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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第四章
142/227

11 いきなり揉め事

長らくお待たせして済みません。

キエヌ聖国編? スタートです。

「へぇ……こっちの方は緑が結構有るんだなぁ……けど、鉱山の入口は分かんねえな。見張りくらい立ってるかと思ったのに……」


 キエヌ山に足を踏み入れたリュウは、眼下より南へと広がる畑や集落と言うべき建物群、山の斜面などをしばらく眺めていたが、目的の場所を見付けられずに肩を(すく)めるものの落ち込んだ風ではなく、口元には笑みすら浮かんでいる。


 その理由は、眼下に広がるとてものどかな風景にあった。

 キエヌ山は他の山よりも木々が多く、麓も土壌が良いのか、荒れ地部分は北側に多く見られるが南へ向かうにつれて緑が増え、国境らしき木の柵まで続いている。

 そんな見晴らしの良い広い土地には一定の間隔で集落が点在しており、畑仕事をする者や羊の群れなどが見て取れた。


「ま、しょうがねえ。こんな所から見ても無理が有るよな……とりあえずは下りて探すか、誰かと接触するしか無さそうだ……行くか」

「うん」


 そうしてリュウは左腕にくっつくアイスを伴って、斜面を下りて行く。


 二人は危なげなく斜面をすいすいと下りて行くが、さすがに崖の様な険しい箇所ではリュウは飛び降りたりワイヤーフックを使っているが、アイスは竜力を(まと)ってふんわりと下りて行く。


「なあ、アイス。それって、どうやるんだ?」


 何度目かの崖を下り、リュウはアイスに竜力の使い方を尋ねてみる。


「え……どうって言われても……えっと、あそこに行きたいな……って……」

「それだけ?」

「う、うん……」

「あの岩まで行きたい! って、ダメじゃん……」


 そしてえらくシンプルなアイスの答えに声を出して願ってみるリュウなのだが、何も変化が訪れずにがっくりと肩を落とした。


「え、えっと……多分だけど、リュウのコアはまだ完全に使えていないから……」

「それってさ、アイスには見えてんの?」

「うん……黒いコアはいつも黒いから……使えてるのは分かるんだけど……」

「他の二つは?」

「えっと、灰色にくすんでて使えてないと思う……眠ってるみたい……」


 そんなリュウをアイスが慌てて気遣う様に取り繕おうとするが、リュウはケロリとした顔でアイスに色々尋ねると、ふむふむと頷く。

 どうやらリュウは本気で残念がっている訳ではなく、アイスにわざとコミカルな姿を見せている様である。


「そっかぁ……ま、使えないもんはしょうがねーな! なぁ、アイス。その力って俺も一緒に運べたりする?」

「あ……で、できると思うよ!」

「んじゃ、試しにあの岩まで頼むよ」

「うん!」


 そうしてリュウが提案すると、アイスは嬉しそうにリュウの腕に掴まって竜力を発動させる。


「お~! マジ浮いてる! アイス凄えな!」

「そ、そんな事ないよぉ……えへへ……」


 嬉しそうにはしゃぐリュウに照れながら、アイスはリュウと共にふわふわと宙を移動して指定された岩の横へと降り立った。


「なぁ、これって疲れたりする?」

「ううん、大丈夫。リュウも少しくらい使っても全然疲れないでしょ?」

「あ~、そか……んじゃさ、このままあの辺まで斜面に沿って運んでくれよ?」

「うん!」


 そこから更にアイスはリュウを伴って、斜面を南にふよふよと下って行く。

 頼られるのが嬉しいのか、アイスは自然な笑顔を浮かべている。

 と、その最中、周囲に目を配っていたリュウがずっと先に人だかりを見付ける。


「ん~? あそこで何か……人が集まってる……」

「え? どこ?」


 前方に目を凝らすリュウを見てアイスも目を凝らすが、リュウの見ている場所が分からず視線が定まらない。


「あ~、まだアイスには見えないか……ズームしてるからな……」

「急ぐ?」


 ふと視線をアイスに向けたリュウが不安そうなアイスの頭を微笑んで撫でると、アイスは上目遣いにリュウの意向を確認する。


「いや、いいよ……先にエルナダ軍に見つかったら面倒そうだし……」

「じゃあ、このまま行くね?」

「うん」


そしてアイスが移動を再開し、キエヌ山を緩やかに斜めに下って行くと山裾に背の高い板塀が見えて来る。


「なんだぁ? えらく高い塀が……山に入れない様にしてんのか? 違うよな……だとしたら骨組みがこっちに無いと意味が無え……」


 板塀はキエヌ山を囲う様に南北に伸びていた。

 だがその骨組みが山側に無い事に気付いたリュウが、う~ん、と考えていると、頭の中に声が響いた。


『魔獣避けじゃないんですか? キエヌ山には魔獣が棲むとの事ですから、注意が必要ですよ、ご主人様』

「うおっと、ミルクか……そっちは大丈夫なのか?」

『はい。そろそろ偵察の連中がやって来るところです』

「ココアは?」

『無事潜入に成功しました。今は姿を潜めて複数の小型機で偵察中です』

「そか。アイス、塀を越えて隠れながら、あの建物の陰に下りてくれ」

「うん」


 突然のミルクからの応答に少し驚くリュウであったが、板塀の意図やミルク達の状況に納得するとアイスに降下ポイントを指定する。

 リュウの視線の先には集落の脇に人だかりが映っており、それはアイスにも十分見える距離となっていた。

 降下ポイントはその人だかりの死角になる、一軒の建物の陰である。

 因みに建物は天幕に似た円錐形の簡素な作りであり、大体の建物が似た様な物であり、人だかりの所だけ小屋を大きくした様な四角い建物であった。


「ミルク、こっちに妖精モードを割く余裕ある?」

「大丈夫ですよ、ご主人様。集まっている人達の偵察ですね?」


 リュウを伴ったアイスは板塀を越えると、即座に地上近くまで降下して木の陰を利用して人だかりの死角を目標ポイントへ進んで行く。

 その合間にミルクはリュウに尋ねられるまでもなく、リュウの左肩に姿を現して自身の役割を確認するのだが、人だかりで一人が倒れ、どよめきが起こった。


「――ッ! いや、アイスに付いてやってくれ。なんか揉め事っぽい……」

「わ、分かりました!」


 その途端、ミルクと同じく偵察を頼もうと思っていたリュウは、予定を変更してミルクをアイスの下に残す事にした。

 ミルクが表情が険しくなった主人に即反応してアイスの肩へと移る。


「リュウ……」

「大丈夫だって、アイス。ミルクの言う事よく聞いて良い子で待ってろ。なるべくなら竜力を見られないに越した事はないけど、もしもの時は呼ぶから頼むな?」

「う、うん……」

「よし。じゃあ、二人はここで待機な」


 目標ポイントに降り立つ不安そうなアイスに、リュウはニカッと笑いながら頭を撫でてやる。

 そしてアイスが不安そうにしながらもしっかり頷くのを見ると、建物の陰を出て人だかりへと向かった。


 リュウが二十メートル程先の人だかりへと向かう間にも、抗議する複数人の声とそれを怒鳴りつける男の声が聞こえている。

 その内容から、リュウは無理な収穫物の取り立てと、それに抵抗する人達の争いなのだろうと理解し、一先ずは様子を見る事にして人だかりの最後尾に紛れる。


「お前達、我らの決定に逆らうのか!」

「無茶な要求をしているのはそっちだ! 先月物資を分けたのに、また徴収なんて私達に飢えろと言うのか!」

「お前達には豊かな畑と羊が居るじゃないか! それにもうすぐ収穫できる物も有ると国長(くにおさ)から聞いている! ならば先に物資を徴収しても構わぬではないか!」

「馬鹿を言うな! ここに有るのは私達の食料だ! お前達に供出する分は、西の国庫に有る!」


 ポルト山の東からヴォイド教国を調べに来ている連中と似た風体の男と、集落の代表らしき男が言い争っている。

 集落代表の男が叫ぶ度に背後から「そうだ、そうだ!」との声が上がり、冒険者風の男の形相がどんどん険しくなっていく。


 四十人程の集落側の人々に対し、冒険者、つまり連合王国側の男達は二十人程であるが、それぞれが武装しており、物資を運ぶ荷馬車も二輌待機している。


「そこに物資が無いからここに来たと言っただろう! 良いからそこをどけ!」

「ぐあっ!」

「あなたっ!」

「父ちゃん!」


 遂に我慢出来なくなった男が集落代表の男を殴り倒し、倒れた男にその妻と子が駆け寄った。

 リュウはそれを見て仲裁に入るべきか、それとも出しゃばらずに事が済んだ後に同情しつつ集落に取り入ろうか、などと呑気に考えていた。


「くそうっ! よくも父ちゃんを!」

「うるさい、ガキ!」

「――ッ!」


 その矢先、子供が男に飛び掛かって無情にも蹴り倒されて、リュウはまさかとの思いで目を見開いた。


「うわあああああん!」

「リコ!」

「やめろおおっ!」

「くっ、通してくれっ!」


 泣き叫ぶ子供に駆け寄る母親へ向けて男が剣を抜き、代表の男が叫びながら起き上がり、リュウは人込みを掻き分けた。


「あぐっ!」

「貴様あああ! がああっ!」


 子供を抱えて(うずくま)る母親の背に剣が振り下ろされ、代表の男が逆上するも逆に肩から斬られて倒れてしまう。


「ふん、これで分かった――ぐえっ!」


 剣を振って血を払う男は、呆然とする人だかりに改めて向き直ろうとして派手に後方に吹き飛んでいた。

 ようやく人込みを抜け出たリュウの拳を受けたのだ。


 直後に人だかりが僅かに後退り、連合王国の連中の間に緊張が奔り抜ける。


「お前ら、このまま大人しく引き返せ! さもなきゃ全員ぶっ倒す! アイス! 二人を頼む!」


 倒れる代表の男を背中で庇う様に立ち、リュウは連合の男達に警告し、アイスを呼んだ。


「おい、小僧! 不意打ち喰らわせたくらいでいい気になってんじゃねえぞ!」

「なら、掛かって来いよ。ただし、俺一人だ。もし後ろの連中にかすり傷一つでも負わせたら、お前ら全員……殺すからな?」

「けっ、ハッタリこきやがるぜ……安心しな。お前をぶっ殺したら、そこの腰抜け共も素直になるだろうさ」


 恫喝する連合王国の男に動揺も無く応じるリュウ。

 男はリュウの若さに似合わぬ落ち着き振りに若干の違和感を覚えたが、ハッタリだと高を括って前に出る。

 男は武器を持っておらず、鋲が付いたグローブを両手に嵌めており、その身長もリュウより十五センチくらい高く、鍛え抜かれた体をしている。


「お前一人で良いのか?」

「あん?」

「一人一人チマチマ相手にしてられるか。全員で来い。やられるのが嫌な奴は端にどいてろ。そいつには手を出さないでやるよ」

「こ、このガキぃ……」


 リュウに問われて怪訝な顔をする男は、続くリュウの言葉を聞いて憤怒の形相になった。

 そこへアイスが駆け付け、リコと呼ばれた男の子の斬られた両親の介抱を始めた事で、リュウは一先ず安堵する。


「悪いな、ガース。俺は下ろさせてもらうぜ……」

「なんだと! リゲル、てめえ……」


 その時、一人の男が集団を離れて集落の人々寄りに移動し、殴り飛ばされた男に代わってその場を仕切っていた男、ガースが恨みがましい目を下りた男、リゲルに向けた。

 リゲルは他の男達より細身で武器も持っていない様に見え、悪びれる様子もなくニヤついているが、その観察する様な目に値踏みされている様だと感じるリュウ。


「あたしも見物させてもらうよ。こんな事で万が一にも怪我なんてしたくないからね……悪いねガース」

「ザラもか……てめえら……まあいいさ。どうせこの人数じゃ余りが出るしな……お前ら、ガキ一人だからって容赦するんじゃねえぞ!」


 すると今度は剣士風の女がひらひらと手を振ってリゲルの側へ移動し、ガースは仕方ないとばかりに大きくため息を吐くと、残った連中に発破を掛けた。

 途端に場の空気が重くなり、リュウを半包囲する様に男達が殺到する。

 一人の男が大きく回り込んでリュウの背後に位置し、三人の剣士がリュウに斬り掛かる。


「なっ!?」

「ぐあっ!」


 が、次の瞬間、リュウの背後に回った男が吹き飛び、剣を振るった三人が次々とやはり吹き飛んだ。

 リュウが剣を後方へ(かわ)すと同時に背後の男を殴り飛ばし、剣を振り終えた男達に急反転して次々と拳を叩き込んだのだ。


 別にリュウは竜力を発動させている訳ではない。

 人工細胞による優れた視力と運動能力によるものであり、今のリュウには全てがスローモーションの様に見えており、その中で自身はもどかしさを多少感じながら彼らより遥かに速く動いているのである。


「なんだとっ! このガキぃ!」


 ガースが驚愕する間にもリュウは次々と男達を殴り飛ばしていく。

 目で追えないリュウの速度に、ガースは他の男達にリュウの相手を任せて距離を取り、荷馬車に積んでいた大槌を手に取った。


「とんでもねーなぁ……」

「下りて正解だったわね……って、ちょっと……」


 一方的にやられる仲間を見てリゲルが呆れた声を上げると、ザラも呆れながらもどこかほっとした表情で応じた。

 だがリゲルがそっとナイフを手にするのを見て、リゲルにジト目を向けるザラ。


「なぁに、これで坊やが甘ちゃんかどうか分かるってもんさ……」

「あたしは知らないからね……」


 そんなザラにリゲルはパチンとウインクするとニヤリと口元を歪め、ザラは心底呆れた様に肩を竦めるのだった。


「ぬおおおおおっ!」


 仲間が成す術もなく次々に倒される中、ガースが大槌をハンマー投げの様に回転させながらリュウに急接近する。

 その味方をも巻き込む様な攻撃に、リュウは大槌を喰らいそうな奴から先に吹き飛ばしていく。

 だがそれは如何にリュウでも少々無理が有る様で、ガースに対して隙を生む事になる。


「リュウっ!」

「ご主人様っ!」

「大丈夫!」


 大槌がリュウの体を掠め、思わず声を上げるアイスとミルクに応じるリュウ。

 リュウには次に大槌が向かって来る時に対処できる、と分かっていたのだ。


 スローモーションで迫る大槌にリュウが迎撃態勢を取ったその時、リュウは飛来するナイフに気付いて掴み取る。

 それは戦いの場を下りたリゲルが放ったナイフであり、アイス達の声にリュウが気を取られた隙を狙ったものであった。


「なっ!?」

「ちいっ!」


 自慢のナイフが掴み取られるとは思わず驚愕するリゲルに、思わぬ邪魔で迎撃のタイミングを逸し、舌打ちするリュウ。

 このままでは大槌に当たり負け……て、たまるかああっ! とリュウが切れた。


「うおらああああっ!」

「がああっ!?」


 咆哮と共にもどかしかった自身の動きが加速し、スローモーションの中で自在に身動きできる心地良さを感じるリュウ。

 その直後、リュウの拳が衝撃波を生んで大槌と激突し、大槌を木っ端微塵に吹き飛ばし、その余波を受けてガースも吹き飛び、右手首は衝撃で折れ砕けた。

 振り抜かれた拳が黒から通常にすうっと戻り、リュウは掴んだナイフをリゲルに向ける。


「参った! 降参だ! 悪かった!」

「格好悪ぅ……」


 リゲルが両手を上げて叫ぶのを隣のザラが呆れている。

 リュウも呆れてナイフを軽く投げ返してやると、リゲルは危なげなく掴み取って自身の腰にナイフをしまった。


「俺達の完敗だ。今日の所はこれで引き返すが……俺達も国の命令には逆らえねえから、また近いうちに来るぜ?」


 倒れる仲間達の下へ歩きながら、リゲルが悪びれずリュウに話し掛ける。

 また来る、と不敵に笑うリゲルだが、その目はリュウを注意深く観察している。


「来るのは構わねえけど、手荒な真似をすれば同じ事になるだけだ。きちんと双方納得ずくなら、俺も出しゃばらねえよ」

「分かった、上に伝えとくぜ。それでよ、兄ちゃんは何者なんだい? 一瞬、その腕……黒くなかったか?」


 リュウの返答に頷くリゲルは話題をリュウ自身に変えた。

 リュウを見るリゲルは何だか楽しそうに見える。


「あ? んな訳ねーだろ。あ、言っておくが、俺はただの通りすがりだからな? この人達に報復なんてお門違いしてみろ、連合王国を滅ぼすからな?」

「おいおい、冗談だろ……いくらなんでも……いや、分かった。それも含めて上に伝えておく。とんでもねえ化け物が聖国を守ってるってな……で、こいつら連れて帰っても?」


 リゲルの問いをさらっとはぐらかし、聖国とは無関係と言いながらも報復に釘を刺すリュウに、冗談だろうと笑いかけたリゲルであったが、リュウの飾り気のない(たたず)まいを見て笑みを潜めて頷いた。

 だがすぐに肩を竦めて冗談めかすと、殴り倒された仲間達について問い掛ける。


「ああ……ミルク、念の為に怪我の程度を見てやってくれ。ちょっと手加減をミスしちまった……」

「わ、分かりましたぁ……」


 するとリュウはポリポリと頬を掻きつつミルクに倒した連中のチェックを頼み、ミルクが一人一人殴られた箇所のチェックを始める。

 リゲルやザラ、聖国の人々がふよふよと飛び回るミルクにぽかーんと口を開けている。


「アイス、その人達は無事か?」

「うん、もう大丈夫だよ」

「そっか、サンキュ」


 そしてリュウに尋ねられたアイスが斬られた二人の無事を告げると、ぽかーんと固まっていた聖国の人々からどよめきが起こり、次いで歓声が沸いた。


「ご主人様ぁ、ほとんどの人は打撃部の打撲と脳震盪で済んでますけど、あの人は顎を、こっちの人は手首を、それぞれ粉砕骨折してるので、処置しないと後遺症が出ちゃいますぅ……」


 そんな中、チェックを終えたミルクが戻り、リュウに最初に殴り飛ばされた男とガースの二人は処置が必要な重症だと告げた。

 ガースは右手首を抑えて脂汗を流して唸っているが、もう一人は未だ意識不明で倒れたままだ。


「簡単に人を傷つける奴なんか、ちょっと辛い目を見りゃ良いんだけどな……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……一応そいつらも小さい子供が居るんだ。治せるんなら、何とかしてやってくんねえか? この通りだ!」


 ぼりぼりと頭を掻いて面倒臭そうにするリュウに、リゲルは慌てて口を挟むと、彼らの為に頭を下げた。

 ザラがそんなリゲルを呆れた様な、意外そうな表情で見つめている。


「ま、今回は大目に見てやるか……ミルク、消耗品用金属で何とかなるか?」

「はい、十分足りると思います。では処置しますね?」


 やれやれとため息を吐いてリュウがミルクに尋ねると、ミルクは主人とコードを接続してガースの右手首に降り立った。


「良いですか、十秒ほど気合で痛みに耐えて下さいね? じゃないと、元の腕には戻れませんよ?」

「わ、分かった……ぐああああっ! がが……ぎいいいっ!」


 突然腕に降り立った妖精に耐える様に言われ、ガースは涙目で頷いた。

 途端に今まで以上の激痛に襲われるガースは、それはもう必死で耐えた。

 ミルクが侵入させた人工細胞でずれた骨を元の位置に戻し、超極細のワイヤーで固定したのだ。

 すると痛みが随分と緩和され、安堵と共に大きく肩で息をするガース。

 そうする内にガースの右手首から先が、金属ですっぽりと覆われてしまう。


「応急処置完了です。良いですか、これから九十日は絶対に右手は使わない様に。どんなに面倒でも左手で頑張って下さい。九十日経てば、これは自然に外れます。元の腕に戻りたければ絶対に守って下さいね?」

「わ、分かった。ありがとう……あ、あんたは女神だ……」

「へ? い、いいええ……つつ、次の人ぉ……」


 処置を終え、ガースに説明するミルクは、ガースに予想外に感謝されて真っ赤になって残る男の処置に向かった。

 そこでもささっと処置を終えたミルクは、満足気に主人の肩へと戻った。

 まだ気を失っている男は僅かに動かせる程度で顎を金属で固定され、それぞれの固定具にはタイマーが取り付けられており、時が来れば外れる仕組みなのである。


「これで完了だな。ったく、子供が居る身で他人の子供を蹴ってんじゃねーぞ?」

「あ、いや……俺達には子供は居ないんだが……」


 騒動が一段落して一息吐くリュウに睨まれて、ガースは困惑の表情で答えた。


「あ? おい、おっさん……」

「いや、別の奴と勘違いしてたわ! 何せ慌ててたもんだからよ? はは、穏便にいこうぜ、穏便に……な?」


 ギロリとリュウに睨まれるリゲルは笑って誤魔化そうとするが、さすがに調子が良すぎたか、と口元を引きつらせた。


「まぁ、いいや……次は手加減してやらねえからな?」

「もう、あんたにゃ敵対しねえって! んじゃ、俺達ゃ引き上げるからよ……次は他の奴らに任せるぜ……な?」

「調子の良い……とっとと帰れ!」

「分かったから、んな怒んなって! ほら、お前ら! とっとと乗り込めって!」


 呆れるリュウと調子の良いリゲルであったが、リュウに怒鳴られると連合王国の連中はあたふたと荷馬車に乗り込み、南へと帰って行った。

 荷馬車の最後尾で長々と手を振るリゲルを苦笑いで見送るリュウに、完全に傷を癒された代表らしき男が声を掛ける。


「あの、危ない所を助けて頂きましたが、あなた方は一体……」

「あ~、ええっと……」

「あ、申し遅れました。私はこの集落を任されているウノ・アムザと申します」


 振り返ってどう説明しようかと言葉を探すリュウに、男は集落の代表のウノだと名乗って頭を下げた。


「あ、はい。自分はリュウ・アモ――」

「ルーガー様だ!」

「へ?」


 なのでリュウも名乗り返そうとすると、蹴り倒されたウノの息子のリコが声高に叫んだ。


「そうだ、ルーガー様の生まれ変わりだ!」

「「ルーガー様の……そうだ、そうに違いない!」」

「いや、あの……」

「ルーガー様って……」

「リュウとルーガー……ちょっと似てる?」


 すると集団からもリコに同調する声が上がり、困惑するリュウ達を置きざりに、ざわざわと人々が集まってリュウ達を囲む。


「俺達の下に戻って下さったんだ!」

「「「ルーガー様! ルーガー様!」」」

「ちょ……えええ~……」


 次第にヒートアップする人々の中で、リュウ達は訳も分からず困惑の声を上げるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新しいお話が始まるワクワク感がありますね! やはりリュウはどこへ行っても暴れる運命かぁ~って思いながらも暴れるのをいつも期待してます! リゲルの飄々としたというのか…あの性格気に入りまし…
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