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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
126/227

41 地球人失格

「しかし、こうも何もできんと落ち着かんわい……」

「まぁまぁ、家も用意される事になったし、それまではのんびりすれば良いじゃないっすか」

「そうだよ、ドクター。たまには休まないと頭がパンクしちゃうよぉ?」

「む、そうですな……アイス様の言う通り、たまには休みますかの……」

「うん!」


 部屋に戻るなりドクターゼムは研究できない現状に(ひと)()ちるが、苦笑いするリュウとアイスに宥められて、やれやれと椅子に腰掛けた。

 特にアイスに対しては年甲斐も無く赤い顔を(ほころ)ばせている。


「ご主人様ぁ、ご褒美にお家を頂くという事は、ここに定住するんですか?」


 相変わらずベッドにで~んと腰掛けるリュウに、ミルクがチョコを撫でながら定住の意志を尋ねた。


「え? いや、深くは考えて無いけど……ミルクは反対なのか?」

「いえ、そういうつもりでは。ただ、リーザさんの居るネクトに戻らなくて良いのかな、と思ったものですから……」


 のんびりとした主人の返事にミルクは一応リーザの名を出して、まさか忘れてはいませんよね、と少々不安になる。


「それな……あのさ、魔人族と人間族って昔は戦ってたけど、今は互いに干渉を止めてる訳じゃん? それをさ、友好的に繋げる事って出来ないかな?」

「それは、国交を結ばせる……という意味ですかぁ?」


 だがリュウはリーザの事だけではなく魔人族と人間族の交流を考えていた様で、ミルクが意外そうな、それでいて嬉しそうな表情に変わる。


「あー、ただ思い付いただけで深く考えた訳じゃ無いけどさ、魔王様ともここの国王様とも仲良くなれた訳じゃん? だったら、彼らだって仲良くなれるんじゃねーの?」

「ご主人様ぁ、それは急には無理じゃないですかぁ? いくらご主人様がそうは言っても、互いの警戒心を解くには時間が掛かると思いますけどぉ……」


 ミルクの表情に気を良くしたのかリュウが尚も言い募るが、それにはココアがショコラを撫でながら小首を(かし)げた。


「ん~、お互いに足りない物とか有れば、貿易とか出来るのになぁ……」


 ごろんとベッドに上体を倒すリュウの呟きに、ミルクが検索を開始する。

 その隙にミルクの手を離れたチョコが、リュウの足を登ろうとしがみつく。


「ん~、有りますよ? ご主人様ぁ」

「え、マジで?」

「ミ!?」

「おっと、スマン、スマン……で、何?」


 そしてすぐに該当品目を見付けたミルクにリュウががばっと起き上がった為、驚いたチョコがリュウの足首からコロンと床に転がってリュウに抱っこされる。

 そんなチョコを微笑むミルクが、リュウに促されてそうだった、と説明を開始する。


「え、え~っと、人間族からは絹や麻の織物類や穀物類、魔人族からは魔石類や魚介類が取引には適していると思います」

「あ~、魔石かぁ……なんかイケそうじゃん!」

「あとは両国がどう判断するかですけど、特に魔石は魔王様が首を縦に振るのかどうか……」


 ミルクの説明に嬉しそうに笑うリュウであるが、ミルクはぬか喜びにならないかと少々不安そうな顔である。


「そっかぁ……ま、後は話してみてからだな~、な? チョコ!」

「ミ~!」


 だがリュウは特に気にした様子も無く、チョコを両手で顔の前に抱え上げるとゴロンとベッドに寝転がり、胸の上にチョコを下ろした。

 するとアイスがリュウの横に寝そべってチョコとじゃれ始め、そこにココアも加わってショコラもリュウの胸の上によじ登る。


「ミルク、昨日の続きじゃ。コネクトを頼むぞ」

「あ……分かりました、ドクター」


 リュウ達の元に加わろうとしたミルクは、ドクターゼムに呼び止められて少し残念そうな表情を見せたが、素直にドクターゼムの横へ座ってケーブルを繋ぐ。


 ドクターゼムは転移してしまった時から現在までのリュウ達が辿(たど)った経緯や、ミルクとココアの成長、魔人族の社会など、多岐にわたりミルクから情報を収集しているのだった。


 そうしてのんびりと皆が過ごし、ドクターゼムは情報の収集を終えて隣の部屋へと移った。

 チョコとショコラは遊び疲れて眠ってしまい、その姿にアイスとミルクが(とろ)けている。


「さ、ご主人様ぁ、そろそろお休みのお時間ですよぉ?」

「え、あー……うん……」


 だがココアの甘い声にアイスとミルクの視線を感じ、リュウは頬をポリポリと掻きながらベッドの上で曖昧に返事する。


「リュウぅ、ア、アイスも一緒に寝る……」

「「えっ!?」」


 (すが)る様なアイスの言葉に、ミルクとココアが短くシンクロした。


「あ、あのぅ……アイス様ぁ? アイス様はまだ――」

「い、いいもん! リュウなら、ア、アイスだって、で、で、できるもん!」


 恐る恐るココアが思い留まらせようと声を掛けるが、アイスはそれを真っ赤な顔で遮ると、チラッと上目遣いにリュウを見て俯いてしまった。


「あのぅ……アイス様。アイス様はまだ十五才なんですよ? ご主人様が大好きなのは分かりますが、何も急ぐ必要は無いと思いますよ? ご主人様、アイス様の事も考えて、少しは自重してあげるべきなんじゃないでしょうか……」


 そんなアイスにミルクは優しく語り掛け、次いでリュウにもアイスの気持ちを尊重する様にお願いしてみる。


「あ~――」

「じゅ、十五才だっていいもん……リュウが喜んでくれたら嬉しいもん……」


 それに答えようとリュウが口を開きかけると、アイスは俯いたままの真っ赤な顔で抑えられない想いを呟いた。


「ですが――」

「ミ、ミルクだって、本当はリュウが大好きでしょ? リーザやココアみたいにリュウとラブラブになりたいでしょ? ア、アイスだってなりたいもん!」

「ミミミ、ミルクは……そそ、その――」


 それでもアイスを説得しようとするミルクは、突然顔を上げて真正面から訴えかけるアイスの言葉に、見る見るうちに赤くなって言葉に窮した。


「リュウの事、好きじゃないの? キスされて嬉しかったでしょ?」

「は……はい……で、でも、それはご主人様がお決めになる事で……ミ、ミルクにはまだ早いと申しますか、一人の男性と複数の女性がお付き合いするというのには、て、抵抗が有ると申しますか……その……」


 更にアイスに問い詰められるミルクは、肯定しながらも自身の意見を真面目に答えた。

 ただ主人の前での肯定に両手で真っ赤な頬を覆い、身を縮こめて噛みに噛んでしまっている。


「どうしてダメなの? 父さまの古いお友達の人も、奥さんが三人居たもん! みんな仲良しだもん! シャルネーゼのおばさんは旦那さんが二人居るもん!」

「「「えええー!?」」」


 それでも納得がいかないアイスが幼い時の記憶を引っ張り出して訴え、三人はものの見事にシンクロした。


「ア、アイス様……星巡竜様達はそういうのって、自由なんですか?」

「分かんない……けど、みんな幸せそうだもん! 好きな人と一緒になれて何がいけないの?」


 ココアがやや赤い顔で興奮気味に尋ねるとアイスは少し困った顔になったが、みんなが幸せなのに何がいけないのか、と憤慨する。


「あのさ、アイス。星巡竜がそうだってんなら、アイスは何も間違ってねーよ。たださ、俺が言うのはおかしいけど、俺が居た地球や多分この星やナダムなんかでは一対一の男女の付き合いしか認められてないんだよ――」

「どうして!? そんなのおかしいよ! 人を好きになるのにそんなの――」


 そんなアイスに漸くリュウが口を開くものの、アイスが感情的に言葉を遮ってしまうが、リュウは構わず話を続ける。


「周りにそんな奴が居たら嫉妬する人が出たり、恋人同士の中でも争いが起こるかも知れない。モテない人は永遠に恋人が出来ないかも知れないだろうし、複数居る恋人達もまた複数の別の恋人が居たら、滅茶苦茶になってしまう……だからできるだけみんなが平等になる様に、って事なんだと思うんだよ……」

「じゃ、じゃあ、リュウは? リーザだけが彼女なの? ココアは遊びなの? ア、アイスにもミルクにもキスしてくれたでしょ?」


 リュウから人間社会での男女の在り方を説明されるアイスだが、ではリュウはどういうつもりなのか、と瞳が涙で溢れていく。


「俺はさ、失格なんだよ……」

「失……格?」


 ポツリと漏らした呟きをアイスに小さく聞き返されて、リュウは大きく深呼吸すると胡坐(あぐら)をかいたまま背筋を伸ばし、腕を組む。


「俺はさ、ここに居ないリーザさんも含めてお前達の事が大好きだ。ナダムからずっと助けてくれたミルクとココアが好きだ。なのに、優しいリーザさんも好きだし、大森林で人の姿になったアイスに一目惚れしちまった。本当ならそこから誰か選ばなきゃダメなんだろうけど、そんなの嫌だ。誰にも取られたくないし、渡す気も無い。だから……地球人失格!」


 はっきりとした口調で開き直って堂々と話し始めるリュウは、少しずつ顔色が赤くなっていくものの、最後まで噛まずに言いたい事を言い切った。

 文句があるか、とでも言うかの様に開き直るリュウであるが、優柔不断な自身に対して怒っている、というか不貞腐れている様にも見える。

 だがアイス達三人は赤い顔で、ぽーっとリュウを見つめていた。


「リュウっ!」

「ご主人様ぁ!」

「おわあっ!?」


 ぶるりと身を震わせたアイスとココアが次の瞬間リュウに飛び付き、リュウは押し倒されそうになって、反射的に組んでいた腕を解いて体を支えた。

 一人ベッドの脇で床に座っていたミルクはと言うと、主人の言葉を噛みしめる様に真っ赤な頬を両手で押さえ、ふるふると縮こまっている。


「だからさ、アイスの父ちゃん達と再会するまで待ってくれよ……じゃないと、気まず過ぎて顔も合わせらんねーよ……その代わりって言っちゃ何だけど、再会した時には必ずアイスとの付き合いを認めてもらう様に言うからさ?」


 抱き付くアイスの頭を撫でながら、リュウは赤い顔でアイスを説得する。

 それは両親が居るアイスだけでも筋を通さなければ、という思いも確かに有るのだが、アインダークとエルシャンドラの怒りを買って、短い人生を散らしたくないからでもあった。


「ほんとっ!? や、約束だよ?」

「うん、ちゃんと言うって約束する」


 嬉しそうに赤い顔で見上げるアイスに、リュウはしっかりと頷いた。


「あのぅ、ご主人様ぁ……ココア達の事は……そ、そのぅ……ドクターに?」


 するとアイスの反対側でリュウに抱き付くココアが、自分達AIにはドクターに許可を取ってくれるのだろうか、と尋ねた。


「何言ってんだよ、お前達は元から俺のもんじゃねーか」

「そ、そうですよね! うふ……」


 そんな呆れた様なリュウの返事に、確かに自分はもうご主人様のものだった、とココアは抱き付く腕に力を込め、ミルクはただただぼーっと主人を眺めるのだった。










「アイス様ぁ……やっぱり止めませんかぁ?」

「ダメだよぅ、ミルクぅ……リーザでは判らなかった事がココアで判るかも知れないんだよ? ミルクは自分の時に何もできなくて良いのぉ?」

「そ、そんなのミルクにはまだ……早すぎますぅ……それにココアは――」

「お願い、ミルクぅ……アイスの事、応援してくれないの?」

「あ、あうぅ……わ、分かりましたぁ……」


 リュウとココアが隣室に去って、アイスとミルクは一つのベッドでくっついて何やらひそひそと問答していた。


 両親に交際の許可を取ると言ってくれたリュウに感激したアイスは、これ以上リュウを困らせてはいけない、と笑顔でリュウとココアの退室を見送った。

 だが二人が部屋を去るとミルクと共にベッドに潜り込んで、リュウ達の情事を覗き見するべくミルクにお願いしたのであった。


「ミ、ミルクぅ……す、凄かった……ね……」

「あうぅ……はうぅ……」


 システムがシャットダウンしそうになりながら、とにもかくにも無事に目的を果たしてモニターを切ったミルクは、興奮冷めやらぬアイスに話し掛けられてもロクに返事が出来なかった。


「あ、あの……アイス様ぁ?」


 並んで横になり、頑張って眠ろうとする二人であるが、密着してきたアイスにミルクが困惑気味に尋ねた。


「ミルクぅ、もっとぎゅーってして?」

「え?」

「あ、あのね……アイスね、何だか変になりそうなの……」

「あう……ミ、ミルクにもあれは、し、刺激が強すぎ……ました……」


 真っ赤な顔のアイスにお願いされて聞き返すミルクは、アイスの理由を聞いてフォローする様に自身も感想を述べると、やはり赤い顔でアイスを抱きしめる。

 ミルクもアイスに抱きしめてもらわないと、システムが落ちそうだったのだ。


「だ、だよね……ね、ミルク……チューして?」

「ええ!? ダダ、ダメですぅ……」


 ミルクも自分と同じなんだと安心したアイスは、赤い顔を更に真っ赤にするとミルクにキスをねだってみるが、それにはミルクがさすがに拒否反応を見せる。


「お願いミルクぅ……そしたら我慢できるもん……アイスの事、嫌い?」

「そ、そんな……だ、大好きですぅ……でもぉ、ダメですぅ……」


 密着して懇願してくるアイスにミルクは戸惑いを隠せず、アイスを見ない様に頬を合わせた。

 創造主として敬愛するアイスの純真無垢な青紫の瞳が、妖しい輝きを放とうとしていたからだ。

 横向きにぎゅうっと抱き合う互いの耳を、はぁ、はぁ、と息遣いがくすぐっている。


「アイスもね、ミルクがだーい好き……リュウには内緒だから……ね?」


 僅かに上体を離したアイスが、ミルクの顔を覗き込む。

 十五才とは思えない妖しさを放ち始めたアイスに、ミルクはぼうっと見惚れてしまった。


「んん! ダ、ダメですぅ……ダメですぅ……アイス様、ダっ……んん……」


 柔らかい唇の感触に、はっと我に返るミルク。

 だが拒絶してアイスを悲しませたら、との思いが言葉だけの抵抗に留まらせ、ミルクの唇はアイスの唇によって塞がれてしまう。


「ミルクぅ、大好き……」

「アイス……様ぁ……ん……」


 唇が蕩ける様な恍惚感に、それ以上の抵抗を放棄してしまったミルク。

 熱に浮かされた様に唇を重ねてしまう二人は、やがてお互いの足をも絡め合って強く抱きしめ合うのだった。


いよいよ三章も終わりに近づいてきました。

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