55 再会
魔都から南へ一直線に続く街道に、百輌近い荷馬車群が南下している。
二十騎の騎馬に警護されて進むその一団は、九日前に魔都を出発した、魔人族領最南端にある町、ネクトの復興を支援する為に編成された支援部隊である。
荷馬車の約半数は四人一組で人が乗っており、農業や建築を生業にしている者が四十名程で、残りは主にその作業をサポートする為に集められたC級ハンター達である。
残りの荷馬車には様々な荷が満載されており、全体の移動速度はのんびりとしたものであった。
その荷馬車群の先頭付近の右端を進む一輌に先頭から騎馬が一騎、速度を落としながら近付いて行く。
「何か困った事は有りませんか?」
そう声を掛けたのは、次席行政官であるウルト・ルースであった。
彼は支援部隊の総責任者であり、部隊を無事にネクトに連れて行った後は数年間ネクトに留まって支援部隊を指揮、監督する事になっている。
他にも入れ替わりが予想されるC級ハンターの管理や支援状況の報告、ネクトの行政官を統括しての一般行政など、彼が任されるものは多岐にわたる。
それは彼が魔王に信頼されている証であり、それが彼の誇りでもあった。
「いえ、今のところ特には。いつもお気遣いありがとうございます」
ウルトの申し出に笑顔で応じるのはリーザだ。
彼女が乗る荷馬車にはリュウと旅を共にして来たリズとエンバ、そしてハンナが同乗しており、リュウにリーザの護衛を命じられたヴォルフのボスもリーザに撫でられて気持ち良さそうに寝そべっている。
ボスが居る事で馬が怯えそうなものだが、先頭集団の馬達はアイスによって以前魔王城でボスは怖くないと教えられており、その甲斐あって他の馬もボスに対して警戒心をあまり抱いていない様である。
「いえいえ、それが仕事ですので。何か有ればいつでもお声掛け下さい」
「はい!」
「おや、何でしょう?」
リーザの笑顔に一瞬デレッと表情を崩しつつも、ウルトが笑顔で引き下がろうとすると、リーザの後ろからリズが手を挙げ、ウルトは手綱を持つ手から力を抜いてそのまま笑顔をリズへ向ける。
「ルースさんが問題だと思います!」
「えっ!?」
「そうだねぇ、日に何度も声を掛けて貰って有難いはずなんだけどさ、あまり数が多いとリーザ目当ての口実としか思えないねぇ……」
予想だにしなかったリズからの言葉にウルトの目が丸くなるが、後を引き継いだハンナの呆れ半分の口振りにウルトの背に冷や汗が流れる。
目を泳がせた先でもエンバが無言でコクコクと頷いており、ウルトの口元は引き攣ってしまう。
「い、いやいやいや、リーザさんにはリュウ様がいらっしゃるじゃありませんか! あは、あはははは、嫌だなぁ……し、仕事ですよ、仕事!」
「どーだか……怪しい……」
「リズ、失礼でしょ。済みません、ルースさん」
「いえいえ、私も少々軽率でした。な、何か有れば呼んで下さい。では……」
わたわたと片手を振って慌てて弁解するウルトにリズのジト目が突き刺さるが、それを窘めるリーザに頭を下げられるとウルトもぺこぺこと頭を下げ、そそくさと先頭へと戻って行く。
《ま、まずいですね……しばらくは接触する機会を減らさねば……なぁに、機会はまだまだたっぷり有ります……いつも居ないリュウ様よりも、いつも頼れる存在が傍に居ると気付いて貰えればチャンスは有ります……その為にも今は耐えねば……アプローチを掛けていたなんて知れたらリュウ様に殺されてしまいますからね……あくまでもリーザさんの心変わりを待たねば……頑張るんだ、俺!》
何食わぬ顔で先頭に戻ったウルトが自省しつつ、微かな希望を胸に姿勢を正す。
魔王に行政に於いて全幅の信頼を得ている次席行政官は、横恋慕という難易度の高いミッションに精を出しているのだった。
「もう、なんて事言うの……」
すごすごとウルトが去って、リーザがリズにやれやれと困った表情を向ける。
「だって、ウルトさん見え見えなんだもの。姉さんこそ気付いてないの?」
「そんな訳無いでしょ……でも、これから数年はネクトの町で一緒に過ごすのよ? 今から気まずい思いはしたくないじゃない……」
だが肩を竦めるリズにウルトの事を問われると、リーザはため息混じりに本音を吐露する。
どうやら次席行政官の手の内は既に読まれてしまっていた様だ。
そうとも知らず、見て下さいと言わんばかりに馬上で背筋をシャンと伸ばす次席行政官にエンバとハンナの憐みの視線が注がれる。
「まぁ、でもこれからの気苦労を考えれば、お役人さんには気の毒だけど、最初にビシっと言っておいた方が良くないかい?」
「無理無理、ハンナさん。あの人、姉さんがリュウ様にキスするのを見てたのに、その翌日からさりげな~くアプローチしてるんだもの。あれは重症ね……とうとうオーグルト以外でも犠牲者が出てしまったわね~」
「犠牲者って何!?」
しかしこのままと言う訳にもいかないだろう、とハンナがリーザに釘を刺す様に促すのだが、それを無理だと笑うリズのウルトの見立てにリーザの目が丸くなる。
「まさか気付いてないの? 誰にでも慈愛の笑みを振り撒いてその気にさせておきながら、告白されると振るんだもの……たち悪いったらありゃしない」
「リーザ、あんた――」
「ちっ、違いますハンナさん! 私はそんな! リズ! いい加減な事言わないでちょうだい! 私は誰でも分け隔て無く接しようと心掛けているだけで……誰かの気を引こうだなんて思った……事は……」
だがリズの苦言を聞いたハンナの瞳に非難の色を見て取ると、リーザは大慌てで弁明を始めたのだが、ハッと何かに気付いてその顔色を赤く染めて俯いてしまう。
「あるんだ?」
「リーザ……」
「リュ、リュウ様だけです……」
「な~んだ……」
「はいはい、ご馳走様……」
そんなリーザにリズがニンマリと笑い、ハンナが呆れた表情を浮かべるのだが、上目遣いで答えるリーザのばつが悪そうな姿に二人は脱力するのだった。
その時、それまで大人しく伏せていたボスがピクリと首を持ち上げ、辺りを窺う様な仕草を見せた。
「ボス、どうしたの? あっ!? ボス!」
「おっと!」
「何だ!?」
気付いたリズがボスに声を掛けるが、ボスはその巨体に似合わぬ軽やかさで荷台から飛び降りると、騎馬の合間を縫って部隊の目指すその先へと駆けて行く。
「獲物でも見付けたのかしら……」
「さぁ……」
呟きながらリーザ達がボスを目で追っていると、程なくしてボスは街道右手の森へと飛び込んだ。
「バウッ!」
「うおっ!?」
「どわあっ!?」
そしてボスに吠えられて驚く複数の男の声が森から上がる。
「む、全体止まれ! あれは……え……?」
警護の兵が警戒して部隊を停止させるが、森の中から転がり出て来た二人の男を見て固まってしまった。
最初に飛び出して来た男が、黒いマントを羽織っていたからだ。
続いて飛び出して来た男は、転んでしまってボスに圧し掛かられている。
その光景を目を見開いて見るリーザが馬車を飛び降りて夢中で駆け出し、リズとエンバもその後を追う。
それを見て、顔を見合わせる警護の兵達も釣られる様に部隊を前進させる。
「ちょっ、待てボス! 折角のサプライズが――わぷっ! おーい! お前ら早く助けろって!」
ボスに圧し掛かられているのはリュウであった。
リュウ達はジーグを伴って竜の間から一つ南の町のルドル付近の街道に転移し、北上して来た所で支援部隊を先に見付け、驚かそうと森に潜んでいたのだ。
大興奮のボスに揉みくちゃにされ、手を焼くリュウがアイス達に助けを求める。
「ボスぅ! ダメ――」
「バウッ!」
「わあああっ!?」
「ボス、お、落ち着いて!」
「こら~! お座りしなさ~い!」
なのでアイス達も森から飛び出て来るのだが、興奮して走り回るボスに成す術がなく翻弄されてしまっている。
その割には三人共、とても嬉しそうだ。
「くそ~、ボスの鼻の良さをすっかり忘れてたな……いてて……」
「リュウ様っ!」
「あはは……ただいま、リ――おわっ!」
ボスから解放されて土を払いながら立ち上がるリュウは、駆け寄るリーザを見てサプライズの失敗を残念に思いながら挨拶しようとして、飛び付いて来たリーザを咄嗟に受け止める。
直後にリーザの熱く激しいキスの歓迎を受け、リュウがふにゃふにゃに弛緩していく。
「会いたかった、リュウ様……でも、こんなに早くお会い出来るなんて……」
「いやぁ……最初は予想していたより上手く事が運んだんですけど、次から次へと問題が起きて、今になっちゃいました……」
「もう問題はよろしいのですか?」
「粗方は片付きました……ただ、もうしばらくは、あっちこっちへ行く羽目になるかと……」
「そうですか……」
「あ、でも、これからはいつでも会えますから!」
「本当ですか! じゃあ、お帰りなさい……ですね?」
「はい。一応ですけど、ただいまです」
涙目のリーザと赤い顔のリュウが抱き合いながら言葉を交わす。
何やらココアが叫んでいる様であるが、リュウとリーザは二人だけの世界を構築してしまった様で、会話を終えてもチュッチュ、チュッチュと忙しそうだ。
追い付いて来たリズとエンバがそんな二人に気を遣ったのか、アイス達と再会を喜び合っている。
「陛下! いつこちらに?」
「驚かせて済まんな。リュウに連れて来て貰ってな……って、やれやれ。リュウ、嬉しいのは分かるが皆を忘れるでない」
「「ッ!」」
同じく追い付いた護衛の兵に声を掛けられ、短く答えるジーグがくっついたまま離れないリュウ達に呆れつつ、二人を現実へと引き戻す。
「あ、あはは……そうでした、そうでした……」
我に返ってポリポリと頬を掻くリュウが、赤い顔のまま皆から逃げる様に街道の中央へと向かうが、リーザはいつから大勢の人達に見られていたのか、と真っ赤な顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んでしまった。
「我を忘れるって凄いわよねぇ……姉さん、み~んなが見てたわよ? 今、どんな気持ち?」
そんなリーザをリズが耳元で冷やかし、リーザが耳を塞いでイヤイヤしている。
「皆、今から起こる事は他言無用で頼むぞ。いいな?」
羞恥に悶えるリーザを皆もニマニマと眺めていたが、ジーグの言葉で我に返ると街道の中央で金色の光を発するリュウを見て唖然とした表情になる。
そして両手を大きく開く様に伸ばすリュウの前に、これまでよりも遥かに巨大な門が空間から滲み出す様に現れる。
その光景に誰もが驚きの声を上げるのだが、そこへリュウが首だけを突っ込んで更に皆を驚かせる。
何故なら、皆の目にはリュウの首から先が消失している様に見えるからである。
「む……リュウよ、上手くいったか?」
「はい、大丈夫っすよ。目の前はネクトっす」
すぐにリュウの首が元に戻り、ジーグの問い掛けにリュウは笑顔で両腕を使って大きな丸を作って見せる。
「うむ。皆、よく聞くのだ。あの門はネクトへと繋がる転移門だ。心配は要らぬ。余もそれでここまで来たのだからな。直ちに皆、安心してあの門を潜るが良い」
「は。で、では、直ちに」
「うむ」
リュウのサインにジーグは頷くと、声を張り上げて説明を始めて皆を安心させ、転移を促された皆は魔王の言葉を信じ、三輌の荷馬車が横に並んでも余裕で通れる巨大な門を次々に潜り始める。
その時にはリュウはリーザ達の下へ戻り、リズやエンバと再会を喜び合いながら門を潜って行く荷馬車群を見送る。
「む……どうしたのだ奴は……」
「何がっすか? あ……」
そんな中、ジーグの困惑した様な呟きにリュウがその視線を辿って固まった。
荷馬車と共に門を潜る順番を待つ騎馬の中に、呆然自失という表現では生ぬるい屍と化したウルトが混じっていたからだ。
「あ、あれ、ウルト・ルースさんですよね? 次席行政官の……一体何が……」
「完全に目が死んでますねぇ……」
「ポキッと折れそう……」
「あはは……あれは、ちょっと可哀想ね……」
記憶とまるで別人の様なウルトにミルクが困惑のまま呟くと、ココアとアイスが素直な感想を呟いてリズを苦笑させる。
寡黙なエンバは黙ってはいるが、ウルトを見る目は辛そうだ。
「リーザさん、あの人、魂抜けてますよ? どうにか出来ないんすか?」
「え……いえ、あの……」
「リュウ様、無理ですよぉ……ルースさんに止めを刺したの姉さんですから」
「えっ!? マジで!?」
「「「ええっ!?」」」
思わずリュウが半笑いでリーザに対処を問うのだが、ウルトの様子に思いっきり心当たりの有るリーザは赤い顔で俯いてしまい、リズの衝撃発言にリュウはおろか三姉妹までもが目を丸くする。
「とっ、止めだなんて! 違うんです、リュウ様!」
「む? どういう事なのだ?」
「ええっとですね――」
すかさずリーザがリュウに弁明しようとしがみつくが、ジーグに問われたリズがこれまでの一部始終を先に明かしてしまう。
「それは何と言うか……お気の毒さま?」
「わっはっはっはっは! 愚か者め、良い薬だ。さ、我らも行くとしよう」
事情を聞いてリュウは苦笑いを溢すが、ジーグは愉快だと言わんばかりに豪快に笑い飛ばし、皆とネクトへと転移する。
「す、凄い……本当にハンナさんの宿の前だ……」
「リュウ様、凄いです!」
「あはは……ちょっと待ってくださいね……」
事前に聞かされていたにも拘らず、門を潜った先がハンナの宿の前の広場だった事にリズが驚き、リーザが感激するのを見て、少し照れた様に笑うリュウは二人に断りを入れると出て来た門に向き直って両手を大きく広げる。
すると門が透け始め、空間へ溶け込む様に消えてしまう。
「リュウ様、凄い力を手に入れられましたね……」
「いやぁ、まぁ……はは……」
「そうだよ、エンバぁ。リュウは星巡竜になったんだもん!」
「えっ!? 凄い!」
「で、では、リュウ様も竜の姿に?」
「あ~、いや……それは無理なんですけどね……えっと……」
それを傍で見ていたエンバに素直に感嘆されてリュウが照れるのだが、アイスの発言でリュウは照れる暇も無く、質問攻めにされていく。
「ま、魔王様!? こ、これは一体……」
「む、町長のマレイ・ジェバであるな?」
「はっ! 左様にございます!」
一方、突然現れた荷馬車群に驚く者から知らせを受けてやって来たジェバ町長は広場の一角に魔王の姿を見て恐る恐る声を掛け、その威厳に思わず共に来た者達と平伏する。
「司法官のロトから話は聞いておるだろうが、ちと事情が変わってな……」
「はい……」
魔王直々のお出ましとあって、ジェバはやはり裁きの時が来たのだと覚悟する。
先日に主席司法官であるデルク・ロトの訪問を受けた際は、リュウの働き掛けによって闇の獣に加担した事を一切口外しない条件で不問に付すという話だったが、町長である自分は責任を問われるだろうと思っていたのだ。
「リュウのお蔭で支援部隊の到着が早まってな。済まぬが、支援部隊の住居の割り当てが済み次第、行政官に従って作業に取り掛かってくれ」
「守護者殿が……あの、失礼ながら……町長である私の裁きは……」
だが魔王はジェバの責任について言及せず、ジェバは困惑のままに処分を問う。
「ぬ? 司法官からの話は聞いておるのだろう? 町長と言えど、罪は問わぬ……いや、復興を成し遂げて罪滅ぼしとせよ!」
「は、ははあっ! では、直ちに!」
それを怪訝に思うジーグであったがジェバの心情を理解したのだろう、より一層威厳を増して令を下し、ジェバは身を打ち震わせてそれに応えようと動き出すのであった。
その後、ハンナとも再会したリュウは、魔都へ旅したメンバーにジーグとボス、そして見送りに来ていたジェバ町長とネクトの町の入口へ来ていた。
「守護者殿……いえ、リュウ様。司法官殿から話は伺いました。本当にありがとうございました」
「いえ……復興はこれからです。頑張って下さい」
「はい。一日たりとも無駄にはしません」
「あ~、いや……体を壊しちゃ元も子もありませんから、程々に……」
老人であるジェバ町長に何度も頭を下げられるリュウが、頭をガリガリと掻いて苦笑いを溢している。
「姉さん、たまには遊びに来るわね」
「何言ってるの、そんな暇無いでしょ。花嫁修業を怠ったら、エンバはともかく、支部長と奥さんが許してくれないわよ?」
「うっ……そ、それは……が、頑張るわ……」
「リーザさん、大丈夫です。俺が絶対に幸せにします」
「ダメよエンバ、甘やかしちゃ。でも……この子を……お願いね?」
「姉さん……」
その横ではお気楽そうなリズにリーザが姉らしく振舞っていたが、エンバの顔を見た途端に、たった一人の妹とのこれまでが思い起こされて涙声になってしまい、釣られて感極まったリズと互いに抱き締め合って泣いてしまう。
「大袈裟だなぁ……会いたくなったら、いつでも俺がチャチャッとゲートを繋いであげますって」
「ご主人様ぁ……」
「リュウよ、転移門は滅多な事では使わぬのではなかったのか?」
そんな二人にリュウが呑気に笑い掛け、ミルクが空気を読んでと言わんばかりに主人のベストを引っ張るが、ジーグは別の事が気になった様だ。
「え、いや、まぁ……身内は特例って事で……てか、転移門って言い方、堅苦しくないっすか?」
なのでリュウはポリポリと頬を掻いて苦笑いで誤魔化し、転移門という呼び方にクレームを付けて話の矛先を逸らそうとする。
「何を言う。目的地に瞬時に転移する門なのだから、適切ではないか。ただの門だなどと呼ぶのは安っぽくていかんぞ。かと言って、転移装置では仰々しかろう? よって、これからは転移門と呼ぶが良い」
「えっ、いや、そんな勝手に――」
「良いな?」
「はい……」
だがジーグはその呼び方が気に入っている様で強引に決定してしまい、リュウは大した代案も浮かばずに流されてしまい、まぁ、いいか……と気持ちを切り替えてオーグルト方面へ向けた転移門を創り出す。
「次はデルクと合流してオーグルトだな。ゾリスの驚く顔が二度も見られるな」
「あはは……んじゃ、行きましょうか。あれ、リーザさん行かないんです?」
ニヤリと笑うジーグにクスッと笑うリュウは、リーザがハンナの横で見送る側に居る事に首を傾げる。
「えっ? いえ、私はハンナさんのお手伝いを……」
元々そのつもりが無かったリーザが小さく驚き、言い訳しながら顔を赤くする。
リーザは口には出さなかったが、ハンナの手伝いの他にも、リュウの為の「帰るべき場所」を用意しようと空き家を二軒探す事で頭が一杯だったのだ。
何故二軒なのかと言うと、一軒はアイス達が不自由なく暮らせる大き目の家で、もう一軒はその近くでリュウと二人きりで過ごす為の小さな家だからだ。
リュウが居ない寂しさを、リーザは脳内をお花畑にする事で紛らわせて来たのであった。それはもう、ニマニマと。
「支部長さんに報告とかしなくて良いんですか?」
「そ、そうですわね……でも、ハンナさん一人じゃ……」
再びリュウに問われて口ごもるリーザ。
リュウの言う事は尤もだが、報告だけならリズでもエンバでも出来る。
しかしハンナ一人では、放っておいた宿屋の掃除だけでも大変だ。
支援部隊に若者が大勢居るとは言え、やはり自分が居なくては、とこれから先はいつでもリュウに会える安心感から、リーザはそんな風に思ってしまったのだ。
「行っておいでよ。どうせ一人じゃ大した事は出来やしないし、また直ぐに帰って来るんだろ? リュウ坊、ちゃんと返しに来ておくれよ? うちの大事な看板娘になるんだからねぇ」
そんなリーザの背中を、やれやれとハンナが明るく押してやる。
ハンナはリュウ達の手前、リーザがお姉さん振ろうと我慢するだろうと見越していたのだ。
「了解っす!」
「すみません、ハンナさん。じゃあ、行って来ます」
「バウッ」
「ん? ボスも来るか? まぁ、良いか。みんなを驚かせてやろう」
「バウッ!」
そうしてハンナとジェバ町長に見送られ、リーザを加えたリュウ達八人とボスは転移門を潜るのであった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
あと1話の予定なのですが、全然自信が無い…。
なので話数が伸びても、生暖かい目で見守って下さい…(汗)




