27 過ぎた好奇心
会議を終えて客室に戻るリュウは、客室の前で待っている二人の少女に気付いてその足を速めた。
「どうしたんです、サフィア王女」
「リュウ、お疲れ様! もう会議は済んだ?」
「はい、もう済みましたよ」
「じゃあ、これからはお家が完成するまでは、のんびりここに居るのよね?」
「あ~、ちょくちょく出掛けるとは思いますけど……一応は……」
待っていたのは第二王女のサフィアと侍女のエミルであった。
嬉しそうに次々と尋ねて来るサフィアの圧力に、リュウは若干引き気味になっているが、サフィアは気付いていない様だ。
「良かった! さ、エミル!」
「はい」
「?」
サフィアに促され、後ろに控えていたエミルがバスケットを抱えて前に出て来るのを見て、首を傾げるリュウ。
その光景を後ろで見ていたロダ少佐は、多分気付いてないだろうと思いながらもサフィアに小さく会釈して、ドクターゼムとグランと共に自分達の部屋へと入って行った。
「お戻りになられたのですから、お返ししなければと……」
「あ~、済みませんでした……ありがとうございます」
口元で人差し指を立てるエミルが小声で話し掛けつつバスケットの蓋を取ると、リュウは思わず笑顔になって小声で礼を言い、バスケットを受け取った。
バスケットの中には抱き合ってすやすや眠るチョコとショコラ。
横から覗き見るアイス達が、超小声で「きゃ~!」と叫んでいる。
「えっと、バスケットは後で返せば良いっすか?」
「いえいえ、チョコちゃんもショコラちゃんもそこがお気に入りなので、そのままベッドに使って下されば……」
「そうですか、では有難く……すぐにはみ出そうですけどねぇ……」
エミルに尋ねながら部屋に入るリュウは、二匹のこんな姿をいつまで見られるのだろうと苦笑いしつつ、ベッドの脇にバスケットをそっと置く。
エミルはそんなリュウの呟きに、クスクスと笑いながら台所へと向かった。
「ねえ、リュウ! 旅の話を聞かせて! 南はどんな所だったの?」
「あん? あ~、んな大して面白い話は無いっすよ?」
「嘘よ、お父様が凄く心配してたもの! リュウが止めてくれなければ、どれ程の被害が出るか分からないって! リュウが敵の軍隊を倒してくれたんでしょ?」
「そんな事はしてませんよぉ……てか王女、チョコとショコラが起きるから、もう少し小さい声で……」
「あ……じゃあ、小さい声で話すから聞かせて?」
「そうは言われてもなぁ……」
リュウがテーブルに腰掛けると、即座にその横に座って話し掛けるサフィア。
この数日サフィアは余程退屈だったのか、目をキラキラさせてリュウの話を聞きたがっているが、リュウにとってはあまり良い記憶が無い為か、少々面倒臭そうである。
アイス達はそんなリュウ達の様子を横目で見ながらも、バスケットで眠る二匹の姿に既にメロメロだ。
「おーい、森永ミルクココア。何か良いネタあったっけ?」
サフィアに聞かせる様な話なんて有ったかな、と思ったリュウはニィっと笑ってAI姉妹に問い掛ける。
「そっ――ッ! それは終わった設定のはずじゃ……」
「あー、そうだっけ……で、何か有る? アイスミルク」
「ア、アイスも!?」
主人の問い掛けに憤慨しかけるココアが、眠る二匹にハッと声を潜めてジト目を向けるが、リュウはさらっとスルーして、巻き込まれたアイスが目を丸くする。
「当たり前じゃん……てか、お前はアイスココアにアイスチョコ、アイスショコラと何でも使えて便利だよな!」
「え、えへへ……」
「何で嬉しそうなんですか、アイス様ぁ……」
「そうですよぉ、嫌じゃないんですかぁ?」
「え……そうかなぁ? 仲良しみたいかなぁって……」
「あ~……」
「アイス様らしいですねぇ……」
だがアイスはリュウの説明を聞いて照れた様に笑い、ココアとミルクはアイスの理由を聞いて苦笑いするのだった。
「サフィア様、そろそろ……」
「えっ、もうそんな時間? もっとお話聞きたかったのにぃ……」
「ほ、ほら、今度ヨーグルト持って来てあげるから……」
「ほんと! じゃあ、約束よ! 破ったら承知しないんだから!」
「分かった、分かりましたから! 約束しますって! ね?」
「絶対だからね!」
「へいへい……」
その後、ヨーグルトの話をした事で更にテンションが高くなっていたサフィアはエミルに促されて騒がしく客室を去って行った。
「うあ~、何かどっと疲れた……」
「お疲れ様でした、ご主人様ぁ」
背もたれにもたれ掛かって脱力する主人に、くすくすと笑いながら労いの言葉を掛けるミルク。
「サフィア王女もリュウの事が好きなのかなぁ……」
「勘弁してくれぇ……マジやべえから……退屈しのぎなだけだって……」
なのにアイスの呑気な発言に、リュウは背もたれから体を起こしてテーブルへと突っ伏し、情けない声で希望的観測を口にする。
どうやらリュウも、これ以上はさすがにマズいと思っている様だ。
「でも、さっきのサフィア様って、こんな感じでしたよ?」
そんなリュウに、テーブルの反対側からココアが両手を翳してプロジェクターを起動する。
するとそこには、つい先程までリュウにまとわり付いていたサフィアの姿が映し出される。
「ぶふぅっ」
「わあ! これどうなってるの? 可愛い~!」
「ぷふっ、コ、ココア! ご本人に見せちゃ……ダメ……だからね……」
そこには犬耳を生やしたサフィアが、同じく犬の尻尾をパタパタ振ってリュウにまとわりつく映像が映し出されていた。
サフィアの行動を犬っぽいと感じたココアが、記憶映像に犬耳と尻尾を後付けで合成した映像なのだが、知らない者が見ればサフィアを獣人だと思い込むレベルの出来の良さに、リュウとアイスだけでなくミルクも思わず笑ってしまい、プルプルしながらココアに注意している。
「これを見る限り、サフィア様は要注意ですよ、ご主人様!」
「いや、有り得ねえって。少なくとも俺にそんなつもりは欠片も無えよ……それに王族とか、めっちゃ堅苦しそうじゃん。何をするにも見張りが居そうだし……」
「そうですねぇ……ご主人様だと、すぐに息が詰まっちゃいそうです」
ミルクの注意を聞いているのか、サフィアの危険性を訴えるココアであったが、リュウが顔の前で手をパタパタと振って苦笑いすると、そんな主人にミルクがクスクスと笑う。
「そーゆー事。俺はお前達と楽しく過ごせりゃ、それで良いって」
「うふ……朝も昼も夜も、ず~っとラブラブしましょうねぇ、ご主人様ぁ!」
「ア、アイスもぉ!」
そしてリュウがミルクに頷いてニカッと笑うと、ココアがその右腕に飛び付いてアイスが負けじと左腕に抱き付いた。
その途端、両腕の柔らかい感触にリュウの顔がデレっと緩み、一人取り残されたミルクが憤慨する。
「ちょっ、ココア! アイス様も――」
「ほら、姉さまも!」
「へっ!?」
すかさずミルクがココアとアイスを注意しようとするが、逆にココアに呼び掛けられて目を丸くする。
ミルクは言い訳される事は想定していたが、まさか自分も勧められるとは思いもしなかったからだ。
「ちょっと出遅れたからって拗ねないの! ね?」
「ち、違っ! 拗ねてなんか――」
「いいの? ミルクぅ……リュウのお膝が空いてるよ?」
「えっ……お、お膝っ……あ……う……そ、そうじゃ……なくって……」
そしてココアにからかわれるミルクは、真面目に反論しようとした所でアイスの言葉にフリーズし、ゴクリと息を呑んで見る見る真っ赤になっていく。
ミルクは目の前の光景に、アイスの言わんとする光景をつい重ねて見てしまった様である。
「わぁ……すごく真っ赤……」
「想像力の豊かな奴だな……」
「ああ言うのを、むっつりスケベって言うんですよ……」
「ぶふうっ」
「ッ! む、むっつりって何よ! 違うわよっ、ココアの馬鹿ぁ!」
そんなミルクを見て感想を漏らすリュウ達だったが、ココアの言い様にリュウが吹き出し、ミルクが一層顔を赤くして憤慨する。
「ス、スケベは否定しないのか……くっくっく……あっはっはははは……」
「しますっ! 断固否定ですっ! ご主人様っ! 笑い過ぎですぅぅぅ!」
そして余計な一言を呟いて笑い出す主人に、眠るチョコとショコラの事も忘れてヒートアップするミルクなのであった。
「う~ん……やっぱ、連合王国から着手するしかないか……でもなぁ……」
夕食後、部屋に戻って来たリュウは、一人ぶつぶつ呟いていつもの様にベッドにどっかりと腰を下ろす。
レント国王が決定したとは言え、貿易のセッティングをするのは言い出しっぺのリュウなので、夕食を摂りながら皆とその段取りについて話し合っていたのだが、そこで出された結論がリュウには少々不満なのだ。
リュウとしては、リーザの待つ魔人族領、アデリア王国へ行きたかったのであるが、急を要する必要が無いアデリア王国と東のオーリス共和国は後に回して、先ず南のコーザ・アルマロンド連合王国とキエヌ聖国の実情を把握すべき、という至極当然の結論には納得したのだ。
だが、それらを皆に任せて自分だけアデリア王国へ行く案も、代表が不在なんてあり得ないと反対されてしまい、渋々了解してしまったのが不満の原因なのだ。
とは言え、リュウの頭の中はリーザと会いたいだけなので、リュウ自身強く反論出来ずに駄々をこねているだけなのだ。
「なぁ、ミルク――」
「ダメですぅ」
「まだ何も言ってねーだろ!?」
チョコと戯れるミルクに声を掛けようとしたリュウが、いきなりダメ出しされて目を丸くする。
「『御使いなんだから、役回りを代わってくれ』と言われる確率八十七パーセントですので……」
「うぐぅ……」
が、ミルクには既に見当が付いていた様で、がっくりと項垂れるリュウ。
「往生際が悪いですよぉ、ご主人様。さっきみんなで視察に行くって決まったじゃないですかぁ……」
「いや、みんなで行くんなら、俺一人くらい抜けたって良いじゃんか……」
そんな主人にココアが呆れ半分で宥めようと声を掛けるが、諦め悪く拗ねた様に口を尖らせる主人の姿に、肩を竦めてミルクを見る。
「ダメですよぉ。ご主人様は言い出しっぺで代表なんですから、一番抜けちゃダメですぅ!」
「ア、アイスもリュウが一緒の方が良いよぅ……」
「しょうがねえか……はぁ……風呂でも行って来よ……」
そして更なるミルクのダメ出しに加えてアイスにまで困った顔をされ、リュウは深いため息と共に、甘い夢を振り払いに浴室へ向かうのだった。
「お待ちしておりました、リュウ様。準備は出来ております」
「いつも済みません。ありがとうございます」
女官に恭しく頭を下げられ、リュウもぺこぺこと頭を下げて浴室へと入った。
リュウ達が城に厄介になった事で、普段使われていない客室は元より、来客用の浴室まで用意される様になったと聞いて、これでも恐縮しているリュウなのだ。
浴室は小さ目だが、入口にある脱衣所からして豪華であり、その奥は更に豪華な装飾が施された部屋の中央に大理石らしき浴槽が有る造りであり、これもリュウが恐縮してしまう理由の一つなのであった。
「ふい~、落ち着けないと思ってたけど……湯船に浸かると天国なんだよな……」
体を洗い終えて湯船に身を浸し、全身を弛緩させて呟くリュウ。
浴槽は浅いがリュウが十分に寝そべる事が出来るサイズと造りであり、リュウはしばし目を瞑って頭の中を空にする。
「シェリル、今……どなたか入っているの?」
「サフィア様……は、はい。今はリュウ様が……」
一方その頃、来客用の浴室の外では、浴室の番をしている女官のシェリルの下にサフィアが訪ねて来ていた。
「そ、そう……ご苦労様。ね、シェリル……お願いが有るんだけど……」
「は、はい……サフィア様……」
「私の事は絶対に内緒よ? シェリルは何も見なかった事にしてね?」
「え……そんなサフィア様……」
サフィアの言葉に怪訝そうな顔するシェリルは、続くサフィアの言葉でおおよそ見当が付いたのか、サフィアの大胆さに顔を赤らめて狼狽えた。
まだ若いシェリルにはサフィアの気持ちが分からなくもないのだが、もし問題になれば職を失う事になりかねないからだ。
「お願い! シェリルには絶対迷惑掛けないから! 私はここに居ない……ね?」
「は、はい……わ、私は何も……見ていません……」
「シェリル、ありがと……」
それでも王女に手を取ってお願いされてしまえば、それ以上シェリルには渋る事など出来ず、赤い顔でサフィアの行動を黙認してしまうのであった。
『ご主人様、今大丈夫ですかぁ?』
「んん? 何だよココア……」
『そちらに厄介な覗き魔が一匹居ますぅ……』
『あ~ん? ココア虫か?』
突然のココアからの通信に目を瞑ったままで応答するリュウは、覗き魔と聞いて怪訝な顔で自身も脳内通話へと切り替えた。
ミルクですら気付かなかったサフィアの行動を、ココアは何故気付く事が出来たのか……それは暇を持て余したココアが、主人に構って貰おうと偵察糸を浴室へと這わせた為である。
ただし、構って貰うだけなら今の様に通信するだけで良いはずなのに、偵察糸をわざわざ這わせたという事は、動機はサフィアと変わらない様である。
『ちっ、違いますよぉ! 何ですか虫って! サフィア様ですよぉ!』
「……マジで?」
自身を疑われた挙句、虫呼ばわりされたココアが自身を棚上げして憤慨しているが、リュウは覗き魔がサフィアだと聞かされ、思わず脳内通話を忘れて素で呟いてしまう。
『大マジですぅ! だから言ったじゃないですかぁ、サフィア様は要注意だって! で……どうします? ココアが排除に向かいましょうかぁ?』
『そうだなぁ……いや、こっちで対処するからいいわ……で、覗き魔はどこだ?』
言った通りでしょ、と困った声で言い募るココアが一転、サフィアの排除を申し出ると、リュウは少し考えてそれを断り、サフィアの居場所を尋ねた。
『お湯の受け渡し口に潜んでますぅ……』
『わ、分かった……』
ココアの返答に、リュウはちらりと右側に視線だけを走らせて通信を切る。
浴槽の右側の壁には、五十センチ四方の立方体を二つ並べた程度の腰掛けの様な出っ張りが有り、正面には引き戸が付いていた。
これは、浴槽で直接お湯を沸かす事が出来ないが為に、減ったお湯を足したり、温度調節をする際に、外で沸かしたお湯を受け渡しする為の設備なのだ。
お湯が冷めた場合にここから女官にお願いすると、裸を見られる事も無く、熱いお湯を受け取れる、という訳なのである。
これを初めて見た時、リュウは病院のトイレで見掛ける検尿カップ置き場を思い出して苦笑いしたのだが、入浴している間はずっと女官が外で待機しているのだと気付いて申し訳ない気持ちを抱いている。
だからこそ、そんな女官達には優しく接しようと思うリュウであったし、女官の苦労を台無しにしようとしているサフィアには、お仕置きせねばとニィっと口元を歪めるのだった。
「はぁ……しょうがねえな……」
大きくため息を吐いて、受け渡し口から死角になる浴槽の左側へ出たリュウは、そこに掛けてある大きなバスタオルを腰に巻き付け、素早く受け渡し口の傍へ歩み寄る。
そして受け渡し口から「ふひー、ふひー」という怪しげな呼吸音を確認すると、一気に引き戸を開け放った。
「ふひいっ!? あっ!? ままま、待って! 違うの! わ、私はただ――」
「ただ……何だ? この覗き魔め!」
「しっ、失礼ね! 覗いてた訳じゃっ……ない……のよ……」
突然の明るさに驚くサフィアは、逃げるより速くむんずと腕を掴まれてしまい、引きずり出されながらもリュウの言い様に憤慨するのだが、裸のリュウと向き合わされるとゴクリと息を呑みながら真っ赤になって、思わず目線を下げてしまう。
「何を期待してんだ……覗き王女……」
「のっ……ちっ、違うわっ! 私はただ、シェ、シェリルの代わりにお湯を――」
敬語を使う気すら失せたリュウの呆れた声に、真っ赤な顔で目を泳がせる冷や汗まみれのマーベル王国の第二王女。
「んで、お湯の代わりに私が温めますってか?」
「ばっ、馬鹿っ! い、いくら何でもそこまでは……痛っ! ちょっと、リュウ! 誤解なのよ! は、放してぇ! やめてったら!」
言い訳を遮るリュウの言葉に爆発しそうな程に真っ赤になる、なかなか想像力の豊かなサフィアであるが、抵抗も虚しく脱衣室へと引きずられて行くと、ぎゅっとタオルで両手を縛られてしまう。
そして浴室の扉がバーンと開かれると、腰にバスタオルを巻いただけのリュウがサフィアを肩に担いで廊下に出て来た。
「あ、あああ、あのっ……あ……ああ――」
浴室の騒々しさで、女官のシェリルは既にサフィアがバレた事に気付き、如何に言い訳すべきかを考えていたのだが、リュウの格好を見た途端に頭の中が真っ白になったらしく、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
「シェリルさんでしたっけ、落ち着いて下さい。覗き魔が一匹紛れ込んで居ただけですから。では……」
そんなシェリルにリュウはにっこり微笑むと、じたばた足掻くサフィアを物ともせずに、のしのしと廊下を歩き出す。
「覗き魔なんかじゃないったら! わ、私、王女なのよ!? シェリル、助けて! リュウ、お放しっ! お放しったら!」
「な~にが王女だ。それを言うなら、俺はちょっとだけ星巡竜なんだぞ?」
「う、嘘っ!? じゃあ、これからはリュウ様って呼ばなきゃいけないの!?」
「お前……余裕だな……」
「え? あ……放して! 降ろしてったら! お父様とお母様に叱られちゃう!」
「そんだけ騒げばそうなるな……」
「う……」
シェリルを置き去り、呆気に取られる親衛隊員達を尻目に、ぎゃいぎゃいと騒ぐサフィアを肩に五階の国王のプライベートルームを目指すリュウ。
何事かと集まって来る親衛隊員達もリュウの格好を見て薄々察しが付いたのか、おろおろと事の成り行きを見守る中、とうとうリュウは国王のプライベートルーム入口へと到着し、その扉の上部に飾られた豪華なレリーフの出っ張りにサフィアの両手を縛るタオルを引っ掛けた。
お蔭でサフィアは万歳した体勢で、扉の前に宙ぶらりんである。
因みに、リュウにサフィアの事を知らせたココアはと言うと、そのまま偵察糸でリュウ達を追い続け、部屋でプロジェクター映像に目を丸くするアイスとミルクの横で笑い転げている。
「ちょっと、リュウ!? ちゃんと降ろして! 誤解だって言ってるでしょ!」
「そうか。あくまでも白を切るつもりなんだな。ちょっと待ってろ。すみません、ちょっと今から言う事を紙に書いて下さい」
「は、はい……」
潜めた声で器用に叫ぶサフィアの言い分に、リュウは自分達を遠巻きに見守っている親衛隊員の下へ行き、一枚の紙を手に戻って来る。
そして扉にぶら下がるサフィアのドレスにブローチを見付けると、それを外して胸の中央へ紙と一緒に付け直す。
「ちょっ、やり過ぎだわ! いい加減、もう降ろして! 今なら許してあげるわ! って、リュウ!?」
「ま、し~っかり反省するこった……じゃあな、覗き王女。おやすみ」
自身の醜態に顔を真っ赤にして叫ぶサフィアだが、そこに反省の色が無い事からリュウはニヤリと笑うと、来た道をのしのしと戻って行ってしまう。
「な……ひ、酷い! リュウの馬鹿! 悪魔! お、お前達、何をぼーっと見てるのよ! 早く私を降ろしなさ――ッ!」
リュウが去って一瞬呆然とするサフィアだが、我に返るとリュウに悪態を吐き、おろおろしている親衛隊員を怒鳴りつけた。
だが扉がカチャリと音を立てた途端、サフィアはビクッと身震いし、その顔からサーッと血の気が失せてしまった。
「何を一体騒いでおるのだ? んん!? サフィアか?」
「お、お父……様……ごご、誤解なんです……わ、私は――ッ!」
「あなた……一体何事でしたの……!? サフィア!?」
「お母様っ……ちっ、違うんです! その……ひぃっ!?」
扉から出て来たレント国王がサフィアに気付いて固まり、震える唇で何とか弁解しようとするサフィアであったが、続いて出て来た母ロマリアの瞳から光が失せた事で、サフィアは引き攣った声と共に石の様に固まってしまった。
ロマリアが「私は殿方の浴室に忍び込んだ王女の名を騙る覗き魔です」と書かれている紙を見て、わなわなと震えている。
「ふむ……やれやれ……」
「あなたという子は、何とはしたない真似を……それで王女が務まりますか!」
「ゆ、許して下さい、お母様! そ、そんなつもりじゃ無かったんです! 絶対にもうしません! お母様、信じて下さい! お、お母様ぁぁぁ……」
大きくため息を吐いたレント国王がサフィアを扉から降ろすや否や、ロマリアに腕を掴まれて部屋へと引きずられて行くサフィア。
サフィアの胸から引き剥がした紙を眺めるレント国王の手が、プルプルと震えている。
徐々に遠ざかるサフィアの悲鳴じみた声に、親衛隊員達は非常に気まずそうだ。
「王女の名を騙る覗き魔……か……リュウめ……ふっふっふ……わっはっはっは」
突然の国王の笑い声に、親衛隊員達が目を見開いて顔を見合わせた。
長年にわたって親衛隊を務める者も、大笑いする国王の姿を見たことが無かったからである。
それはレント国王自身、十代の半ば頃から久しく忘れていた感覚であった。
しかしリュウと出会って以来、次々と目の当たりにする心躍る出来事に、レント国王の心はずっとこの時を待っていたのかも知れない。
もう随分と光を落とした城内に、国王の笑い声が高らかに響いている。
やがてパタンと扉が閉じられ、城内には静けさが戻ったが、城内に灯る蝋燭の灯だけは、いつまでも楽しそうに揺らめいていた。
う~ん、今回のサブタイトルは我ながらダメダメ…
いいタイトルあれば、教えて下さい…
まるっとパクらせて頂きます…m(_ _)m




