49 怨念退治
ノリノリで書いていたら長くなってしまった…。
スマホ読者の皆さま、ごめんなさい。
後悔はしてないけどなっ(笑)
南部解放同盟の強引な解散劇からおよそ二時間、ザムザが待機していた岩場周辺には、グラン達によって救出された人質九十六名と南部解放同盟の六百七十二名、物資を満載した荷馬車二十四輌が集められていた。
分けられているとは言え、人質とそれを攫った組織が一所で座っている訳だが、その場は人質の大半を占めている子供達の笑い声で溢れている。
それは子供達が怯えない様にとリュウが面白おかしい話を男の子達に、ミルクとココアが消耗品用金属で女の子達に可愛らしいアクセサリーをプレゼントしつつ、人工細胞製の色鮮やかな蝶を飛び回らせているからであった。
そんな様子を、やはり人質であった各集落の代表である年配の男達八名が口元に笑みを浮かべて眺めている。
何故リュウがそんな事をしているのかと言うと、ガゼリを治す為にアイスの下へ飛んで来たリュウは、その翼のせいで子供達に怖がられてしまったからである。
そうでなくとも大人しく座っているとは言え、自分達を捕えていた男達が近くに居て子供達は不安そうに小さく身を寄せ合っていたのだ。
リュウが周りの目など気にもせず、全力で子供達に面白いお兄ちゃんアピールを始めたのは言うまでも無く、ミルクとココアがすかさずフォローに回ったのだ。
「せ、星巡竜様、全員の退去と物資の搬出が終わりました……」
「お、ご苦労様。よっし、みんな注目~!」
ノルバの報告を受けて、リュウは子供達との会話を中断し、右手を上げて子供達全員に呼び掛ける。
ノルバが報告を終えて、静かに同盟員の先頭で座るガゼリの横へと腰を下ろす。
ガゼリはアイスの下へ運ばれて目を覚まし、全身の痛みを癒されて驚愕しつつもアイスに感謝を述べ、それ以来憑き物が落ちたかの様に大人しく座っている。
「みんなこれから無事に家に帰るんだけどさ、さっきまで捕まってたろ? なんで捕まってたか分かるか?」
「え~っと……」
「分かんない……」
「みんなに言う事を聞かせる為……かな……」
「お! 正解!」
リュウの問い掛けに小さい子供達が首を捻る中、十歳くらいの少年がおずおずと答え、リュウに笑顔を向けられて嬉しそうにはにかんでいる。
「じゃあさ、あのおじさん達は何でいう事を聞かせようとしたか分かる?」
「悪い人だから!」
「あくにんだから!」
「あっはっは、ブブー! ちょっと違う!」
「え~、分かんない!」
「答えは、みんなが言う事を聞いてくれないから! でした!」
「え~、なんだぁ……」
「そっか~……」
更に問い掛けを続けるリュウが、子供達のストレートな答えに吹き出しつつも、正解を教えてやると、子供達は色々な反応を見せながらもリュウの次の問い掛けを待っている。
悪人呼ばわりされた同盟の連中が、ばつが悪そうに眼を伏せている。
「今さ、このおじさん達を悪い人って言った子が居るけど、みんなはどう思う?」
「悪い人だと思う~!」
「「思う~!」」
「お母さんが言ってたもん!」
「お芋とか取って行くもん!」
「そっか~。でもさ~、みんなの父ちゃんや母ちゃんはさ、生活が苦しい、とか、もっと良い暮らしがしたい、とか言ってるんだろ?」
「うん、いつも言ってるよ!」
「「言ってる~!」」
「このおじさん達は、そんなみんなの生活をもっと良くしようっていう人達なんだぞ?」
「「「え~?」」」
「「嘘だ~!」」
そうして子供達とやり取りを続けるリュウが一転、同盟の連中を擁護する発言をすると、子供達に一斉に不満そうな声を上げられて苦笑いを溢す。
これには一連のやり取りを聞いていたアイスとココアも目をまん丸にしており、同盟の連中も「えっ!?」と思わず驚いた様に顔を上げている。
そんな中、ミルクとグラン、人質だった集落代表の何名かは、リュウに何らかの思惑があるのだろう、と興味深そうな目をリュウに向けている。
「はいはい、静かに~! 実はさ、みんなの父ちゃんや母ちゃんと、このおじさん達が考えている事の根っこは、今よりも良い暮らしがしたいって事で一緒なんだ。けどさ、どう見てもやってる事は全然違うだろ? 何でそうなったかって言うと、みんなの父ちゃんと母ちゃんは、良い暮らしが出来る日が来るのを信じて我慢して頑張っていこう、って考えなんだ。でも、このおじさん達は我慢してじっと耐えるなんていつになるか分からないから、この国の偉い人達と戦って勝って、自分達にもっと良い暮らしが出来る様に訴えようとしてるんだよ」
リュウの言葉に子供達は「へぇ~」とか「そうなのー?」とか反応は様々だが、誰もが幼いなりに色々と考えている様子だ。
そしてリュウが話し始めると、子供達は会話を止めてリュウを見上げる。
「でもさ、戦って勝つって凄く難しいんだよ。相手も負けたくないから必死に抵抗するだろ? それに戦えば怪我もするし、死ぬ事だってある。みんなの父ちゃんや母ちゃんは良い暮らしはしたいけど、自分達の家族や友人が死んだりして欲しくは無いから、戦う事に反対なんだよ。でもこのおじさん達は、みんなの為に自分達は死んでも良いから、戦って勝とうとしてたんだよ」
「え~、そんなのダメだよー!」
「うん、死んじゃダメー!」
子供達に分かり易く話す為に、リュウは敢えて同盟の連中を方法は違えども良い人達として位置付ける。
最年長でも十歳くらいの子供達はそんなリュウの話を素直に受け止めた様子で、リュウの意図が分からずに困惑した表情を浮かべる同盟の男達の中には、子供達の声に目頭を押さえている者も居る。
「なー、そんなのダメだよな? 折角戦いに勝っても自分が死んじゃったら、他の人は悲しいもんな? なのに、おじさん達はそれがいつの間にか分からなくなってしまったんだよ。何故だか分かる?」
「えー、分かんない……」
「どうしてー?」
子供達に同意して見せ、すっかり子供達の心を掴むリュウの新たな問い掛けに、答えられない子供達が食いつく様に答えを求めている。
これには周りの大人達も、より興味深そうにリュウの答えを待っている様だ。
「みんなは怨念って知ってる?」
「おんねん? それってなーに?」
「あ、知ってる! 人を恨んで死んだら怨念になるってお爺ちゃんが言ってた!」
「お! そうそう、それそれ。何かを強く恨む気持ちを怨念って言うんだけどさ、別に死んでなくっても、何かを恨めば怨念って生まれてしまうんだよ」
「え~……」
「何か怖い……」
なのにリュウの話が突拍子も無い方向へ向かい、興味津々な子供達はともかく、大人達は肩透かしを食った様な表情になっている。
「この怨念ってのは凄く怖くて厄介な奴なんだ。何が怖いって言うと、怨念は人に乗り移るんだ。乗り移られた人はその恨みを晴らす為なら何でもする様に変わってしまうんだ。そして厄介なのは、怨念はどんどん集まって強くなっていくんだよ。特に暗くてじめじめした所が大好きで、そこにやって来た人を一人、また一人って乗り移って、恨みを晴らす為に戦え、殺せ、って囁くんだよ」
「「「えええ~……」」」
急に声潜めて怨念について子供達へ説明するリュウに、その考えが読めたのか、ミルクとグランも小さく頷いて同調した事で、話を信じた子供達が身を寄せ合って怖がっているが、周りの大人達は呆気に取られた様な表情だ。
ココアもミルク達同様に主人の狙いが分かった様だが、アイスにしがみつかれて苦笑いを溢している。
「じゃ、じゃあ……おじさん達は……」
「気付いたか? そう……おじさん達は、あの薄暗いアジトにずっと居たよな? あそこは昼でも中は暗くてじめじめしてただろ? あそこは大昔から大量の怨念の棲み処だったんだ。だから、おじさん達はみんなから食べ物を奪ってでも、恨みを晴らす為に戦おうとしてたんだよ……」
「「「――ッ」」」
そんなリュウの話が何を意味するのかに気付いた年長の少年の呟きに、リュウが真剣な表情で話の核心を披露すると、子供達は怯えた様に息を呑んだ。
無論、これらはリュウが即興で考えた作り話である。
リュウはアジトを退去して集まった男達に救出された子供達が怯える姿を見て、これ以上子供達が怯えない様に、そして組織を解散した男達がそれぞれの集落へと戻った際にも子供達が必要以上に怖がらない様に、と知恵を絞ったのだ。
その甲斐有って子供達の反応に満足そうなリュウだが、もう一手間残っている。
それは、怯える子供達の不安を払ってやる事だ。ド派手に。
「でも、もう心配は要らないぞ? 今はみんな明るい外に出て来たからな。怨念はあの丘の中で悔しそうに人が来るのを待ってるんだ。けど、それももう終わりだ。今から俺があの棲み処ごと、怨念を退治するからな!」
「「「ほんと!?」」」
「「「やったー!」」」
今までとは打って変わって表情明るく怨念の退治を宣言するリュウに、子供達の表情も驚きから笑顔へと変わる。
それを見てリュウは一旦収納していた翼を展開、「いいか、見てろよ~!」との声と共に上空へと飛翔して、頭に描いたイメージを脳内ツールに落とし込む。
するとリュウの右腕に集まる人工細胞が形状を変化させ、肘から先がゴテゴテとした何やら派手で長い大砲になった。
子供達、特に男の子達の「すげー!」「格好いい!」の声にリュウの口元が緩みそうになるが、リュウは慌てて脳内通信でミルクに話し掛ける。
『ミルク、頼みが有る!』
『えっ!? な、何でしょうか……』
突然の主人からの呼び掛けに驚いたミルクが、まだ怒ってますアピールも忘れて思わず何事かと答えてしまう。
『音声担当してくれ!』
『はぁっ!?』
そして主人の突拍子も無い要望に、脳内通信なのに声が裏返ってしまうミルク。
『俺、まだその辺勉強してねーんだよ。子供達の為に頼む! 読み上げリスト用意すっから!』
子供達を待たせる訳にはいかないと焦るリュウは、そんなミルクの心情には頓着せずに、言いたい事だけ言うと脳内ツール内に読み上げテキストを用意する。
肝心な音声機能は使えないのに、こういう所は妙に手際が良い主人の調子良さに呆れるミルクであるが、子供達の為と言われて仕方なくテキストに目を通す。
『べ、別に良いですけど……何ですかエネルギー充填百二十パーセントって……百パーセントを超えた分は漏れちゃうじゃ――』
『い、良いんだよ、それで! 百二十パーセントは男のロマンなんだよ!』
『意味が分かりません!』
『良いんだって、意味は! そんな事より、タイミング良く頼むぞ!』
『わ、分かりましたよぉ……もう……』
困惑しつつも応じるミルクの冷ややかな指摘にリュウが赤い顔で言い訳しているが、上空なので子供達にはリュウの顔色は分からない。
そうしてこれ以上変な間を空けたくないリュウの強引さに負けて、ミルクが渋々了解するや否や、リュウは子供達へと声を張り上げる。
「よっし、みんな~! 今から怨念を退治すっぞー!」
子供達の「おー!」とか「はーい!」と言う元気の良い声を耳に、リュウはぶら下げていた大砲を右肘を曲げて持ち上げ、大砲上部の取っ手を左手で握り締めて、発射体制に入る。
同時に大砲がヒュゥゥゥンと唸り始め、大砲中央の砲身外周部が回転を始める。
勿論、これらは実際の竜力発射に何の関係も無い、ただの飾りである。
では何故わざわざ作動させるのか、格好良いからだ!
テキストに書かれた通りに作動音を鳴らしているミルクの顔が赤い……。
「エネルギー充填、二十パーセント」
テキストを読み上げるミルクの外部音声が大砲から流れ、大砲下部に用意された六枚並んだパネルの最後部が明るく輝く。
興奮する子供達の声に混ざり、何人かの大人も「おお……」と声を上げている。
しかしココアとグランに見つめられるミルクの顔は更に赤い。
「エネルギー充填、四十パーセント」
二枚目のパネルが輝いて、大砲外周部の回転が唸りを上げて加速している。
ミルクの羞恥心も加速して、ココアとグランに背を向けている。
その後も健気にテキストを読み上げ続けるミルクに、リュウはニンマリ大満足、唸りを上げて輝きを増す大砲には、子供達だけでなく大人達までもが興奮している様子である。
「エ、エネルギー充填、百二十パーセント!」
キィィィンと唸る大砲のパネルが全て輝いて、眩い光に子供達の興奮は最高潮、大人達も手に汗を握っている。
男のロマンなるものが理解出来ないミルクがちょっと言葉に詰まったが、お蔭で誰も気付いた様子は無く、しかも上空を見上げている為、真っ赤な顔も見られてはいない。
「よっしゃぁぁぁっ! 行くぞぉぉぉっ! 竜力砲、発射ぁぁぁっ!」
そうしてリュウが上空で叫びながら、目標である南部解放同盟のアジトに向けて心のトリガーを引く。
想定通りの演出だったとは言え、実際に体験するのは大いに心をくすぐられたのだろう、ノリノリのリュウの瞳はキラキラ、口元はニマニマである。
演出の派手な発射音と共に、大砲から目標点に光の玉が一瞬で着弾するが、その眩さ故に、人々の目には一条の光が小高い丘に突き刺さったかの様に映る。
それはリュウも同様で、思わずうっとりしかけて慌てて最後の演出である、脳内スイッチをポチッとする。
すると即座に大砲後部外側から、いかにも排熱してます的な蒸気がブシューっと放出され、リュウは一人満面の笑みを浮かべ……口元を引き攣らせて固まった。
想定よりも竜力の威力が強過ぎたのである。
人々の目に、丘を飲み込む巨大な火柱が映っている。
ザムザが目にしたものよりも、遥かに巨大な火柱が。
その火柱の中で大地はめくれ上がり、噴き上げられ、分解されて消えて行く。
「ア、アイス様! 万が一に備えて障壁を!」
「ひぅ……ま、守れるかな……アイス、自信無いよぉ……」
誰もが絶句する中、グランに促されるアイスが声を震わせながらも何とか障壁を展開させる。
その場に居る八百名程を光の幕が包み込むが、火柱と比較すると非常に小さくて頼りなく見えてしまう。
『ご、ご主人様! これ、本当に大丈夫なんですか!?』
『だ、大丈夫のはずだ……た、多分……』
『多分!?』
『いや、だ、大丈夫だ! ちゃんと範囲は限定したから! ただ、ちょっと威力の加減を間違えただけで……多分、もうすぐ終わるはずだから!』
上空ではリュウがミルクに詰問されて、目の前の光景にダラダラと冷や汗を流しながら言い訳している。
確かにリュウは効果範囲を限定しており、火柱はその範囲内で荒れ狂っている。
ただ、想定では丘を炎で包む程度のものだったのだが、範囲が広すぎた為に少し竜力を増してみたところ、現在進行形で地形が変わっているのでリュウも言い訳に自信が持てないでいるのだった。
しかし想定外だったのは威力だけだった様で、やがて火柱は急速に勢いを失って完全に消失してしまった。
一先ずほっと胸を撫で下ろすリュウであるが、丘は見事なクレーターへ変わってしまっており、リュウは頬を引き攣らせながら子供達に何て言おうか頭をフル回転させて地上へと向かう。
「ほい、退治完了! これでもう、怨念は完全に消滅したからな!」
「「「わー!」」」
「「凄ーい!」」
「「「おおお……」」」
「「格好良い~!」」
全ては想定の範囲内、という姿勢をもって子供達に笑い掛けながらリュウが解除スイッチを入れると、大砲が各パーツごとに寄木細工の様な複雑なスライドを繰り返しながら、先端から後方へと畳まれてリュウの腕へと溶け込んでいく。
その様を間近で見る子供達は、今見たばかりの恐ろしい光景を忘れたかの様に、キラキラした目でリュウの腕を見つめて興奮の声を上げ、大人の中にも思わず声を上げている者がいる。
「リュウ様!」
「おわっ!? っと、何です?」
そこへ突然背後から声が掛かり、リュウが驚いて振り向くと、正座するノルバが両手を地に付けて身を乗り出す様にしてリュウを見上げていた。
見ればノルバだけでなく、同盟の男達全員がノルバ同様に正座している。
「お、怨念の永き呪縛から解き放って頂き、有難うございます! 我らはようやく目が覚めました。今後一切、リュウ様のお手を煩わせる事の無い様、努力して参ります。これまでの数々の非礼、どうかご容赦頂きたく!」
ノルバが謝罪して頭を下げると、隣のガゼリも含め、男達が一斉に頭を下げた。
子供達の手前、作り話の怨念に話を合わせて気を利かせている様だが、リュウはノルバがそれを本当の理由にして楽に部族に戻る気かも、とジト目になりつつも、抜け目ねえなぁ、と口元をニヤケさせてしまう。
「乗ってくれたのは有難いけど、それをマジで理由にしないでくれよ?」
「も、勿論です! 我らは今回、族長に盾突いた身。相応の報いを受ける事は覚悟しております!」
「そっか。少しは肩身の狭い思いをするかもだけど、すぐにそんな事を気にしてる暇なんか無くなる程忙しくなる予定だから、それまでの辛抱だ。血生臭い未来よりあの子達の笑顔の為に頑張ってくれ」
「ははあっ!」
一応リュウが釘を刺すと、ノルバも処罰は覚悟している様で、リュウはこれなら大丈夫だろう、と言葉少なに話を纏めた。
ただ、少々ラストが気障っぽく、自分らしくない感じがして、ポリポリ鼻の頭を掻いてノルバ達に背を向けてしまう。
そんな照れを見せるリュウに、ミルク達や人質だった各集落の代表達が、優しく微笑んでいる。
どうやらリュウの生来の優しさを垣間見て、ミルクは意地を張るのを止めた様である。
「えーっと……ここから先は、皆さんにお任せしても良いっすか?」
「勿論ですとも。子供達は、我々が責任を持って送り届けます」
「よろしくお願いします」
集落代表の一人に後の事を頼むリュウは、快諾を得てぺこりと頭を下げる。
そんなリュウに子供達が「もう行っちゃうの?」と目敏く集まって来る。
「悪いな、族長さん達に報告したり、やる事がまだまだ一杯あるんだよ。必ずまた会いに来るからさ。そうだ、お別れの挨拶の代わりに凄いものを見せてやるよ」
子供達に困り顔で事情を説明するリュウであったが、ふと思い付きを口にするとアイスの下へ歩み寄る。
リュウと小声で話すアイスの顔が少々赤いが、アイスがこくりと頷くとリュウはミルク達三姉弟を呼んで何やら話し合い、笑顔で子供達の下へ戻る。
「お待たせ~。今から本物の竜を見せてやるぞ~!」
「りゅう? りゅうって何?」
「りゅうってお兄ちゃんの名前でしょ?」
「確かに俺の名前はリュウだけど、今言ってるのは人間なんかよりもずっと大きい竜って言う生き物の事だぞ?」
「えー、見たい!」
「「「見たい! 見たい!」」」
「よし。んじゃ、あのお姉ちゃんに注目~! あのお姉ちゃんが、今から竜に変身しまーす! びっくりして泣いたりすんなよ~!」
「え~、嘘だ~」
「ほんとに~?」
リュウが子供達に最初から種を明かすのは、子供達が幼い為に泣いたりしないか心配だったからだが、アイスが竜に変身すると聞かされた子供達はかえって嘘だと思った様で、けらけらと笑い合っている。
しかしリュウの合図を受けたアイスが眩い光を放ち始めると、子供達はおろか、大人達までもがごくりと息を呑んで拡大していく光に目を奪われてしまっていた。
そして光の中から巨大な純白の竜が現れ、誰もがあんぐりと口を開けてしまう。
「ほ~ら、嘘じゃなかったろ? 大きいけど、元はさっきのお姉ちゃんだからな。とっても優しいから怖くないぞ~。どうだ、真っ白で綺麗だろ!」
「うん、綺麗!」
「「「綺麗! 綺麗!」」」
すかさずリュウがフォローを入れ、子供達は説明に安心したのかリュウの言葉を繰り返す。
子供の連呼機能というものは、どんなに世界が違っても共通の様である。
その連呼に照れたのだろう、竜化したアイスの顔が赤い。
「よっし。じゃあ、また来るからな! みんな良い子にしてろよ~!」
リュウがそう言って、子供達の返事を待たずに飛翔する。
「では皆さん、ご主人様のお気持ちを無駄にせぬ様、お願いします」
「は、はい!」
「みんな~、また会おうね~!」
「元気でね~!」
「では、皆様。失礼致します」
続いてミルクがノルバ達に、ココアとアイスが子供達に、グランは集落代表達にそれぞれ声を掛けて翼を展開し、リュウを追って空を翔け上る。
そうして上空で集まったリュウ達は、アイスを中心にして子供達の歓声を耳に、北へ向けて翼を打つのだった。
いつも感想を下さる方々には本当に感謝しております。
ですが、他の方々はどういう感想を抱いておられるのか…
いつも気になる紬なのです。
よろしければ忌憚のない声をお聞かせ下さい。m(_ _)m




