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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第四章
169/227

38 明日からの為に

 リュウ達が去っても三人の長は、しばしそのまま動こうとはしなかった。


「一族の未来……か……」


 そんな中、アルマンドの口から漏れ出た言葉に、シャザとバルウがぴくりと顔を上げる。


「一族の恨みをどうやって晴らすか、そんな事ばかりを考えていた……我らに自由など訪れず、やがては解放民もろとも淘汰されるものだと……だからこそ、恨みを晴らすまでは死ねぬ……そう思って生きて来たのだがな……」


 虚空を見て呟くアルマンドを、シャザとバルウがじっと見つめている。

 バルウは相変わらずの無表情、シャザは眉間に皺を寄せてはいるが怒りは無く、二人共ただ無言でアルマンドの次の言葉を待っている。


「思えば、一族の未来など考えた事は無かった……囚われの身である限り、そんなものは来ない、ただ無為に日々を過ごすだけだと……そう思い込んでいた。だが、そうではなかった。あのお方が我らを解放して下さる……ならば我らは、その恩に対しては心から応えねばならぬであろう……」

「馬鹿な! 恨みを忘れると言うのか!」


 だがアルマンドの語る最後の言葉にシャザは一瞬驚き、憤怒の形相で吠えた。


「そうではない。先ずは一族の未来を考える、という事だ。解放されたとて貧しいままでは意味が無い、とバルウも言っておっただろう。だから先ずは一族の自由と生活の保障を約束させる。解放された後に差別などされては敵わんからな……それからでも恨みを晴らすのは遅くなかろう……」

「そういう事か……ふん、ならば万全の態勢を整える事も出来る……悪くない」


 そんなシャザには慣れているのか、アルマンドは物静かな態度を崩さない。

 そしてその内容を聞いてシャザも納得したのか、不敵な笑みを口元に浮かべた。

 すると今度はアルマンドがシャザに問い掛ける。


「シャザよ、考えは変わらんのか?」

「当たり前だ。それさえ成れば、恨みなど勝手に晴れる」

「それはそうだが、一つ忘れていないか? 今度は世界が相手になるぞ? 一国を相手にするのとは訳が違うぞ……」

「くだらん。あんな戯れ言を信じるのか? あの若造は口が達者なだけの只の臆病者よ。何が星巡竜だ、この俺が化けの皮を剝がしてくれる!」

「こりゃあ、何を言っても無駄な様だのう……」

「いつもの事だ……」


 だがシャザはアルマンドの忠告に耳を貸そうともせず、逆に息巻く有様を見て、アルマンドとバルウは肩を(すく)めるのだった。










 一方、リュウ達はリゲルらと別れてキエヌ山の転移装置からマーベル王国にあるホープ鉱山の転移装置へと出て来たところであった。


「ぐっ……う~ん……」

「ご主人様っ!? どうされましたか?」

「リュウぅ、大丈夫ぅ?」


 転移装置から出るなりリュウが頭を押さえてよろけ、ミルクが咄嗟に支えて声を掛けると、アイスもミルクの反対側に回って心配そうに声を掛ける。


「う~……ちょっと頭痛が……もう収まってきたけど……」

「姉さま、チェックを」

「これと言って異常は……少し血流が速いですけど、許容範囲内かと……」


 自身でアイアンクローをする様に、右手でこめかみをぐりぐりしながらリュウが答えると、ココアに促されてミルクが人工細胞を巡らせて、主人の脳とその周辺をチェックするのだが、特に異常は見られずに困った様に眉を下げる。


「緊張から解放されたから、だろ……もう痛くないし、問題ないって。んな事より早く帰ってメシにしようぜ?」

「うん! 良かったぁ、頭痛が酷くなくて!」


 たかが頭痛くらいで、と苦笑いするリュウは、これ以上心配されない様に明るく振舞って、にこにこと腕にくっつくアイスをそのままに歩き出す。


「でもやっぱり心配ですぅ……ご主人様ぁ、今夜はココアと一緒に寝ましょうね?」

「「ずるい! ココア!」」


 しかし背後からのココアの甘ったるい声にアイスとミルクが即座にシンクロし、リュウはまた始まったか……とこめかみを再びぐりぐりする羽目に。


「ココアは、ご主人様が心配なだけですよぅ……」

「それならミルクの方がずっとチェック出来るじゃない!」

「ふ~ん、じゃあ姉さまが今夜のお相手を務めるのね?」

「ど、どうしてそうなるのよ!? ミ、ミルクは――」

「もう、からかっちゃダメだよココア~。リュウの頭が悪くなったらアイスがすぐ治すから、今夜はアイスが……ひびびびびっ!」

「人をアホみたいに言ってんじゃねーよ……」


 そうして始まったいつものやり取りにミルクが真っ赤になっていると、アイスが助けに入ってやるのだが、言い方の悪さにリュウに頬を掴まれる。

 しかしテンパってしまったアイスには、適切な言葉が浮かばなかった様で、


「違うよぅ……今は頭がアレだから……ひびびびびっ!」

「ぶふぅっ!」

「アイ……ス……様、酷……ぶふっ」

「余計に酷くするんじゃねーよ!」

「違うのぉ! えっと、ミ、ミルクもココアも笑ってないで助けるのぉ!」


 いつもの如く、(やかま)しく王城へ戻るリュウ達なのであった。










 王城へ戻ったリュウは、早速レオン達に事の顛末(てんまつ)を話して聞かせた。

 だが成果という程の物を得られなかった事もあって、しばらくは様子を見ながら訪問を重ねる他にないだろう、との結論にリュウも肩を竦めるしかないのだった。


「ご主人様ぁ、そろそろお休みの時間ですよぉ?」

「リュウ、今日は一日お疲れ様だったもんね。早く休も?」

「もう、そんな時間か……」


 夕食後、部屋で雑談しながらチョコとショコラと戯れていたリュウは、ココアの甘ったるい声にもうそんな時間なのかと思ったが、アイスに腕を取られてその後の展開をなんとなく予想する。


「えっと、アイス様? ココアが今夜は頭痛のチェックをするって――」

「そんなのダメ! だって昨日もココアだったでしょ?」

「そうでしたっけぇ?」

「とぼけたってダメなんだからね! 今夜はアイスが――」

「今日はどっちもダメだ」

「「えっ!?」」


 予想通りの展開に苦笑いを溢すリュウであったが、予想外のダメ出しにアイスとココアが驚いた様に声を詰まらせる。


「今夜はミルクって決めてんだよ。なー、ショコラ?」

「ミー!」


 そんな二人をよそにリュウがショコラを抱き上げて話し掛けると、同意するかの様にショコラが元気に返事する。

 そんな主人に目をまん丸にして驚くミルクの顔が、見る間に赤くなっていく。


「あああ、あのっ……あのっ……そそそそそ――」

「ミルク、落ち着け。明日も保護区へ行くからさ、今後の話の展開とか予想しときたいんだよ。あと、彼らの歴史のおさらいとかさ……」

「は、はい――」


 真っ赤になって狼狽えるミルクに苦笑するも、リュウがミルクを指名した理由を明かしてやるとミルクも納得できたのだろう、落ち着きを取り戻す。

 そして主人が真面目に責任を果たそうとしている事に感激し、口を開こうとして女教師ルックにチェンジしたココアに遮られる。


「それならココアにだって出来ますよ! ほら!」

「だからダメなんだよ! 何も頭に入って来ねえわ!」

「そんなぁぁぁ……」


 だが眼鏡をキラリと輝かせて息巻くココアの妖艶な姿が刺激するのは勉強意欲であるはずも無く、主人に怒鳴られてがっくりと項垂れる。


「ア、アイスはそんな事ないよ?」

「お前、ちゃんと彼らの歴史とかの話、聞いてたか?」

「え……えっとぉ……」

「ほらな。だからミルクなんだよ」

「あう……」


 そこへアイスが自分は違うと遠慮がちにアピールしてみるのだが、リュウの問い掛けに目を泳がせて呆れられてしまい、しょんぼりと肩を落とすのだった。


「そ、そういう事でしたら……」

「っつー訳だから。お前らも早く寝ろよ? おやすみ~」


 そうしてドアに向かうリュウは、アイスとココアに申し訳なさそうに寄って来るミルクを待って、自身の寝室へ去ってしまった。

 取り残された部屋の気まずさを感じ取ったのか、チョコとショコラがそそくさと自分達のベッドであるバスケットに潜り込み、ぴょこっと顔だけを出してアイスとココアの様子を伺っている。


「ココア……」

「はい、アイス様……」


 しーんと静かになった部屋でぽつりとアイスに顔も見ずに名を呼ばれたココアが力無く応じると、アイスはくるりとココアに向き合い、キッと眉を吊り上げる。


「ア、アイスもお勉強する!」

「えっ!?」

「アイスも役に立ちたいもん! だからお勉強する! ココア、協力して!」

「アイス様……分かりました! でも、ココアは厳しいですよ?」


 そうして発せられたアイスの言葉に驚くココアだったが、アイスの真剣な願いをココアはシャキッと姿勢を正して受け入れ、眼鏡に手を添えてキラリと輝かせるとアイスのやる気を確認する。


「が、頑張るもん! でも……アイスにはエッチい格好しなくて良いからね?」

「あっ……はいぃ……」


 そして両手に拳を作って応じるアイスに、にへっと服装を指摘されると、慌てて赤い顔で元の服装へとチェンジし直すココアなのであった。










「ん~、今の段階じゃこんなもんか……」

「そうですね。これ以上は相手の出方もある事ですし、想定しても無駄になる事の方が多い気がします」


 鈍り始めた思考にこれ以上はキリが無いとリュウが話を切り上げようとすると、ミルクも同意して天井とにらめっこする主人ににっこりと微笑む。

 リュウは一人ベッドに入っており、ミルクはその横で椅子に腰掛けているのだ。

 真面目な話をするには実に不謹慎なリュウの態度であるが、一緒にベッドの中で話そうと言われて盛大にパニクったミルクにしてみれば、こうして真面目に話しが出来ただけで大満足なのである。


「だな……後はまた向こうに行ってから……か。はぁ、まったく面倒な事になっちまったよなぁ……」

「でも奴隷制度に終止符が打たれ、誰もが平和で豊かな時代を歩む事になるんですから、頑張って下さい! ミルクも出来る限りサポートしますから!」


 明日からの事を思ってガリガリと頭を掻いてぼやく主人に、クスクスとミルクが笑いながら応援する。

 ぶーぶー言いながらも主人が真面目に問題に取り組んでいる事が、ミルクには何よりも嬉しいのだ。


「しゃーねーな。また頼むと思うけど……今度は膝枕くらいしてくれよ?」

「ひ、膝枕……だ、ダメですぅ……そんなの落ち着いて話せないですぅ……」


 ため息を吐きながらごろんと横を向いた主人にニィっと笑い掛けられ、ミルクは見る間にもじもじと赤くなる。

 とは言え、目の前の主人が頭を乗せている枕を自身の姿に超高速で置き換えて、手で覆う口元はニマニマと緩んでいたりするのだが。


「え~、してくれないのミルクだけだぞぉ?」

「えう……そ、そんな事言われましてもぉ……あう……あう……でで、できる様に頑張りますぅ……」


 そして主人の言葉で自分だけが膝枕をしていない事を知ると、直前に見た幸せな幻想を実現させたい、と照れながらも善処を口にして両手で赤い顔を覆ってしまうミルク。


「あの……ご主人様ぁ?」


 なのに主人からの応答が無く、ミルクが恐る恐る顔を上げてみると肝心の主人は既に夢の中に落ちており、ミルクはぷぅっと頬を膨らませる。

 だがそれも主人の寝顔を見る内に笑顔となり、ミルクは椅子を元の場所へ戻して主人の下へ歩み寄る。

 そして主人の顔を覗き込もうとしてハッと顔を上げ、各種センサーを室内に張り巡らせてココアの偵察糸が無い事を確認して胸を撫で下ろした。

 因みにココアはアイスの勉強に付き合っていたのだが、アイスがこくりこくりと舟を漕ぎだした為に、今は一つのベッドで仲良く一緒に眠ってしまっている。


「今日は一日お疲れさまでした、ご主人様ぁ。おやすみなさい……」


 再び主人の寝顔に顔を近づけたミルクは小声で労いの言葉を掛けると、赤い顔で主人の唇に自身の唇をそっと重ねる。

 それはほんの一瞬であったが、ミルクには精一杯だったのだろう、扉を出る前に深呼吸を繰り返して顔の火照りを鎮めると、静かに部屋を出て名残惜しそうに扉を静かに閉じるのであった。


長らくお待たせして済みません。

次回は早めにアップ出来る予定ですが、

なにぶん仕事が忙しい為、安定供給は

当分難しいかもしれません。m(_ _)m


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― 新着の感想 ―
[良い点] シャザが今後どうしようとしてるのか気になりますね。 勘違いミルクの赤面っぷりが可愛い過ぎました! 次も、あうあう…言うの期待しています!笑
[良い点] 仕方ないですね。 リュウの頭が悪くなるのは仕方ないですね。
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