30 コーザの王
窓の少ないひんやりとした城の一階を半ばまで進んだリュウ達は、そこから二階へと階段を上り、小さな控室に通されていた。
控室には窓が有り、明るい日差しが差し込んでいる為、肌寒さを感じる事も無く快適そのものであった。
「結構待たされるなぁ……」
二杯目のお茶に口を付けるリュウの呟きが、静かな室内に明瞭に響く。
レオン王子とボナト中佐の予定外の参加に、セッティングの変更が成されているのであろう。
「無理を言ったからな。だが、それに見合った土産は用意しているんだ。リュウ、後はお前次第だからな。頼んだぞ?」
だがその原因であるレオンは肩を竦めるのみで、会談が中止になるとは思ってもいない様で、十分程度待たされただけでため息を吐くリュウを不安そうに見る。
レオンもリュウが堅苦しい場を苦手としているのは知ってはいるが、あまりにもやる気が感じられなかったのだ。
「いやいや、向こう次第でしょ。気に入らなきゃ引き上げるだけっすよ」
「それでは困るから言ってるんだ。火種を残したままじゃ、安心出来ないだろ」
ニィっと笑って冗談めかすリュウの発言に、やれやれとジト目を向けるレオン。
「まーね……でも、貿易のテーブルに着かせるだけですからね? 交渉の行方まで責任持てませんよ?」
「……ミルク、ココア。二人からも、もう少しやる気を出す様に言ってくれ……」
しかしリュウはこれ以上責任を負いたくないとばかりの姿勢を崩さず、レオンは大きくため息を吐いてミルクとココアに援護を求める。
「大丈夫ですよ、レオン様。こう見えてもご主人様は、責任感は強いですから」
「責任感は、って何だよミルク……他は弱そうに聞こえるんだが……」
「あ、いえ……あう……」
そんな二人の様子をクスクスと笑っていたミルクがレオンにふんわりと微笑んで宥めるのだが、リュウにすかさず突っ込まれて否定しようとして目を泳がせる。
即座に主人をフォローしようとして、圧倒的な戦闘力や我の強さ、面倒臭がりで子供っぽくてエッチという検索結果に愕然として、慌てて再検索を繰り返しているのだ。
「ご主人様は強いですよぉ、責任感も、戦闘も、夜のベッ――」
「「ッ! ココアー!」」
なのでココアがミルクに代わって口を開くが、主人とミルクに速攻で怒鳴られてビクッと首を竦めた。
「だ、大丈夫だよ! リュウはずっとアイスの事、守ってくれたもん! 今回の事だって、きっとちゃんとしてくれるもん! ね?」
「そ、そうでしたね。アイス様のお言葉を信じますよ」
「うん!」
「ったく、テメーは……ヴォルフにすんぞ?」
「ごめんなさいぃぃぃ……」
慌ててアイスが頑張って場を取り繕うと、ちょっと顔の赤いレオンがほっと胸を撫で下ろす様に同意し、アイスの笑顔でどうにか場の空気が保たれる中、ジロリとリュウに睨まれたココアがしゅんと縮こまる。
これにはじっと黙って座っていたボナト中佐も苦笑いを溢している。
「ホントにもう……あ、時間の様ですよ。ご主人様」
「そっか。んじゃ、王様とご対面といきますか……」
そんなココアにため息を吐くミルクだったが、控室にやって来る衛士を偵察糸で確認して告げると、リュウも姿勢を正して案内人の到着に備えるのだった。
やや緊張した面持ちで会談の場に足を踏み入れたリュウは、城の外観からは想像できない程に華美な装飾品で彩られた部屋に少し驚いた様子だったが、そこで待つセザール政務官とロレック軍務官に挟まれる様にして待つ二人の人物に気付くと、困惑した表情で勧められるままに向かい合った。
一人は三十半ばにもなっていない様な美しい女性であり、もう一人はリュウより明らかに年下の少年だったのだ。
二人共華やかな衣装に身を包んでいる為、リュウはどちらが王なのか分からず、顔には出さないものの女王様と王子様なのか、それとも若い王様と……その母親は何て言うんだっけ、ひょっとして姉弟かも、などと考えていると、少年が前に出て口を開いた。
「ようこそおいで下さいました。お初にお目に掛かります、コーザ・アルマロンド連合王国代表オーベル・ルグゼイル・コーザです。そしてこちらは私の母であり、皇太后の……」
「サラ・ルグゼイルと申します……お、お目もじが叶い、光栄に存じます……」
緊張した様子で少年が自ら名乗り、その視線を受けて隣の女性も名乗るのだが、その様子は緊張と言うよりも怯えた様子であった。
その自己紹介によって、彼らが若い王とその皇太后である事が判明したが、それよりも皇太后の怯えた様子が気になるリュウ。
「アイシャンテ・エール・ヴォイドです。アイスと呼んで下さい……」
「リュウ・アモウです、初めまして。作法や言葉遣いの悪さはご容赦を……」
なのでアイスの自己紹介に続くリュウは、なるべく怖がられない様に笑顔で挨拶するのだが、二人は困惑混じりの笑みを浮かべるのみで、リュウは一体どんな説明したんだと言わんばかりのジト目をミルクに向ける。
「あの……私は星巡竜様に仕えております、ミルクと申します。これよりは私から紹介させて頂きます……」
主人のジト目がオーベル王とサラ皇太后の反応に起因している、と大体の察しがついたミルクが一歩前に出て頭を下げ、レオン王子とボナト中佐、最後にココアを紹介する。
続いてセザール政務官に促されて皆が会談のテーブルに着席するのだが、ボナト中佐だけは着席せず、皆の視線が彼に向けられる。
「会談を始められる前に、先ずは先日の謝罪をさせて頂きます。我々エルナダ軍は貴国での資源採掘の許可を得る為にエクト中佐を派遣しましたが、その後に彼から要請されたマーベル王国への侵攻は彼の独断で、我々が求めた物ではありません。司令官は彼の説得を試みましたが阻止には至らず、貴国に混乱を生じさせる結果となってしまった事をお詫び致します。今後この様な事が起こらぬ様、精進して参る所存であります。尚、エクト中佐が貴国と交わした約束は一旦白紙とさせて頂き、改めて確かな証人の下で再度結ばせて頂きたいと考えております」
ボナト中佐がこの場に居るのは、この謝罪の為であった。
ソートン大将以下の首脳部は造反が未然に防がれた事に安堵しつつも、この事で連合王国側が被った三万名もの無駄な出費を考えない訳にはいかなかったのだ。
そこでソートン大将は、レント国王らに軍事力を含めた各方面への人員の派遣を提案し、賠償金が発生した場合に援助して貰えないか相談していたのだった。
セザール政務官とロレック軍務官が、まさか謝罪が有るとは思わず目を丸くしている。
二人は内戦の鎮圧でエルナダ軍の圧倒的な強さを知っている。
そのエルナダ軍ですら敵わないという星巡竜が今回は共にやって来ており、自分達はその庇護を得ようとしているのだ。
当然、謝罪どころか挙兵の事実すら無かった事にされると諦めていたのだ。
「その件についてマーベル王国国王から、貴国が無駄にしてしまった物資が有るのならば援助する用意が有る、との言を頂いています。ですが私としては、貴国には先ず我が国との友好条約を締結して頂きたいと考えております」
「なっ……し、失礼しました……」
続くレオンの言葉には、セザール政務官が思わず言葉を発しかけて、慌てて謝罪する。
商人から各国の情報を仕入れている彼は、マーベル王国が安定した国力を有している事くらいは知っていた。
だが如何に自国に拠点を置かせているとは言え、エルナダ軍は他国の軍である。
まさかそんな軍の不始末まで面倒を見るとは思えなかったのだ。
「セザール……」
「はっ、失礼ついでによろしいでしょうか。エルナダ軍は貴国に拠点を置いているとは言え、他国の軍でありましょう。それを……貴国が?」
場を弁えて発言を控えたであろうセザール政務官の様子を察したのか、まだ若いなりにもオーベル国王が小さく頷いて続きを促し、セザール政務官は断りを入れてレオンに問い掛ける。
リュウがそんなオーベルの様子を、もし自分が同じ立場に立たされたら、こんなにも王らしく振舞えるだろうか、などと感心して見ている。
「はい。我々は星巡竜様の下で一つに纏まったのです。強大な力を有されていても星巡竜様は争いを好まず、平和な世を願っておいでです。であれば、如何に他国の軍であっても困っているのならば我々は助けます。それで貴国がエルナダ軍、延いては我が国に不満を抱かずに平和な時を享受できるのなら、それが最善だと思われませんか?」
「な、なるほど……良く分かりました。それで……その、私共は星巡竜様の庇護を受けられるのでしょうか……不敬を承知で申しますが、私共には、その……大した見返りなどは何も――」
一方、こっちは相変わらず王子としての振る舞いが板についている、とリュウが評するレオンは、泰然自若な雰囲気を崩さず実に堂々と返答し、セザール政務官は心の中で唸りつつも気になる本題について切り出すのだが、早々にリュウによって遮られる。
「あ~、ちょっと勘違いされては困るんですけど、俺達は見返りを求めてる訳じゃありませんし、何かを与える訳でもありませんよ? ただ星巡竜というあなた方にとって未知の存在を認めてもらい、友好的でいてくれるのなら、俺達もあなた方が困った時には何か力になれれば……という程度のものなんです……それが叶わないのであれば、あなた方が攻めて来ない限りは何もしない……ただそれだけの事なんです」
「攻めるだなんて、とんでもありません。私共は内乱に次ぐ内乱で国力が低下しております。たった一人で武芸者三百人を止められるお方に挑もうなどと思うはずがありません」
「そうです。先代の王が亡くなられ、オーベル様が跡をお継ぎになられましたが、簒奪を企てる者がこの国にはまだまだ残って居るのです。どうか私共にお力添えを頂きたく存じます」
リュウとしては、そんなに堅苦しく思われるのは困る、という程度のつもりでの発言であったが、最後の言葉にロレック軍務官が過敏に反応し、セザール政務官も縋る様に訴えて、二人は深々と頭を下げる。
「あ~、はい。ですがその前に、ちょっと国王陛下と二人で話をしたいんですが、席を外しても良いですか? そんなに時間は取らせませんので……」
「お、おい、リュウ……」
そんな二人の真剣さに苦笑いが漏れそうになるのを堪えて、リュウがポリポリと頬を掻きながらオーベル国王との二人きりでの話し合いを提案するのだが、それは初対面の、しかも一国の王に対するには常識外れにも程が有る行為であり、何とかレオンが声を発したものの、他はミルクとココアも含めて唖然とした表情となる。
もちろんリュウにもその自覚は十分に有るのだが、リュウはそれを以って自身がこの国と深く関わるか否かの判断材料にしようと考えたのであった。
「分かりました、リュウ様。丁度二人で話すには良い所が有りますので、そちらへ参りましょう。セザール、ロレック、一旦小休止としよう。しばし後を任せる」
「「はっ、陛下」」
妙に張り詰めてしまった空気をオーベルが笑みと共に穏やかな声で払い、緊張を解かれた皆の口から安堵のため息が漏れる中、セザール政務官とロレック軍務官が声を揃える。
「ではリュウ様、参りましょう」
「助かります。ミルク、後を頼むな?」
「はい、ご主人様……」
そして席を立ったオーベルに続くリュウは、皆に一礼するとミルクに後を任せてオーベルと共に部屋を出て行くのであった。
「ここならば誰も聞き耳を立てる事も出来ません」
「お~、これは良いな……開放的で」
リュウがオーベルに案内されたのは二階の屋上、三階のテラス部分であった。
城の周辺には背の高い建物が無い為、かなり広範囲が見渡せる様になっている。
「それでリュウ様、お話というのは?」
テラス中央に進み出たオーベルが振り向いてリュウに問い掛ける。
オーベルは少年らしい純粋な瞳でリュウを見つめている。
「うん。あ~、その前に……お互いに敬語とか使うの止めにしない? 実は俺さ、堅苦しいの苦手なんだよ……言葉遣いが気になって、思った事が言い難くてさ」
「はい、良いですよ。私もその方が本音を話して貰えていると思えますし」
「オーベルって呼んでも? 俺の事はリュウで良いからさ」
「構いませんよ。ではリュウさんってお呼びしますね、私はまだ十三歳ですから」
「十三なのかぁ……俺より三つも年下なのに、しっかりしてるなぁ……」
リュウがポリポリと鼻の頭を掻きながら注文を付けると、オーベルはあっさりと了解して笑顔を見せるが、しっかりとしたオーベルの受け答えに、リュウは自分の方が子供みたいじゃん、と少々恥ずかしくなる。
「いえ、セザール達に助けられてばかりです。父が……いえ、前国王があまりにも強く偉大でしたから、私の代で国が割れたりしないかと不安の毎日です……」
「そんな時に、また不安になる様な事になって悪いな……」
だがオーベルもリュウの言葉には顔を少し赤らめて、自身の未熟さを恥じる様に俯いてしまい、リュウは今回の一連の騒動について肩を竦めて謝った。
「いえ、そんな事はありません! エルナダ軍が来た時は正直不安でした。彼らは内乱を鎮圧してくれましたが、私達の手に負えなくなるところでした。そんな時、リュウさんが彼らを止めて下さったと聞いています。そんな方と誼を結ぶ事が叶うなら、これ程心強い事はありません」
「無理すんなって。大方、あの政務官と軍務官に強く勧められたんだろ? 大体、星巡竜なんて得体の知れない存在だもんな? 不安になって当然だって……」
するとオーベルは慌ててリュウをフォローしようとするのだが、そんな気遣いは無用とばかりにリュウは苦笑いを溢した。
リュウの脳裏には、対面時の彼らの不安に満ちた顔が思い出されていたのだ。
「いえ、実はそうでもないのです。確かにセザールとロレックに強く推された事は間違いありません。彼らがあんなに強く勧めて来るのは正直意外だったのですが、その話はとても魅力的でしたし、何より私はキエヌ聖国への物資徴収に心を痛めていると聞かされて、あなた達に会いたいと思ったのです」
そんなリュウに、オーベルは意外にも笑顔でしっかりと否定して見せる。
どうやらオーベルは対面する前から、リュウ達に対して好意的だった様である。
「そうなのか? で、でもお前の母ちゃん、凄く不安そうな顔してたぞ?」
「ぷふっ、あ、すみません。それは多分、別の意味での不安が顔に出たのでしょう」
「別の意味?」
オーベルの答えに拍子抜けするリュウがそんな訳が無いだろうと訝しむが、その言い様にオーベルは思わず吹き出しつつも不安の意味が違います、とリュウを困惑させる。
「はい。恥ずかしながら、私を害しようとする者が未だ多く居るのです。なので、母は星巡竜様の庇護を得られるのなら、私を守る様にお願いしたいと考えている様なのです。ですが、そんな図々しいお願いをして、もし不興を買ってしまったら、と悩んでいるとロレックが……」
「あ~、そういう事か……俺はまた、どんだけ怖がられているんだと……」
オーベルの説明を聞いて、安堵しつつも苦笑いを溢すリュウ。
「すみません、お気遣い頂いて……実を言いますと、私も母程ではないですが不安でした。気難しい方だったらどうしよう……とか。でも、それは杞憂でした。私がまだ子供だったから、こうしてわざわざ気を遣って下さったんでしょう?」
そんなリュウの様子にオーベルも苦笑いで本音を漏らすが、一転すると年相応の笑顔を見せ、真っ直ぐな瞳でリュウを見る。
オーベルの見透かす様な瞳に、ポリポリと頬を掻いてしまうリュウ。
「あ~、いや……こっちこそ杞憂だったよ。俺よりもしっかりしているもんな……いや、さすがは王様だよ」
「い、いえいえ。全然、まだまだです……」
参ったと言わんばかりに肘から先だけ両手を開いて上げるリュウに、オーベルは自然と笑みを浮かべるのだが、最後にリュウにニィっと笑い掛けられると、慌てて小さく手を振って赤い顔で俯いてしまう。
実際、今のオーベルに出来る事は少ない。
大抵の事はセザール政務官とロレック軍務官が迅速に処理してくれるからだ。
「それでさ、オーベルはこの国をどんな風にしたいと思ってる?」
「え……いえ、私にはまだそんな事は――」
「あ~、周りの大人の事とか気にしなくて良いんだ。ただ単純に、出来る出来ないとか考えずに、この国はこうあるべきだ、もっとこう出来たらなぁ、と考える事は無いのか? 王としてではなく、オーベル個人としての想いでも良いんだ」
「私個人の想い……」
自身の未熟さに赤面していたオーベルがリュウの問いに遠慮がちに口を開こうとするが、個人としての意見を問われていると分かると、小さく呟いてしばし考え込む。
命を狙われるオーベルは、城の周辺くらいしか外の世界を知らずに育った。
それでもそこで暮らす民を見て、また両親や家臣から色々な事を学んで、自国の抱える問題について自分なりに考えて来た事を思い出す。
「ゆ、裕福に……したいです……誰も争わなくて済む……豊かな国に……」
「争いが起こるのは貧しさが原因なのか?」
「それだけ……とは言えませんけど、一番の原因……だとは思います……」
「じゃあ、他には?」
「民族的な問題です。この国は多くの小国家の集まりで、北のコーザ王国と残りのアルマロンド連合国が長い戦いの末に合併して出来た国です。その中で名の消えた国は幾つも有りますが、人まで消えた訳ではありません。人々の中には、もう一度祖国を再興させようとする者も少なくないのです。ですがそれも、とどのつまりは貧困から逃れる為なのです……」
まるで叱られた子供みたいに、ぽつり、ぽつりと話し出したオーベルにリュウが問い掛けると、オーベルは次第に普段の調子へと戻り、すらすらと話し出す。
それはオーベルが周囲を考慮しない発言を控え、普段から国の問題に取り組んできたからに他ならない。
未熟を自覚しつつも、周囲の期待から逃げ出さずに王の責務を全うしようとする三つも年下の少年に、リュウは心底凄い奴だと感心する。
だが如何に彼が頑張ろうとも、彼の語った問題は容易には解決が難しい根が深いものであった。
因みにコーザ・アルマロンド連合王国は二代前のコーザ王国の王が国王となり、アルマロンド連合国の国王やその重鎮らは連合王国の要職に就いたのだが、自分達のみの安寧を図って他者を蔑ろにした、という理由で暗殺の憂き目に遭っている。
その後も旧アルマロンド連合国からの要職への登用は他者の妬みを買い、数々の問題を引き起こしたが、現在の旧アルマロンド連合国からの登用者であるロアン・セザールは、その実直で公平な人柄から反感を買う様な事態には至っていない。
「なるほど……貧困から逃れる戦いと、戦いによる貧困か……堂々巡りだな……」
「はい……ですが、何とかしたいとは思っても、何をどうすれば良いのか……」
そんな問題どうすんだよ、と思いつつも口には出さず肩を竦めるリュウに、再びオーベルも自信無さげに俯いてしまう。
普段なら「めんどくせえ」などと口にしてしまうリュウであるが、本当に困っている、しかも健気な年下の少年の前では自重が働いた様である。
リュウの頭の中にマスターコアを置いたままのミルクが、二人の会話を最初からこっそり聞いて、主人の意図はともかく、その言葉遣いなどに呆れていたのだが、投げやりな発言を自重した主人に驚きつつも感心し、どうして自分の時は自重してくれないのかとちょっぴり拗ねていたりする。
しかしミルクが実体を得て以来、リュウは頭の中のマスターコアを意識する事が希薄な為、そんな事をミルクに思われているとは気付きもしないのだった。
「そうだな……ま、それは今は良いさ。さて、聞きたい事は聞けたし、戻ろう」
「は、はい……そ、それで……我が国は庇護を受けられるのでしょうか……」
暗くなってしまった雰囲気を晴らす様に、リュウが明るくここでの会話の終了を告げると、オーベルがはっとして背を向けかけたリュウに不安そうに問い掛ける。
「それは……戻ってからにしよう」
するとリュウは動きを止めて何かを口にしかけるのだが、ニィっと口元を歪めて答えを保留し、今度こそ本当に来た道を戻り始めた。
「わ、分かりました……」
そんなリュウを呆気に取られた表情で見つめるオーベルは、辛うじて小声で返答するとゴクリと喉を鳴らし、すたすたと戻るリュウを急ぎ足で追うのであった。
またまたお待たせして申し訳ないです…。
ちょっと最近、適切な言葉が出て来ない病で…(汗)
精進しますm(_ _)m




