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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第四章
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56 大それた提案

 ネクトを発ったリュウ達は、比較的楽に主席司法官デルク・ロトが居る先行隊と合流を果たし、そこから再び転移門を開いてオーグルトへとやって来ていた。

 リュウがオーグルトを離れて三十二日目の事である。


「ほ、本当にオーグルトに一瞬で……」

「これは凄い……リュウ殿が星巡竜に成られた、というのも頷ける……」

「あはは……いやぁ、そんな大した事じゃ――」

「「大した事です!」」

「あ、はい……」


 唖然とするデルクに続き、先行隊を率いていた主席行政官のロネ・オンスに感嘆されて照れ笑いするリュウが、二人に詰め寄られて少し引いている。


「やれやれ……本人に自覚が無いのが問題だな。む……ゾリスが来たか……」


 そんなリュウの様子にジーグが肩を(すく)めて苦笑を浮かべるが、ハンターギルドのオーグルト支部長ゾリス・ガットの駆けて来る姿を見て、それに備える。


「これは魔王様、ようこそおいで下さいました! しかしこれはどういう……」

「久しいな、ゾリス。息災そうで何よりだ。ここへ来たのは、ふむ、皆が集まってからにしようか」


 挨拶もそこそこに困惑顔を見せる旧友の姿に、嬉しそうに歩み寄るジーグ。

 そうして説明しようとするジーグは、遅れて駆けて来る人々の中にクロウ町長やコレット副町長の姿を見て、彼らが集まるのを待って説明を始めるのだった。










「いや、さすがはリュウ殿とアイス様だ……闇の獣を壊滅させ、魔都までも襲撃者から救って下さるとは……それにしても、お美しい……」

「いや、本当に! それにココア様もミルク様も大きく成られて、これまた一段と美しいお姿に!」


 魔王の話を聞いて、しばし唖然としていたオーグルトの人達であったが、クロウ町長の言葉でアイスに見惚れ、コレット副町長の言葉にコクコクと頷いて三姉妹を赤面させている。


「白染病じゃなくて安心しました。アイス様、成人おめでとうございます」

「あ、ありがとう……皆さんのお蔭で、無事に成人出来ました……」


 そしてガット支部長に優しく微笑まれたアイスが赤い顔のまま皆にぺこりと頭を下げると、皆は口々に祝いの言葉を述べて盛大な拍手を送る。


「ゾリス、めでたいのはアイス様だけではないぞ? のう、エンバよ」

「? それは、どういう……」


 そんな中、ガット支部長はニンマリと笑う魔王に声を掛けられて、釣られる様に息子のエンバに視線を向ける。

 評議会での息子への評価が予想以上に高かったのだろうか、なんて親馬鹿な事を思いつつも、皆の手前なので平静を装う支部長。


「父さん、俺、結婚します」

「ん……そ、そう……か……。――ッ!? な、何!?」


 だが息子の口から発せられた予想外の言葉に、理解が遅れたガット支部長の目が丸くなる。


「だから俺、リズと結婚します」

「「「えええ~~~っ!?」」」


 そうして改めてはっきりと宣言する息子に支部長は言葉を失うのだが、代わりにリズに思いを寄せる面々から絶叫にも似た叫びが発せられる。


「う、嘘だろ!? リズは俺と一緒になるはずだろ!?」

「何を言う! それは俺のセリフだ!」

「あああ! 嫌な予感が当たっちまったぁぁぁ!」

「何で俺は、あの時付いて行かなかったんだぁぁぁ!」


 そして好き勝手に叫びを上げて、次々に崩れ落ちて行く男達。

 そんな男達を尻目に、エンバが堂々とリズを連れて父の下へ歩み出ると、リズが真っ赤な顔で口を開く。


「あ、あの、支部長……よ、よろしくお願いします!」

「あ、ああ……」


 もっと言いたい事が色々有ったはずなのに緊張で言葉が全て吹き飛んでしまったリズと、未だ呆然としたままのガット支部長。


「ふっふっふ、ゾリスのこの顔を見られただけでも来た甲斐があると言うものだ。さて、では我らはバナンザへ向かうとするか」

「了解です。じゃあ、リーザさんはこっちで待ってて下さいね。後で迎えに来ますから」

「はい、リュウ様。お気を付けて」

「じゃあ皆さん、ちょっと待ってて下さい。バナンザまでひとっ飛びして転移門を開きますから」


 狼狽する支部長を見られて満足したらしいジーグに促され、リュウは皆に断りを入れると一人で次の目的地であるバナンザへと飛翔する。

 行った事も無いバナンザであるが、街道沿いの町なのだから容易に見付けられるだろう、との考えだ。


『速い! す、凄いです、ご主人様!』


 バナンザを目指してどんどん加速する主人のスピードに、ミルクが思わず驚愕の声を上げる。


「うおっ!? あっ、そうか……お前が居るのついつい忘れちまう……あ、んじゃ置いて来たミルクはリンク切れか?」


 その声に驚きつつも、ミルクのマスターコアは頭の中に置いたままだったと納得するリュウは、キエヌ聖国で起こった出来事を心配する。


『いえ、それは大丈夫ですよ。遠隔ボディはリンクが切れたら自律モードへと移行する様にしましたから』

「へぇ。んじゃ、知らない内にスカートの中を覗かれなくて安心だな!」

『そんな事思うのは、ご主人様だけですぅ!』


 だがミルクがそんな事案を放置している訳が無く、感心するリュウはつい軽口を叩いてミルクに呆れられてしまう。


「分かってねーな、ミルク。パンツでそいつの全てが分かると言っても、過言じゃねーんだぞ? どんなに可愛い女の子でも、ダサいパンツ穿いてると分かったら、その価値は一気にダダ下がりするんだぞ?」

『そっ、そうなんですか!?』


 しかしそんな事は想定済み、とばかりにリュウが偉そうに(のたま)うと、思わぬ説教に真面目に反応してしまうミルク。


「当たり前だろ。可愛ければ可愛い程、がっかり感は加速度的に増すからなぁ……お前は特に可愛いからな、見えないからって油断してると、えらい事になるぞ?」

『と、特に可愛い……え……えぅ……き、気をつけますぅ……』


 そうして主人の口車に乗せられてしまうミルクは、反省を口にするとしばしの間ほわほわと舞い上がってしまうのであった。










 その後、バナンザを見付けて街道に転移門を開いたリュウにより、先行隊は無事バナンザまでの目的を果たし、再び魔都へ転移するとその短い役目を終えて解散となった。

 主席司法官のデルク・ロトと主席行政官のロネ・オンスはそのままジーグと共にアデリア城へと向かい、貿易についての協議に入った。

 その際、リュウは単独行動可能なココアを説明役として残し、その間にリーザとボスをネクトに送り届けると、再びココアと合流して一旦マーベル王国へと戻るのであった。


 その翌日からリュウは、転移門を活用して精力的に人の地全域を回った。

 魔人族が貿易に参加しないなどとは端から思いもしないリュウは、オーグルトのクロウ町長を頼ってバナンザの町長の了解を得ると通信アンテナを設置し、それを皮切りに魔人族、人間族の各町とその中継点に通信アンテナを設置していったのである。

 そうして三日後、魔王ジーグから貿易に参加する旨を受けたその翌日、リュウはコーザ・アルマロンド連合王国へとやって来ていた。

 リュウにはまだ、この国でやり残した事が有る為である。


 王城一階奥に有る会議室には、若き王オーベルとサラ皇太后、セザール政務官やロレック軍務官はもちろんの事、三民族の長であるエシャント族のバルウ、ブエヌ族のアルマンド、カーギル族のシャザとその側近達、武芸者からリゲルとガース、そして保護区の監督官を代表してマーシュ・マウロ、とリュウと面識が有る者達が呼ばれていた。


「えー、急に呼び出して済みません。昨日、魔王様からも貿易に参加すると連絡を受けまして、こっちの問題を片付けてしまおう、と思いまして……」

「ん? 問題? 民族問題は一応片付いたんだよな、大将。って事は――」

「別に片付いた訳ではない。今はペテン師殿の口車に乗っているだけだ」


 まず最初にリュウが皆に挨拶を兼ねて話を切り出すと、早速リゲルが口を挟み、シャザが腕を組んだままの姿勢でリゲルの言い様に物言いを付ける。

 リゲルもシャザも、いきなり王の前で好き勝手な振る舞いであるが、オーベルは穏やかにそれらを見ているだけだ。

 リゲルは奔放な武芸者であるし、シャザは強面ながらその表情に険が無く、その口調も落ち着いたものだったからだ。


「ちょ――」

「となると、貿易するにあたっての流通品の乏しさ、についてですね?」

「んんっ、さすが王様、その通り。国力が低下してるのに、今は保護区を解放して住宅を増やしてる最中だから、新たな流通品なんか作ってる暇なんか無いだろ?」

「そうですね……」


 そんなシャザの言い様にリュウが目を丸くするが、そこでオーベルが正解を言い当てた事で、リュウは一先ず本題を優先して話を進める。


「ふん……他国が一斉に動き出している時に、情けない事だ……だが、その原因を作った責任は我らにも有る事は重々承知している。ペテン師殿に策が有ると言うのなら、協力は惜しまぬ」

「それは助かる。けどさぁ、そのペテン師っての止めねえ?」


 そこへ再びシャザが口を挟んでリュウをヒヤリとさせるが、それはシャザなりの謝罪を兼ねた決意表明だったらしく、リュウは口元が緩むままに不本意な呼び名の撤回を求める。


「まだ俺には夢物語にしか聞こえぬからな。実現するまではお預けだ」

「へいへい……」


 しかしシャザはそれには取り合わずに口をへの字に結んでしまい、お手上げだとばかりにリュウは肩を竦める。

 どこかわざとらしく楽しげなシャザと少々コミカルなリュウのやり取りに、場の空気が僅かに緩む。


「では、リュウさんの提案をお聞きする前に、一言良いですか?」

「ん、どうぞ」


 そこへオーベルがリュウに断りを入れた事で、自然と皆がオーベルに注目する。


「星巡竜様のお蔭で、この国は一時的とは言え、皆が共に未来へ歩む機会を得た。私はこの国を治める者として、皆の暮らしを分け隔て無く守ると誓おう。その為の努力は惜しまぬつもりだ。だが、まだまだ至らぬ身である事も事実。皆、私に力を貸して欲しい。そしてこの平和な時が幾久しく続く事を願う」

「シャザの言葉を借りれば、我らはペテンに乗せられた身。しかし、このペテンが実現する事を我らも望んでおります」


 まだまだ幼さの残る顔立ちでありながら、堂々と振舞うオーベルにリュウが感心していると、アルマンドがシャザを真似る形でオーベルへの協力を口にする。

 顔には出さないものの、セザール政務官が小さく安堵の吐息を漏らしている。


「だが失敗すれば、王の座を降りて貰うぞ。覚悟する事だ」

「肝に銘じよう」


 そんな和み掛けた空気が、シャザの言葉でピリッと締まってしまう。

 ジロリとオーベルを不遜に見るシャザの態度がどこまで本気なのか、誰もが測りかねている中、リュウが思わず口を開く。


「おいおい、それは困る。ペテンに乗っかってる内は協力してくれるんだろう? だったら、もし失敗しても連帯責任じゃねーかよ……」

「だが責を負う者は必要だ。コーザでダメなら次はカーギルが皆を導く」

「あー、分かった、分かった。結局、多民族が無理に併合してるのがダメなんだ。ん~……よし、俺がそんなもんぶっ壊してやる」

「ご主人様!?」


 口を尖らせるリュウは、シャザの意見を曲げるつもりは無い様子に、やれやれと椅子の背もたれに身を預けてしばし天井を見つめるが、身を起こしてからの発言にミルクが目を丸くする。


「本題に入る前に星巡竜から提案! コーザ・アルマロンド連合王国って国名を、廃止にしろ」

「「「なっ!?」」」

「「「ええっ!?」」」


 そして提案と言いながらも命令口調なリュウの言葉に、誰もがミルク以上に目を丸くする事となった。


「んな、昔からの名前を引き継いでっから、腹が立ったり、未だに自分達の出自に(こだわ)るんだ。正直言って、んなもんはお前達のこれからに必要なもんじゃねえよ。だから今から新しい名前を考えろ。過去に囚われる事の無い、未来の為に一致団結する新しい国家の名前をな」

「い、いや……しかし……」


 皆の困惑する様子にリュウが有無を言わさぬ口調でその理由を説明するのだが、ロレック軍務官は主君であるオーベルやサラ皇太后の顔色を伺うと、何とか提案を撤回させられないかと額の汗を拭いつつ、言葉を探す。

 コーザの軍人として先代王から仕えて来たロレックにとって、国の名が失われる事はおいそれと容認出来るものではないからだ。

 だが相手は、力では到底(かな)わぬ上に、国の為に尽力してくれたリュウである。

 リュウを納得させる良い言葉など浮かばず、途方に暮れるロレック。


「さすが大将。良いんじゃねえか? 俺は元々コーザの人間だけどよ、古臭い殻を脱ぎ捨てて、新しい衣を身に纏うのも悪くねえと思うぜ? 未だに俺達の周りでもコーザだアルマロンドだって小競り合いする奴が居るからな。民族の誇りは大事に胸にしまってよ、新しい民族にみんなで成ろうぜ。きっと清々しい気持ちになると思うぜ? 軍務官殿。あんたの気持ちが分かる、なんて事は言えねえけどよ、別にあんたの過去が否定される訳でも主君が変わる訳でも無えんだ。ここは潔く諦めて大将のペテンに乗っかりましょうや」

「ペテンって言うな」

「じゃないと本題に進めねえですぜ?」

「スルーすんなし……」


 そこへ陽気な声でリュウの提案に理解を示したのはリゲルだ。

 武芸者として基本的に自由な立場である彼にとっては、国の名前が変わろうとも大した違いが無いのだろう。

 しかし弱り顔のロレックの心情も分かるのだろう、慰めつつも肩を竦めて抵抗の断念を勧める。

 リュウから何やらツッコミが入るがロレックに比べれば些事(さじ)なので、あっさりとスルーするリゲル。


「こ、個人的には魅力的なお話だと思いまシュが、肝心の陛下のお考えは如何なのでしょう?」


 更にそこへジト目のリュウを牽制する様にマーシュが口を挟んだ事で、皆の目がオーベルへと一斉に注がれる。

 オーベルはしばし俯き加減で思案していたが、結論が出たのだろう、上げた顔に迷いは見られない。


「私は即位して日の浅い身ではあるが、この国の歴史を軽んじた事は無い。しかし今重要なのは、皆が一致団結してこの国の未来をより良いものにしようとする決意であると考える。その決意の表れとして、国の名を新たにすると皆が望むのならば私は胸を張ってこれを受け入れようと思う」

「「ははあっ!」」


 そしてオーベルの十三才とは思えぬ堂々とした決意の表明に、セザール政務官とロレック軍務官は身を引き締めて応え、シャザ達は感心した様な表情を浮かべた。

 大人達の前で臆する事無く王として振舞う一人息子を、サラ皇太后は頼もしげに見つめるのだった。

更新に1月近くも掛かってしまい、申し訳ありません。

中々落ち着いて執筆する状態になかったもので…m(_ _)m

しかもやはり1話で終われず、あと1話あります…(^^;)

次話は4章最終話となる訳ですが、なるべく早くアップしたいと存じます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 星巡竜特権で国名を変えさせるのに清々しさがあって良かったです。
[良い点] 名前を変えてしまおうという大胆な考え、いいですね!次の名前がすんなり決まるのかどうか… マーシュが喋ると口癖のおかげで真面目な話もコミカルに感じます(笑)
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