僅かに西に位置する国政運営部を守るために展開していた政府守備隊の一部から攻撃を受け、西側を走る一台は搭乗者ごと穴だらけにされて爆散した。


 残る一台は車体から白煙を噴き上げてはいたが、何とかリュウが死体袋で運び出された地下へのスロープへと辿り着こうとしていた。

 だが、車両の前方にグレネードが撃ち込まれ、慌てて急ハンドルを切った車両はスロープの入り口を外れてしまっていた。


「畜生! ここまで来てやられるかよ!」

「おうよ! このままエントランスに突っ込んじまえ! キーリ!」

「任せとけ!」


 スロープを外れた車両は後方から政府守備隊の銃撃を受けながらも、研究施設一階エントランスまでもう少しの位置まで逃げていた。

 その運転席に座るキーリ中尉の機械の左腕は、無数の弾丸を浴びてボロボロだ。

 そして受けきれなかった弾丸によって左肩が抉られていた。

 そんな事は些細な事と言わんばかりに運転するキーリ中尉の横では、バチバチと破損した右腕を交換するドッジ中尉がバックミラーに目をやり、ギョッとした表情で叫んだ。


「キーリ! まずいぞ! ヨルグヘイムが来る!」

「分かった! 任せろ!」


 何の効果も無いとは言え、背後から執拗に狙撃されていた黒竜は、第二小隊の居たであろうエリアを更に広範囲に焼き尽くすと研究施設に向けて翼を一打ちする。

 だが車両に追い付くことはできず、車両はエントランスにそのまま突っ込んで行く。

 黒竜は研究施設までやって来ると、光を纏って地上へ降りる。

 そして光が収まると人化したヨルグヘイムが姿を現し、破壊されたエントランスへ悠然と歩を進めるのであった。










 エントランスに突入した車両はそのまま広いホールを突っ切り、細い廊下の入口に激突し停止していた。

 警報機が鳴り響き、幾人もの研究員達が逃げ回る中、右側を廊下の入り口に向けた車両からは白煙がもうもうと上がっている。


「ぐう……、荒っぽいってもんじゃないぞ、キーリ……無事か?」

「ゲホゲホ……おお、何とかなるもんだな……ドッジ、お前は先に少佐と合流しろ」


 白煙が立ち込める車内から変形したドアを蹴破って、ドッジ中尉がよろよろと降りながら無茶をしたキーリ中尉に声を掛ける。

 キーリ中尉も白煙に咳き込みながらも無事の様だが、その返事にドッジ中尉は怪訝な表情を浮かべた。


「何言ってんだ、ここまで来て何で別れる必要がある? さっさと降りろよ」

「そうしたいのは山々なんだが、実はご覧の有様でな……」


 降車を促すドッジ中尉に、キーリ中尉はドッジ中尉に向かって半身を捻った。


「キーリ! お前……」


 ドッジ中尉が見たキーリ中尉の生身の左足は、破壊された左腕同様に無数の弾丸を浴びて真っ赤に染まっていた。


「もう感覚が無えから辛くは無いんだが、さすがに動けねえ。だから置いて行け。せめて邪神の邪魔ぐらいはしてやっからよ」

「キーリ……」


 ドッジ中尉はここまで連れて来てくれたキーリ中尉の右手を感謝の気持ちを込め左手で強く握ると、「後で会おう」と言って廊下奥の非常階段に姿を消した。

 しばらくドッジ中尉の消えた廊下の先を見つめていたキーリ中尉だったが、近づいて来る足音の方に顔を向けて口を開いた。


「これはこれは、ヨルグヘイム様。こんな俺にもお目こぼし無しですかい?」

「ふむ。そんな体でここまで来たのか。褒めてやろうか?」


 足音の主はホールを抜けて来たヨルグヘイムだった。

 ヨルグヘイムはキーリ中尉の有様を見て、顔色を変える事無くそう言った。


「それじゃ、お言葉に甘えて、一つだけ頼みを聞いちゃ貰えませんか?」

「ほう……頼みか。聞いてやれる事なら聞いてやろう」


 シートに体を預けながら話すキーリ中尉は血を流し過ぎたのか、もうヨルグヘイムに顔を向けるのも億劫そうだ。

 そして、それを見るヨルグヘイムはつまらなさそうに答える。


「へへへ……そんじゃ……くたばれ!」


 キーリ中尉は叫びながら、車内に漏れる燃料に向けて右手に用意していた信号弾を放った。

 直後に車両は爆発し、車体は数メートル持ち上がった後、床に落ちた。

 車両周辺は漏れ出ていた燃料で火の海と化していた。

 だがその炎の中、ヨルグヘイムは何事も無くその場に立ったままだ。

 彼は廊下の入り口を塞ぐ車両を左手で払う様に退かすと、そのまま悠然と奥へと消えて行った。










 ロダ少佐らと合流を果たしたリュウは、アイスの紹介もそこそこにロダ少佐が確保してくれていた出口から、研究施設の地下通路の上を通るエアダクトに出た。

 エアダクトをドクターゼムの指示で少し進み、彼らは小さな研究室に降り立った。


「ふう、高い所から降りるだけでも一苦労じゃ、年は取りたくないのう」

「誰も居ない部屋があって幸いでした」


 腰をさすりながらぼやくドクターゼムに、ロダ少佐は安堵の声を漏らした。


「当然じゃ。ここはわしの研究室じゃからのう」

「え、マジで?」


 悪戯が成功した様な笑みを浮かべるドクターゼムに、リュウは相変わらずの言葉を返す。


「おかげで少し落ち着いて話せるんじゃ、有難く思えよ? 小僧」

「はーい」


 そうして皆、空いている椅子に腰かけ、改めてアイスに自己紹介を始める。


「そうだ、ミルクも紹介しておかないと……」

「ミルク?」


 もう全員挨拶終わったのに……とアイスが疑問に思っていると、リュウの左手から立体映像の少女が現れ、アイスは目を真ん丸にして驚く。


「初めまして、アイス様。ミルクと申します。よろしくお願い致します」

「え? え?」


 目の前でちょこんと可愛いお辞儀をするミルクに、アイスは困惑全開の様子。

 なのでリュウが補足する。


「いやぁ、俺、人体実験されちゃってさ、体の中に居候が居るんだよね」

「ご主人様をお守りする優秀な万能メイドに向かって、居候は酷すぎると思います!」

「はいはい。悪かった」

「全然悪いと思ってない言い方で、謝罪するのはやめて下さい。余計に失礼です!」


 リュウの補足にプンスカ怒り出すミルク。

 それを見るアイスの口は開きっぱなしだったが、不意によろけてリュウにもたれかかった。


「アイス? 大丈夫か?」

「う、うん……ごめん。ちょっとよろけただけ……」


 そう言ってリュウの膝の上で座り直そうとするアイスだったが、体に力が入らず、再びリュウに倒れ込む。


「大丈夫じゃないだろ!? アイス、横になるか?」

「ご、ごめん。ちょっと力が無くて、体に力が入らない……」


 さっきまでは気付かなかったが、今のアイスは相当衰弱している様に見えた。

 リュウは自分のバックパックから中身を放り出すと、そこにアイスを入れてみた。


「そうだ、これならどうだ?」

「うん……これなら大丈夫だよ。ありがとう」


 アイスはバックパックから首を出し、両手でバックパックの口の縁を掴んだ。


「アイス様……なんて可愛いのでしょう……」


 バックパックからちょこんとはみ出るアイスの姿は、ミルクのツボに入った様だ。


「何、馬鹿な事言ってんだミルク……ロダ少佐、アイスが心配です。そろそろ――」


 深刻な状況にも(かかわ)らずほんわかするミルクを(いさ)め、リュウが珍しく真面目な顔で出発を促そうとするが、それはロダ少佐によって遮られた。


「リュウ、悪い知らせが二つある」

「は、はい」


 ロダ少佐の言葉に、リュウは鼓動が早くなるのを感じた。


「まず一つ目。第一小隊は合流できない。今、ドッジから連絡があった。そして二つ目、施設内の潜入者と連絡が取れない。よってこれから我々は直接、爆発物観測室に向かう」


 しばしの沈黙の後、それを破ったのはリュウだ。


「連絡があったって事は、無事なんですよね? 潜入者の方は分からないけど……」

「……そうだな。通路が潰れて合流できないらしい。とりあえず我々は先に進もう」


 不安そうなリュウにロダ少佐は、真実を語った所でどうにもならない、と適当に誤魔化す事にした。


「なら行くか。今なら外の通路には誰もおらんぞい」


 部屋の端末から外部をモニターしていたドクターゼムの言葉で、リュウはロダ少佐に頷くと立ち上がる。

 リュウの決意を秘めた瞳を見てロダ少佐も小さく頷くと、三人は更に地下にある爆発物観測室を目指し、通路を進んで行くのであった。

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